第129話 妙な噂
新世に家まで送ってもらった後、そこで別れた。
また夜になれば、いつものように勉強会で再開する。新世に応援の言葉をかけてもらったのでやる気が出たあたしは、朝ご飯を食べた後、復習をした。
集中していたのか、お昼の時間になったのはすぐだった。
お昼はあたしが勉強をしている間に来てくれたお手伝いさんが作りおきしてくれたものだ。
特製のパスタで腹を満たし、考え事に耽る。
「そう言えば、なんで新世あんなとこいたんだろ?」
少し疑問に思ったけど、すぐにチャイムがなり、思考を中断した。
チャイムの主は須藤という家庭教師の先生だ。
リビングに案内して、またいつも通り、勉強を始める。
「じゃあ、今日も勉強始めていこうか」
「ん、今日もよろしく」
最初は反発していたが、一週間勉強を見てもらってあたしもある程度、心を開いていた。
いや、語弊がある。普通に話せるようになったくらいだ。
完全に信頼を置いたわけではないが、この人はあたしを色眼鏡で見ることはないのでその点、少し安心できると思った。
「うん、このすごいね。かなり分かるようになってきたね。これもお友達のおかげかな」
「……まぁ、先生にも見てもらってるし」
「あはは、ありがとう。でも紗奈ちゃんがすごくやる気があるからっていうのも大きいと思うよ……あ、そこは、少し公式が違うね。この公式を使うといいよ」
先生はあたしのことを褒めながらも問題を見てくれていた。
参考書を片手に中の公式を指し示してくる。
「んー……これ?」
それを使って、問題を解くもあたしは頭をかしげた。うまく答えを導き出すことができない。
「……ちょっと疲れてきたね。休憩しようか」
勉強を始めて1時間半が立っていた。あたしの集中力も切れてきたところを先生が汲み取って休憩を入れてくれた。
家にいるお手伝いさんに自分と先生の分のコーヒーを入れてもらい、テーブルに戻ってくる。
先生はそれを受け取り、お礼を言った。
「そう言えば、今度の確認テストなんだけど、実は僕、過去問を持ってるんだ。傾向や出る問題もほとんど同じらしいし、次からはそっちを勉強しようか」
「……え? そうなの? それなら最初っからその勉強してた方がよかったんじゃないの? てか、なんでこのタイミング?」
「そうだけど、それじゃあ基礎は身につかないでしょ? それだけやってても点数は取れるかもしれないけどちゃんと学んで理解させることが僕の仕事だからね。ある程度できるようになるまでは黙っていたんだ。ちゃんと理解できていれば、その後もきっと心配ないと思うよ」
「ふーん……」
隠されていたことに今までであったら腹を立てていたかもしれないが、今回はそんなことはなかった。
それは単純にあたしのためを思ってのことだったからだ。
今回の確認テストを合格できたところで今後ももしかしたらお母さんとぶつかって同じようなことが何度もあるかもしれない。その度に自分を縛られ、新世たちに迷惑をかけるわけにはいかない。
そういう意味でもこれからは、ある程度しっかり勉強しなくちゃいけない。
それに、最近は勉強が少し楽しい。ちゃんと分かるようになって解けることが嬉しいのだ。
「それにもう確認テストまで日にちがあまりないからというのもある。ある程度できるようになったとは言ったけど、依然合格まで厳しいのは変わらない。もう日にちも少なくなってきたからここからは過去問を中心にした方が合格率はグッと上がる思う。もちろん、お友達との勉強会も継続してやることでもっと合格の可能性は上がると思うしね」
「うん、そうする」
あたしが珍しく素直に頷くと先生は優しく微笑んだ。
そしてすぐに何かを思い出したかのように困った表情を浮かべた。
「あ、後ね。話が変わって申し訳ないんだけど、ちょっと妙な噂を聞いたんだ。他人の空似だったらいいんだけど……一応確認しておきたくてね」
「噂……?」
その言葉を聞いた途端、気分が重くなる。
「実は大学の同級生がね、こんな話をしてたんだ。水原高校にね、誰とでもヤる銀髪の女の子がいるって」
「──ッ」
先生から発せられた言葉に思わず、顔を顰める。
「あ、恐がらせてごめん!! 勘違いしないで欲しいんだけど、僕はその噂信じてなくてね。ただ、聞いた特徴があまりに紗奈ちゃんに似ていたから……そういう事実もないんだね?」
「……ない」
あたしが答えると先生はどこか真剣な表情で何かを考えるような仕草をした。
「そっかごめんね、変なこと言って。紗奈ちゃんが言うならきっとそうなんだろう。その話をしてた人にはその場に注意したんだけど……他でもそんな話を聞いたからもしかしたら噂になってるのかもしれないと思って」
「……誰がそんな噂を」
「わからない。でもそんな悪い噂を広めているのだとしたら許せないな。僕の方でも何か対策がないか考えておくよ」
「……ありがと」
「ごめんね、せっかく集中してたのに。さぁ、勉強の続きしようか!」
先生は気を取り直してそう言ったが、それからの勉強には全く身が入らなかった。
◆
優李とコンビニであった男たちから変な噂を聞いてからできるだけ紗奈の周りに注意を払うようにしていた。
本人には言っていないが、嫌な予感がした俺は紗奈の家の近辺を少し見回っていた。
……ここだけ切り取られたら、ストーカーと思われるかもしれないが断じて違うからな?
結果そこに偶然、また男たちから声を絡まれる彼女の未来を見たものだから慌てて探して声をかけたのだ。
どうやら一部のこの近辺の高校生の中で紗奈のよくない噂が広まっているようだった。
「おっすおす」
「おう、悪いな。補習終わりに。お疲れさん」
「全くだ。貸しだからな」
「そう言うと思って、ほら」
「おっ」
補習が終わった後の草介と待ち合わせをしていた俺は、疲れ切った様子の草介に労いの言葉とよく冷えた缶コーヒーを投げ渡した。
不意打ちだったにも関わらず、草介は何なくそれを受け取る。球技大会の時から思っていたが、やっぱり反射神経もいいらしい。
草介受け取ってすぐにプルタブを開け、一気に缶を傾けた。
「ぷはぁー! あー、生き返るッ!! この苦味がたまらん!」
「そりゃ、何より。で、ラインしておいた件は聞いてくれたか?」
「ああ、聞いた聞いた。どうやら他の奴らもちょくちょく聞いたことがあるらしい」
「やっぱりか」
俺が草介にお願いしたのは、紗奈のとある噂を他の生徒が聞いたことがないかを確認してもらうことだった。
紗奈のとある噂……それは、紗奈が誰とでもすぐにヤるというもの。
以前……つまり俺がくる前からこの噂はあったのだが、最近は全く聞かなくなっていた。
それにも関わらず、ここ数日で瞬く間に再燃し始めたのだ。
「本当だと思うか?」
「思うわけないだろ」
「だよな。昔の俺だったら信じてたかもしれないけど、お前と藤林が話すようになってからは、俺もただの噂話なんだなって思うようになった」
確かに初めは藤林自身、そんな素振りを見せていた。あの振る舞いが俺にだけかどうかは知る由もないが、藤林が誰彼構わず本当にそういうことをするやつではないと今は断言できる。
「まぁ、少なくともこの学校のやつは藤林への認識をある程度改めてるやつも多いと思うけど……それでもそうじゃないやつもいる」
「ああ」
昔に比べ藤林は親しみやすくなった。そこには優李たちと友達になったことも大いに関係あるだろう。
それでもまだ藤林のことを昔のように見るやつは一定数いる。
「まぁ、補習で見かける限りは俺も注意を払っておくようにしとくからよ」
「助かる」
「ったく、これも貸しだからな?」
「わかったって。また飯でも奢るから」
「仕方ないからそれで勘弁してやるよ」
草介は小さく笑いながらそう言った。
自分で言っておいてなんだが、その草介の言動に違和感を覚えた。
「どした、んな顔して」
「いや、草介のことだから女の子紹介してって言うと思ったんだけどな」
「俺をなんだと思ってんだ。俺だって、偶には違うことくらい考えるっての」
「へー」
そんなこともあるものなのか。明日は雪でも降るかもしれない。
「──ッ」
瞬間、草介は焦ったような顔をしたと思ったら俺の正面に体を縮こませて隠れた。まるで忍者のような身のこなしだった。
「なんだよ?」
「……や、なんでもない」
振り返ると誰だか分からないが後ろ姿が見えたがすぐに行ったしまった。
そして草介は警戒を解除した。誰かから逃げてたのか?
「それと話は戻すけど、やっぱり噂の出どころはあそこらしい」
「あそこ?」
「東高」
その言葉を聞いて、また小さくため息をついた。
─────
噂はそこら中に広まってる模様……。
新世が居合わせたのは、嫌な予感+未来予知さんでしたね。
そして草介に変化の兆しあり……?
良ければご感想お待ちしております!
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数分後の未来が分かるようになったけど、女心は分からない。 mty @light1534
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