第31話 贖罪の果て
さて、ダント兄さんの結婚式以来の教会に来ている。
教会の職員さんに、大銅貨五枚、つまり五千円を渡してステータスやスキルを鑑定してもらうのだが、僧侶服に身を包んだお兄さんが、
「鑑定装置も、メンテナンスや魔石にコストが掛かるからごめんね。」
と言って大銅貨を受け取った瞬間に、
『えっ?神の有難い力じゃ無いのかよ!!』
と心の中でツッコミを入れてしまった。
本当の鑑定スキルの持ち主は出世して中央にいるらしく、地方は大概鑑定装置なのだとか…
もういっそのこと、教会の神秘的なコンセプトを止めて、冒険者ギルドの隅にでも置いた方が儲かりそうである。
有り難味が、もうしなくなった装置に手をのせると、少し焦げる匂いがして、
「はい終了!
帰りに神々の像に感謝の祈りをして行ってね。」
と、焼肉屋が、レジ横でガムでも渡すみたいな流れ作業で、祈りを薦められて、
『有り難さとは…』と思いながらも、僕のステータスが焼き付けられた紙を読むと、
名前 ケン 14歳
職業 不定 レベル15
スキル なし
体力 5
魔力 3
スタミナ 7
腕力 5
脚力 10
器用さ4
運 3
貴方にオススメの職業は、『伝令兵』・『運搬業』です。
と、ご丁寧に職業の相談にも乗ってくれるみたいだが、僕には『何でも屋』という、ちゃんとした仕事があるのに!
なんだよ職業不定って…これは神様に文句を言ってから帰ってやる!!
と、鼻の穴を膨らませて、 礼拝堂で祈りの順番を待ちながらピーターさんに、
「見てくださいよ!」
と言って紙を見せると、ピーターさんは、
「見ても構いませんか?」
と言いつつ興味深々で紙を覗き込み、
「凄いですね、レベル15って町の一般的な衛兵が20から30程だから見習い新兵より強いじゃないですか!
あと、やっぱり普通は3~4程度が一般的な基本ステータスのランクも、5でも十分だが、スタミナの7も凄いけど、何より早さやジャンプ等に関わる脚力が10判定は異常だ…」
と驚くピーターさんに、僕は、
「いや、いや、そうじゃなくて、職業の欄です。
僕は、何でも屋という仕事に誇りを持っているのに…」
と、ガッカリしていると、ピーターさんは
「色々な仕事をしている人間は不定と記載されますよ。
幸運と商売の女神であるエミリーゼ様に祈って、私はこの仕事を頑張りますって誓えば職業の項目が変わる事もありますが、それで何かが変わる訳では無いですから気にしない方が…」
と教えてくれたが、気分的に嫌なのだ。
もう、これは神様に直談判だとばかりに、順番がくるなり神々の像に歩み寄り、
目をつむり祈りを捧げると、ふわっと浮き上がる感覚に、『死んだ時みたいだ!』と焦りながら目を開けると、生まれ変わる前に見た白い衣の青年がいた。
青年は、
「大丈夫ですよ死んでません。
お久しぶりですね。もう! なかなか教会に来ないからハラハラしましたよぉ…」
とボヤイている。
その間も辺りを見回すが白くて無駄に広い世界だった。
思わず「ここは?」と呟く声に青年は、
「あの時はケンさんの魂自体が不安定だったから急いでいたけど、今なら大丈夫だと思ってね…
本来ならば五歳ぐらいで、この話を伝える予定だったんだけど…生まれた地域がねぇ…仕方ないと言えば仕方ないかな。」
と言いながら指をパチンと鳴らす度にテーブルや、椅子が現れる。
手品の様な光景に目を見開いていると、
青年が、
「座ってください。」
とテーブルへと誘われた。
椅子に座ると再びパチンと指を鳴らすと、ホットコーヒーが現れた。
青年は、
「こちらの世界に無いから出してみたけど嫌いだったら他のもありますよ。」
というが、
「頂きます!」と食い気味に返答して口をつけた。
久しぶりの香りと苦味に涙が流れる。
その姿を、嬉しいそうに眺めながら青年はポツリポツリと説明の難しい今の彼の状況を話しはじめた。
彼の名前は
彼は、幼い女の子を助けた勇気を買われて異世界へ勇者として転移をする事に成ったらしい。
色々有って現在は神様の見習い的なポジションの『アマノ様』という名前なのだそうだ。
私にそう語ったアマノ様に深々と頭を下げて、「本当に申し訳有りませんでした。」と、謝罪をし、勇者という大役を成し遂げた事を讃えたのだが、本人は苦い笑いを浮かべて、
「いやいや、実は私は、何もしていない上に罪を犯しております。」
と言い出して、アマノ様はコーヒーを一口飲んで、
「長くなりますが…」
と前置きした後で、驚きの事実を教えてくれた。
彼は幼子を助ける為に荷物を捨てて走りだし私のトラックに轢かれたのだが、その事故の裏で、投げ出された荷物で頭を強打した男性もまた死を迎え、
私の被害者である男性は同時に加害者であるというなんともややこしい事態になっていた。
天野さんは肉体を再生してもらい、天界で十数年の修行の後に異世界に降り立った時には、
バカンス替わりに転生したその時の被害者の
操られていたとは言え何と言ってあげたら良いのか解らない結末に、私は言葉を詰まらせていた。
アマノ様は、
「しかし、自分の罪は小山さん…今は愛の神アルド様ですが、彼に許されて、現在は神の見習いという役職に就いております。」
と言って遠い目をしている。
もう、壮大な話しな上に、私が彼を轢いてから地球では十数年と記憶しているが、アマノ様の赴いた世界では既に2000年近く経っているらしく、時間のスケールも頭が追い付かない状態で呆けていた私に、アマノ様は、
「もう、自分を許してあげませんか?
貴方に轢き殺されたと言われる人間は、異世界で楽しく生きて、神々に誘われる程の高レベルになり、天寿を全うした後に今の姿に転生させて頂きました。
なので、あなたが背負うべき罪はもう…というか、最初からないのです。
小山さんを殺した贖罪の気持ちを胸に修行した十数年…本当に苦しかった。
ケンさん…貴方も十数年、十分苦しんだはずです…もう、許してあげて下さい…自分自身を…」
と言ってくれ、涙を流して下さった。
私…いや、既に今のケンとしての体に魂が馴染み、『僕』の姿の魂は今、罪から解き放たれた様に、一筋の涙を流して、
「感謝いたします。」
と、震える声でアマノ様に伝えるのがやっとだった。
やっと自分の罪と向き合い、折り合いが付けれそうに思え、暖かい気持ちになっていたその時、
「終わったかニャァ?」
と、雰囲気ぶち壊しな空気を読まない声がした。
アマノ様は呆れた様に、
「クロぉ…タイミング…」
と声の主に文句を言っている。
僕も、声の方を確かめると、何時から居たのかクロネコが退屈そうに地べたに寝そべり、僕たちの会話を聞いていたらしい。
クロネコは、
「長い、実に長いニャ!
異世界では置き配はやって無いニャよっ!!」
と、少しイラついている。
僕は、『えっ、猫が、喋ってる!』と驚くしか出来ずに、スタスタとアマノ様に近づくクロネコを目で追う。
クロネコは、
「えーっと、こっちがアマノ様にお届けニャ」
と言って、何かを渡してサインをもらっていた。
『異世界でもこのやり取りあるんだな…』
と、変な所に感心していると、クロネコは続いて、僕の元に近寄り、
「えっと、ケンさんで間違いないですか?」
と聞くので、僕は、
「はい、そうですが…」
というと、クロネコは、「スゥー」と息を吸い込んだ後にピョンと飛び上がり、着地と同時に、
「その節は申し訳ありませんでしたニャァ!!」
と言って、謝罪をはじめたのだが、それはそれは綺麗なジャンピング土下座だった以外の情報が無くて、何がなんだか解らない僕は、
「あの?何ですかいきなり…」
と問いかけると、クロネコは、
「仕方ないのニャ、遥か昔、一瞬だけの出会いだったニャ…」
と言いながらクロネコは立ち上がり、僕に背中を向けると、急に振り向いて、この世の終わりが来たような顔を見せた。
その瞬間、僕は鮮明にあの瞬間を思い出し、全てを理解した。
「あの時の猫だ!!」
と…
そう、彼はあの事故の原因のクロネコだったのだ。
もう、様々な情報が押し寄せて来て胸焼け気味の僕は、この後、長い長いこのクロネコの謝罪を聞く羽目になったのだった。
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