第131話 自分の気持ち

 進藤芹香と名乗った少女は、未だに不機嫌な様子だ。


「えっと、進藤さんはどうしてここに?」

「別に藤林さんに用があったわけじゃないの。ちょっと人探ししてて偶々ここを通りかかったらとんでもないことになってたから」

「そうなんだ。でもお陰で助かった。改めてありがと」


 あたしがそう言うと進藤さんは眉間に皺を寄せてあたしのことをジッと見つめてくる。


 あんまりに見つめてくるので、気まずくなって思わず視線を逸らす。

 この子何……? なんで見てるの!?


「えっと……?」

「やっぱ噂なんてアテになんないわね。藤林さんって全然怖くないじゃない」

「ど、どういたしまして?」

「前からおかしいと思ってたのよね。というか最近あの伊藤って子と一緒にいることが増えたじゃない? その頃から絶対藤林さんが噂みたいな子じゃないって思ってたのよ」

「……噂って?」

「ビッチよ、ビッチ! 藤林さん、いろんなところでいろんな男とヤるみたいに言われたから本当か気になってたのよ。でも間違いないわね、それは嘘って今わかったわ。ああ、スッキリした!」


 なんというかまるでマシンガンのように次々と紡がれていく言葉にあたしは面食らっていた。

 しかも、皆が揃えて言いづらいことをあまりにハッキリと言うものだからなんだかおかしくて笑ってしまった。


「あら? やっぱり藤林さん、ムスってしてるより笑った方が可愛いわね」

「っ」

「ほら、普段学校では仏頂面でしょ? スタイルも良くて顔もいいんだから普段から笑えば絶対モテモテよ?」

「べ、別にモテたいとか思ってないし!」

「ふふ、そうでしょうね。だって、見ればわかるわ。藤林さん、あの伊藤って子が好きなんだろうし」

「……はっ、え!? あ、あたしが何て!?」

「……? 藤林さん、伊藤くんが好きなんでしょ? 違った?」

「…………」


 真正面からそれを言われて、顔が灼熱のように熱くなっていくのが分かる。


 あたしが新世を好き……?


「えっと、なんでそう思ったの?」

「だってその子と一緒にいるのを見かけるようになってから、学校に来るようになったでしょ? てっきりそういうことかと思ったんだけど。それにその伊藤くんの前だと良く笑ってるし」


 そう言われて思い当たる節がないか記憶を辿る。確かに新世の前ではどうやってからかってやろうかと考えながら絡む。そして新世が焦った顔が見られればあたしは楽しくなって笑っていた。


 ……で、でも別に新世の時だけとかじゃなくない?

 ゆうりっちやななみんやスイスイと一緒にいる時だって笑うことくらいあるし!


「それにさっきだって……」

「……さっき?」

「あー、なるほど……? 今の忘れて。勘違いだったかも。変なこと言ってごめんなさい」

「え、あ、うん……」

「ところでなんだけど」


 どこか消化不良なまま話を中断させられてしまった。そして進藤さんは話を続ける。


「その伊藤くんとよく一緒にいる笹岡っての知ってる?」

「知ってるけど……」

「補習終わった後、どこ行ったか知らない?」

「ううん、見てない」

「そう……」


 進藤さんはそれを聞いて、また不機嫌そうな顔をした。

 笹岡と何かあったのだろうか?


「えっと、笹岡とはなんていうの……どういう関係?」

「別になんてことないわ。ただの腐れ縁よ。腐れ縁。ちょっと用があったから探してただけ。じゃあ、私はもう行くわね。後でさっきのゲス男のこと先生に報告してから、またあいつを探さなくちゃいけないから。バイバイ」

「え? バイバイ?」


 まるで嵐のように進藤さんは去っていった。

 一体なんだったのだろうか? でもあんなにハキハキと噂のことを否定してくれたおかげで先ほどまでモヤモヤしていた気持ちも少し晴れた気がした。


「……っっ」


 しかし、それとは別のことでまた頭を悩ませることになってしまった。


「と、とりあえず新世に会ってみないと」


 自分の中にこの不思議な感情が漂っていることがなんとなく気持ち悪かった。


 ◆


「ぶえっきし……!!」

「なんだ、珍しいな。風邪か?」

「いや、悪寒がして……。多分どこかの赤毛のアホが俺を探してる」

「赤毛のアホ……? それ誰──はっくしょん!!」

「お前もか。もしかしてお前のことを好きな女の子が探してるんじゃないか?」


 ……そう言われてなんとなく頭に数人の女子が思い浮かぶ。

 告白された翠花に、明らかに俺に好意を示してきているゆゆ。

 そしてなぜか優李。


「これだから鈍感ハーレム男は嫌いなんだ!!」

「急にどうしたよ、お前。何かあったか? 会った時から様子が変だったけど」


 様子が変だった、というのはいつものように極端に女子が女子がと言っていないということだ。


「……」

「もしかして、さっき言ってた赤毛の子が関係してるとか?」

「ノーコメントだ。そんなことより、ここは敵地。油断してると貞操を奪われるぜ?」


 草介がそう言った視線の先には、話に上がった水原東高校がある。

 来たはいいものの、他校なので校舎の中にまで入ることはできない。

 夏休みなので、高校ならば同じように補習をやっているだろうということで出てきた生徒に話を聞くという作戦だ。


 だが、先ほどから出てくるのはどれも見た目がイカツかったり、チャラかったりする生徒ばかりだ。

 女子も女子でギャルのような生徒がかなり多い。


 ……つまり話しかけにくい。


「しかし……!! どいつもこいつも頑張ればスカートの中が見えそうだ!! 全くけしからん!!」

「けしからんのはお前だよ。何にしにきたんだよ、全く」


 いつもの調子に戻った草介に呆れながらも勢いでここまで来てしまったことを若干後悔し始めていた。


「だって、怖いし……」

「さっきまでの頼もしさはどこ行ったよ」

「いや、あの感じで言えば、めっちゃかっこよかっただろ? 頼れる相棒感あっただろ!?」

「そのセリフのせいで台無しになった」

「お、女の子に紹介する時は──」

「んだぁ、お前ら?」


 草介と軽く言い合いになっていると誰かが俺らに話しかけた。

 その方向を見ると東高の男子生徒が怪訝な目でこちらを見ていた。


「その制服、水原のって、お前は!!」


 茶髪の男子は俺を見て、叫ぶ。東高に知り合いなんていないんだけど……と思ったが、よく見ればつい最近見たことのある人物だった。


 それはカフェで紗奈にしつこく絡んでいたやつだ。

 ちょうどよかった。


「なんしにきやがったんだぁ、おい?」

「いや、渋谷って人を探しに来たんだけど、知らないか?」

「ああ? てめぇ、前のこと忘れたわけじゃねぇよな?」

「覚えてるよ。あんたらが紗奈の変な噂を流すせいで迷惑してるんだ。その噂の元凶に会いに来ただけだ」

「てめぇ、みたいなやつに渋谷さんが会うかよ! ……いや待てよ? お前確かあの藤林のの彼氏だったよな?」

「……だったら?」

「ハッ。いいぜ、連れてってやるよ。渋谷さんの前にな」


 男はニヤリと笑うとどこかへ電話をかけ始めた。

 どうやら目的通り、本人に会えそうだ。


 その間に草介がおずおずと俺に話しかけてきた。


「す、すげぇなお前。結構、度胸あるのな。もしかしてケンカ強い?」

「別にしたことねぇよ。いざとなったら逃げるだけだし」

「マジかよ。その感じでよくあんな強気に行けるよなぁ」


 ……言われてみればそうかもしれない。

 まぁ、未来予知あるし? という謎の自信。

 そして……やっぱり俺は自分がどうなろうとあまり気にならないのかもしれない。ただ、そこに草介を巻き込んでしまったのは少し申し訳なく思う。


「後、聞いていい?」

「……なんだ?」






「藤林と付き合ってるって……マジ?」

「……」


 そういえば、こいつ前の時いなかったのか……。


──────────────────


更新お待たせいたしました。

コミックスのご購入等の報告いただき、大変嬉しかったです。

後、ヘッダー効果すごいですね。たくさんフォロー増えました笑



さて、藤林の方はようやく気づき始めた様子。

そして新世たちは敵地に乗り込みに。いつになく積極的に行動している気がする……。

後、まだ少しだけの登場ですが芹香のキャラは好きだったりします。


ご感想お待ちしております!!















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