第103話 準決勝 前半戦
昼休みを終え、球技大会も後半に入る。
外は朝までの快晴が嘘のように雨が降っていた。
おかげで外の競技は、中止。そこまでの対戦成績でクラスポイントが振り分けられることになった。
もし、俺が球技大会にやる気がなく、競技を代わってもらっていなければ、飛んで喜んだことだろう。
おかげで外競技の生徒たちはバスケの試合を見に体育館へ押し寄せていた。
「いやー、注目度が上がってるな。俺の時代が来た」
「勘弁してくれよ」
「そんなこと言っても、外の競技が中止になったんだから仕方ないだろ? それに結構、お前と中城との試合自体が注目されてるみたいだぜ?」
「……なんで?」
「まず、中城は顔がいい。それでいて、バスケもうまい。つまりめちゃくちゃ女子にモテるということだ! そんな中城目当てで来る女子が多いのは当然のことだろう。さすが俺のライバルでもある」
最後のはさておき、それはありそうだ。体育の時ですら黄色い声援を受けていたくらいだからな。
こういったイベントで格好良く活躍する姿を見たいのは当然だろう。
「それに対して、お前は転校生だ。先月の事件もあり、色々悪目立ちしている。さらには学年でも有名な美少女たちと仲良くしている。後、以外にバスケもうまい」
……俺の評価だけおかしくない?
最後のはいい。けど、その前のは何だ。確かに優李や倉瀬は美少女ではあるけど、俺へのイメージそれだけなの?
「つまり、そんなお前らを恨む男子生徒が多いってことだ。あわよくば何かカッコ悪い失敗しろと思っている。ちなみに俺もだ」
「おい」
とりあえず、俺たちの試合が注目されている理由はわかった。
いい加減目立ちたくない、なんて言ってられなくなってきた今日この頃。
手を抜くなんて真似するつもりはないが、過剰な期待をされるのも困ったものだ。
──ビーーッ!
「っしゃあ、行くか!」
タイマーのカウントがゼロになり、いよいよ試合が始まる。
草介は気合い満々にコートへと向かっていく。
審判は今朝の担当していた先生とは違う先生だった。
……というか桐原先生だ。ジャージ姿のスポーティーな格好が珍しい。
「何してんすか?」
「見てわからないか、審判だ」
「分かりますけど……」
「安心してくれたまえ。ちゃんと審判をすることくらい、私にもできる」
なんか不安が残るけど、本人がそう言うなら大丈夫なのだろう。
「それにしてもなんで、午前はしなかったんですか?」
「午前は女子の方をしていたさ。今回は単に我がクラス同士の戦いということでな。青春の熱き輝きを感じにきたというわけだ」
「はぁ……?」
「とりわけ君からはラブコメの匂いがするのでな」
相変わらず、何言ってるかわからんなこの人。
「ほら、始まるぞ。準備しろ」
先生に促され、中城のチームも同じようにコート中央に集まり、互いに試合開始の挨拶を交わす。
ジャンプボールからのスタート。センターサークルで中城が俺の横につき、囁く。
「勝たせてもらうよ」
「悪いけど、それはこっちのセリフだ」
ティップオフ。
試合開始と同時に真上に投げられたボールは、こちらのチームの杉浦と中城のチームの安田が奪い合う。
まずは、こちらボールから。ボールを受け取った草介は早速ドリブルをつき、相手ゴールへと攻める。
「オラァ! 先手必勝っ!!」
そしてレイアップシュートを放った──が、正面に来たディフェンスが邪魔だったのか、ボールの軌道は逸れ、シュートは外れた。
草介が悔しがっている間に外れたボールは相手に渡り、パスがつながっていく。
そして持つべき人物の手元へとやってくる。
「じゃあ、まずは挨拶がわりに」
そう言って、中城は速攻の場面──2対1で数的優位にも関わらず、スリーポイントを放つ。
綺麗なフォームに美しいまでの放物線。打った瞬間に入ると確信する。
放たれたボールはネットを揺らし、気持ちのいい音を奏でる。
歓声が上がった。
だけど、向こうが喜ぶよりもすぐにボールを出し、逆速攻を仕掛ける。シュートが決まった後、相手のディフェンスが一番油断しやすい場面を狙って今度は俺が仕掛ける。
相手の一人をクロスオーバー(※ボールを持っている反対の手にドリブル持ち替えること)で抜き去り、その場でジャンプシュートを放つ。
俺がしたシュートはボードの黒淵の部分にあたり、同じようにリングに吸い込まれた。
俺も中城も口角を楽しげに上げた。
◆
「すごい……」
思わずそんな言葉がこぼれた。
序盤からかなりハイレベルな戦いを見ている。
学校の球技大会とは思えないような、それもまるで県大会上位のエース同士の戦いのようなものをだ。
中城がボールを持てば、会場が沸き立つ。
新世くんがボールを持てば、歓声が上がる。
もう一つのコートで試合しているチームの方など見向きもされないくらいにこの体育館にいる生徒がその試合を注目していた。
「あれ、ヤバいね。こんなワクワクする試合私、久しぶりかも」
「うん……翠花もすごいドキドキする」
見ているだけで息苦しくなるような攻防。だけど、それでいて次はどうなるのかという期待。
経験者もそうでない人も一様に彼らのプレーに魅せられていた。
「中城やばくね!? なんであんなシュートが決まるんだよ!?」
「それを言ったら伊藤もだろ? あいつバスケ部でもないのに中城とやりあってるのすげぇだろ」
「中城くーん!!!」
「頑張ってーーー!!」
周りの応援も熱を帯び始めている。
でも徐々に点差が離れてきた。やはり地力では、中城のチームの方が上だ。新世くんのチームがシュートを外せば、中城のチームはそのタイミングで確実に点を取っている。
リバウンドもしっかりボックスアウト(※リバウンドを取りやすいポジションを確保するために相手を押し出すこと)しており、そういった部分で徐々に差が出てくる。
だけど、新世くんはその差を埋めようと必死にルーズボールにも飛びついていた。
新世くんのあんな必死な姿を見るのは初めてかもしれない。
だが、それが良くなかったのかもしれない。
「え、あれ……」
「────っっ!」
新世くんがリバウンドに絡んでボールを弾いた後、新世くんはその場に倒れ動けなくなってしまった。
◆
ヤバいな。点差がジリジリ離れていく。チームとして、決定力が違いすぎる。
今は、16対8。
ちょっとばかし、頑張らないと後半も追いつけなる。
そう思った俺は、味方がシュートして外れたボールに飛び込んだ。
自分の位置からも近く、取れると思っての行動だった。
しかし、俺はボールを弾くことに精一杯でマイボールにすることができなかった。
そして、着地のタイミング。
「いっ!?」
俺は膝に一瞬痛みを覚え、そこに倒れ込んでしまった。
息も上がっており、そのせいで起き上がる気力もない。
……痛い。
審判をしていた桐原先生も異常を察したのか、試合を止めて俺の方へとやってきた。
「伊藤、大丈夫か?」
「……大丈夫です」
「新世、大丈夫か!?」
「あ、ああ……」
先生や草介たちの掛け声で我に返った俺は、どうにか顔を上げる。
そしてこちらを見下ろす、中城と目があった。
「…………」
そして無言ですぐに目を逸らす。
それは明らかに落胆を示すものだった。
……野郎。
「伊藤くん!」
「新世くん! 大丈夫なの!?」
そこへ先ほどまで観覧席にいたはずの翠花と岡井さん二人がいつの間にか心配そうにコートに入ってきた。
「ああ、ちょっと転んだだけ──いっ!?」
「ちょっと!?」
「新世くん!?」
二人の手前、心配させまいと痩せ我慢して立ち上がったがまたじわりと痛みが襲ってきた。
「このままじゃ、続けられんな。伊藤は交代だ。保健室へ連れて行ってやってくれ」
「ま、待ってください! 大丈夫ですって!」
このまま引き下がってしまえば、間違いなく相手には点を離されるだろう。
そうなっては翠花との約束を果たせなくなってしまう。
「バカを言うな。たかだか球技大会で無茶をする必要などどこにある」
「そ、それは……」
「お前が何に焦っているかは知らんが、担任としてこのまま続行することはできない。おい、岡井、瀧本。お前らで保健室に連れて行ってやってくれ」
「は、はい!」
「……」
「ほら、行った方がいいよ、伊藤くん」
執着などしないものだと思っていた。無理だったらそれはそれでいいと思っていた。
だけど、これはなんだ。なんでこんなに……。
俺は何も言えないまま、二人の肩を借りて保健室へと連れて行かれた。
─────────
こういう時に未来予知出てくれないんですよね。
約束のこともありますが、新世くん自身何か思うことがあるようです。
三章も残り数話。
良ければご感想お待ちしております!
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