第116話 地竜討伐遠征へ

ナビス伯爵様達が村に来た翌日、地竜討伐隊としてアル率いる騎士団と、バリスタの整備や改良の為に数名のいいもの製作所メンバーが同行し地竜の夏の避難場所となっている土地を目指した。


ファード騎士団としては、お手伝いをしつつ、魔法師の新人四人の水魔法チームがレベルアップしてウォーターカッターをマスターする事がメインの目的だが、バリスタが地竜に通用するかの実験と、テントの設営や夜営の訓練も兼ねての出撃となっている。


何でも屋クランからも、レベル上げと冒険者ポイントを狙い、ギースとカトルとサーラスが参加してくれた。


キキはクランの農場やエリー商会への職員の派遣スケジュールの管理の為にお留守番で、シータちゃんとナナちゃんは本業が忙しく、


「お土産はマンドラゴラで良いよ」


と言っていた。


エリー商会の今年テーマは、マチ婆ちゃんと共同開発をして、肌荒れ、シミ、シワ等に効く超高級プレミアム薬用石鹸を作り出す事なのだとか…金持ちの貴族の方々が飛び付きそうだ。

誰の発案か知らないが、エリー商会は当面安泰だな…と、そんな事を考えながら、お腹の少し膨らんだ嫁を残してきたのであまり今回の遠出を楽しんでいないギンカを馬車の上から励ましながら進む事5日、今回は大所帯で移動するので、どうしても移動速度は遅くなるが、老師達と移動した時ぐらいの速度で移動出来たので上出来ではないだろうか?…いや、むしろ半日ばかりドットの町でニック様に挨拶や、錬金ギルドとの打ち合わせと、リチャードさんのお菓子巡りの時間を取って尚5日で到着したので、騎士団の行軍スピードの方が少し早いかも知れない。


地竜の住む辺りの手前の草原エリアにテントで本陣を設営し、今回のメインであるナビス騎士団五名と、アルの騎士団がサポート役として地竜を狩り、ファーメル騎士団からの助っ人は辺境伯派閥の町から今回の作戦に参加してくれた創薬師の方々の護衛業務をしてくれ、現地で地竜の血液から薬効成分の濃縮作業をしてくれる事に成っている。


まぁ、ドットの町で地竜を数頭同時に加工する場所が確保出来なかった事もあり現地に同行してくれたので、確実に必要分の地竜の血液が確保出来るまでは何日か粘る事になる。


そして、僕は運搬役で地竜狩りに参加するし、ウチのクランのメンバーは時間を見つけてマンドラゴラ狩りと、本陣周辺の魔物を狩る仕事を受けている。


今回の地竜の血はナビス伯爵家が総取りで、肉はニック様経由で、この作戦の為に錬金ギルドに働きかけて、フルポーション加工の為の機材や人員にマンドラゴラと地竜の血意外の素材を集めるのに協力してくれた貴族家にお中元代わりに送られ、残った素材はファード家が貰えるらしい。


これで、アルの騎士団がお揃いの装備を身に纏えるな…武器も魔法の杖もいっぱい作れるし、バリスタの矢も地竜の骨で作りたい放題だ。


そして、ウチのクランは本陣周りの魔物の間引きをファード家からと、マンドラゴラ採集をナビス伯爵家からと、地竜の運搬はファーメル男爵家からと、3つの依頼をまとめて受けている上に、便乗で狩りの遠征も出来て大変美味しい仕事である。


到着したばかりの本日は、騎士団の方々はキャンプ地でテント張りと、地竜の加工の準備をするので、ウチのクランはマンドラゴラ採集に出かけた。


錬金ギルドの職員さんに約30本のフルポーションに必要なマンドラゴラの数を聞くと、2~3本でフルポーション一本分らしく、


「100程で足りますか?」


と、僕が聞くと、錬金ギルドの方々は、


「そりゃあ足りますが…」


と、僕の話を聞いて、『本当に出来るのか? 』と心配していたが、ドットの町の職員さんだけ、


「聖人様の凄さを見せつけてやって下さい。」


とニヤリと笑いながら送り出してくれた。


マンドラゴラ狩りの手順は簡単で、我が家の精密レーダー犬耳少女のサーラスがマンドラゴラをサーチしたついでに面倒臭い吸血植物魔物のヒル蔦の位置も割り出して、ギースとサーラスのコンビがヒル蔦を刈り取り、カトルが幌馬車を操りながらついて来て、時折弓で二人を加勢しながら拠点を確保し、あとはロックリザードを相手にレベル上げをするのだ。


僕とシェリーさんはサーラスが見つけたマンドラゴラを馬車チームが一定距離離れている事を確認しながら引っこ抜いてまわる。


バラエティーに富んだ断末魔を効きながら、


「シェリーさん!耳大丈夫?!」


「えっ何?聞こえない!!」


と近くで作業しているのに馬鹿デカい声で話していると、


『老後はこんな感じで馬鹿デカい声で話しているのかな?』


などと、シェリーさんとの未来を思い描きながら、断末魔の悲鳴がこだます丘で新婚夫婦が五月蝿い卑猥大根みたいな物を収穫しているという地獄絵図を遠くから心配そうに弟達が眺めていた。


暫くしてシェリーさんが、


「そろそろ次の群れに行かない!!」


と言ったらしいのだが、僕の耳もサヨナラしていたらしく、マジックバッグからハイポーションを取り出して、シェリーさんと一本ずつ飲み干す。


シェリーさんは、少し渋い顔をしなが、


「何本か残して次の群れに行かない?!」


と大声で僕に話す。


耳が治った僕は、ほぼゼロ距離でのシェリーさんの大声で再び耳がサヨナラしそうになりビクッと、飛び上がると、シェリーさんは、


「あっ、ゴメン。

でも、一ヶ所ずつポーション飲むの面倒臭いわね…」


と不満を漏らすのだが、僕は、


「でも、シェリーさん、普通ならば良くてチビりながら気絶で、悪ければ死んじゃうんだよ…これ。」


というと、シェリーさんは、


「それもそうか…」


と言いながら最後に引っこ抜いたマンドラゴラを見つめて、


「あっ、これ師匠に似てる。」


と嬉しそうに僕に見せてきた。


僕は、老師似のマンドラゴラと一瞬見つめ合った後に、丁寧にマジックバッグにしまってから馬車に戻ると、ギースが、


「師匠達大丈夫なの?ここに居ても少し気分が悪い声が聞こえてきたのに…」


と、ロックリザードを荷馬車に乗せつつ眉間にシワを寄せて聞いてきた。


多分心配で、身体強化で僕達を観察していたのだろう…次は、馬車チームにはもう少し離れた位置にいて貰おうと思いつつ、次の群れをサーチして移動する。


こんな作業を繰り返す事三回、しっかりナナちゃん達に頼まれた分までマンドラゴラを確保して本陣に帰ると、錬金ギルドの創薬師の方々が、


「本日取れた分だけでも、マンドラゴラを錬金素材に加工します。」


と言ってくれたので、100本のマンドラゴラをマジックバッグを逆さまに構えてガラガラと取り出して、


「ではヨロシク」


とだけ言い残してテントを去ってやった。


完全に思考停止した少し偉そうな創薬師を他所に、ドットの職員さんの、


「アイテムボックス持ちさんこれ1/3程を残してしまえますか?

はい、皆さん、明日の夕方には地竜が来ますよ!

作業に入りましょう。」


との声が聞こえたので大丈夫であろう。


それから、マンドラゴラも無事に渡せた僕達は、何でも屋は次なる仕事に移る。


カトルとシェリーさんはロックリザードの解体をして、肉はアルにキャンプ地での食糧として格安で売り、クランの運営費の足しにして、

サーラスの索敵で、本陣周辺の魔物をギースと僕でサクッと退治する。


サーラスとギースは軍用の大人でも硬くて引くのが大変なクロスボウを身体強化で難なくセットし、飛行する魔物でも倒せて、接近戦闘でもサーラスは大振りなナイフとギースは僕のお古のニチャ棍で成人前とは思えない程のパワーで敵を蹴散らしている。


ここでも僕は回収班にまわっているが、ふたりのレベルが上がるならば文句は無い、明日の昼間は、現在解体で不参加のカトルを中心に魔物を倒せば、三人共にレベルが上がり、村に帰った後、チーム残留の三人のレベル上げの引率もしてくれるだろう…さぁ、明日からが本番の地竜狩りだな。

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