第15話 新たな仕事の始まり

あぁ、やっぱり家が落ち着く… と、食卓でお茶をすすりながら、今は居ない弟に思いを馳せている。


と言っても勿論死んだ訳では無い… 多分元気にしている筈である。


そう、弟を生け贄に差し出したあの夜、様々な事が有った。


まぁ、簡単に説明すると、アルの入学金から授業料を全部面倒を見て頂ける約束で現在アルは代官屋敷の使用人部屋にて住み込みで家庭教師のバイトを行っている…これが本当のアル・バイトである。


ドットの町の代官であるニック・ファーメル騎士爵様と、アンお姉さんのお友達のエリステラ奥様の長女で、ウチのアルと同い年のミリアローゼお嬢様が、どうしても長男で昨年魔法学校へ入学したエリック様と同じ魔法学校に行きたいと言い出したのだが、

長男のエリック様はアルの様に勉強の虫で、家庭教師も付けずにすんなりと、ココの町の魔法学校へ入ったらしいが、兄が楽しく学生生活をエンジョイしていると聞き、羨ましくなった妹のミリアローゼ様も急に進学を希望されたらしいのだが、いかんせんお勉強嫌いで…いわゆる…おば…いや、お茶目さん? だったので、1から教えてくれる教師か一緒に勉強をしてくれる仲間を探しておられたらしく、アルに僕が白羽の矢をぶっ刺す様に仕向けたのだ。


成功報酬ではあるが、アルはあのお嬢様を入学させる事が出来れば、卒業までのお金をファーメル家が出してくれる条件であるうえに、それとは別に毎月のお給料も出してくれる。


正直ポテチの件で既にお金の目処は立っているが、お金なんてあんなもの、なんぼ有っても良いですからね…

それに、使わなかった入学金はアルの卒業祝いに回せば良いのだが、あの、お茶目が過ぎるお嬢様の事、万が一もあり得るので、成功報酬が無い時の事を考えてアルの為に引き続きお金を貯めようと思っている。


アルが戻るまではアルの畑は集落の家庭菜園的な運用で、エリーさんがリーダーとなり管理してくれる事に決定し、現在の畑は、急遽買い集めた豆類がメインで植わっている。


ジャガイモはアルが居なければ、植物活性の魔法も使えないので今年は植える事が出来ないからだ。


なぜなら、同じ畑で同じ作物を作ると、ある種類の栄養ばかりを使われ土が痩せたり、病気に弱くなる連作障害が起きてしまうので、来年の作付けからは、畑を四分割にして、実物野菜、葉物野菜に、根菜とチェリーの牧草畑としてローテーションをして行く予定である。


そして、僕は今まで通りに何でも屋をしているのだが、今までと違うのは、月の半分はドットの町から迎えの馬車が到着し強制連行される契約になっているのだ。


これは、何でも屋への正式な依頼であり、

先ずは、ドットの町の農家とファーメル家の菜園担当者にジャガイモの種芋を半分に切って灰を着けてから植えるやり方を教えて、

専門では無いにせよ、前世で畑を手伝ったりしていた農家の爺さんから聞いた知恵を広める活動をする事になっているのだ。


マチ婆ちゃんには、


「アルも居ないし、僕も月の半分居なくなるから、薬草の納品が滞るかもしれない。」


と告げると、隣村の子供を三人紹介された。


彼らは長男のトール君は十歳で、七歳の次男ギース君と五歳の長女シータちゃんの兄妹で、父親が去年の冬に魔物に襲われて他界したらしく、つまり、マチ婆ちゃんはウチの三兄弟が生きてこれた薬草採集の仕事をこの兄妹達に引き継がせて欲しいらしい。


マチ婆ちゃんに、


「僕ら三兄弟もマチ婆ちゃんのお陰で生きてこれたから、次はこの子達の番だね。

マチ婆ちゃんも長生きしないと、買い手が居なくなったら子供達が大変だよ。」


と僕が言うと、マチ婆ちゃんは、


「ダントはもうすぐだろうが、ケン坊とアル坊の子供を抱っこするまでは死ねないねぇ。

あっちでアボットの奴に自慢して悔しがらせてやるんさね。」


と、笑っていた。


そんな事があり、現在彼らは何でも屋の薬草部門として活動して、僕は三人兄妹の指導に当たっている。


薬草の探し方に、採集方法や、もしもの時用に栽培方法も時間を掛けて覚えるまで根気強く教えているが、やはりアルより覚えが悪いし、必要な量の確認や計算もかなり遅い…分かってはいたが、なかなか大変である。


隣村には村長のやっている寺小屋のような学校があるが、週に三回で午前中だけの授業らしく、長男は読み書きは出来る程度の学力はあるが、それでも全体的に見て都会よりも学力は低いのだろう。


しかし、彼らは母を少しでも楽をさせたいと、努力している。


なので、こちらも週に三回、午前中は薬草の授業と昼からは長男は計算を軸に、次男と長女は読み書きをまず教えて、計算は兄から習う方式で勉強をさせる事にした。


三兄妹は、週に3日の寺小屋の日は、午前中は寺小屋で勉強し、午後は家の手伝をして、その他の3日は薬草採集と乾燥等の作業を指導して、午後は僕が家庭教師として夕方まで勉強し、残りの1日はお休みという生活をしている。


三人共に、とっても頑張り屋で、見ていて応援したくなる。


特に三人目な長女は、僕を「シショー」と呼び、


『前世ではあれぐらいの孫がいるはずだな…』


と、妻と一緒に出ていった娘を思い出してしまった。


三人の母親は、卵鳥という鶏みたいな魔物の養鶏農家の手伝いをしており、夜は針仕事の内職もしている苦労人であり、早く三兄妹を稼げるようにしてやりたいのだが、問題は来週から僕が半月ドットの町に拉致られる予定である事だ。


しかし、三兄弟の事がすこし心配であったが、マチ婆ちゃんが、


「留守の間はワタシが面倒を見るから安心せい。」


と、僕らの薬草学の師匠が言ってくれたので、安心して出掛ける事ができる。


農業指導とその他ゴソゴソすると、依頼料が頂けるので、そこから三兄妹の為に何か町で買ってあげよう! と切り替えて、ドットの町に行く事にしたのだ。


そして、それから数日、留守にするための準備をして、ドットの町からの迎えの馬車を待ったのだが、日にちが近付くにつれて気が重くなっている。


何故なら前回帰る前に、ファーメル家の菜園担当の二人と顔合わせしたのだが、二名いる担当者の1人に、


「このような子供が…」とか、「知った風な事を…」と、かなり馬鹿にされたのだ。


あれから半月、植え付け時期的に少し早いが、


「この目で見るまでは信じないぞ!種芋を半分に切って植えて育つなど…」


と騒ぐ年寄りの方の菜園担当がうるさいので、畑の隅に種芋を植えて来たのだ。


「あの芋が元気に生えていれば、少しは話を聞いてくれるとは思うが、何かの原因で生えて無かったら、あからさまに面倒な事になりそうだなぁ~」


と、自宅の窓の外を眺めながら、初夏の風を感じていた。



そして、憂鬱な気分のまま、その日はやってきた。


ちなみにだが、流石はお貴族様の用意した馬車である。


トラベルホースという2~3日程度ならばぶっ通しで走れる特別な馬魔物の引く馬車を用意してくれて、キャンプ無しのトイレ休憩程度で丸一日走り続けて、ドットの町に到着した。


二頭引き馬車に二人の御者さんが乗り、交代で寝ずに走ってくれたから早く着いたのだが、芋の結果が分からない今は、そんなに急いで行かなくても… と思う自分がいたのだが、結局、集落を出発した翌日の午前中にファーメル様の屋敷に到着したとたん、


「お待ちしておりました師匠!」


と、あの感じの悪かったオッサンが、気持ちの悪いほどの笑顔で走って、僕を出迎えてくれたのだ。


『あぁ、ジャガイモは無事に発芽してくれたんだ。』


と理解したが、同時に理解が追い付かない程のオッサンの掌返しに、違った意味での不快感を覚えるのであった。

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