第68話 後輩の過去と変わるために
中学の頃はこんな風に暗くて地味ではありませんした。
自分で言うのもなんだけど、小学校の頃から素直で明るい人当たりの良い子だったと思っています。
だけど、それが変わったのが中学一年の中頃でした。
──あの子、ぶりっこしててうざくない?
同じクラスの女子が影で私の悪口を言っていたんです。
全然そんなつもりはなくて、ただ単に私は私らしく毎日を過ごしていただけでした。
でもそんな悪口を言っていた子は別に特別仲がいい子ではありませんした。
だから、そこは別にどうでもよくて。私は自分の友達──小学校の頃から仲の良かった親友と楽しく一緒に過ごせればいいと思っていました。
だけど、ある日。事件が起こります。
二年生の先輩に私が告白されたんです。
その時の私はまだ中学一年生で、恋愛に対する漠然とした憧れはあったけど、それがどういうものかわかっていませんでした。
だから付き合うとか分からなかったので申し訳なくもその先輩の告白を断りました。
それからです。クラスの女子から私に嫌がらせが始まったのは。どうやら、前に私の悪口を言っていた子が中心になっているようでした。
どうやら、前から私の性格がが気に入らなかったらしいです。
気付いてなかったんですけど、ナチュラルに男子と距離感が近かったりして、男子をたらしこんでるように思われたらしいです。
実際は兄と仲が良かったので、男の人との接し方がわかってなかっただけなんですけど。
後は喋り方とかもあざとくってうざいって言われましたね。
それで、その女子が私に告白した先輩を好きだったらしいです。
私が告白を断ったことか、それとも先輩に好かれたことか。いいえ、おそらくその両方が気に食わなかったんでしょう。
大きな女子グループを作っていた彼女は、私を標的にしました。
みんな私を無視したり、時には私物を壊されたり、捨てられたり。よくもまぁ、バリエーション豊富にいじめてくれたものでした。
辛くなかったといえば、嘘になりますが、それでも私は親友一人いれば別になんてことなかったんです。
だけど。
──ごめん。もう、ゆゆとは仲良くできない。
それを言われた時、頭が真っ白になりました。
どうやら、私のせいで他の女子から彼女も嫌がらせを受けているようでした。
だから、私と関わりを持つのをやめたいと。彼女はそう言ったのです。
今なら彼女の気持ちもわかりますが、当時は本当に泣きたくて死にたくて仕方ありませんでした。
それから何もかもが嫌になった私は、以前とは打って変わって、口数も少なくして、誰からも何も言われないように生きていきました。
それでも途中で学校に行くのも辛くなって、家に引き篭もりました。
そんな時に出会ったのが、Vtuberというものでした。
画面の向こうの彼女たちは楽しそうに歌ったり、踊ったり、ゲームしたりして、気がつけば毎日のように彼女たちの配信を見ていました。中には私と同じように過去いじめられた経験のある人もいました。
VTuberだからこそ、いつもの自分とは違う表現できる、そんなことを誰かがエピソードトークでしていました。
そして私は思ったんです。私もこれをやりたいって。
ここなら私のこんな性格でも生きていけるって。
このお仕事をしている人にとっては舐めてるって思われるかもしれないですけど、私にとってはまさに青天の霹靂だったんです。
それから運良く募集していたVTuberの事務所に入ることができて、活動が始まりました。
自分を抑え込まずに表現できることが何より嬉しかったし、さらにはこの性格とは相性がよかったようで、自分で言うのもなんですが、かなりの人気配信者になることができました。
初めは自分勝手な理由で始めたお仕事でしたが、ファンの方々が増えて私の配信で喜んでくれることが多くなると楽しくて仕方なくなっていました。
まさに天職。そう思いました。
同時期にデビューした同期や先輩たちも優しくて、このお仕事が本当に大好きになりました。
それからやっぱり、他の先輩方の話を聞いていると高校は出た方がいいとのことで……学校に通わないで私を知る人はいない知らない土地の高校を受験して合格することができました。
その頃には心の傷は随分楽になっていました。
ただ、前みたいにこんな性格でいじめられるのもいやだったので、学校では地味な格好で静かに生きていこうと思いました。
でも結局、前と変わらず……。この前と同じようにいじめられることになってしまいました。
それから昔のことを思い出して辛くなって。
配信でまた元気を取り戻そうとしたんですけど、最近では、そんな心の不調が配信にも出てしまったのか、辛いコメントとかメッセージがどんどんくるようになって。
多くのファンは私の配信を望んでくれている。そんなことはわかっています。
だけど、気付いてしまったんです。
ファンが望んでいるのは、『御先あかり』というキャラクターであって、私ではないってことに。
それからは余計に分からなくなってしまいました。
どれが本当の自分なのか。
いじめられている私は本当の自分じゃない。
じゃあ、配信をしている私は本当の自分? これも違うんじゃないかって。
それを考えていたら、学校へ行く理由も配信をする理由も分からなくなって……苦しいんです。
◆
三谷さんは、静かに自分の中の気持ちを吐き出した。
それを聞いた俺は、情けないことに何も言えなかった。
慰めの言葉もかけてあげれない。中途半端な同情は相手を傷つける。まさにその通りだと思った。
いっぱい辛い思いをしてきたのだろう。
大人気VTuberと言ったって、まだ15歳の少女だ。多くのファンの期待や重責に押し潰されている。
自信をなくしている根本の原因となるのは、やはり過去のいじめと今のいじめだろう。
「なんで三谷さんは俺に話してくれる気になったんだ?」
「……どうしてでしょうね。自分でもなんでかわかりません」
「そっか……。じゃあ、三谷さんはどうしたいんだ?」
「……もう、自分を偽りたくないです」
それを聞いて、俺は決心した。
「よし、じゃあ、好きにやろう」
「……え?」
「そのまんまの通りだ。三谷さんは、好きなように生きればいい」
いつか藤林にも同じようなことを言った記憶がある。
俺も親に縛られて、好きに生きられなかった。
彼女も過去のトラウマや現在の悩み、ファンの期待に囚われて自分を見失っているのだ。
「そ、それって……何をすれば?」
「まぁ、そうだな。じゃあ──」
俺が三谷さんに提案すると彼女は目を見開いて動揺した。
「っ。じゃ、じゃあ先輩も一緒にですよね?」
「え」
「当然じゃないですか。私だけ、そんな……一人なんて無理です」
「わ、わかったよ」
結局、泣きそうな三谷さんの瞳に突き動かされ、三谷さんの言葉に同意した。
「ありがとうございます……!」
すると一転、笑顔になった。
あれ……演技……?
あまり、気にしないことにした。
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