第100話 腹黒いやつは苦手
あの後、ちょうど開会式が始まり、難を逃れた。
現在は、校長の長ったらしい話の真っ最中である。
生徒たちは早く動きたいのにそんなこともお構いなしに、スポーツについて熱く語る校長。
「さっきは大変だったね」
そろそろあくびが出てきそうになった折、隣に座る倉瀬がヒソヒソと話しかけてきた。どうやら、さっきの優李たちのことを言っているらしい。
「倉瀬、わかってくれるか」
「優李ちゃんも熱くなると周り見えなくなっちゃうから」
「というかそれ分かってたなら止めてくれてもよかったんじゃ……」
「……」
「倉瀬?」
「……っ。な、何かな? 今日は気合い入れて勝負下着だよ!?」
「いや聞いてないし、やめて」
一々爆弾発言が飛び出してくる。
こんな話を他の誰かに聞かれれば誤解を招きかねない。
それにしてもここ最近、倉瀬はボーッとすることが多くなってきた。
何か悩み事でもあるのだろうか。しかし、申し訳ないが、今日は翠花のことに集中したい。
球技大会が終わっても続くようであれば、改めて聞いてみることにしよう。
そうしてようやく校長の話も終わり、生徒はそれぞれの競技へと散らばっていく。
ちなみに男子は、バスケとサッカー。女子はバスケとソフトボールの種目がある。
バスケは二面あるうち、一面を女子が使い、一面を男子が使う。
試合は、10分ハーフ×2。男女合わせると試合数も多いので、結構大変である。
とりあえず、自分の試合が始まるまでは、準備運動をしておこう。
「伊藤は、バスケ出ることになったんだね」
柔軟をしているところに中城が楽しそうに話しかけてきた。
中城もバスケに出るそうなのだが、俺とは違うチームだ。
「ああ、色々あってな」
「それって瀧本が関係してる?」
何かを勘づいたように中城はそう質問する。
「……まぁ、そんな感じ」
「なるほどね〜。熱烈だ」
「一体何を勘違いしてるか知らんが、別にそういうんじゃないぞ」
「え? 悩んでる瀧本を元気付けるために出るんじゃないの?」
「…………」
からかいやがって。後、盗聴器仕掛けられたりしない?
まるで話を聞いていたかのような口ぶりだ。
「あはは、盗聴器とか仕掛けてないって!」
「俺、口に出してた?」
「出してないよ。そんな顔してたから」
「どこかで聞いたのか?」
「いや、なんとなくそう思っただけだよ。瀧本悩んでたみたいだし、女バスの情報もよく入ってくるしね。それに伊藤くんが色々ちょっかい出してたみたいだからなんとなくね」
「ちょっかい言うな」
一体こいつがどこまで知ってるかはわからないが俺は確信したことがある。
こいつ俺の苦手なタイプ。
「それに優勝狙ってるんだよね?」
「それも誰かに聞いたのか?」
「あそこで笹岡が、吹聴してる」
中城が指差す方には、笹岡がクラスメイトに大きな声で宣言しまくっていた。ついでに優勝したらデートするように女の子に頼み込んでいる。
あいつ……。
「まぁ、伊藤くんと戦えるの楽しみにしておくよ」
中城のチームとは別リーグになるので、戦うとすれば決勝トーナメントになる。
「……お手柔らかに頼む」
「ふふ、俺は全力でやるけどね」
獲物を見つけた狩人の目。
どうやら手を抜いてくれることはないらしい。たかが球技大会だぞ? もうちょっと手心加えてくれてもいいじゃないか?
「だって、瀧本のために優勝目指すんでしょ? それなら全力で阻止させてもらわないと」
「……そりゃどういう意味だ?」
俺の邪魔して、翠花がうまくいかないことを望んでいるってことか?
中城に対し、疑念が生まれる。
俺は、中城を鋭く睨みつけた。
「あはは、想像にまかせるよ。じゃ、俺の方は先に試合が始まるから。また決勝トーナメントで会おうか。そこまで伊藤たちが生き残っていればだけど」
中城は、言いたいことだけ言って手をひらひらとさせ、自チームの方へと向かっていった。
「キザなやつめ……」
一体何を考えてるのか、本当にわからんやつだ。
◆
それから男子も女子も試合が始まった。
男子の方は、早速中城のチームの試合だ。俺と草介は並んで中城たちの試合を見る。
結果は、中城たちの圧勝。相手チームにはバスケ部が二人いたが、そんなものお構いなしだった。
中城がボールを持てば、女子たちからの黄色い声援が送られ、それに応えるようにいとも簡単に3ポイントシュートを決める。
それに中城だけじゃなく、バスケ部以外のチームメイトの動きもよかった。当然バスケ部二人は中城を必死に止めようとするが、一人ならばすぐに抜き、二人ならばすぐに空いているチームメイトへパスを出してしっかりそれを決める。
そうやって、点差はどんどん離れていった。
点差が離れてからは、中城は無理に行かずにチームメイトをたてる動きをしていた。
「やばいな」
想像以上に中城がうまい。本気を出しているわけではないと分かっているのに、それでも圧倒的なうまさが伝わってきた。
「まぁ、あいつ県選抜に選ばれるくらいだからな」
「マジかよ」
また不安になってきた。
「まっ、でもその方が燃えるじゃん?」
しかし、草介は全く怖気付いていない。
「なんか、スポーツものの漫画みたいなセリフだな」
「だろ? なんたってそいつらを倒した方がインパクトが強い! その方が後で絶対にモテる!!」
「……そうだな」
今日ばかりは草介の言う通りだ。
……モテるほうじゃなくて、インパクトの方な?
その方が翠花に与える影響もきっと強いだろう。
そんな翠花は反対側のコートで試合をしていた。同じコートには岡井さんもおり、まだ気まずそうにしていた。
「……仲直りしてないのか?」
流石にバスケ部でない相手に取りこぼすようなことはしないが、どうも岡井さんの方が本調子ではないらしい。
パスミスをしたり、イージーなレイアップを時々落としたりしていた。
それに翠花の方は何も言わなかったが、あまり良くない気がする。
「次俺たちだよな? 何分後だっけ?」
「7分後。トイレ行くなら早めに行っといた方がいいぞ」
「ああ、サンキュ」
あまり時間はないが、一度話しておいたほうがいいだろう。
俺は立ち上がって試合が終わった岡井さんに会いに行った。
◆
「岡井さん」
「あ、伊藤くん……」
試合が終わってすぐ。体育館を後にした岡井さんに声をかけた。
様子を見るに明らかに元気がない。
翠花でなく、岡井さんに会いに行った理由。それは翠花にはもう俺がやるべきことを言っているからだ。これ以上、何かを言う必要もない。後は、俺のプレーを見てもらうだけだ。
それに対して、岡井さんは、あの夜どうにかすると話しただけで、具体的なことは何も話していなかった。
岡井さんが、翠花と話してみると言ってはいたが、うまくいっていないのだろう。それがプレーにも現れているのが見てとれた。
「まだ仲直りしてないのか?」
「……うん。なんて言えばいいか分かんなくて。それに翠花、もしかしたら私のこと嫌いになったのかもって思うと、踏み出せなくて」
臆病になってしまっている。しかし、翠花と話したからこそわかるが、翠花も同じように岡井さんと仲直りしたいはずだ。
「そうか。まぁ、翠花の方も同じだと思うぞ。きっと向こうも謝りたいと思う」
「……そうかな」
「とりあえず、俺も翠花と話して約束してきたから、そっちも早めに頼むぞ」
「約束って?」
「もし俺が優勝したら、自分に自信持てってな」
「あはは、何それ……!」
「伊藤くん、優勝できるくらいバスケできるの?」
「ぼちぼちな」
「わかった。……私も早めに翠花と仲直りする」
「それがいい。つーかそうしてくれ」
これ以上、不安の種を抱えておきたくはない。二人の関係にヤキモキしながら試合に挑むのは精神衛生上良くない。
「とりあえず、伊藤くんが変な動きしないか見とくよ」
変な動きってな……。
岡井さんは、俺が元バスケ部だと知らないから当然か。
そして、試合が始まりそうになった俺は、コートへと向かった。
──────
何やら中城くんに怪しい動き……。
翠花と岡井さんは早く仲直りできるといいですね!
よろしければご感想お待ちしております!
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