第32話 暇をもて余した神々の…

猫の謝罪は長かった…


そして、クロネコは、


「神様達から、ケンさんがあの事故のせいで、悩み苦しんで、闇に食われそうになったと聞いた時は本当に心配したニャ。

アマノ様が派遣された世界に転生したけど、スキルを断って、贖罪の人生を歩んでると聞いて、ニャァは居ても経ってもいられなくて、ニャァの居るミスティルの世界の神様に相談したニャ!

そしたらアルド様が、とりあえずコレをケンさんにって言ってニャァに渡してくれたのニャ。」


と言って、半透明な二枚のカードとオハジキの様なガラス玉を手渡してきた。


勿論受け取りサインは書かされたのだが…

そして、ガラス玉はあちらの世界の伝言メッセージの様なもので、魔力を流すと再生されるらしいが、

魔力のステータスは、つい先程有ることは解ったのだが使った事もないので『流す』と言われてもやり方が解らずに困っていると、アマノ様が丁寧に教えてくださり、魔力が流れたガラス玉から光が溢れると、


「ども、どもー!

はじめまして元は小山で、現在はアルドと申す者です。

ある意味そこに居るクロネコの被害者仲間と思って下さい。

そんな仲間がスキル無しで頑張ってると聞いて、取り急ぎ、そちらでも使える便利スキルを送ります。そのカードはスキルを閉じ込めたスキルカードですので折り曲げて破壊するとスキルが飛び出して一番近い人間に入り込みます。

では、異世界楽しんでね。

貴方は被害者なのだから、楽しむ権利が有ります。

俺が言うんだから間違いない!

では、ではー。」


と、何とも軽い感じの男性の声が響いた。


僕が、


「これが、愛を司る神様ですか?」


と質問すると、クロネコが、


「ただ、全種族コンプリートした一夫多妻のお化けニャァ」


と呆れて、アマノ様が「これ、これ」と諌めている。


しかし、クロネコは何か鬱憤でも有るように、


「アルド様はちょっとお子ちゃまニャ!

使役しているゴーレム達が新たな種族として認められた時に、ゴーレム族っていう名前では魔物のゴーレムと差別化出来ないとゴネてたから、ニャァが愛の神様の人形だから、ラブドール族ってどうニャ? と、冗談で言っただけなのに、一週間ニャァの運気ステータスを1にしたニャよ!!」


とプリプリ怒りながらも僕達の座るテーブルで、お茶と煎餅を楽しみはじめた。


アルド様という元地球人の神様も少しアレだが、このクロネコもどうかと思う…と呆れている僕にアマノ様は、


「とりあえず、あの時渡せなかったスキルと能力をもらってくれるかい?

とりあえず魔物や盗賊から逃げ切れる様にと渡した脚力とスタミナだけでは、心配で…」


と、言ってくるので、僕が、


「カードか何かですか?」


と質問をすると、アマノ様は、笑いながら、


「あれはアルドさんの専売だから今の自分は使えないんだ。

だけど、譲渡のスキルって能力があるから、自分のスキルとかを分けてあげれるんだよ。」


と言っているが、ならば尚更アマノ様からは頂けない。


だって、迷惑をかけたアマノ様の力を奪う様なモノである。


そこからアマノ様との話し合いが始まり、呆れる猫が、


「もらえるモノはもらって楽しく生きれば良いニャァ!」


と言っていた。


話し合いの末に与えると無くなるスキルではなくてアマノ様の勇者として鍛えた余りある身体能力をほんの少し分けてもらう事で話がついた。


それからクロネコは、


「ニャァのお仕えする商業の女神であるフク様からの伝言ニャァ、

『ウチの馬鹿猫が大変ご迷惑を掛けました。

新たな人生に少しでも役立てて頂ければ幸いです。』

と、以上ですニャァ。」


と言って一つの鞄を差し出してきた。


そしてクロネコは、


「色々な神様の力を借りて作ったマジックバッグですニャァ。

壊れないし、生命体以外であれば滅茶苦茶入るし、勿論時間停止付きで、なんと魔力を流して登録した人にいくら捨てても戻ってくる粘着質な呪い…いや、便利機能付きのレジェンド級アイテムニャァ!」


と、自慢気に言う。


ちょいと気になるフレーズが有ったが、異世界の神様からの謝罪の鞄らしいので有り難く頂く事にした。


アマノ様が、


「では、遅くなりましたが改めて、新たな世界を楽しんで下さい。

ケンさんがやりたい事をやりたいように…

あと、次の瞬間パッと教会に戻りますが驚かないように、

それと、スキルカードは鞄に入れて送りますから受け取ってくださいね。」


と、足早に注意事項を伝えてくれた後に、僕の魂は再びフワリと成って、次の瞬間、礼拝堂の中で神々の像に祈りを捧げていた。


長かった…ピーターさんが僕の横で祈りを終えて立ち上がろとしているので、こちらでは多分数秒程しか経っていないみたいだが、体感的には丸1日ほど経っている。


疲れたから帰ろう…


と思った途端に神々の像が光りはじめ、僕にその光が降り注ぐと、周りの方々が、


「祝福だ!」


と口々に騒ぎだし、空中にあの鞄が現れて、ゆっくりと僕の手に降りてきた。


『後で送るってこういう感じなんだ。』


と思いながらも、


「神からの祝福と、聖なるアイテムを与えられた者が現れたぞ!」


と、教会の方々に囲まれ、その後別室へと連行されて、色々な質問をされて大幅に予定が狂ってしまい、最終的には、ピーターさんも慌てまくり、ファーメル騎士団本部に報告を入れて、集落への帰宅を1日先延ばしにして、ファーメル家に今晩招待されてしまった。


神様とのやり取りからの教会での聞き取りで疲れ果てた僕は、


「…買い物はもういいから、一旦休みたい」


とピーターさんにお願いして宿屋に戻り、すこし休んだ後に、一人きりの部屋で鞄を改めて確認してみた。


何も入って無い様な鞄に手を入れると、頭の中に、『クリーンのスキルカード』、『状態異常無効のスキルカード』と、『手紙』という3つのモノの名前が浮かんだ。


試しにスキルカードを念じると手にカードが二枚乗っていた。


「凄いな…マジックバッグ。」


と呟きながら鞄からとりだしたカードを見つめて、


「確か割るとスキルが手に入るんだよな…」


と呟いた途端に「コンコン」と部屋の扉がノックされて、ピーターさんが、


「そろそろファーメル家のお屋敷の方へ参りますよ。」


と、言いながら部屋に入ろうとするので、僕は、


『確か、一番近い人間のスキルになるからピーターさんが近寄る前に使わないと!』


と、慌ててカードをへし折ると、カードから光が飛び出し僕の体に光が流れ込んできた。


そして、薄くボンヤリ光る僕を入室したピーターさんが見るやいなや、


「もう!今度はなんですか!?

報告事項が増えるから不用意に光らないで下さいよ聖人様!!」


と怒っていた。


そう、この日僕は、神に認められてアイテムを授かった聖人という扱いになってしまったのだ…

何とも良い迷惑である。


そのせいで、この後町のお代官様に『聖人』として今からご挨拶する事になっているのだ。


本当に色々と迷惑でしかないのに、「勝手に光るな」といわれましても…どうして良いかわからない。


しかし、さっきの光りで僕は、スキル持ちに変わったはずで、すでにアマノ様からステータス補正を受けているので、聴力や視力まで強化できる獣人族の身体強化程ではないが、身体強化をしたぐらい、固く、丈夫で、力強く、早いという脳筋真っ青な体を手に入れている。


ピーターさんに、


「光ったのは不可抗力です。

あと、手紙をすこし読みたいので暫く時間をください。」


と言って、僕はマジックバッグから手紙を取り出して確認すると、なんと手紙は日本語で書いてあり、一瞬驚きながらも読みはじめる。


すると、


『やぁ、ケンちゃん、アルドだよ。

無事にスキルは獲得できたかな?

この鞄の製作に携わったので、少しサプライズで手紙を仕込んでおきました。

凄い鞄でしょ、使ってくれると嬉しいです。

俺からのプレゼント、一つ目の『状態異常無効』はそちらでも同様の仕様のスキルがあるので使えるはずで、毒に麻痺、魅了から各種呪いにも対抗出来ると思います。

そして、もう一つはそちらには無い『クリーン』のスキルです。これはそちらの世界では使えないスキルだったので、他の神々と協力して作ったそちらのスキル形態に合わせて改良した新スキルです。

そちらの神様にも許可を貰いましたので、神様に賜ったケンちゃんだけのスキルとして、自慢して使っても大丈夫ですよ。

元は汚れを取り除く生活魔法というこちら独特の魔法スキルでしたが、そちらに無い魔法形態だったので、そちらの光魔法をバラシて組み直した一点ものの魔法とスキルの中間の能力で、体から病原菌を取り除いたり、毒を取り除く機能まであります。

ぶっ壊れ便利スキルですが、そちらの魔法スキルと違い、いくら使っても進化やレベルアップは残念ながらしませんが、

勿論、衣類の汚れを落とすのはお手のものです。


追伸、お金に困ったらこれで洗濯をしてお金を稼いで下さいね。

活躍を遠い異世界から祈っております。

洗濯屋ケンちゃんに愛を込めて、アルドより。』


と書いて有る手紙を読み切り、


「誰が洗濯屋ケンちゃんだ!解る奴なんて一部の奴だけだわ!!」


と、怒鳴りながら手紙を床に叩きつける僕を、ピーターさんが冷たい目で見ていた。


アルド様とやらは余程暇らしい…かなり手の込んだ事を… と呆れながらファーメル家へと向かったのだった。

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