第81話 マンドラゴラと冒険者
セクシーで無い方の野生のマンドラゴラと遭遇した。
引っこ抜いて、断末魔を聞けば一貫の終わりという噂なので、マジックバッグからロープを出して地表に出ていり部分を縛り、ロープの反対側を握ってマンドラゴラから距離をとる。
安全のためにガーランドとラックスは馬車と一緒にかなり遠くで待機してもらっているので被害は出ないだろう。
断末魔を防ぐ為に耳栓をしても魔力を帯びた声らしく、有効範囲内であれば、精神異常状態にされるらしい…まぁ、ロープを掴んで走りながら耳を押さえるのは難しそうだから自分の異常状態無効スキルとステータス補正を信じて走るしかない!と、思っていると、不意にヒル蔦のツルに足を取られて転けてしまい、その拍子にロープにテンションがかかり、マンドラゴラが引っこ抜かれ!…ていなかった。
しかし、手繰り寄せたロープの端には白い花と新鮮な葉っぱが有るだけであった。
『これ、あれだな…マンドラゴラとヒル蔦は共生関係なんだろうな…』
と思いながら白い花を見つめていると、遠くから小さく、
「兄貴ぃぃぃぃぃ、大丈夫ッスかぁぁぁぁ!!」
と糸目の声が聞こえ、手を軽く上げて無事を伝えた。
マンドラゴラは自分達が狙われているのを理解していて、断末魔の成功率を上げる為にヒル蔦が足に絡まり逃亡を阻止する。
ロープを使ったマンドラゴラ狩りでも安全圏に出る前に今みたいに転かす事ができれば、断末魔で狂乱状態や気絶状態になる可能性がある。
マンドラゴラ的にも自分の命と引き換えにダメージを入れた敵を仲間の養分にしてやりたい…そこで再びヒル蔦の出番で、気絶したりしている敵の血を抜き取り殺してしまい、死んだ骸は近くのマンドラゴラの養分に変わるというシステムなのは理解したが、今の問題は地上部分を全て失ったマンドラゴラは生きているのか死んでいるのか、果たして今からでも買い取りして貰えるのかが問題である。
僕は、引き抜きに失敗したマンドラゴラに近付くと、引っ張られて少し盛り上がった土の中から、
「えっ?、えっ、えっ?!」
と、少し焦っている様な声がする。
そりゃあ、焦るよね…根っこオンリーにいきなりなって…と少し哀れに思いながらマジックバッグからスコップを取り出して、
「これって、浮き上がってる部分を押さえて埋め戻す方が良いのかな?
でも、光合成する部分を全ロスしてるし…死んじゃうかな?
小金貨一枚なのに勿体ないな…」
とブツブツ言いながらスコップの先で盛り上がった土をツンツンすると、
「あっ、えっ…アン!!」
とセクシーな声を出している。
ちょっと面白くなりツンツンとアンアンのラリーを繰り返していると、盛り上がった土の上部が崩れて、マンドラゴラさんと目が合ってしまった…
『ヤッベ!!』
と思ったのと同時に、
「いゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、変質者に出会った女子高生のごとき悲鳴が大音量で聞こえた。
キンキンする耳を押さえながら、
「うっせーわ、ぼけぇぇぇぇ!」
と、思わず顔だけ出した晒し首マンドラゴラの頭をおもいっきり蹴り飛ばし、ポッキリ折れて飛んで行ったマンドラゴラの頭が有った場所を見ると生姜の断面みたいなものが見えて、
『もう買い取りは無理だろうな…』
とガッカリしながら呆然としていたのだが、不意に、
『あれ?叫ばれたが耳がキンキンしただけだ!』
と気がつき、試しに隣に咲いているマンドラゴラをムンズと掴んでステータス補正頼みのフルパワーでズボリと引き抜くと、
「うわぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、先ほどより野太い声の叫び声を出して、この世の全てを恨んで死んだような表情の、たまにニュース等で出てくるスケベ大根が僕の手の中でダラリとしている。
「あっ、これはイケるぞ!」
と、理解してからは、スケベ大根…いやマンドラゴラの収穫大会が始まった。
一面の白いお花畑から立派な物を選りすぐり、
「きぃやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」
「ヒィィィィィィィ!」
「イグゥゥゥゥゥゥ!!」
とバリエーション多彩な断末魔を響かせて、引っこ抜いてはマジックバッグに収納するのを繰り返すこと小一時間、あまり乱獲しても悪いので、
「よし、今日はこれくらいにしといてやる。」
と最後のマンドラゴラに語りかけ、
『あっ、コイツちょっとだけセクシー・マンドラゴラ姉さんに似てるな…』
と思いつつ、マン姉ぇ似のマンドラゴラを高く掲げて、小太りと糸目の二人に、
「お~い、終わったよぉ~!」
と声を掛けたのだが、二人は固まった様に動かないので様子を見に戻ると、理由がわかった。
二人は僕が断末魔を直撃したのを見て、心配して近付いたところで最初の方に引っこ抜いたご立派なスケベ大根の叫びを食らい、ゆっくりと意識を飛ばしたらしく、地面に武器を突き立てて変な体制のまま気絶していた。
「馬車の所に居れば良かったのに…」
と呟きながら僕は、二人にコッソリとクリーンを掛けて、とある痕跡を消してから二人を担いで馬車に戻り、馬車のロックリザードをマジックバッグにしまい、代わりに二人を荷台に乗せて来た道を引き返し始めた。
二人が目覚めたのは帰りのキャンプ地で、魔物避けの香の煙に燻されながら、
「ムニャムニャ」
と何か言って起き上がる二人に、
「よっ、起きた?ウチの村特製のホットドッグ食べるかい?」
と言って二人が食べ損ねた夕御飯を差し出した。
二人は「うまい、うまい」と食べながらも、自分達が見たのは何だったのか?と聞いてくるので、
「あぁ、僕には断末魔が効かないらしい…皆には内緒だよ。」
とボロい儲け方を持っている事を口止めしておいた。
ドットの町に戻り、三人で創薬ギルドに向かい、マンドラゴラの納品をしたのだが、
調子に乗って50以上も収穫してきてしまい、
「全員作業中止して、マンドラゴラの処理に入る!」
とか、
「全員でやってもこの数は…」
「では、商業ギルドにアイテムボックス持ちを回してもらって王都に、大物だけでも送るぞ!」
と、にわかに創薬ギルドがあわただしくなり、手続きするのも後回しになったので、
「一旦冒険者ギルドに他の獲物の買い取り依頼を出してきます。」
と言って、冒険者ギルドでロックリザード等を買い取りにだした。
解体待ちの間に、三人でギルド食堂でお疲れ様会をしていると、精算窓口のお姉さんが飛んできて、
「ケンさん…何をされたんですか?」
と、滅茶苦茶睨んでいる…
僕は、
「お姉さんのオススメ通りにマンドラゴラを収穫してきましたよ…ねぇ!」
と、ガーランドとラックスに同意を求めると、2人もコクコクと首を縦に振ってくれた。
お姉さんは、
「先ほど、創薬ギルドの職員がおみえになりまして、買い取り価格の交渉をしたいと申されて、今からお時間宜しいでしょうか?」
と言って僕たち三人は、冒険者ギルドの小部屋で、ギルドのお偉いさん達と会議をすることになった。
内容としては、大きいのを選んで収穫した為に、薬効成分が豊富な良質な物が混じっていて、普通ならば高値で買い取りするのだが、数が数だけにマケてくれないか? との交渉だった。
53の中で16は上物で三倍から五倍の値打ちが有るらしいのだが、ドットの町の創薬ギルドですぐに出せるお金がそんなに無いらしい。
無いものは仕方がないのは知っているが、僕だけでは決められないので、ガーランドと、ラックスに、
「どうする…負けてあげる?」
と言うと、二人とも、
「兄貴のなさりたい様に!」
と答えてくれたので、僕は、
「じゃあ、上物は今回に限り二倍でどうでしょう?」
と言うと、創薬ギルドの方から大変感謝され、冒険者ギルドの強面ギルドマスターからは、
「手数料だけでかなりの額になるなぁ、創薬ギルドに貸しもつくれたし、お前ら三人のDランクだったな…だったら三人共Cにしてやる!
Cまでならば俺の判断でランクアップ出来るから有り難くもらっておけ。
いゃあ、儲かった、儲かった!憎っくきマンドラゴラのおかげで儲かったのが尚嬉しい!!」
と、ご満悦である。
小太りと糸目は、
「兄貴のおかげでCランクに上がれました。
ありがとう御座います。」
と頭を下げていたのだが、僕は、
「いいから、いいから、そういうの。
冒険者パーティーは家族も同然だからね。」
と言いながらマンドラゴラの買い取り金額を
「1、2、3…」
と、小金貨69枚を23枚ずつの山に分けて、
「はい、これはガーランドの分で、こっちがラックスのね。」
と二人の前に差し出すと、二人はキョトンとしている。
「さぁ、次はロックリザード分を分けっこするよぉ!」
と言った瞬間に小太りと糸目は、
「いや、いや、いや!」
と慌て出し、何故か涙目でアワアワと何かを言っているが、無視して3等分にしてやった。
パーティーの分け前は平等と言うのは僕の冒険者としての師匠であるミロおじさんとレオおじさんの教えである。
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