第96話 嫌がらせを楽しもう

さて、さて、アルの代官屋敷に、村の主要メンバーが集めらている。


ザックリと紹介すると、いいもの製作所メンバーと、ダント兄さんやエリーさんを中心とした商会チームと、アルの家臣団に、我が村の酒担当の1人としてセクシー・マンドラゴラ姉さんが、秘密の諜報部員という二つの顔で参加している。


そして、現在、時を同じくして、ココの町にあるポルト辺境伯様の城で会議をしている辺境伯派閥の貴族達とも、ファーメル家の通信部隊の協力で念話を繋ぎ、簡単に言うと、


『いかにして次男坊に嫌がらせをするか会議』


が開かれている。


まずは、ウチの村でのみ作っていた板バネ馬車を辺境伯領で作れる体制にして、


『便利だよ、揺れないよ。』


という噂だけシルバの町に流れる様に仕向けるが、販売に際して、シルバの町には五年間は売らない事にする。


勿論技術を盗んで勝手に作らない様に、馬車には一台一台通し番号を刻んで管理し、番号の無い物を所有していた場合、商業ギルドの規則にそった罰を受けてもらう。


もしも、色々な人脈を介して違法で馬車を購入しても番号を辿れば違法転売に関わった全員に罰が与えられるし、シルバの町への関所を通る時も、板バネ付き馬車には余分に税金を掛ければ、シルバの町に行きたがる行商人も減る上に、シルバの商人が馬車を購入しても行き帰りに余分に金をはらうのも嫌がるだろうと提案すると、すでにこのアイデアだけで、ココの町の辺境伯陣営は、


「なんという…聖人様とは恐ろしい…」


と言っていると念話師さんが教えてくれたが、まだまだこれからである。


ドットの商業ギルドで登録されているウチの村の特許物については五年間シルバに売らないし、特許の使用も許さない上に、勿論、持ち込みも関所でしっかりチェックしてもらう。


すでに販売したかも知れない便利グッズは仕方ないにしても、石鹸や蒸留酒に関しては厳しく規制した上で、その他の地域に売り込み、風の噂が流れる様にすれば、シルバの金持ちはイリイリして、裏から手を回して何とかしようとしたりするだろう…

しかし、そこは貴族の皆様の出番で、不正をした者にしっかり罰を与えてもらえば、シルバの町では金が有っても買えない物が、他の土地では買えてしまう不公平は、井戸に撒かれた毒よりもジワジワとだが、確実に心を蝕むはずである。


アルの代官屋で僕の話を聞いているチームもココの城のメンバーも、既にドン引きしているが、実はここからが本番なだ。


僕は、ダメ押しで、


「辺境伯様に提案です。」


と発言すると、念話さんが、


「辺境伯様より、『なんだ?まだ何かあるのか?…とりあえず申してみよ。』とのお言葉です。」


と言ってくれたので、


「日持ちはしないけど、とても美味しいお菓子を辺境伯領の町毎に、名物として売り出す事を提案します。

辺境伯領の町を巡る旅を中央の方々にオススメして、各町での甘味を巡る地図などを作り、旅とお菓子を楽しんでもらう…そう、辺境伯派閥の貴族家の町を使い何十種類のその土地でないと食べられないお菓子を使ったイベントを行うのです。」


と提案すると、念話師さんが、ピンと来ていない辺境伯様からの、


「それでどうするのだ?」


との言葉を伝えてきたので、僕は、


「中央や他の地方の方々が遊びにくる事に意味があるのです。

辺境伯領住民だけで無くて、他の地方の方々が来て楽しむお菓子を、ついでにシルバの住民も楽しめばしめたものですね。」


と、発表すると、念話さんが、


「貴族の方々から、それでは閉め出した意味が無いとの意見が…」


と教えてくれたので、僕は、自信満々に、


「自分の目でシルバの町と他の町の差を見れば良い…旅をしてる中央からの方々が、『何故にシルバという町だけ名物のお菓子地図に記載がありませんの?』とか言っているのや、ついでに自分の町の偉いさんが何をしたか噂されているのを聞いて恥ずかしく思えば良い…しかも、ドットの町には特に力を入れてお菓子の都の様になって貰いますが、シルバの住民はシルバを捨てないかぎり向こう五年間はドットの町には入れない様にすれば、もう…」


というと、アルの家臣団の方々まで、


「恐ろしい…ケン殿を怒らせてはダメだな…」


と、もう引き過ぎて静かになっていた。


念話師さんが、


「ニック様が、ドットの町をお菓子の都というが具体的にはどうするのだ? と申されております。」


とココの城で会議に出席しているニック様の言葉を伝言してくれた。


僕は、


「まずは、お菓子作りの腕も知っていますので、飛びリスの隠れ家の皆さんを中心にお菓子作りを進めたいですね。幸いここにもマイクさんと、アイナさんという料理のプロもいますので…」


と答えると、「まぁ!」と驚き、弟をこの作戦の中心に推薦した事が嬉しかったのか、遠くから「ん~まっ!!」と、僕に投げキッスを飛ばすセクシー・マンドラゴラ姉さんをスルーしつつ、


各地の町の特産品なども考えて、新たなお菓子を考案し、各地からお菓子の作りができる職人を集めて指導し辺境伯様や各地の領主様がそのお菓子屋さんを運営し、そして、報酬は自分の町のお菓子のレシピの権利でどうですか?と提案するとかなり良い反応だった。



それから、辺境伯派閥の貴族達の行動は早かった。

先ずは辺境伯派閥の町30箇所をピックアップして、販売店とスタッフは各町の責任者が選び、その町の腕自慢の料理人がお菓子の製作を担当出来る体制を目指し、今年中に30種類のお菓子を考案して各地の料理人に伝授し、、来年の国王陛下のパーティーの余興として、辺境伯領でのお菓子巡りの宣伝をする事になり、何でも屋ケンちゃんには正式にお菓子の考案の依頼が来た。


まだ準備段階ではあるが、辺境伯領の商業ギルドでは、『お菓子巡り地図』というグルメマップが売り出し、制覇した町の位置にスタンプを押していき10個で、お菓子の探求者ハンカチ と交換でき、20個で、お菓子の賢者のピンバッチと交換ができて、全てのスタンプを集めた者にはお菓子マスターの勲章と交換できるというイベントまで企画されたのだ…まぁ、ほとんど僕のアイデアである。


しかし、一番の問題は30種類のお菓子なのだが、酪農が盛んな町ならば、何とでも出来るが、鉱山の町とかが問題である。

縛りとしては、あまり日持ちのしないお菓子で現地に行かないと駄目な物であることと、地元の素材を使う事の二点である。


正直、前世で作った事が有るお菓子は結構あるが、材料が揃うモノで、正確な分量を覚えているモノの方が少ない…そもそもの材料として、小麦粉、砂糖、卵、生乳、で素朴な焼き菓子は既にある。


砂糖は王国のお隣の獣人の国で盛んに作られていて、主要な貿易品の一つであるので結構簡単に手に入るし、生乳が有るので、バターも生クリームも大丈夫だし、酢等があればクリームチーズが作れるのは知っている。


レシピとしては前世で娘が幼い時にせがまれて作ったシュークリームやプリンは多分作れる…と思うし、チーズケーキは正直分量を覚えていないが、何回か作れば近い物が作れると思う。


屋台の手伝いでやったクレープも器具さえ有れば何とかなるし、むしろ一番作った回数が多いから自信がある。


あとは、たい焼きは…あんこが無いな、小豆自体が見当たらないからなぁ…と考えていると、


『あれ?白いんげん豆は見たことあるから白餡ならば頑張れば…』


と閃き、そこからは面白い様に、だったらサツマイモも王国の東隣の獣人の集落で盛んに作っている集落が有ると聞いた事が有るので、特産品の無い町で栽培を初めて後づけの特産品にしても良いかもしれない。


あっ、鉱山の町の鉄を使った『たい焼き型』を作れば特産品では有るな…よしよし、これは楽しくなってきたぞ!!


嫌がらせをと神々にお供えするお菓子作りがいっぺんに出来て、ついでに旅が流行れば板バネ式の馬車の需要も上がるかもしれない…

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