第13話 狩りと飯
何だが、おっさん二人が僕に気を遣い、
「ケン、何かゴメン」
とか、
「凄いよ…足が早いのだって特別な才能だ。」
などと言っているが、もう、子供としての体に自分の魂が引っ張られているからなかのか、頬っぺたを膨らませて、プンスカと怒ってしまっている自分がいた。
「勝手に身体強化使いと勘違いしたのは悪かったよ。
ケンや、アボット爺さんの言葉を信じてあげなかったのもすまなかた。」
と頭を下げたおじさん達に、「はぁ~」とため息をついてから、
「もういいですよ。」
と、言った僕だったが、ミロおじさんは、
「絶対許してない時のヤツだよ…」
とションボリしているし、レオおじさんは、
「兄貴、どうやったら許してくれると思う?」
と言いながら、わざとらしくたまにチラチラとこちらを見ている。
もう、らちがあかないので僕は、もう腹の中をぶちまけてやる事にした。
「そうですよ!
僕のスキル無い事を冗談扱いして笑ったり、死んだ爺さんのお願いさえも冗談だと思っていた事に怒っていますし、確認作業で色々させた事も引っ掛かっています。
そして、手首が痛い!
何なんですか?!
骨折れてたらどうするんですか?!!」
と、いまだにジワリと痛む手首を気にしながら、もう言いたい事を言ってやった。
そして、散々騒いだついでに、
「魔物図鑑をおじさん達からプレゼントしてくれる事を希望します。
なにせ、今日の捻って痛む手首では魔物は倒せないかもしれません!
あと、帰ったら爺さんの墓にお参りして、買って帰ったお酒を一杯供えて、ごめんなさいしてください。
そしたら許してあげます。
さあ、時間がありませんよ!!
夕方にはアンお姉さんとアルとでお出かけする予定ですから。」
と、二人を焚き付けると、
「レオ、湖の裏に回るぞ!」
と言って馬車を動かすミロおじさんに、
「了解だ兄貴、索敵はまかせろ!!」
と言ってレオおじさんは荷台から四方を睨んでいるのだが、レオおじさんの目元がうっすら光っている様に見える。
あぁ、これが身体強化の光とやらか… 等と思いながらも必死のおじさん達を眺めていると、
レオおじさんが、「アイツらだ!」と叫び前方を指差すと、ミロおじさんも馬車を操りながら、
「野郎、森狼の群れがこんな所まで出て来てるからデスマッチカウの群れが散ってたのか、単独行動や1家族単位で動く魔物ばかりのはずだぜ!」
と言ってから、僕に、
「ケン、あの狼を蹴散らさないと、獲物が散って探すのも大変だし、すでにデスマッチカウは近くにいないだろうから、あの森狼を今日の獲物にするぞ、多分ケンにも襲いかかると思うから、注意しとけ、」
と指示を出す。
「えっ、狼なんて戦った事無いよ…」
と焦る僕に、レオおじさんが、
「大丈夫だ、角ウサギ程の早さでしか移動しないし、爪も使うが、鎧が有れば何て事は無い…
厄介なのが牙だが、弱点が頭だから攻撃にあわせて弱点を叩き易い!」
と言っている間ににも、荷馬車はグングンと狼の群れに近づきピタリと止まると、待ってましたとばかりにレオおじさんが荷馬車から飛び降りて荷馬車に車止めを噛まして、ミロおじさんはチェリー号を馬車から解放すると、僕に
「ぼーっとしてると、噛みつかれるぞ!」
とだけ言い残して、斧を構える。
僕も馬車を降り、ナタよりリーチが長そうな棍棒を構えながら狼達を睨むと、あちらも、『殺るなら殺るよ』とばかりにグルルっと唸り、身を屈めて睨み返してきた。
レオおじさんが、
「ケン、群れと戦う時の基本は?」
と、聞いてきたので、
「リーダーからですか?」
と、狼達から目を離さず答える僕に、
「正解!」
と、楽しそうに言いながら、リーダーと思われる後方の狼に向かい拳よりデカい石を投げつけた。
レオおじさんは『投石』という、石での遠距離攻撃が当たりやすくなるスキル持ちだが、大好きな鳥魔物を狩ろうとしても力加減がイカれているので、爆散させるのが悩みらしい。
しかし、そんな力加減を知らないレオおじさんの一撃はリーダーの狼の眉間に当たり、
「キャン!」
と、短い悲鳴をあげて倒してしまった。
すると、その悲鳴を開始の合図とばかりに、20匹程の狼が一斉に攻撃を開始した。
しかし、何時もは罠に掛かった鹿や猪を倒す姿しか知らない木こりの兄弟は、見たことも無い程に強かった。
連携も取れていて、隙が無い…
華麗な斧さばきに見とれていると、僕に向かい一匹の狼が飛びかかってきたのだが、次の瞬間に、風が吹き抜けたかと思うと、チェリーの後ろ足が僕の前に現れ、狼を蹴り殺したのだ。
チェリーは、「ブルルッ」と短く嘶き、ぼーっとしていた僕に喝をいれた様に思えた。
それからは気を抜く事無く敵に集中し、スピードを生かして撹乱しながら、何とか二匹の森狼をチェリーのサポートを受けながら倒す事が出来たのだが、
チェリーは単体で五匹蹴り殺し、おじさん達はあの群れを殲滅させていた。
おじさん達は一仕事終えて、
「おっ、ケンは二匹か、初戦にしては上出来…って、初戦はニチャニチャの群れとの一戦か?!
まぁ、上出来だがニチャニチャより歯ごたえが無かっただろ?」
などと言いながら狼の血抜きをはじめていた。
そして、昼前には、全部で22匹の狼は荷馬車に乗せられ、
「兄貴、十分な成果だから帰えろう!」
とレオおじさんの提案に、ミロおじさんも、
「そうだな、夕方前には買取カウンターが込み合うから、とっとと帰ってサクッと売っちまおう!」
という事でドットの町へと帰る事になった。
帰りの荷馬車で狼に埋もれる様に座っていると、レオおじさんが、
「どうだった、初の冒険者仕事は?」
と感想を求めてきた。
僕は、
「チェリー号があんなに強いとは知りませんでした。」
と言いながら、チェリーは勿論おじさん達の強さの足元にも及ばない事を痛感して、
あぁ、僕は二匹だったのに… とおじさん達の倒した20近い狼の死体と、自分が試しに倒した角ウサギを見比べていると、ミロおじさんが、
「まぁ、チェリーはお貴族様が戦場で乗るバトルホースっていう馬魔物の血を引いているからな、強くて当然だよ。
雑種で安くで売られていたが、強さも、賢さも一級品の自慢の愛馬だ。」
と、自慢しているのを聞きながら、昨日の時点では、『冒険者として生きるのも悪くないかな?』などと一瞬頭を過ったが、当面は大人しく何でも屋として地道に生きようと心に決めて、静かに馬車に揺られながら町へと戻った。
町に到着するとおじさん達は、手慣れた感じで冒険者ギルドの裏手にある買取カウンターに荷馬車のまま移動し手続きをして、森狼22匹とオマケの角ウサギを査定して貰っている。
ミロおじさんが、
「ケン、良く覚えておけよ。
解体が必要な獲物の買取は基本裏手の買い取りカウンターで、薬草などの納品や解体済みの素材の買い取りは、ギルドの中の買い取りカウンターだ。
獲物を解体場の職員に渡すと番号が書かれた札を貰い、大体の作業時間を告げられる。」
と教えてくれた。
すると、獲物の提出を終わらせたレオおじさんが番号札をもらって来て、
「兄貴、二時間ぐらいだって」
と、作業終了の予定時間を教えてくれると、ミロおじさんが、
「よし、飯にしよう。
頑張ったチェリーも休ませたいからギルドの厩舎で
チェリーを預けてからだな。」
と言って冒険者ギルドの裏手にある馬車置き場の横の厩舎まで移動して、係の職員さんに
「馬車一台と馬の預かりを頼む。
頑張ったから、旨い餌を食べさせてやってくれよ。」
と言って、ミロおじさんはさっきの番号札を提出していた。
レオおじさんに、
「あれは?」
と、何故番号札を見せているのかを質問すると、
「あぁ、番号札を見せて、預かり賃を買い取り価格から差し引いて貰う手続きだよ。」
と、教えてくれた。
手続きが終わると、三人で冒険者ギルドへ入って行き、昨日登録に向かったカウンターとは逆の方に進むと冒険者御用達のギルドショップがあり、その奥にはギルド経営の食堂…というか酒場があった。
あくまでもギルド食堂なのだが、金が入った冒険者は、まだ昼だというのにガンガン飲んでいるのだ。
おじさん達は森で切り出した木材で、これはという銘木が有ればドットの町の材木屋さんまで売りに来て、ついでに今日の様に軽く狩りをして、空になった荷馬車に酒を購入して帰ってくるのが何時もの流れらしく、このギルド食堂も待ち時間を潰すのに使っているのだと教えてくれた。
ミロおじさんとレオおじさんは、「とりあえず」と席に座りながら注文したエールを片手に、
「解体場から直接良い肉を買い付けるから、ここの肉はどれも旨いぞ。
前にいっぺんだけ、Aランク冒険者のパーティーが倒して来た大型魔物の肉がメニューに出て、少し高かったが、ありゃ旨かったなぁ。」
等と楽しそうに話してくれた。
板に手書きのメニューが書いてあり、今日のオススメ定食などとあるが、定食を食べてる人は見受けられずに、食堂のあちらこちらでは肉をアテに、エールやワインをグビグビと木製のジョッキで飲んでいる。
『海賊映画のワンシーンかよ…』と思ってしまうぐらいに、屈強な男が「ガッハッハ」と豪快に笑っていたり、綺麗な女性冒険者に絡んだ酔っぱらい冒険者が、滅茶苦茶強そうなギルド食堂の女将さんに摘まみ出されていたりと、賑やかなのを通り越して、少し引いていた。
すると、先ほど酔っぱらいを摘まみ出していたムッキムキの女将さんが、
「おや、可愛らしい冒険者さんだね。」
と言いながら僕たちのテーブルに注文を取りにきてくれ、ミロおじさんは猪魔物の肉の煮込み料理と、レオおじさんは卵鳥という鶏っぽい魔物の香草焼きで、僕は、今日のオススメランチを注文した。
そして、女将さんが運んできてくれた料理はどれも美味しそうだったが、困った事に『本日のオススメ』が余り出て無かったので、僕の注文に喜んだ厨房さんが盛り付けをサービスしてくれた様で、
「旦那が坊やに、『いっぱい食ってくれ!』だってさ。」
といってドスンと木皿を置いてくれた。
ピタパンみたいな薄焼きパンに肉や野菜が詰め込まれ、香りの良いソースが掛けてあるのだが、量がおかしい…手書きの板のメニューには皿に四切れの絵が描かれているのだが、目の前の皿には倍の量は乗っている。
『逆見本詐欺』という単語が頭に過るが、ニコニコしながら僕の感想を待っているっぽい女将の手前、崩落しない様にひとつ取り出して齧ってみると、中のソースはハニーマスタードソースの様な味わいだった。
「甘辛くて美味しい!お肉は何のお肉?ソースに良く合うよ。」
と、感想を伝えると、
「美味しいってさ!」
と、女将さんは厨房に大声で伝えていた。
ニコニコの女将さんは僕に、
「この時期大量発生するジャイアントフロッグの足の肉をグリルしたやつだよ。
この時期が一番油が乗ってて美味しいんだよ。」
と言って帰って行った。
蛙さんかぁ…出来れば聞きたく無かったかも… などと僕が、目の前にまだ沢山ある蛙さんのピタパンサンドを見つめていると、おじさん二人が、『それ美味しい?』みたいな顔で興味を示している。
チャンスとばかりに、おじさん達に、
「今晩お呼ばれしてるし、満腹になって食べられないと困るから、おじさん達助けてくれる?」
と僕がいうと、
「そうかぁ~、それなら。」
と、助っ人の二人に蛙さんを分けてあげると、おじさん達はソレにかぶり付き、
「ムヒョ!蜂蜜じゃねぇか、サイコーだな!!」
と騒いでいる。
やはり、熊の遺伝子が無意識に「蜂蜜たぁべたいなぁ~」と、某夢の国の住人の熊みたいに叫ぶのかもしれない。
おじさん達がモリモリ食べて、旨そうにエールを飲んでいるのを見て、綺麗な女性冒険者さんが、
「蜂蜜かぁ…私も食べたいかも…」
と可愛く呟くと、何故か店の中の男達が急にオススメを注文し始めた。
そして、女将さんは何故かジョッキに入ったミルクを僕の前にドンと置いて、
「厨房からだよ。」
とウィンクして去って行く…どちらにせよ腹はパンパンになる運命らしい。
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