第130話 赤毛の少女
「東高が噂の出どころらしい。どうも三年の渋沢ってやつの後輩がそんな噂を吹聴しているらしい」
「……誰だそれ?」
「まぁ、知らないよな。そもそも東高自体どんな高校か知らないだろうしな」
「あんまりいいイメージは湧かねぇな」
前のカフェに来て藤林に絡んでいたやつらも東高だった。そして藤林と出会ったきっかけ。あの時は未来視で避けたが、あの時正面から来ていたのも東校生とのことだった。
そのいずれも見た目の素行は悪そうだ。事実、カフェでもいちゃもんをつけてきたからな。
「東高って水原の端っこにあるんだけどよ。昔から不良の掃き溜めみたいなところなんだよな。男子も女子もどっちも素行が悪い。しかも女子はギャルばっかだ」
「……それで?」
「おいおい、ギャルにもっと食いつけよ! ギャル好きだろ!? 俺は好きだぞ!!!」
「お前と一緒にするな」
なんで俺も同類みたいに扱われなくちゃならないんだ。
それにしても草介の調子が戻ってきたな。
「だって藤林と絡んでるし……」
「それはそれだろ。たまたま仲良くなった相手がそういう感じだっただけだ」
「仲良くねぇ……?」
「ニヤニヤすんな。今はその話はしてない」
草介に弄られるのは普通にムカつく。
「まぁ、話は戻すがその東高ってのは、よく地域に一つはある問題のある不良校ってこった。真面目に通っているやつには悪いが、水原では昔から何かと東校生のトラブルが多いからあんまり関わりたくはない存在だ。そもそも真面目な奴がいるかもわからんけど」
「……しかし、なんたってそんな奴らが紗奈を?」
「さっき話した渋沢ってやつが、藤林の元カレらしいんだ」
「元カレ?」
付き合ってたやついたのか。
まぁ、あんな感じだからいてもおかしくはなさそうだが。
偏見もあるが、紗奈の見た目的にもそういう不良と一緒にいそうなイメージはある。
しかし、それはあくまで見た目の話。
これまで一緒にいて、紗奈の性格的にそういうやつらと付き合いがあったとは思いづらかった。
「中学の時らしいけどな。まぁ、要は振られた腹いせでそんな噂を流してるとかそんなところだろ」
「くだらねぇ……にしてもそれって結構、前の話だろ? なんで今更そんな噂がまた広まったんだ?」
「それは多分、お前の存在だな」
「……俺?」
「この前のカフェでの話。聞いた話じゃ、彼氏宣言したんだろ? 藤林に彼氏がいるって話が多分、そいつにも伝わったんだろうな。それで悪感情が再び呼び起こされたとか」
「……マジかよ」
迂闊だった。まさかあの発言のせいでこんなことになるなんて。完全に俺のせいじゃねぇか。
「そう落ち込むなよ。俺は正しかったと思うぞ?」
「……」
草介はいつになく真剣な目つきだ。
「確かにこの辺りでは、もう藤林の噂は聞かなくなってた。だけど、東高では相変わらずだったようだしな。そういう意味でもその場で言い返したことは間違いじゃなかったはずだ。第一、藤林はそのことにお礼言ってくれたんだろ? じゃあ、それでよかったんじゃね」
自分の中で溜まっていた負の感情が草介にそう言ってもらえたことにより、霧散していく。
それによりすぐに気持ちを切り替えることができた。
まさか草介に慰められるとはな。
でも俺がしたことに変わりはないのは事実。だからその責任は果たさなくてはいけない。
「……でいつ行くんだ?」
「いつって?」
「その噂の出どころにだよ」
「……!」
「図星だな? よかったら付き合うぜ」
どうやら考えを見透かされていたようだ。そんな顔に出てただろうか。
「草介っていつからこんなに頼りになったんだ?」
「バッキャロ! 俺は元から頼もしい存在だ!! あ、今後女の子に俺を紹介する機会があったら頼れるやつだとこっそりとお願いします」
……やっぱり草介は草介だった。まぁ、別に間違った評価じゃないからいいんだけど。そもそもそんな機会が訪れるかはわからんが。
◆
先生から嫌な話を聞いた翌日。
その日も補習があったが、あまり授業に集中できなかった。
もうテストまで時間ないのに……。
補習が終わった後の机に突っ伏して息を吐く。補習を受けていた生徒はみなすぐに出て行ってしまい、一人になったところで脱力した。
今週末にはテストがある。この一週間だけではあるが、以前に比べればかなり学力はついた方だ。
しかし、この短い期間だけで簡単に受かるのであれば苦労しない。少しでも合格の可能性をあげるために次からは過去問を中心に勉強する、との話だったが……。
「今日休みかー」
それは昨日の時点で告げられていたこと。
どうしても先生に外せない用事があったらしく、今日は休みということになった。
一応、過去問はもらっているから自分だけでも勉強はできるけど、解説があるかどうかでは大違いだ。
ちなみにこの過去問は、先生もツテで手に入れたもの。在校生にも出回っているものではないのでおおっぴらにはできない。
そういうわけで新世たちとの勉強会でも過去問の勉強はしていなかった。
「帰って勉強しないとだけど……」
あの噂。
今日も登校した時から周りから感じた視線。
それを考えるだけでどんどん気が重くなった。
「な、なぁ、藤林さん」
「……なに?」
そんなあたしに誰かが声をかけてきた。
確か先ほどまでの英語の補習を一緒に受けていた男だ。あまり記憶にないところを見るに別のクラスの生徒だろう。
少し小太りで鼻息を荒くする男にあたしはわずかながらに身じろぐ。
「ほ、ほら、あれってほんと?」
「……あれ?」
「い、一万円でってやつ。ぼ、僕結構用意してきたんだけど……こ、これでいいかな?」
小太りの男はそう言って、財布から一万円札を五枚ほど取り出してみせた。
「……意味わかんないんだけど」
「え、ええ〜? ほ、ほらお金困ってるんだよね? これでヤラセてくれるんだよね?」
「──ッ!!」
それを聞いた途端、不快感が一気に押し寄せる。
男が尋常でない勢いで鼻息を荒くしていることもその一端を担っている。
「こっち来るな! そんなの知らないから!!」
「ど、どこでもやってくれるんでしょ? ほ、ほら。ここが恥ずかしいなら別のところで……」
しかし、男は鼻息荒く興奮していて、あたしの話を聞こうとしない。
いつもならこんなやつにビビることなんてなかった。だけど、噂のこともあって少しパニックになってしまった。
「あ、新世……たすけ──」
「ちょっと!」
助けを求めたところで誰かがやってきた。あたしが期待した声ではなかったが、澄んだ女子の声に小太りの男は体をビクリと跳ねさせた。
「学校で堂々と女子に襲い掛かるなんてどういつもり?」
奥から怒った声でこちらにやってきたのは、赤毛を編み込んだ少女だった。
「え、え? おそ……い、いや僕は……」
「は? 何? はっきり言いなさい。言っておくけど、このことは先生に報告するから。弁解があるなら今のうち言いなさい!!」
「ひ、ひぃ!」
「あ、ちょっと!」
そしてその赤毛の少女に責め立てると、小太りの男は脇をすり抜け、慌てて逃げ出したのだった。
「図体の割に逃げ足は早いのね。全く……!! 絶対後で先生に言ってやる。確か鈴木だったわね」
少女は未だぷりぷりと怒っている。そして小さく息を吐いたと思ったら、こちらに振り返った。
「ねぇ、大丈夫?」
「う、うん……。ありがと、助かった」
「……」
「……えっと?」
赤毛の少女にお礼を言うも彼女は黙ってこちらを睨みつけている。
あたし、何かしたっけ……?
「ほんと勘弁してほしいわ。変な噂のせいで風紀が乱れるんだから」
どうやら少女はあたしの噂のことで迷惑しているようだ。
その文句を言いにきたってこと……? なにそれ……あたしのせいじゃないのに……。
嫌な気持ちが渦巻く。
「あ、言っておくけど、別に藤林さんが悪いとかそういうんじゃないから。本当だとか思ってないし。ただその噂を鵜呑みにしてあーだこーだ言ってるゲス男どもが不快なだけ」
そうはっきりと言われ、虚を突かれた。
そうだこの子、どこかで見たことあると思ったら……思い出した。確か……さ、笹原?と隣同士で授業を受けていた。
「私、
そしてムスっとした顔でそう言った。
────────
更新大変お待たせしました。
11月に入ってからずっと体調悪くて全く書けておりませんでした。申し訳ありません!
さて、ここにきて新キャラです。
草介くんと何やら関係のある子の模様。草介くんもちゃんとラブコメさせてあげたいなって……笑
また申し訳ないですがカクコンに向けてもう一作品書きたいなとも思ってますので、更新の頻度も前回より下がるかもしれません。ご了承ください。
ご感想お待ちしております!
後コミックス1巻発売しました!そちらもよろしくお願いします!
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