第11話 サボりのつけが回ってきた

「昨日サボってなにしてたんだ?」

「家で寝てた」

「本当か〜?」


 藤林との怒涛の一日から翌日。

 今日はサボることなく、登校した俺は廊下で草介に声をかけられた。


「まさか女の子と遊んでたんじゃないだろうな?」

「ごほっげほっ……」

「大丈夫か、どうした?」

「いや、むせた」


 こいつの女子に対する嗅覚と意欲は一体なんなんだろうな。

 鋭すぎて、もしかしたらどこかで見てたんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。


「ああ〜俺もどこかに出会いが落ちてないかな〜」

「その感じがどうにかなれば、彼女くらい出来そうなもんだけどな」


 実際、草介の顔は悪くない。というより、普通にイケメンである。

 それにも関わらず、草介はモテない。

 草介と出会ってまだ一週間程度であるが、そのキャラが女子ウケしていないことは明らかだった。


 お調子者の残念くんという立ち位置。

 女子たちが草介を見て、『喋らなければいいのに……』と話していたのを見たこともある。


「バカ言え。俺が俺でなくなるくらいなら、彼女なんていらねぇ!!」

「本音は?」

「めちゃくちゃ欲しい」


 一瞬、かっこいいことを言ったように思えたが、すぐに本音がこぼれた。


「でもなぁ、そう簡単じゃねぇんだよ……自分を変えるなんていうのは、それ相応の時間ととてつもない努力がいる」

「そうだな」


 なんというか、実感こもってる言い方だ。


「だろ? だから俺はありのままの俺を見てくれる、そんな理解ある彼女が欲しいんだ!! どんな要求にも答えてくれる理想の彼女がっ!!」

「それっぽいこと言ってるけど、自分の願望丸投げしてるだけだろ」


 草介は今のまま、モテたいだけらしい。草介に春はくるのだろうか。


「はぁ〜。偶然、どこかの曲がり角とかで女の子とぶつかるみたいな運命的な出会いはないかなぁ……」


 そんなベタな漫画みたいなこと起こるわけないだろ、そう言おうとした時。


「うぉ!?」

「ッ!」


 よそ見をしていた草介と曲がり角から現れた誰かがぶつかった。

 草介は、ぶつかった拍子に一歩二歩と後ろへ下がる。相手も転ぶことはなかったようだ。


「おうおう。どこ見て歩いて──」

「チッ」

「ひぇっ」

「なにやってんだ、お前……」


 三流のヤンキーみたいな威勢から相手の舌打ちで一瞬のうちに雑魚キャラに変わる草介。そしてすぐに俺の後ろへと身を隠した。恐るべし変わり身の早さに思わず、苦言を呈してしまった。


 そんなに恐い相手なのかと疑問に思い、身構えて草介がぶつかった相手に正対すると、声が漏れた。


「え?」

「あっ……」


 相手からも戸惑いの声。そこにいたのは、別に恐い相手なんかじゃなかった。

 俺はてっきり、この学校に君臨する番長的な人とぶつかったのかと思っていたが……その相手は女子の制服を着ている。


「藤林?」

「……っ」


 昨日、一日連れ回された相手である人物の名前を呼ぶと彼女は、身を翻し去っていった。


「す、すげぇ。あの藤林を追い返すなんて……お前、すごいやつだったんだな」

「いや、わかんねぇけど、なに? 有名なのか?」

「藤林紗奈って言えば、色んな噂があるからな。東高にとんでもないヤンキーの彼氏がいるらしいから目をつけられたらどうなるか分かったもんじゃないしな。それに普通にコワイ」

「それ、ほんとか? 東高?」

「まぁ、実際はどうだかな。田舎だし噂まわんの早いし、みんな言ってるからな。あながち間違いでもないんだろ。それに本人もケンカっぱやいらしいから。あの迫力見ただろ?」

「へぇ……」


 藤林がねぇ。

 確かにさっき凄んだ時は雰囲気あったけど、昨日の感じからは全然そんな風には見えなかったけどな。


 昨日、言ってたことはそういうことだったのか。誰も声をかける人なんていないって。


「後は、ビッチらしい。童貞を食うのが趣味だとか」

「……それは本当かもしれない」

「え? 何か言ったか?」

「いや、何にも」


 小さな呟きを拾われてしまい、すぐに誤魔化す。


 噂みたいな怖さは感じなかったけど、俺に対しては確かにそんな感じがした。

 何かと『一発ヤる?』って聞いてきたからな。

 ……あれって本当だったの?


「くぅ、俺の初物も捧げたいぜ!!」

「切り替え早すぎないか、お前。さっきまであんなにビビってたくせに」

「うるせぇ! 恐いもんは恐いんだ! だが、それと同時にあんな美人に骨抜きにされたい気持ちもある。ほら、めっちゃ攻めてくれそうじゃん?」

「ホント、ブレないな」


 草介に呆れながらも教室についた俺たちは、席へとついてホームルームが始まるのを待った。



「昨日、なんでサボったわけ?」

「またその話か。ちょっとしんどかったから休んだだけだ」


 席へつくと隣の朝霧から、草介と同じように質問が飛んできた。

 この前のような剥き出しの敵意は無くなったものの、仲が良いとは言い切れない関係。


「それホント? あんたの言うことってなんか信じられないのよね」

「そんなに俺のサボった理由が気になるのかよ」

「違うわよ! あんたが昨日サボったせいで、私が迷惑被ったから言ってんの!」

「……なんの話だよ?」


 俺が休んで迷惑かけることなんてあるのか?


「委員会活動よ。保健委員の仕事一人でやらないといけなかったんだから」

「ちょっと待て。保健委員? 聞いてないぞ」

「当たり前じゃない。あんたが休んだ昨日に委員会決めがあったんだから。女子は私が保健委員に立候補したからいいけど、男子が中々決まらなかったのよ」

「……立候補者がいなかったのか?」

「逆よ。私が立候補した途端なぜかみんな立候補者し始めたのよ」

「な、なるほどなぁ」


 それほど朝霧が男子から人気ということだろう。確かに学校の一、二を争う美少女。ただし、黙っていれば、という条件付き。


「なんか失礼なこと考えてないでしょうね?」

「ま、まさかぁ」


 読心術でも使えるのか、こいつ。わからん。俺だってたまに未来予知するし、それくらいありえるかもしれん。


 しかし、男子とまともに話してるところ見たことないし、男子に対して冷たい印象を持つ朝霧だが、それでも一緒に委員会をやってお近づきになりたいと考える奴が多かったのかもしれない。


 それかこのクラスってMっ気のあるやつ多いかだ。

 後者でないことを祈る。


「で、それに俺がなんの関係が」

「あまりに男子どもが決めるのに時間かかって揉めたの。だから先生が勝手に決めたのよ。揉めるくらいなら、ちょうど休んでるあんたを保健委員にするって」

「…………」


 あの先生……またやりやがったな。

 通りで教室入った時から、恨みのこもった視線が消えないわけだ。男子から。


「そういうわけで今日の放課後、保健委員の仕事あんた一人でやりなさい」

「はぁ!? それはいくらなんでも」

「私は昨日一人でやったの。文句は言わせないわ」

「……」


 そういうわけで俺の放課後の予定が決まってしまった。

 保健委員って何すんだよ……。

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