第14話 報酬と尋問と生け贄

知らなんだ…冒険者って夢があるな… と、解体が終わり精算カウンターでお金を受けとるおじさんの後ろで金額を聞いていると、


森狼の魔石に毛皮と牙と肉の買い取りで、解体手数料を引いても一匹で小銀貨一枚らしい、


傷の具合で毛皮や肉の買い取り金額は前後するが、それでも約一万円程度で、其が22匹であり、大銀貨という未知の貨幣二枚程度に変わるのだ。


十匹倒せれば、アルの学費1ヶ月分… 命をやり取りするには安いかもしれないが、十分夢の有る仕事である。


しかし、自分には向かないのも午前中で痛感したので甘い夢は見ない事にした。


あの強いおじさん達でさえDランク冒険者で、本業の木こりで生活している…僕も地に足を着けて、何でも屋を頑張ろうと思いながら手続きをしているおじさんを見ていると、


「おいケン、ギルド証を出してくれ」


と言われて、首に掛けてあるドックタグの様な物をカウンターに提出すると、職員さんが何やら道具を使いゴソゴソした後で、


「ポイントが加算されました。

ケンさんですか…出来れば討伐では無くて、初めは採集とかの常時クエストでポイントを稼いで、ランクアップをすることをオススメしております。」


と、遠回しに『危ないことをするな』と注意されてしまった。


正直、集落にも冒険者ギルドが有れば、薬草採集などお手のものどころか、それで生活しているのだが、ここで言っても仕方がないので、


「はい、」


とだけ返事しておいた。


それから、ミロおじさんと、レオおじさんが買取金額を三等分にし始めたので、僕はおじさん達にストップをかけて、


「僕が倒したのは二匹だけだし、それもチェリーがサポートしてくれたから倒せたからで、三等分はおかしい。」


と言ったのだが、おじさん達は「良いじゃねぇか。」と小銀貨七枚を押し付けようとしてくる。


その後、簡単な話し合いの結果、小銀貨二枚はお小遣いとして受け取り、例の謝罪としてギルドショップで魔物図鑑を購入してもらう事で決着したのだが、しかし、ギルドショップでおじさん達は僕に、


「初討伐祝いだ。」


と理由をつけて片手剣をプレゼントしてくれたのだ。


結局小銀貨七枚分の分け前を現物で渡されただけになり恐縮している僕に、ミロおじさんは、


「冒険者仲間は倒した数じゃない、皆でひとつだから分け前は均等だ。」


と言ってくれて、レオおじさんも、


「ケンはスピードが早いから、剣や槍で突く攻撃をベースにしたらもっと倒せるはずだから頑張れよ。」


と、優しい言葉を掛けてくれた。


そして、俺をダント兄さんの商会に送ってくれたあと、二人は、


「じゃ、ちょっくら俺らは買い物に行くから!」


とご機嫌で酒と、今回頑張ったチェリーに何か買いに行ってしまった。


僕は、冒険者としての師匠である二人と一頭の背中を見送り商会に入ると、


3時のお茶で和むアンお姉さんとエリーさん達の横で、二日酔いからの挨拶回りで、完全にノックアウト状態の兄さんが居た…


僕は、


「ただいま戻りました。」


と声を掛けて、商会に置いて有った荷物から着替えを取り出し、裏の井戸に体を洗いに向かったのだった。


程よい疲れと、幸福感を味わっているが、冷たい井戸で体を洗う度に毎回思うが、風呂が恋しい…という何とも日本人な願いである。


集落の生活では、これまで毎日の食費等でかつかつだったが、最近少し余裕が出来てきたし、帰ったら風呂でも作ろうかな…五右衛門風呂ならばデカい鍋を改造したら出来るだろうか?

等と考えつつ素っ裸でゴシゴシしていると、アンお姉さんが背後に立っていた。


思わず「きゃっ!」と叫んでしまいそうになったが、グッと堪えて、


「あの…恥ずかしいので…洗い終わるまで待って頂けますか?」


と言ったのだが、アンお姉さんは、


「いえ、お構いなく、それよりもお伺いしたい事が…」


と、聞いてはくれない。


『お構いしてくれよ…』と思いながらも、体を拭きながら、焦らずに平常心を保ちつつ超特急でパンツを履いてから、


「で、お伺いしたい事とは?」


と質問してみたが、まだパンツ一丁で恥ずかしい。


可能な限り自然な流れを心がけつつ、ズボンからシャツへと装備を整えるのに集中していたので、内容が飛び飛びにしか入って来かったのだが、

ダント兄さんからアルが魔法学校の授業料免除である主席合格を目指している事を聞いて、同じく魔法学校を目指しているが勉強嫌いな子供さんの親と知り合いだったアンさんは、一度アルとその子を合わせて、勉強等の話を聞いて刺激を受ければと考えていたらしい。


ダント兄さんから、アルの学力は本当に凄く、本人も勉強好きだと聞いていたアン姉さんは、前回の集落訪問の時にアルに勉強の事を質問すると、家庭教師が僕だと聞いていたので、今晩の夕食に僕も誘われたらしいのだ。


『なぁ~んだ、家庭教師から見たその子供さんの学力を知りたいのかぁ…こんなところまで押し掛けて、質問されてビックリしたよ。』


と、勝手に理解して、ホッとしていると、アン姉さんの口から、


「種芋倍化法と、アル君がケン君から習ったという、植物活性の魔法が無い場合の連作障害とやらについてお聞かせ下さい…『賢者様』…」


と… たった今、汗を流してサッパリしたはずなのに、嫌な汗が滝の様に吹き出し、パンツにまで染みそうな勢いで背筋を流れ落ちる。


「な、な、な、何を言っておられるのやら…」


と上ずる声を絞り出すが、


「本日、アル君から全て聞いております。」


と、あの時のカッツ会長を叱っていた様なアンお姉様の鋭い視線を受けて、蛇に睨まれた蛙の様に固まっていると、申し訳無さそうに遠くから見つめる弟の姿を発見し、僕は完全に観念した。


それからは、アンお姉様に別室にて尋問…いや、質問責めにされてしまったが、面倒臭い事になるのを恐れて、


「いやぁ、記憶が…」


と、はぐらかそうとするが、アンお姉様に、


「嘘、ですわね。」


と、すぐに見透かされ、更に厳しい追及を受ける事になる。


そうだった…アンジェル尋問官に嘘は通用しないのだった… と項垂れながら前世の顧客の農家のお爺さんから聞いた農業の知識を分かりやすく説明させていただくと、


「今晩、夕食後にその説明をそこで逢う方々にもして頂けますか?」


と、命令…いやお願いされて、まな板の鯉の如く、悪あがきすることを止めた僕は、


「はい、喜んでぇ」


と、居酒屋のような返事を返していた。


結局、夕方近くまで尋問…いやさ、お姉様との談話が続き、クタクタ状態でカッツ商会の立派な馬車に乗せられて、アルと一緒にカッツ夫妻にドナドナされて行く羽目になったのだが、到着した場所で更に精神的なダメージを負う事となった。


なぜなら、


「お貴族様のお屋敷じゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」


と、心の中で叫んだつもりが、声にも出ていたらしく、カッツ会長に、


「ケン君…代官をしているファーメル様のお屋敷だから失礼の無いように。

奥方様と妻が仲良しなのだが、辺境伯様の三男で騎士爵家の御当主様だからね…」


と、釘を刺されて、『不敬罪が怖いから、必要最低限しか喋らない!』と心に誓い屋敷の中へと連行…いや、メイドさんに案内されていく…

来た早々で悪いのだが、僕はもう既に帰りたい衝動に駆られている。


『お家が恋しいよぅ…』

『胃が痛い、お昼の蛙さんとミルクを撒き散らしそうだよぅ…』


などと、散々心の中でダダをコネながら、通されたお貴族様の食卓はきらびやかで、きっとこんな晩御飯に突撃するのはデカいシャモジを持ったベテランでも無理なはずである。


いかにもみたいな威厳のある男性が、


「ようこそ我が屋敷へ、カッツ殿もアンジェル様も久しいな、妻とはお茶をして居ると聞いている、今回は仲間外れにされずにホッとしておる次第だ。」


などと、冗談を言って笑っているあの方が、お代官様のファーメル騎士爵様だろう。


…そうだ、空気になろう!

僕は、アルの付き添い、そうモブのキャラクターAとして、過ごそう!!

と、決めたのだが、すぐに、奥方様が、アンジェル様に、


「アン、どちらが娘に勉強を教えて下さるの?」


と言っている。


僕は一瞬、


『勝手に何を約束しとるんじゃい!?』


と思ったが、部屋の中を見渡すと、可愛らしいお嬢様が1人…アルと同年代で、アルと同じく魔法学校を目指しているらしい…

そこで、僕は頭の中で自分会議を開き、


『よし、お兄ちゃん動きます!』


との結論に到達して、弟の手をガシッと掴み、ピンと挙げさせ、


「是非、弟のアルにお任せ下さい。

兄である私は、計算が得意で弟に教えましたが、歴史などの事は勉強熱心な弟に遠く及びません。

兄の贔屓目を抜きにしても弟のアルが必ずお役に立てるかと…」


と、弟を生け贄…では無くて、貴族令嬢と仲良くなるチャンスを作ってあげたのだ。


だから、アルよそんな眼差しでお兄ちゃんを見てはイケない…

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