第29話 騎士団の休日

夜の宿屋でピーターさんと相談の結果、どれだけ月末の騎士団が金欠なのかと心配になる人数が参加を希望し、十人あまりの人間での大規模な討伐隊になってしまった。


ピーターさんが、


「この時期は皆冬支度の為のお金を実家に送金したりするのに節約してますので、他の月より厳しいのです。」


と言っているので、『よし、まとめて狩りにいこう!』となり、あらかじめどんな感じの参加メンバーかを聞くと、ピーターさんの部下の通信部隊の人や運搬などを担う馬車隊が数名に、槍兵や弓兵に魔法師団の方もいるバラエティーにとんだメンバーだったので、


「デスマッチカウの子供も遠距離で狙えそうだな…」


というと、ピーターさんが、


「それ良いですね。五匹も倒せば皆で分けても大銀貨一枚になるし、子牛を狩れたら…」


と、イヤラシイ顔で獲らぬタヌキをサファリパークの様に妄想の世界で走り回らせているようだった。


妄想の世界でタヌキとひとしきり戯れたピーターさんは、


「早速仲間に連絡をして明日の予定を伝えます。」


と張り切っていた。



そして、翌朝早くに宿屋の前に集まった騎士団の面々に、何か宿屋で有ったのかと人だかりが出来ている。


「通信長!私を含め、荷馬車3、騎馬2、弓2、重装2、長槍2の計十二名到着致しました。」


と報告をすると、騎士達が「ビシッ」と音が鳴りそうな敬礼をしたのちに、ピーターさんが、


「ご苦労!一番の荷馬車を残し、後の者は町の入り口にて待機っ。

私はケン殿を護衛しつつ冒険者ギルドにて、クエストボードを確認し、ターゲットの依頼がある場合は手続きの後に出発とする。」


と指示すると、


「はっ!」


と返事をして騎士団の方々はキビキビと行動を開始する。


僕は、ピーターさんと、残った荷馬車に乗り、


「別にクエストを受けなくてもお金にはなるでしょ?」


と僕がいうと、ピーターさんは、


「ケン殿にギルドポイントを獲得して貰いランクを上げるついでに、我らの分け前の依頼達成料を上乗せする目的ですよ。」


と微笑むピーターさんに、


『お主も悪よのぅ』


という言葉が浮かんできた。


ピーターさんは、


「クックック、今回は上からのお許しが有るので、矢を失くそうが、鎧が凹もうが、メンテナンスは騎士団持ちです。

稼ぎまくりましょう…」


と、楽しそうに話す。


ギルドにて、デスマッチカウの子牛を丸ごと一頭の納入クエストを受けて、冒険者ギルドから出ると、朝の出勤時間と重なったようで、建物の前で知らない同い年ぐらいの冒険者達に、


「あれ?Gさんだ」とか「音速のGさんでしょ?」


と訳の解らない事を言われた。


すると、冒険者ギルドに入ろうとした他の冒険者が、


「お前らちゃんと音速のGさんに挨拶をしたのか?」


と言っていたので振り向くと、小太りと糸目の二人がニッコリ笑っていた。


彼らは約束通りに、直接的な『ゴキブリ』の2つ名を『音速のG』と広め直してくれたらしい…


僕は、小さく手を上げて、二人に挨拶をすると、二人はペコリと頭をさげてからギルドに入って行った。


ピーターさんと荷馬車の後ろに乗り込むと、


「爺さんって、ケン殿はそんな歳では無いのに…」


と不思議そうなピーターさんに、現地までの暇潰しに『音速のG』になってしまった経緯を話すと、ピーターさんは、


「では、その音速のGのケン殿の戦いぶりを見せて頂きましょうか!」


と笑っていたが、


「いや、それにしても酷い2つ名が付くところでしたね。」


と同情してくれる荷馬車担当の騎士団員さんに、


「音速のゴキブリのGですから、そんなに気持ち悪さは変わりませんよ。」


と寂しく笑う僕を見て、ピーターさんは、


「いや、いや、Gだけの方がかなり良いですよ。

光沢のある鎧だから、直接的な名前は見た目から直結してしまいますからね。」


と、心配してくれている風だが笑っていた。


そんな事が有りながらも、騎士団の隊列は東の湖に到着し、そして、僕は騎士団の凄さを目の当たりにする事になる。


湖の左右に騎馬の二名が別れて進み、遠巻きにデスマッチカウの群れを探し、ピーターさんと念話でやり取りしながら、見えない程に離れてて暫くした時に小規模だが子牛を数頭抱える群にターゲットを絞った様で、


ピーターさんは、


「湖の右側にいる群にアタックをかける。

騎馬は合流して弓兵と二番の荷馬車とチームを組んで、群が奥の森方面へ逃げるのを阻止しながら群れから出てきたオスを倒す。」


と指示すると弓兵の二人が乗った荷馬車が騎馬二人と合流する為に移動を初めて、


続けて、


「三番荷馬車には重装兵と魔法師が乗り込み、群が確認出来る少し離れた位置にて待機、

我々1番荷馬車に乗る長槍兵と私とケン殿が、騎馬チームと湖の側で前後から敵を挟み、奴らが右往左往している間に群れの横っ腹から重装兵が前進し、その影から魔法師が子牛を狙い撃ちする。

なお本作戦は子牛が倒され次第終了とし騎馬隊側に退路をつくり敵を森方に追いやり終了とする。

尚、資源保護の為にメスは出来るだけ傷付けずに、オスは最低一頭は残す様に!」


と指示をだして暫くすると、ピーターさんが、荷馬車の上で独り言の様に、


「よし、配置についたか、では最初は騎馬部隊が戦闘を開始せよ、上手く湖伝いに逃げる様に仕向けてくれよ!」


というと、戦いが始まったのか湖の奥の手から僕たちの陣取る手前に30余りの群が逃げる為にノッソノッソと向かってくる。


こちらも馬車で近寄ると、


オスが一頭歩み出て、仲間達はそのオスを生け贄に置いて、来た道を帰えろうと踵を返す。


馬車から飛び降りた長槍の二人が左右から圧力をかけて、群れごと追いたてるように此方を睨み地面を引っ掻く挑戦者に槍を向けている。


牛からすると、二本の長槍は、己の角を遥かに凌駕する角の持ち主と対峙したのと同じ様なもので、群れの中でも弱い個体の性かソイツは足がすくんでいるようである。


ピーターさんが、


「音速のGの腕前を見せて頂きますよ。」


と言って荷馬車から飛び降りたので、僕は、


「お先です!」


と言ってピーターさんよりも早く飛び出して、牛と睨み合う長槍兵の間をすり抜けて、トップスピードのままにデスマッチカウの眉間にニチャニチャコートの棍棒を叩き込んだ。


牛は「ブモっ!」と叫びにも成らない叫びを上げると、グラっと揺れた。


その隙を逃さずに長槍が左右から突き込まれ牛は絶命する。


ピーターさんが、


「自分の出る幕が無かったよ、流石は2つ名持ちの冒険者だ。

さぁ、騎馬チームが二戦目を開始して、本体がまた此方にくるぞ!

次はさっきより強い個体だから気を引き締めろ!!」


と言っている間に本体が此方に向かって来る。


ピーターさんが、


「さぁ、こっちも前進して群れに圧をかけよう。」


といって進み出ると、デスマッチカウの本体は前進を止めて、次なる刺客を送り込む。


前後で戦闘が始まり本体が湖を背にして逃げようした時に、こちらも刺客が群れに向けて進み出た。


そう、重装兵が大きな盾にフレイルを振り回しながら群れの本体に歩み寄る。


牛の群は苦肉の策で一頭の牛を刺客として送り出して、背中に湖を背負ったまま三方向から騎士に囲まれている。


騎馬チームも僕たちも、わざと敵のオス牛を倒さずに、重装兵が敵を押し込みつつ進むのに合わせて包囲を縮める。


そして、いよいよ魔法師の二人が射程に入り、十分練り上げた魔法を群れの中に匿われている子牛へと放つ。


一方は土で作られた槍の様な物が打ち出され、もう一方は見えない何かが草を切り裂きながら飛んで行った。


そして次の瞬間に子牛が一頭貫かれ、もう一頭の子牛は母であろう親牛が身を呈して守り抜き、その母は首を切り落とされていた。


ピーターさんが、


「騎馬チーム、オスを撃破次第離脱!」


と指示を出して、暫くすると群は仲間の亡骸を置いて移動を始めた。


群が十分離れると、ピーターさんが、


「よし、あとはオスを倒して終了だ! 気を抜くなよ!!」


と指示を飛ばし、僕は、


「頭をシバきます!ふらついたら宜しく。」


といって走り出す。


全力疾走のまま、


「くらえ!大山先生考案、牛殺しだぁー!」


と、牛の眉間を棍棒で打ちすえる。


今回は良いところに入ったのか、牛の目がグルンと裏返り泡を吹き出し、完全にダウンした牛のトドメを騎士団の方にお任せしたのだが、ピーターさんが、


「こりゃ、ほとんど死んでるぞ…」


と、倒れた牛を剣で突っついていた。


長槍兵の騎士団のお兄さんが、


「ケン殿はレベルいくつですか?あのスピードも普通じゃない。」


と聞いてきたが、


「スキル鑑定とか教会で出来るそうですが、お金が掛かるし、どうせスキル無しなので…」


と答えると、ピーターさんがそれを聞いて、


「教会で大銅貨五枚で鑑定してくれますし、レベルは勿論、体力や魔力に、腕力や脚力等も解りますよ。まぁ、ドットの教会では細かい数値では無くて10段階評価ですがね。

今日の稼ぎで、明日行ってみましょう。」


と提案してくれた。


「そうですね、今日の稼ぎで余裕が出来てからですね。」


というと、荷馬車の担当の騎士団のお兄さんが、


「オスが五頭にメス一頭、それに子供が一頭だから大丈夫ですよ。」


と笑っていた。


ピーターさんは。


「それじゃあ、獲物を回収して引き上げるぞ!」


と指示を出して無事に狩りの終了を告げたのだった。

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