第90話 小さな裏切り?
ニック様がウダウダ言ってるので、怒ってしまった僕は、かなり居づらくなったので要件を済ませて帰ろうと、
「ニック様、どうでも良いですが、なんで僕は呼ばれたんでしょうか?
町の方針を決める会議に呼ばれたのならば、人選ミスですよ。
平民のCランク冒険者ですからね。」
と聞く僕に、ニック様は、
「町の井戸にロープにぶら下がり入って、ことごとく浄化して見せた聖人を平民とは言わないと思うが…」
とチクリと仕返しのセリフを言った後、
「今回の浄化の褒美は何を望む」
と聞いてきたので僕は、
「あのね、ニック様そんなの念話で言えたでしょうに…ウチには子供も居るんですからね。」
と、怒ってしまった流れで少し辛く当たってしまったのだが、ニック様も騎士団長もシュンとしてしまい、
「確かに、知恵を借りたかったのもあり呼び寄せたが、配慮に欠けた…これでは褒美を理由にケン殿を無理やり巻き込む様なものだ…すまぬ…」
と頭を下げる二人に、
「何でも屋ケンちゃんとしての正式依頼であれば力を貸しますから。」
と言ってから、
「買い物も頼まれてますしもう帰りますね。
あっ!そうです!!ご褒美は、今度村に辺境伯様にも献上した蒸留酒を出す酒場を作っているので、料理も出来る愛想の良い酒場のマスターを募集しておいて下さい。」
とお願いすると、ニック様は、
「うむ、承知した。」
とだけ言って、僕は解放となった。
ちょっと怒り過ぎたかなぁ…ニック様だって被害者なのに…と、反省しながら買い物を済ませて集落に戻る事にしたのだが、その前に、来たついでにガーランドとラックスの家の風呂の進捗状況をチラッと確認しに行くと、どちらも近々完成するとの事だったので、ウチのナナちゃんの自信作、『花畑の香り』の石鹸と、シータちゃんの意欲作『毒消し草エキス入り』の薬用石鹸をセットでプレゼントしておいた。
ガーランドの家が有る東エリアに来たついでに、ファーメル家御用達のお菓子屋さん『飛びリスの隠れ家』に顔を出して、
「先日、キス魔に襲われた所を助けて頂いた者です。」
と言って、こちらにも石鹸をプレゼントしたついでに、飴やお菓子を大量購入したのだが、
店のオーナーから、
「最近マン姉さんが元気無いのよ…」
と相談を受けた。
まぁ、自分達がご近所さんを守れかったとかと、責任を感じてしまっているのだろう…などと思いながら色々な話している時に、
「あっ、こんなの知ってます?」
と、いいもの製作所の三人に作ってもらった泡立て器をマジックバッグから取り出して、
「材料を混ぜたり、生クリームなんか作るのに便利ですよ。」
と言うと、「生クリーム?」と首を傾げられたので、『あぁ、そこからか!』と思いながら、最近パン職人のアイナさんと一緒に作った、旅の非常食の生クリームとジャムをサンドしたコッペパンをマジックバッグから取り出してテーブルに並べると、オーナーの旦那さんであるセクシー・マンドラゴラ姉さんの弟さんや、他の職人さんに、店のパートさん達も集まり、皆でパン祭りが開催し、パンを食べながら、「この食材は?」などの色々な質問を受けてしまい最終的には、
「いっぺん村に来て一緒に作ってみます?村自慢の料理人も居ますし。」
とお誘いしておいた。
セクシー・マンドラゴラ姉さんが元気が無いという事が気になるが、店に仕込みに来るのは夕方だし、自宅を聞いて乗り込む程の元気にさせる名案も勇気も無いのでスルーしておいた。
そして僕は、『セクシー・マンドラゴラ姉さん、ファイト!』と、心の中でエールを送り、花の種等の買い物をすませて、ファーメル家の馬車で集落に戻ってきた。
そこからは静かな年末を過ごし、迎えた年明けの集落では、ソーセージが数種類とカクテルが十数種類発明された他、遂に僕の装備が出来上がった。
アイアンアントを大量に食べたアリ殺しの少しメタリックな背中の硬い皮は素材の段階ですでに前作のニチャニチャスレイヤー装備より頑丈である。
しかも、今回の革鎧はアントメタルインゴットに大物のボアの蹄を砕いて練り込み鍛えあげた、「加速」というスピードが上がるスキル付きの『魔物メタル』という上級冒険者御用達のスキル付き素材も使った鉄板入りの革鎧で、鋼の鎧よりも軽いが、鋼の鎧よりも少し硬いという最高の逸品であるのだが、タクトさんがご丁寧にまたニチャニチャコーティングを施してくれた為に、普通のアリ殺しの革よりも遥かに防御力に富んでいるが、素材の色も相まって前作より黒光りがヒドイのだ…
今回は兜まである動きやすい部分鎧っぽい仕上がりで胴鎧もあるので、後ろから見てもGっぽさが増してしまったのだけが残念で、
『冒険者として町を歩くときは、兜はマジックバッグにしまって、鎧だけにしよう。』
と、少しでも黒光りの分量を減らすと決めた。
そして新たな武器は、アントメタルに鎧にも使ったボアの牙を練り込んだ『攻撃力上昇』の付いた魔物メタルを芯に入れ、森で一番硬いオーク材の芯材で仕上げた『ニチャニチャ棍棒グレート!』って…なぜあの三人が、ニチャニチャ棍棒にこだわったのか解らない…もっと他に有ったのでは?と思いながら少し落ち込んでいる僕の隣で、いいもの製作所の初期メンバーの三人は、制作費に渡したお金を使い、ドットの町で素材を購入して、サーラスとシータちゃんやナナちゃんに装備を作ったらしく、『アサシンバイパーのマント』をサーラスに渡し『アーマーリザードの帽子』をシータちゃんに被せ、そしてナナちゃんには、アサシンバイパーの牙を練り込んだアントメタルで作った麻痺ナイフをプレゼントしていた。
僕は思わず、
「ナナちゃんに何て危ない物をわたしてるの!」
と製作者に抗議をしたのだが、ナナちゃんは、
「とーちゃん大丈夫、私がお願いしたからベントおじちゃんを叱っちゃ嫌っ!
いつもはベントおじちゃんの作った普通のナイフを使うし、これは特別な時だけにするから。」
とお願いされたのだが、六歳の少女がいつも普通のナイフを使うの自体どうかと思う…そして、このおっさん三人は僕の装備より彼女達の装備に明らかに力を入れているのが解る。
三人娘に、
「おじちゃんありがとう。」
とハグされて、
「よーし、余った素材でもっと作ってやろう!」
とデレデレの三人のおっさんは、『いいなぁ…新装備…』みたいな視線のギースとカトルにまで、
「お前らのも作ってやるぞ!」
と声をかけて、
「わーい、おじさん達有り難う。」
と子供達からチヤホヤされていた…
べ、べつに、羨ましくなんてないんだモン!!と、僕は強がりながらも、新しい装備を見せびらかしに村へと向かったのだが、
ファーメル騎士団の馬車が代官屋敷の前に停まっており、馬車のそばにピーターさんが立っていた。
僕を見つけ、
「ケン殿、お久しぶりです。
今から伺う予定にしていましたので丁度良かった。」
と、片手を上げて僕に話しかけるピーターさんに僕も、
「本当にお久しぶりです。
別荘の駐在員さんに用事でも?」
と、近寄りながら返すと、ピーターさんは、
「いえいえ、ケン殿にニック様よりの褒美の品を…」
と、話している最中に、ケビンさん達代官屋敷のメンバーが建物から、
「いやぁ、これはこの村が賑やかになりますなぁ。」
と笑いながら出て来て、その横には凄く見慣れた三人の姿があり、
「ケビンさんも、ポルト辺境伯様の所から酒場も無い村に来て寂しかったんじゃないのぉ?」
などと言っているセクシー・マンドラゴラ姉さん達が、僕に気がつくなりドタドタと走り寄り、
「ニック様から聞いたわよぉ!お料理上手で愛想の良い酒場の人間を探していたんでしょ!?
そんな遠回しじゃなくて、お前が欲しいって言ってくれたら良かったのにっ!」
と、抱きしめられた。
チュチュさんが、
「あ~ん、ケンちゃんは私のなのに!」
と言っているが、僕はチュチュさんの物になった覚えはない!
そして、ピーターさんはチュチュさんのターゲットが僕に移った事に、なぜホッとした表情でこちらを見ているのだ!?
パニック状態の僕だったが、これだけは解る。
『ニックのオッサン!ヤりやがったなぁぁぁぁぁぁ!!』
と…
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