第116話 夏の溜まり場

「で、なんでここにいんの?」

「いーじゃん、別に」


 安眠を手に入れた俺は翌日、目が覚めても昼までの二度寝を決め込むため、ずっとベッドでゴロゴロしていた。するとまたもや店のチャイムが俺を襲った。


 だるい体に鞭を打ち、寝ぼけ眼をこすりながら、数回連打されるチャイムに仕方なく応対するとそこにいたのは、昨日、翠花の家に泊まったはずの藤林だった。


 呆気に取られる俺に遠慮なく、家に入ってきた藤林はカフェスペースのカウンターに座って朝食を所望した。

 藤林に言われるがままにホットサンドを準備。合わせてコーヒーを入れた。


 それを美味しそうに頬張る姿を横目にため息をつきながら、俺も自分で入れた濃いめのコーヒーを目覚ましがわりに飲み干し今に至る。


「翠花たちはどうしたよ?」

「今日も朝から部活なんだってー。スイスイにもご両親にもスイスイが帰ってくるまで家に居ていいって言われたけど、流石にそこまで迷惑かけるのは悪くって出てきちゃった」

「俺に迷惑かかるのはいいのか」

「で、家に戻るのもアレだったし、ここに来たってわけ。あたしが来て新世も嬉しいでしょ?」

「聞けよ」


 俺の小言などなんのその。藤林はそれを右から左に受け流してお気楽そうにスマホをいじっていた。


「今日は泊まるとか言わないよな?」

「え? 泊まって欲しいの?」


 藤林はまたニヤリと得意げに笑う。


「ちげぇよ。いい加減、家帰んなくていいのか心配してんだ」

「……分かってるって。翠花たちにも言われたし」


 どうやらお泊まりの時に翠花たちからも何か言われたようだ。

 しかし、藤林は家の話をするとすぐに不機嫌そうにそっぽを向いた。


「で、今日は──」


 何するつもりかと、聞こうと思った時。またチャイムが鳴った。

 昨日からよくチャイム鳴るな。そんな頻繁に訪問者がくるなんて珍しい。

 また草介じゃないだろうな?


 そう思って、店の引き戸を開ける。


「せんぱぁい。せんぱいの大好きなゆゆちゃんが来ましたよっ!」

「……」

「ちょ、せんぱい!? なんで閉めるんですか!! 開けてください!!」


 扉を開けたら、かわい子ぶって上目遣いでピースをするゆゆがいたので無言で戸を閉めた。そしたら軽く戸を叩いてきた。


 ガシャガシャと鳴る音がうるさい。

 この面倒くさいタイミングでまた面倒くさいやつが来やがった。

 俺はため息をついてから、仕方なく玄関を開けて中にゆゆを入れた。


「もう! ひどいです! せんぱいったら!! こんな暑い日に外に締め出すなんて、熱中症で倒れたらどうするんですか!!」

「その時は救急車呼んでやる」

「ダメです! せんぱいが人工呼吸してください。あっ、どうしましょう。フラフラしてきましたよ? せんぱい助けてください……へるぷみー」


 ゆゆはわざとらしく頭に手を当て、その場にフラついた。

 俺はそれを無視して藤林の元へ行く。


「悪い。話の途中だったな。うるさい奴が来たけど我慢してくれ」

「それは別にいいけど……」

「せんぱいまた酷いです!!」


 すると無視されて怒ったゆゆがこちらにやってきた。

 膨れっ面だ。

 ゆゆはそのまま俺から藤林にターゲットを変え、話しかける。


「あ、藤林先輩この前の球技大会振りですね!」

「え? あ、うん」


 藤林の反応はどこかぎこちない。多分、こういうタイプと会話したことがなかったのかもしれない。


「あの時はありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」

「えっと……? あの時って?」

「覚えてませんか? 踊り場で私が絡まれているところを助けてくれたじゃないですか!」

「踊り場でって……えっ!? あの時の!?」

「はい! あの時のです!!」

「へー、変わるもんだね」


 盛り上がってるな。俺は完全に蚊帳の外……。

 それはさておき、何やら二人は元より面識があった様子。それもおそらく、ゆゆが今の格好をする前にだ。


「というか、二人は球技大会でも会ってるよな?」

「まーあたしは、なんか可愛らしい子いるなーって思ってただけだから。また新世が他の子をたらしこんでるだけかと思って」

「人聞きの悪い言い方するな。誰がたらし込んでるんだよ」

「せんぱいにたらし込まれました。もうタラタラです」

「お前は黙ってろ」


 本当にややこしい。この二人結構、息合ってないか。主に俺を困らせる方向で。勘弁してほしいんだが。


「で、藤林先輩はなんでここにいるんですか?」

「え? まぁ、色々? 泊まったりしてた」

「ちょっ!?」


 余計なこと言いやがって! しかも泊まったのは一昨日だろ!!


「え、泊まっ……せんぱいのえっち!!!」

「違うわ!!!」

「しょ、しょうがないからゆゆも同じことしてあげてもいいですよ?」


 もうやだ付いていけない。

 ゆゆがここに来てからやたらと暴走しているように思える。


「でも新世ヘタレだし……」

「はっ、そうでした……!! もしかして藤林先輩の時も……?」

「何も」

「せんぱいには失望しました」

「お前は俺にどうなって欲しいんだよ」


 全くもってわからん会話をするな!!

 朝からスッゲー疲れる。


 俺が二人の対処にゲンナリしているとさらに試練は訪れる。


 ──キンコン。


 本日にして二度目の来訪者を告げる鐘の音が聞こえた。


 朝から疲れ果てながらも玄関に向かい、戸を開ける。


「あ、新世。おはよう。来てあげたわよっ!!」

「おはよう、伊藤くん」


 そこに現れたのは、優李と倉瀬だった。


 なんかデジャブ……。

 そしてなんで君たちは俺に連絡してこないんだ?


「ごめんね。昨日から連絡しても返事なかったから心配になって来ちゃったの」

「あっ……」


 昨日は全てを投げ出し、一昨日から続く疲れのため速攻で寝たのだった。

 悪いのは俺だった。


「そうよ! 私からの連絡も全部無視するじゃない!! だから来たの!」

「悪かったって。疲れて寝てたんだ」

「疲れたって、昨日は何してたの?」

「……色々だ」

「何の間よ」

「……まぁ、とりあえず入るか?」

「ええ。七海、入りましょ!」

「うん、お邪魔するね」


 優李の問答を適当に流しつつ、二人を家に招き入れた。

 もちろん、カフェスペースには既に二人の客人がいるのですぐに藤林たちが優李たちに気がつき、声をかける。


「あ、朝霧先輩、倉瀬先輩! おはようございます!」

「ゆうりっちにななみん! どうしたの?」

「紗奈ちゃん、ゆゆちゃんおはよう!」

「二人ともどうしたの? 珍しい組み合わせね」

「せっかく夏休みに入ったんでせんぱいに会いに来たんですよ。寂しいかなって思って! 朝霧先輩もそうなんですよね?」

「だ、誰が寂しいのよ!」

「こういうのは素直にならないと損ですよ〜」

「べ、別に私は……」

「朝霧先輩可愛いですね」

「……っ!」


 和気藹々と女子たちだけで会話が始まった。

 男子が一人だけっていうのあって何だか置いてきぼりな気がする。

 もう俺のことは放っておいていいから、みんなで勝手におしゃべりしておいてくれないだろうか?

 俺はその間、三度寝をする。


「こら新世、どこ行くの? あたしたちがいるのに」

「いや、みんなで盛り上がってるんで、二階で寝ようかなと」


 シレッと上に上がろうとしたら藤林に見つかった。


「ダメよ! せっかく来たのに!」

「つったって俺がいて何するんだよ」

「それは……」

「新世、なんかないの?」

「急な無茶振りするな」

「せんぱい、今日はゆゆとイチャイチャするのはどうですか?」

「い、イチャイチャ!!? 三谷さん、何言ってるの!?」

「あ、朝霧先輩も一緒にします? せんぱいハーレムですね」


 ……どうしよう、こいつら。


 そんな中、頭を悩ませていると倉瀬が声をかけてくる。


「ねぇ、伊藤くん。今日、店長さんいないの? お店お休みの張り紙貼ってあったけど」

「ああ。しばらく用事で不在にしてる」

「お店はその間ずっとお休み?」

「その予定。まぁ、気分で開いてもいいって言ってたから風通しも込めてどっかで開けようかとは思ったけどやっぱり一人じゃな」

「じゃあ、こういうのはどうかな? 今日一日はお店開いてみんなでお手伝いしない?」

「「「それだ!!!」」」

「……え? マジ?」


 ◇


 そういうわけで俺のまだ寝たいという意見は却下されつつ、今日一日、日中限定でカフェ・カサブランカがオープンすることになったのである。


 綾子さんいないけど、本当にいいのか……?

 本人はいいと言っていたが、学生だけで開けて何かあっても責任を取れる人がいない。

 不安がよぎりながらも綾子さんには念の為、連絡を入れた。


 するとなぜかやってきた更なる訪問者。


「綾子がいない間の面倒は私が見ようじゃないか」


 我が担任、桐原先生である。


 ……なんでいるの?



────────


更新遅くなり申し訳ありません!


たまにはこういうみんなが揃った回も必要ですよね。草介いないけど。

ただヒロインいっぱい登場させると会話が難しいんですよね。

昔からの課題です。


ご感想お待ちしております!!


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