第11話 儀式と登録

集落の皆で馬車移動して、やっとドットの町に到着した。


ダント兄さんの商会は、大通りから一本入った場所に有ったが、職人町に面した通りの為に工房と一体型の店舗が多く、常連の冒険者や仕入れに通う商人で賑わっていた。


兄さんの商会の建物はカッツ商会の口添えて借りれる事になった物件らしいが、厩舎付きの一軒家で、店舗と工房兼住宅がセットになった集落の我が家の倍以上ある少し古いだけで良い感じの中古物件だった。


ダント兄さんが掃除を先に済ませていたので小綺麗だったが、兄さんは、


「アンジェル奥様が交渉して下さって、月々の家賃も安いのだが、何年も空き家だったらしくて、入った初日はホコリだらけで、虫魔物やネズミ魔物が住んで居そうで、魔物避けの香を焚いたんだぞ。

一人で寝起きしながら掃除をしたが、毎月の家賃が安いのは、奥様の交渉術の成果でなく、普通に事故物件とかかも…って要らない事まで想像して…」


とボヤいていた。


ポテチの事もあり、第一線にカムバックしたアンジェルお姉さんが、旦那のカッツ商会の会長よりもやり手の様で、ポテチ工房は既に稼働しているらしく、ポテチ工房の物件を探すついでに、ダント兄さんの物件の交渉もして頂いたらしく、明日の朝、結婚式の為に教会に集まる予定なので、アンお姉さんには、しっかりお礼を言わないとバチが当たるな… 等と広い家に集落から運んだ嫁入り家具の搬入を手伝い、無事に終わる頃にはもう夕暮れ間近なので、近くの屋台でダント兄さんとリリーちゃんが全員分の食事を買って来て、ダント商会の事務所となる工房スペースで食べて、裏庭の井戸で体を拭いて僕とアルとミロおじさんとレオおじさんはそのまま事務所の床で寝る事にした。


リントさんとエリーさん夫婦は、兄夫婦の居住スペースで本日運び込んだベッドや長椅子に別れて寝るらしいが、どのようなポジショニングで寝るかまでは知らない。


翌朝、長い移動と引っ越し作業で、少し疲れていたのか、町に来たのに宿屋ではなくチェックアウトを気にせずにのんびり出来たせいなのか、前回泊まった宿よりも床で有ったが、ぐっすり眠れた。


二階の居住スペースから降りて来たダント兄さんは、少し首や腰を気にしていたので、多分長椅子のひじ掛けを枕に眠ったのだろう。


無理に一段高い場所で眠らなくても、床で手足を伸ばして寝れば良かったのに… 何を好き好んで二人掛けの長椅子で無理な姿勢で寝たか気になってこっそり聞くと、


「義理のお父さん夫婦はリリーちゃん用のベッドで寝て、リリーちゃんは俺と寝ようと考えていたが、話の流れで、今日の結婚式が済むまでは二人で一緒にベッドに入るなんて駄目だと言われて、リリーちゃんも、『ならお母さんと寝る!』と言い出したから、結局、義父と一緒にベッドインするか、長椅子で寝るかの二択だったんだ。」


と、悲しそうにダント兄さんは語った。


僕が、


「変な格好で寝るより季節も良い今ならば、床で寝た方が寝心地良かったと思うよ。」


というと、ダント兄さんは、


「俺だけ床で寝てたら、皆に気を遣わすだろ?」


と言っているが、事務所組は全員床で寝ていたのを兄は計算に入れているのだろうか? なんて思いながらも、朝の支度を済ませて、全員でカッツ商会に向かい、アルの育てたジャガイモをダント兄さんがアンお姉さんの手掛けるポテチ工房に卸す為の手続きを済ませてからアンお姉さん夫婦も、ダント兄さんの親代わりとして教会へと向かった。


話で聞いていた通りに、結婚式は教会の方の指示に従いサクサクと進み、この世界の五柱の神々の像に結婚の意思を示し、家族や友人が其を見届けるという簡単なモノで有った。


『爺さんにも見せてやりたかったな…』


等と思いながらも、心の片隅では、


『前世で呼ばれなかった娘の結婚式をこの目で見たかったな… 』


とも思い、複雑な感情でダント兄さんとリリーちゃん…いや、リリーお姉さんの門出を祝っていた。


教会に初めて来て、神様の名前や逸話は本で知っているが、木像とはいえ姿を初めて拝見したのだが、太陽の神様と月の神様という時間や天候を司る兄弟神様は、主に農家の方々に信仰され、

力の神様と知恵の神様という夫婦神様は、冒険者や魔法が使える方々に人気である。

そして、商売や物流に関係する方々に人気の幸運の女神様の五柱がこの世界の神様なのだが、


私が、この世界で『僕』として生まれ変わる時に担当してくれた若い男性神様が見当たらない…

ずっと、五柱のうちの男性神の三柱の誰かだと勝手に想像していたのだが、そうでは無かったらしい。


そして、結婚式も無事に終わったが、アンお姉さんだけが、ご不満のご様子だった。


「神様からの祝福は無かったわね…ダント君絡みでウチの…というか、私個人の商会の売上が凄いから、きっと幸運の女神エミリーゼ様に祝福されると信じてたから少し残念…」


と言っていたが、アンジェル商会は順調の様で何よりだ。


アンお姉さんの商会は、夫を無くした妻や、親を無くした子供達を雇用し、現在は朝はポテチ工房でポテチの生産と、昼からは酒場や食堂等に納品するという、生産と配達の業務をメインにして、この春から始動している。


今後はジャガイモを作る農家とも手を組み、安定した生産と生産者や職員の安定収入を目指すのだそうだ。


冬頃から、試しに作って売り込んだポテチの評判が良く、卸している酒場のマスターからは、


「開店してすぐに在庫が無くなるから、もっと作って納めて欲しい、今ではドット以外の町からポテチとエールのセットを目当てに来る客が居るぐらいだ。」


と言われており、他の町でもアンジェル商会のポテチ工房を作ってくれないか?と、町を管理する貴族から相談されていると、アンお姉さんは話していた。


貧困に悩む家族に優しいビジネスモデルも貴族の感心を引いたそうで、最近は、貴族の方々のお茶会に呼ばれて、ポテチを紹介しつつ孤児やシングルマザーの雇用についての話をお願いされる事が増えて来たらしい。


因みにだが、ポテチはアンジェル商会の専用となっているので、真似する事は30年は駄目らしく、アンお姉さんも、使用料を取って広める事はしない。


何故ならば、お金をもらってポテチの権利で商会は潤ったとしても、それでは、


『あの子達のアイデアで、あの兄弟みたいな子供を少しでも増やさない!

もし、そんな子供が居たら助けてあげたい。』


と考えて動き出したアンお姉さんの意思に反するらしい。


まぁ、そんなこんなが有りながらも無事に夫婦になったダント兄さんとリリー姉さんはこの後ダント商会のご近所に挨拶回りをして、ダント商会に力を貸してくれている工房の方々にも、奥さんを御披露目する為に家族やカッツ商会の方々と行動するらしく、


アルは、売ったジャガイモのお金を手にして、来年春に迫った魔法学校の入学試験での満点合格を目指して、我が家にあまり無い歴史書の購入の為に古本屋等を巡るらしく、付き添いにアンジェル商会の職員さんが一緒に町を巡ってくれてる事になっており、僕はというと、ミロおじさんとレオおじさんに付き添われて冒険者ギルドに向かい、冒険者登録を済ませて、明日おじさん達とチェリー号の引く馬車で行ける狩り場で魔物を倒して買い取って貰う予定にしている。


稼いだお金で魔物図鑑を買って、集落の近くの魔物を倒して、腐らない部位だけ貯めて売りに行けば、田舎で僕一人で食べる分は何でも屋で稼げるし、アルの学費の不足分や、もしもの時に使えるお金が無いのは困るので、ヘソクリ程度稼げると嬉しいと考えたからだ。


流石に角や牙ならば、少々倉庫に貯めても、G達が乱入して食い荒らさないだろう…多分…

などと考えながらも、冒険者登録自体は簡単に終了した。


冒険者も、他のギルドと同じくランク分けされていて、何歳でも自分の名前が書ければ登録可能だが、12歳までの子供は見習いのGランクで、草むしりやゴミ拾いなど、町の中での簡単なお手伝いクエストがメインで、12歳からFランクと呼ばれる駆け出し冒険者として、薬草採集クエスト等で稼げるそうだ。


ミロおじさんとレオおじさんは、若い頃に冒険者をチョコっとした以外は、最近は主に冬籠もり用に秋に倒した魔物の牙や角などを売って、お酒を買って帰ってきていたらしく、冒険者登録歴は長いが、買い取りばかりでクエストらしいクエストをこなしていない為に、ギルドポイントとやらが貰えず、二人ともDランクらしい。


僕は、ケンと名前が刻まれ、裏面にはFと刻印されたタグを首から下げると、ギルドの職員さんは、チラチラとおじさん達を見ながら、


「ようこそ冒険者ギルドへ、これでケン様は正式な冒険者になられました。

倒した魔物の買い取りでも、ギルドポイントは加算されますが、依頼を受けてから討伐すれば、同じ魔物でも得られるポイントに雲泥の差が生じます。

是非、依頼を受けてから活動する事をオススメ致します。」


と言われたが、ミロおじさんとレオおじさんには耳の痛い話らしく苦笑いしていた。


因みになだが、薬草や角ウサギなどの駆け出し専用のクエストは事務処理が大変に成るので、依頼を受けなくても、現物を持参すればクエスト達成扱いになるらしく、他にもそんな常時依頼が幾つかある事を教えてくれた。


そして、手続き終わりに冒険者ギルドの中のギルドショップに行って魔物図鑑を購入しようとするが、小銀貨一枚と、なかなか厳しい値段に固まっている僕を覗き込み、ミロおじさんが、


「小銀貨一枚か、大丈夫だ樽のエールや葡萄酒より安い、明日俺達と1日頑張れば買えるさ。」


と励ましてくれ、レオおじさんは、


「任せろ、引率の先輩としてはランクは低いが、実力ならば中々のモノだよ。

図鑑のついでに、酒も買って帰りたいから、ケンには期待してるよ。」


と言ってくれた。


明日は、冒険者としての初めての狩り… 楽しみだな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る