第27話 ダント商会での会議
昨日の実演販売の疲れが残る中で目覚めた。
前世では商店街の会長さんからの依頼で、よく解らないキャラクターの饅頭などを売ったりしていたし、電気屋の大将から掃除機の実演販売を頼まれた事も有ったので、一時期必死に勉強した甲斐が有ったというものだ。
まぁ、最後はテレビショッピングも参考にしたからドリームなグループの社長とアノ女性っぽい感じが強くなってしまったのはダント兄さんの棒読みの感じと、無駄に感情の入ったリリー姉さんの成せる業だと思う… しかしあの掛け合いは、異世界でもインパクト抜群だったようだったので、僕は心の中で、『社長、スゴいぃ~!』と甘えた声を出して、社長に感謝を伝えておいた。
まぁ、そんな感じだった昨日の成果の確認にダント兄さんの商会へと、お客さんが来ているかのチェックをしにいこうと思いながらピーターさんと馬車で移動していたのだが、御者の青年が、
「すみません、通信長、渋滞で馬車が動きません。」
と言って、兄さんの商会のある裏通りへの曲がり角近くから動かないと報告してくれた。
ピーターさんは、
「ではここで良い、また迎えを頼む時に連絡する。」
と言って二人で馬車を降りてダント商会へと向かって歩きだした。
すると、馬車と人間が入り乱れ、裏路地の兄の店の前には、行商人やお友達から噂を聞いた奥さま達がピーラーを目当てにして来ていた様だが、昨日の実演販売で在庫切れに成った為に、ダント兄さんが鍛治工房の禿げたおっさんと一緒に対応している。
禿げたムキムキのおっさんが、
「だから、あの商品はダント商会の専売で、許可を貰って俺が作っているが、欲しいのならばダント商会を通してくんな。」
と、仕入れに来た商人達にキッパリ言って、ダント兄さんは、
「工房からの直接の取引も、提携しているアンジェル商会やその関係商会以外に優先販売も行いません!
ゴルツ工房の職人が納得した商品しか商いしませんので、数を無理に揃える事は致しかねます。
昨日の実演販売で在庫が無くなりましたので、次回の納品は…」
というと、禿げたムキムキのおっさんが、
「来月の10月の…そうだな15日に百前後が限度だ。」
というと、商人達は、「15日だな」とか「朝からか?」とかと確認を取っている横で、リリー姉さんが店の中に十名前後の奥さま方を招き入れて、
「はい、昨日ご紹介出来なかったのがこのスライサーでございます。」
と新商品のアピールをしているという何ともごちゃごちゃした状況だが、リリー姉さんもだが、ダント兄さんもイキイキしている。
リリー姉さんが玉ねぎをシャカシャカと手際よくオニオンスライスにしているのを見た商人達は、
『せめて、あの新商品だけでも!』
とスライサーを購入しようとしているが、実演も込みで楽しもうとしている奥さま達に、
「買いたかったら先ずは裏に並びなよ!」
と叱られて渋々奥さま30人ほどの裏に並び、店内の10名と入り口の5名が何とか実演を楽しんでも、何を売っているのか確かめるだけでも商人達はあと2公演の程の時間を待たなければ成らない…
兄夫婦の働きぶりを確認する為にわざと手を貸さずに見守っていると、一時間程で全てのお客様をさばききり、商人達の荷馬車も散り散りに去っていって、いつもの雰囲気のダント商会に戻っていた。
僕は、クタクタに成って座っている兄さん達に、
「凄かったね。」
と声をかけると、
「ケン…居るなら手伝ってくれよ…」
と兄さんが恨み節を言うが、リリー姉さんは、
「何言ってるのよ! なんでもかんでもケン君に頼って、これぐらい切り盛り出来なくてどうするの!!」
と、ダント兄さんに喝を入れたのちに、リリーさんは禿げたおじさんに、
「ゴルツの親方、彼がピーラーやスライサーの考案者でウチの旦那の弟のケン君と言います。」
と、僕の紹介をしてくれて、続けて、
「ケン君、こちらウチの商会の専属をしてくれている鍛治工房のゴルツさん」
と僕に親方さんを紹介してくれた。
ツルツルでムキムキのゴルツさんが、
「ひぇ~、あの凄いヤツをこんな坊ず…少年が…いや、驚いたんだが、それ以上に感謝してるぜ、ゴルツ工房の顔になる商品の製作を任せてくれて…」
と頭をさげてくれた。
ゴルツさんは、
「ポテチの工房で使う道具とばかり思っていたのに、急に70ずつの追加発注で驚いたが…こんなに売れるとは…」
と何とも言えない爽やかな笑顔で笑っていた。
ピーターさんも呼んであげて、皆で事務所でお茶をしながら作戦会議を開始したのだが、ピーターさんは
「これ、自分が参加して良いヤツですか?」
と心配そうにしているが、リリー姉さんは、
「もう、ピーターさんは立派なウチのサクラ役者だから。」
と笑っていた。
だが、この中で一番の曲者はゴルツの親父さんだった様で、
「来月の15日迄に百個のピーラーの生産って大丈夫ですか?」
と僕が心配していると、親父さんは、
「70個の注目が来た時に息子達と作り方を見直して、鋳型も作ったからメチャメチャ作れるぜぇ~、
70では気持ち悪いから、百個作って、工房に既に30在庫が有るからよ。」
と言って茶をすすっていた。
ダント兄さんは、
「ではその30も貰ってすぐに売ろう!」
と騒ぐが、リリー姉さんは、
「馬鹿ね、15日と言った約束を破ったら信頼を失うわよ!
15日に大々的に売り出すのは決定です。」
とストップをかけてくれた。
僕が、
「リリー姉さんがダント兄さんを貰ってくれて助かった。
ダント兄さんは少し行き当たりばったりだからリリー姉さんが居ないと路頭に迷いそうだよ…」
と言うと兄さんは少しいじけていたが、
「兄さんはリリー姉さんをアンジェル姉さんぐらいに尊敬して大事にしてあげてくださいね。
今回の実演販売も現在のダント商会の現状を心配した姉さんからの相談が有ったらこそだからね。」
と言ってやった。
そしてゴルツさんに、
「で、ゴルツさん、15日までに幾つ作れます?」
と聞くと、ゴルツさんは
「えっ?、鋳型作ったから息子も弟子も動員したら数百でもスグに出来る。
小さな刃を研ぐのと組み立ても嫁や娘が出来るし正直、弟子の奴らだけでも一週間で百とか楽勝だぞ」
と頼もしいセリフに、肩から下げた鞄から、
「では空き時間に、こんなのも作れますか?」
といって、以前から温めていたパスタマシンとミンサーの設計図と資料を広げると、鍛治職人の親父さんが、
「おっ、今度はどんなもんだ?」
と、食いついてきた。
少し叱られて凹み気味だったダント兄さんも、興味津々で、
「ケン、今度はどんな便利道具なんだ!」
と機嫌を直して、ワクワクした目で聞いてきたので、詳しく説明をするとゴルツの親方は、
「作れるには、作れるが…ちゃんと出来たかの匙加減が、皮が剥けるとか薄く切れるとかじゃねぇからなぁ…」
と、困りながら、ミンサーを指さし、
「こいつは、肉が砕かれて先から出てくればいいのは解るが、問題はもう一個だな…伸ばしたり切ったりするパスタ生地ってヤツの固さやらが俺にはピンと来ないんだ。
微妙な調整をしようにも、料理は専門じゃねぇからな…」
と言うと、リリー姉さんが、
「あのレストランだ!ほら、あのアンジェル様の従兄弟の!!」
と閃き、ダント兄さんも、
「ならアンジェル奥様にも相談してポテチ工房の時みたいにコレを使った商品を開発するのが先だな。」
と楽しそうに話していたので、僕は、
「では、あとはダント兄さん達に任せるよ。
パスタ生地の作り方と、ドットの町で集まる食材で作れるパスタ料理のレシピと、
ミンサーで作れるひき肉料理と、ソーセージの作り方を書いておいたけど、料理の専門家がチームに入るのならば、僕のレシピも食材に応じた手直しとかは任せて大丈夫だね。
じゃあ、あとは好きにコレを使って稼いでよ、僕にはミンサーとパスタマシンの完成品をくれるだけで良いから。」
と言って、僕はレシピ等を書いた紙をテーブルに置いて、リリー姉さんに、
「じゃ、リリー姉さんだけが頼りだから、あとは宜しくね、リントさん達にも、『もう、心配要らないよ。』って報告できるよ。」
と、言って帰る事にした。
ゴルツさんは、
「おい、こんな大発明を『宜しくね』で済ませて良いのか?特許料とかは?!」
て騒いでいるので、僕は、
「特許?…あぁ、結婚祝いみたいなもんです。商会の資金にどうぞ、」
というと、ゴルツさんは勿論、ピーターさんまで、
「えぇっ!」
と驚いていたが、僕は前世の知識を自分の儲けにして楽して暮らす気は無い、むしろパスタやソーセージが食えれば最高に幸せなくらいである。
そんな僕の気持ちを察したのか、ダント兄さんは、
「ケン、ここに書いてあるパスタとソーセージって、旨いのか?」
と聞いてきたので、
「とっても。」
とだけ答えた僕に、
「任せとけ、兄ちゃんが旨いの食わせてやるから暫く時間をくれ!」
と言ってくれたのを聞いて、安心してピーターさんと商会を後にした。
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