第115話 お泊まり会

 急遽、翠花の家に泊まることになったあたしは買い物で買った荷物を新世の家に置いてから翠花の家にお邪魔した。


 さすがに服を買いすぎたし、泊まるには物が多すぎたからだ。

 新世の家なら今は一人なので、ちょっとくらい置かせてもらっても問題ないとのことだった。


 泊まられるよりはマシ、だなんて新世は言ってたけどそんなこと言うならまた泊まってやろうかと思った。


 しかし、翠花の気持ちを知って、それは少し悪い気もしていた。だから翠花の

誘いを素直に受けたのだ。


 それに……ワクワクしていたというのもある。友達の家にお泊まりだなんて初めての経験だったからだ。

 昔からそういうのに憧れていた。けれど、今までどうしても実現することがなかったのだ。


 翠花の家で夜ご飯もご馳走になって、お風呂も借りて。今日買った可愛いパジャマに身を包み、今は寝る準備中である。

 翠花の家はお母さんたちも優しくてごく一般的な家って感じですごく安心感があった。


 だけど、それと同時に自分の家にはない安らぎのようなものがあって寂しくもなった。


「では、今から第一回、恋バナ選手権を開催しまーす!!! いえーい!!!!」

「い、いえーい……?」

「恋バナ……?」


 そんなことを考えているうちにお布団が敷き終わり、そこに寝転びながら同じクラスの岡井さんが謎の選手権を開催した。

 翠花は恥ずかしそうにそれに合わせる。

 岡井さんとはあまり話したことがなかったけど、この数時間で割とあたしともウマが合いそうなタイプだと分かった。


 それにしても恋バナか……。

 うん、なんかこういうのテレビで見たかも!


 友達がいなかったあたしは一度でいいからこういうことをしてみたかった。


「はい、まずですが……翠花は伊藤くんにいつ告白したの?」

「うぇ!? な、なんで!?」


 いきなりの岡井さんから発言にスイスイがひどく狼狽した。あたふたとするその様子見て頬が緩む。


「いや、だってさっきのさカフェでも丸わかりだったよ? めちゃくちゃ伊藤くんのこと意識してたじゃん」

「そ、そんなに顔に出てた!?」

「そうそう岡井さんの言う通り、めっちゃ分かりやすかった」

「そんなに……うぅ……恥ずかしくなってきた……」


 翠花は分かりやすく顔を真っ赤に染めていく。その姿を見てなんとも母性がくすぐられた。


「「かわいっ……」」

「……っ」


 あたしと岡井さんの声がハモった。それにスイスイはびくつく。


「いやぁ、恋する乙女だよねぇ。どう思いますか、藤林さん」

「たまりませんなー、岡井さん」

「あ、良かったら私のことは下で呼んで? 夏実でもなんでも!」

「あ、そう? じゃあ、ナッツーって呼ばせてもらうね! あたしのことも下でいいから!」

「じゃあ、そう呼ばせてもらうね、紗奈!」


 あたしとナッツーの間にほのかな友情が芽生え、握手を交わす。


「もう、二人とも変なとこで共感しないでよ……翠花だけ蚊帳の外みたいじゃん」

「だって今スイスイの話してるからねー」

「そうそう。それで告白はいつしたの?」

「うぅ……それ言わないとダメ?」

「「ダメ」」


 もう一度、あたしとナッツーの声が重なった。スイスイの恥ずかしがる姿はかわいいな。推せる。


「た、大会の後だよ。ナツは知ってるでしょ? 一緒に帰ったの」

「ああ、やっぱりあの時か。それで返事は?」

「まだ……というか聞いちゃったら戻れなくなりそうな気がして……」


 なにこの子、かわいすぎない?

 スイスイのことどんどん好きになっていくわ。


 そしてこれが恋バナというもの……やばい。楽しい!!


「も、もう翠花のことはいいでしょ? それより二人は!? 特にナツ!! いつも翠花のことからかってくるんだから、ナツのもたまには聞かせてよ!」

「あ、あたしも興味あるかも」

「ええー私ー?」


 ナッツーは困った表情をする。スイスイの話もそうだけど他人の恋バナを聞くのは楽しい。


「私は……ないかぁ。この前のは多分違うし……うん……違う違う……」


 なにやらブツクサとナッツーは少しだけ顔を赤くして言っていた。


「むぅ。翠花だけ……ずるいよ……ねぇ、紗奈ちゃんは何かないの?」

「え? あたし?」

「あ、それは私もちょっと聞きたいかも。……っで、でも言いづらかったいいからね?」


 ナッツーはなにやら慌てた様子で言った。その理由をあたしはすぐに気がついた。


 ──誰とでもでヤる女。


 そんな不名誉な噂が広まっていることを知っている。きっとナッツーはそのことを聞いたことがあるのだ。


 これは……呪いだ。


「あたしも……特にないかな」

「そっか……」

「……?」


 少しだけ気まずい空気が流れた。スイスイはなんだか分かっていないようだったけど。


「えっとじゃあ、翠花から聞いてもいい? 紗奈ちゃんってもしかして新世くんのこと好き?」

「え? 新世?」

「ちょ、翠花!?」


 真正面から聞いてきたスイスイに少しだけ面食らう。それにはナッツーも予想できなかったのか驚いていた。


「ほら、今日も二人で買い物とか行ってたし……そのお、お泊まりもしたし……」


 やっぱり好きな人のことは気になるらしい。顔を赤くして、モジモジとしていた。


「あー、新世かー」


 あたしは新世とのやりとりを思い出し、少しだけ笑いが込み上げる。

 確かに新世とは他の男子と違うように感じている。


 だけどそれが異性に対する恋愛感情なのか、あたしにはわからない。

 どちらかといえば──


「あたしからしたら、からかい甲斐のある弟みたいなもん? 弟いたことないけど」

「そ、そっか!」


 翠花は安心したように息を吐いた。


「……」


 その様子を見て過去の出来事を思い出す。

 翠花はどうなのだろうか。やっぱり

 そのことが気になって、あたしは翠花に問いかけた。


「でもそれよく本人に聞けたよね。もし、あたしが好きって言ってたらどうしたの?」

「え? どうもしないけど……」


 翠花はキョトンとよくわからないといった表情を浮かべた。

 なにもしなくても勝てる、そう言いたいのだろうか?


「そ、そりゃ翠花は紗奈ちゃんに比べたら、美人でもないし、スタイルもよくないけどさ。翠花はそれでも頑張るだけだから! 新世くんに振り向いてもらえように!」


 返ってきた答えはただひたすらに真っ直ぐだった。眩しいくらいに。

 ……やっぱり、あたしとは違う。


「まぁ、確かに翠花のお子様体型じゃねぇ……」

「あっ、言ったな!? 翠花だって、それなりにあるもん!!」

「ほう……? 伊藤くんを誘惑できるくらい? あれくらい?」


 呆けているとナッツーはあたしの胸元を指差した。


「ぎゅ、牛乳いっぱい飲んでるし……っ」

「身長も伸びてないねぇ」

「うぅ……」


 スイスイは今にも泣きそうに打ち震えていた。それを見て、あたしは吹き出した。


「ぷっ、あははははは!」

「紗奈ちゃん?」

「あーごめん、なんでもない! 新世はチキンでヘタレだからねぇ。半端な色仕掛けじゃ効かないかもね」

「紗奈、それ詳しく! どうやったら翠花のちっぱいで落とせる?」

「ちっぱい言うな!! ギリBはあるもん!!」

「はいはい。紗奈のこの豊満なサイズを前にBなど無に等しいよ?」

「うぅ……別にいいもん。他で勝負するもん……」

「まぁ、新世結構、あれでいてムッツリだから仕掛けてればそのうち手を出してくるかもしれないよ? それにもしかしたら小さい方が好きなのかも。あたしが誘惑しても全然手出してこないし」

「ゆ、誘惑って……」

「あはは、まぁ、揶揄ってるだけだから!」

「でも翠花が誘惑って……ダメだ、想像したら笑える。ぷぷ」

「あ、ナツ、笑った!?」

「ごめんて。叩かないで! まぁ、それもいいかもね。でもその時は、翠花が先に気絶しそうだけどね。恥ずかしくなって」

「し、しないもん……多分……」

「いや、でもやっぱり新世はなにもしてこないかも。朴念仁だし」

「「ああ……」」


 新世に対する見解が一致し、みんなで一斉に笑った。

 それからいろんなことをお話しして、気がつけばみんな寝ていた。こんな楽しい夜は久しぶりだった。


 ◆


「ぶぇっきし……! クーラーで冷やしすぎたか?」


 それかどこかで誰か噂してるとか?


「いや、そんなことより、藤林め……荷物多すぎだろ……」


 今日購入した大量の服を前にため息をつく。

 ……変な話してないといいけど。



────────

すいません、更新日ミスってました。


紗奈の初めてのお泊まり会でした。

追い詰められる翠花はかわいい。そういうのを出していきたいですね。

新世くんにはひとりを満喫しておいてもらいます。


ご感想お待ちしております!

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