第80話 依頼を受けましょう
1日ダント商会の店員のアルバイトをした翌日、冒険者ギルドでマジックバッグに溜め込んでいた獲物を売り払い、ようやく僕はDランク冒険者になった。
しかし、現在、いつもの買い取り窓口のお姉さんに、
「ケンさん、いい加減ちゃんとクエストやりませんか?
音速のGとか、戦う聖人様と、若い冒険者に人気なのに、あまり依頼をこなさないとか…」
とチクチク言われている。
「えっ?戦う聖人様って知らないんだけど!?」
と驚く僕に、お姉さんは、
「ギルドの前で5対1の決闘なんてしたら、あだ名の3つや4つはついて当然です。」
と呆れている。
僕は、まだ有りそうな非公認なあだ名をあえて聞かずに、お姉さんに、
「じゃあ、割りの良い依頼ありませんか?あと小金貨2~3枚は欲しいんだよね。」
と伝える。
そうなのだ…ダント兄さんにカッコいいこと言ったが、ギルド銀行の預金は大金貨一枚にはあと小金貨2枚と少し足りないのだった。
窓口のお姉さんは、
「Dで行けて割りの良いのは…」
と呟きながら手元の資料を確認している。
そして、
「有りました!マンドラゴラの収穫です。」
と言って資料を見せてくれた。
ドットの町から2日程の高原地帯で、マンドラゴラという植物魔物がこの時期シーズンなのだとか、数もそうだが、太陽をいっぱい浴びたマンドラゴラをアイテムボックス等でフレッシュな常態で持ち帰れば、創薬ギルドが一本につき小金貨一枚で買い取りしてくれるらしく、そのマンドラゴラを一級創薬師が様々な素材を使い、骨折は勿論、欠損部位もドンとこいのフルポーションという大金貨数枚で取引される魔法の薬に仕上げるのだそうだ。
魔物の解体をベースに書かれた魔物図鑑にはマンドラゴラの記載は無く、窓口のお姉さんに、
「マンドラゴラってどんな魔物ですか?」
と聞くと、お姉さんは、
「あら、知らないの?」
と不思議そうにしているので、僕は、
「生憎、セクシーなマンドラゴラと名のる方しか知らないもので…」
と、答えると窓口のお姉さんはクスリと笑い、
「ギルドマスターの前でその名前は出したら駄目よ、以前に町で新人の冒険者に『ナヨナヨするな!』って注意したら、芋虫ちゃんを虐めるな!ってボコボコにされたらしいから…」
と、恐ろしい話を聞かせてくれた。
あの『とある道を極めたっぽい』ギルドマスターがボコボコ…
ナンボほど強いんだよセクシー・マンドラゴラ姉さんは…と思いながらも窓口のお姉さんが教えてくれたのは、
マンドラゴラという魔物は基本的には植物と同じだが、引き抜こうとすると体を固くして抵抗するので引き抜くのに大変力が必要であり、一番の問題は、土から引き抜かれて、根の部分の本体が太陽に晒された瞬間に命を落とすらしく、最後の力を使って『断末魔』という精神に異常効果を与える叫びを放つそうだ。
個体にもよるが、ある一定の距離内でそれを食らうと、直撃では命に関わり、かすり判定でも魔物が彷徨く野外で気絶や錯乱を起こしてしまい結局命に関わるらしい。
僕は、
「そんな危ないのは…」
と、渋るがお姉さんは、
「ロープと馬魔物を使えば被害を最小限に押さえれますし、ランクも不問で、何より聖人様はアイテムボックスみたいな鞄を授かったと聞いています。
殺して二時間以内のマンドラゴラが欲しいんですよ…」
とプッシュしてくる。
僕は、
「因みに何個納入ですか?」
と聞くと、最低でも一本、しかし、新鮮な品であれば何本でも買い取ってくれるらしいが、直接創薬ギルドに納めて書類をもらってきてからの支払いになるとだけ注意を受け、
『一本だけならロープで括ってダッシュすれば引き抜けるだろう。』
と考えて引き受ることにした。
冒険者ギルドで高原地帯までの道のりを確認していると、
「兄貴、依頼を受けたんですか?」
「良ければご一緒させて欲しいッス!」
と話しかけられ振り向くと、小太りと糸目が立っていた。
僕が、
「えーっと…ガー、ガーなんとかと、なんとかッス?」
と二人の名前を絞り出していると、
「ガーランドですが小太りで構いません…。」
「オイラもラックスだけど糸目でいいっす…。」
と少し寂しそう二人は答え、僕の手伝いに名乗りを上げてくれたのだが、
「現地まで走って行くつもりだし、危ないクエストだから…」
と伝えると、小太りが、
「自分達、農場に迷い混んだロックリザードも撃退した事があります。
少しはお役にたてるかと!」
と食い下がるので、正直に
「マンドラゴラを抜いてくる予定なんだ。
危ないし、今回は僕一人で行くよ。
常態異常に耐性があるからね…大丈夫だよ」
と伝えると、
「邪魔に成らない様に遠くから見てるッス、
オイラ達の荷馬車で良ければ高原地帯まで送るだけでもさせてください。」
と糸目も食い下がってきたので仕方なく今回だけ移動手段として付き合って貰う事にした。
ドットの町から片道1泊2日の旅…考えればドットの町から集落までと同じくらい離れている見知らぬ土地に行くのに、ちょっと知ってる人間が居てくれるだけで心強い。
「兄貴」「兄貴」と質問責めにされていて少し鬱陶しさも感じるが、悪気は無いのは知っているので基本的には気楽な旅であった。
ココの町での聖人の話や盗賊の話をして、ガーランド達からは『新快速のゴードン』の話を聞いた。
結局、新快速の2つ名を気に入ったらしい五人はガーランドとラックスの治療費にガッポリイカれて、頑張ってドットの町で稼いだ後にまた他の町へと旅立ったらしい。
ただ、先祖の使っていた槍を折れた冒険者は槍を手放し、前から使いたかった弓に変更して前よりも良い働きをするようになったそうだ。
まぁ、剣・槍・槍・盾・両刀使いの前衛過多のチームだったから、後ろから攻撃出来るメンバーが増えるのはチームとしても良い事だろう。
以前は、前も後ろもイケたのは、投げナイフも上手な両刀使いだけ…って、なんだか前も後ろもイケる両刀使いというフレーズに嫌な物を感じたのでこの話題はここまでにしておこう。
などと、会話をしながら高原地帯に到着し、三人で魔物を狩りつつマンドラゴラを探した。
この高原地帯は日当たりが良く水も豊富な為に、植物魔物や爬虫類系の魔物が数多く生息するエリアで、メインとしては絡みついて血を吸う『ヒル蔦』という植物魔物と、そんなヒル蔦に巻き付かれても大丈夫な岩の様な皮膚を持つ力持ちのトカゲ、『ロックリザード』の生息地である。
勿論、鹿や猪系の魔物も居るがここでは主にヒル蔦の餌扱いである。
しかし、このヒル蔦は巻き付かれても、冷静に蔦の先端部分の血を吸う硬い枝葉を切り落とせば、ただの歩きにくい草であるし、ロックリザードについては水をがぶ飲みする癖に、背中の岩は乾燥して硬化した皮膚で水をかぶると一気に防御力が無くなる残念な魔物である。
二人には荷馬車でついてきてもらい、僕は、先頭でナタを片手にヒル蔦を刈り取りながら進み馬車の通路を作る。
蔦魔物が居ないエリアを拠点にしてからは、周りにいるロックリザードを水魔法で湿らせてから三人で倒す。
ガーランドに、
「兄貴、魔法スキルもあるんですね…凄いや体術だけじゃ、なかったんだ。」
と驚かれたので、
「体術スキルはないよ。
体術は努力すればスキル持ち程では無いけど使えるって僕の婚約者も言ってたからね。
因みにこの水魔法も神様が婚約者のスキルも借りれる様にしてくれたから使えるんだよ。」
と説明すると、
ラックスが、
「兄貴…神様からって流石は聖人と呼ばれる兄貴ッスね。
でも、兄貴の婚約者ってどんな方か見てみたいッス!」
と楽しそうにロックリザードに片手剣を突き立てている。
二人は撃退するのでやっとだったロックリザードを湿らせれば、サクサク倒せるのが楽しいみたいで、既に十匹近く倒してながら高原を走り回っていた。
そして、ようやくお目当ての白い花を咲かせた植物を発見したのだが…群生地のようで、白い花畑の前で、
「これが一本、小金貨一枚…」
と三人で呟いた。
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