第73話 エピローグ この配信で伝えたいこと

 あの事件から数日。

 騒がしい日々が過ぎ去っていった。


 あの事件については、あの後、学校単位でちょっとした問題に発展した。


 三谷さんは事件の被害者として先生から話を聞かれることも多かったみたいだ。

 以前の彼女とは違い、自信無さげな姿は一切なく、毅然とした態度で聞き取りに応じていた。


 今まで、地味な格好をして、目立たないようにしていた生徒が急に変わったものだから先生たちも驚いていたみたいだ。


 先生の中には、やはり宮野たちを擁護する声もちらほらとあった。

 こんな田舎の学校で、しかも地元でも名のある家柄出身の彼女が「いじめ」を行っていた。

 この事実を隠蔽する気はなかったのかもしれないが、大事にしたくないというのが一部の先生たち──主に年配の先生──の本意だったようだ。


 もちろん、我らが桐原先生はこれを厳しく糾弾し、被害を受けた三谷さん側の味方になってくれたのだが、それでも流石名家というべきか、地元の権力者である宮野家の介入により、宮野たちの処分は一時保留となっていた。


 それでもとある問題が発生したことにより、急展開を迎え、すぐに彼女たちの処分が決定された。


 その問題とは、あの日の出来事を多くの生徒が目撃したこと、そして何より証拠映像が生徒間で出回っていたということだった。

 俺としては前者はそうなることを意識してのものだったが、後者は望んだものではなかった。


 どうやら俺らの他にもそれを撮影していた人がいたらしい。


 しかし、俺たちとは違い面白半分でそれを撮っていたようで、言い訳にはなるがそれが不用意に出回ることは俺たちの本意ではなかった。


 幸い、三谷さんの顔はその動画には写っておらず、宮野たち主犯だけがうまく強調されるように撮られていたようだ。


 既に、特定のSNSにも投稿が確認されており、学校には野次馬からのクレームまで入るようになっていた。これにより、教職員より異例の全校集会がなされるまでの事態となった。


 そして、彼女たちの処分内容は停学。

 一部では、処分の重さについては賛否あったようで、退学を望む生徒もいたようだが、SNSでの炎上騒動もあり、十分社会的制裁を受けたということでこの処分が適切ということとなった。


 俺としては、別に不満も文句もない。

 少し想定しなかった結果ではあるが、それで懲りて、二度と三谷さんに関わろうとしなければ、それで良かった。


 何はともあれ、これで三谷さんに平和な日々がやってきたことだろう。


「せ〜んぱいっ! こんなところで一人で何してるんですか?」 

「見たら分かるだろ。掃除だ」


 そして、俺に安息の日々は訪れない。

 あの日の事件には別のストーリーもあったというわけだ。


 担任の桐原先生に呼び出しをくらっていた俺は、今回の件を大事にしたということで説教を受けていた。


 SNSに拡散されてしまったことで、行き過ぎた結果によるものだ。

 別に俺は、三谷を助けた側なので罰せられる謂れはないのだが、騒動の中心にいたのが俺ということでこうなった。


 説教と言っても、それは建前。

 校内の先生の中には、今回の事態をよく思っていない先生もいる。

 だから、あえて桐原先生からの厳重注意という、罰を持って俺に批判が集まるのを避けたというわけだ。


 ただ、説教だけではダメだったのか、なぜか一週間の掃除当番を言い渡されたのだった。しかも校内の普段使われていないようないろんな場所のだ。あの時、桐原先生は、「あのハゲ教頭めっ」と言っていたので彼女にも色々あるのだろう。多分のその憂さ晴らしに使われた。


 それにしてもつくづく掃除当番に縁があると思う。


 そのことが決まってから三谷は、桐原先生にも抗議をしてくれたが結果変わらず今に至っている。


 それからというもの三谷が毎日のように、掃除場所に現れるようになったのだ。


「三谷、お前暇なのか?」

「もう、先輩ったら! ゆゆって呼んでくださいって言ってるでしょ!! ほら、りぴーとあふたーみー! ゆ・ゆ!!」


 そして、このようにだる絡みを繰り返してくる。

 もう、初めて会った時のような大人しい印象は一切なかった。

 それゆえ、俺も砕けた話し方をするようになっていた。


「はぁ……ゆゆ」

「はい! せんぱい!」


 笑顔が眩しい。本当にいい意味で面影がない。


「いくらなんでも最初と変わりすぎじゃないか?」

「……せんぱいが言ったんですよ? 好きなようにすればいいって」

「……言ったけど。言ったけども」

「何ですか?」

「掃除中に引っ付く必要はないよな?」

「えー? 何がですかー?」


 分からん。こいつの考えてることがさっぱり分からん。

 妨害か? 俺の掃除妨害をしているのか?


「あ、新世! こんな所に……い、た……」

「……」


 そしてそんな場面を見られてしまった。朝霧に。


「……あ、朝霧先輩! こんにちは」

「こ、こんにちは……三谷さん。いいい一体、何を……?」

「え? 何でもないですよっ!」


 そう言って三谷──ゆゆは、俺から離れた。

 なんで顔を赤らめる。


「あ、あんたまさか掃除サボって、三谷さんとい、いちゃついていたわけじゃないわよね……?」


 なぜだろうか。今の朝霧からものすごい圧を感じる。


「え!? バレました!?」

「おい、ゆゆ。お前は黙ってろ」

「ゆ、ゆゆ!? あんたいつの間に!?」


 あー、もう。めんどくせぇ……全然掃除進まないんだけど!!


「ちょっと詳しく話を聞かせなさい……!」

「ゆゆ、説明をって、あれ?」


 俺が振り返るとそこにはゆゆの姿はなく、いつの間にか廊下に出ていた。


「じゃ、せんぱい、私帰りますね! 今日の準備がありますので!!」

 

 調子のいいやつめ……朝霧に変な誤解だけを生ませやがって。

 それにしても……そうか今日って言ってたか。


「絶対見てくださいね! 絶対ですよ!?」


 そう言って、ゆゆは、綺麗な笑顔を振り撒いて走り去っていった。


「見るって、何がよ」

「なんか、今日やるドラマが面白いらしい」

「ふーん……」

「何だよ、その目?」

「別に」


 朝霧がジト目で見てくる。ここは、話をそらそう。


「というか、何しにきたんだ?」

「何って……これ!」


 そう言って、朝霧は一枚の紙を俺に押し付けた。


「あんたまだ出してないでしょ。先生に言われたんだから、早く出してよね」

「忘れてた」

「明日には絶対出しなさいよ!」

「へいへい」

「また保健委員の仕事あるから」

「まじかよ……」

「それと! 三谷さんのこと、また聞かせてもらうから」


 朝霧はそれだけ言うと、俺を置いて帰ってしまった。

 俺はその後、なんとも言えない気持ちで一人寂しく掃除を続けるのであった。


 ◆


『みんな〜ごめんね! 長い間お休みしちゃって!!! でも、もう大丈夫!! あかりん今日から復活です!!』


【コメント欄】

 ・うぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!

 ・あかりん!!あかりん!!あかりん!!

 ・待ってた!

 ・おかえり!!


 今日は、長らく配信をお休みしていた御先あかりの配信再開日だ。

 放課後の掃除を終え、帰宅した俺は綾子さんの手伝いもそこそこ、早めに切り上げて配信を見ていた。

 事前に配信時間をゆゆから教えてもらっていた俺は、その時間から配信が始まるのを待っていた。


 そして、それは彼女の多くのファンも同じだったようで、御先あかりが現れるまでの間、待機人数は数万人までに膨れ上がっていた。


 いつものようにオープニングが始まり、彼女が現れて挨拶をすると、コメント欄は熱狂の嵐に包まれた。


「楽しそうにやってるな」


 バーチャルの姿をした彼女の顔は笑っており、本当の表情はわからないものの、その声色から彼女がこの配信でのみんなの反応に本当に喜んでいることがわかった。


 学校でも見たゆゆの笑顔。それと遜色ない姿が配信でも見れて、俺としても安心だった。


『今日は、主に雑談をやっていこうかと思います。しばらく、休止していた理由とかその辺も含めて話していくね〜』


 そうして、休みの間のことを御先あかりは話していく。時折、俺の話が出てきたりしてヒヤヒヤさせられたが、大体はボカして話していた。

 学校でのいじめのことについては何も触れていない。


 主な内容としては、休んでいる間に家でしていたことなどだった。


 そしてそんな話が続いていき、終了の時刻が近づいていた。

 あらかじめ、今日の配信は一時間ほどで終わるつもりだと聞いていた俺は、すでに58分経過していたことを時計を見て、気がついた。


『じゃあ、最後にいつも応援してくれる先輩たちに感謝の言葉を織り交ぜてあいさつしたいと思います』


 こほん、と可愛らしく咳払いをする御先あかり。その一つでもコメント欄は盛り上がっていた。

 そして──


『いつも私のこと応援してくれてありがとう。みんながいるから、今の私がいる。辛いことがあってもこうやってみんなに元気をもらえる』


 御先あかりのスピーチは続く。コメント欄は涙を流すスタンプで溢れている。


『色々考えて挫けてしまいそうなこともあったけど、これからはもっと自分に自信を持って……好きに生きようと思う』


「……!」


『だからこれからも私を見てて。ね? 画面の前のに言ってるんだよ。誰にでもないに!! そんなに一言言いたいの』


 そして御先あかりは深く息を吸った。


『大好きっ!!!』


「……っ!!!」


『覚悟しててね? これからは今以上に本気出すよ。……っ、じゃあ、今日の配信はここまで! ばいば〜い!!』

 

 そして、謎の宣言と共に言い切ると逃げるようにエンディング画面に切り替わった。

 軽快な音楽が携帯から聞こえてきた。


 なぜか、心臓の音がうるさい。ドクンドクンと脈を打つ。

 リスナーに向けて言ったはずなのに、まるで自分が言われたような奇妙な錯覚に陥る。


「いや、自意識過剰過ぎるな」


 特定の誰かを指して言ったとなって、炎上しないといいけど……そう思い、コメント欄を見る。


【コメント欄】

 ・うぉぉぉぉおおおおおおお!!!

 ・俺も愛してぅぅぅぅぅぅぅ!!!

 ・これは俺のことだ!そうに違いない!!

 ・あかりん!あかりん!あかりん!

 ・これからも応援してます!

 ・大好きだぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!

 ・ご視聴ありがとうございました。ここからは私との純愛をご覧ください。

 ・↑俺とに決まってんだろ

 ・あかりんはみんなのもの

 ・本気のあかりん待ってる


「だ、大丈夫そうだな」


 コメントの反応を見て、少し安心した俺はスマホの電源を切って。深く息を吐いた。

 ファンのみんなもどうやら、俺と同じように自分が言われていると思ったようだ。

 

 ……にしても、ここまで思わせる表現力。さすがだと思った。

 

「あっつ」

 

 近くにあった下敷きをうちわがわりに頬を仰ぐ。

 

「あっ」


 その風に煽られて、一枚のプリントが地面に落ちた。

 

「そういえば、書けって言われてたな」


 その紙を拾って、用紙の内容を見た。

 そこには、『球技大会希望種目アンケート』と書かれていた。


 顔の熱はまだしばらく取れなかった。


 ────────


【後書き】

 第二章これにて完結です。

 どうだったでしょうか。作者的に綺麗にまとまったと思っています。

 そしてこの配信の公開告白がやりたいがために、VTuberにしました。後悔はしていません。


 この章は、キャラ設定だけ考えて流れに身を任せて書いておりました。

 なので、後半の事件の解決に関して、あまり深い描写ができなかったかのが心残りです。それよりもテンポを優先しました。


 本当であれば、もう少し事前にクラスメイトと話したりして、下準備する描写が欲しかったところですが、思いついたのが直前だったので、そこまで書けませんでした。反省です。


 そして、次回三章は、密かに人気なあのヒロインが中心のお話です。

 いや、というか一番人気の可能性もあるな……。作者もこのヒロインが気に入っています。球技大会と言えば……ですね。


 どっちかというとこれまでとテイストが変わって、さらに青春色が強くなるかもしれません。(最近読んだラノベに影響されている)

 もっと恋愛要素を絡めていこうと思うこの頃。


 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

 最近はフォローや星やPVも中々、伸びなくなってきましたが、これからも応援していただけると幸いです。


 よければ、ご感想とまだの人はレビューなんかも書いていただけると嬉しく思います。

 お待ちしております。


 後、時間ないけど新作も書きたいんですよね。本当は、このエピローグに合わせたかった……!!

 また、公開されましたらよろしくお願いします。

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