第126話 勉強会にも甘さは必要

「というわけで本日はこちら、優李さんが来てくれました」


 優李と遊びに行った当日の夜。

 一緒に紗奈に勉強を教えたいと言った優李を連れて行った。


 単純に友達として、紗奈を助けたいのもそうだし、俺の助けになりたいからだそうだ。

 最も、素直にそんな風には言わなかったけど。

 自惚れていなければ、多分そういう意味で言っていたと思う。

 それに、どうしてか理由を聞いたときに、


 ──だ、だって……新世だけだと頼りないでしょ!?


 って言ってたから。

 うん、多分きっとそう。


 まぁ、それは建前だとして、頼れだとか支えたいだとか言われたしね。そっちが本音だろう。


 そんな優李の登場に紗奈は目を輝かせる。


「ゆうりっちも来てくれたんだ!」

「ごめんね、紗奈。急に来ちゃって」

「全然大丈夫! 新世だけだと変なことされるかもしれないからゆうりっちがいてくれた方が安心だし!」

「…………」

「優李、そんな目で見るな。紗奈も変なこと言うなよ。マジでしてないからな」

「あはっ。一日一回は新世からかうのがあたしのルーティンだし?」

「変なルーティン作るな」


 しかし、否定しても会うたびにからかわれている。紗奈と会う以上、もはや避けることは不可能な気がしてきた。


「とりあえず、何か頼んで始めるか」

「ええ」

「りょ!」


 いつものようにドリンクバーで飲み物を入れてから教科書を広げ始める。

 今日の科目は国語と社会。社会は主に地理と日本史が中心だ。


 今日の勉強会は優李がいることもあり、かなりスムーズに進んでいく。

 さすが学年順位一桁ということもあって、教え方も俺よりわかりやすい。


 紗奈もどんどん吸収して行っていつも以上の集中力を保って勉強を進めていた。


 ……あれ? これ、俺いらなくね?


 勉強中何度も思いました。

 だが、玲奈さんとの約束もある手前、俺がほっぽり出して優李に任せるのも何か違う。


 だからと言って、せっかく優李がしっかり教えてくれているところに間を割るのも気が引けた。


「うん。だから、ここがこういう意味になるってこと」

「あ〜!! さすがゆうりっち。ほんと助かる〜!」

「ふふ、どういたしまして」


 それにしても昔を思えば、かなり仲良くなったよな。登山の時なんて一触即発だったのに。

 ほんの数ヶ月前だと言うのにかなり懐かしく感じる。


 俺は嬉しいぞ。二人が仲睦まじく勉強を教え合うほどにまで成長して……!!

 

「何変な顔してんの? 新世」

「どうせスケベなことでも考えてたんでしょ」


 二人を見て、うんうんと頷いていたら怪しまれてしまった。

 ……いつまでもスケベを引っ張るのはどうかと思うぞ、優李。


「あ、もしかしてこんな美女二人と一緒に勉強できて緊張しちゃってるとか?」

「ありえるわね、新世のことだから」

「いや、してないけど」

「むっ。童貞のくせに」

「こら! そういうこと言うな!」


 俺と二人の時だったらそういうのもいいけど、優李もいるんだからやめろよな。

 翠花だったら全くわからず、スルーしそうだけど、優李は……。


「…………っ」


 ……普通に顔を赤くしていた。恥ずかしそうに。

 やっぱりそういう方面には耐性ないのな。


「何よ? こっち見て何か言いたいことでもあるわけ?」

「べ、別にないって」


 くそ。反応するなよ、気まずいだろ!


「で、二人は今日は何してたの? 遊んでたんでしょ?」

「こら、勉強は?」

「ちょっとくらいいいじゃん! 予定より進んでるんだし。さっきから集中してたし、息抜きがてらにさ」

「息抜きってな……」

「別に普通にお昼食べに行って、ぶらぶらしてただけよ」

「何かアクシデント的なのは?」

「一体何を期待してるのかわからんがそんなのないからな」

「そ、そうよ! べ、別になかったわ!!」


 おい、変なリアクションするなよ。あったみたいだろ。

 ……と言ってもラーメン屋で意図せず手を繋いだくらいか。


 あ、だめだ。思い出したら恥ずかしくなってきた。


「怪しい……」

「な、なんでもないわ! それより、紗奈。お腹空かない? このポテトとか頼まない?」

「んー、誤魔化された気がするけど、ポテト食べたいからいいよ!」


 優李はその返事を聞いて、タッチパネルから食べ物を注文する。

 そしてしばらくして、頼んでいた食べ物が運ばれてきた。


「ポテトだけじゃなかったのかよ」


 運ばれてきたのはポテトの他にパフェ。しかも二人分だ。

 しょっぱいのと甘いの。合うのか……?


「当然でしょ。頭使ったら糖分が必要になるのよ。はい、これ紗奈の分」

「ありがと、ゆうりっち」


 昼間は甘いものがどうとか言ってたくせに。

 ガラスの器の中には、色とりどりのフルーツと、クリーミーなアイスが美しく盛り付けられている。二人とも目を輝かせながら、スプーンを手に取り、ひと口をすくって口元へ運んだ。


「んっ…美味しい!」

「やっぱこれだよねぇ!」


 幸せそうで何より。二人とも美少女なだけあって絵になる。


 ファミレスなだけあって、俺たちと同い年くらいの学生も利用している。

 そんな彼らから見てもやはり二人はかなり目立つのか、羨望の眼差しを感じた。


 ──あの子たちやばくね?

 ──うわ、あの男が連れ? パッとしなくね?

 ──ハーレムかよ。ムカつくな。

 ──変わってくれよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!


「……」


 少々居心地が悪い。というか、草介みたいなやついなかった?

 それはさておき二人は、周りのそんな視線などものともせず、楽しそうにおしゃべりしながらパフェを啄んでいた。


「何見てんの? もしかしてほしいの、新世?」

「あんたにはあげないわよ?」


 そんな様子を微笑ましく見ていたら紗奈たちに気づかれた。

 優李はパフェを守るように手で隠す。別にいらねぇよ。


「いいよ。あたしの一口あげる。あ、あーんしてあげよっか?」

「ちょ、紗奈!?」


 一方の紗奈は優李の前でもいつものように俺をからかってきた。

 人前であーんは、さすがに無理だ。人前でなくてもやんないけど。


「いや、別にいいって……」

「いいからいいから!」


 紗奈は俺の言葉など無視して、小さなクリームとチョコソースのかかったバナナを一緒に掬った。


「これめっちゃおいしいから。勉強のお礼だって!」


 どうやら紗奈はからかっているつもりはないようだ。

 てっきり俺の反応を楽しんでいるのかと思ったが、純粋に言葉通り、お礼のつもりらしい。


「ちょっ!? むぐっ!」


 反射だった。

 顔の目の前に急に押し付けられる形でスプーンを向けられたことで結局、紗奈のあーんを受け入れてしまう形になったのだ。


 口の中にクリームとバナナの甘み、そしてほのかにビターなチョコが広がっていく。


「どう?」

「……うまい」

「でしょ?」


 得意げな顔で紗奈は前のめりになっていた体を元に戻す。

 あーん、されてしまった。してしまった。


 終わってからその事実がまた羞恥心に変わる。

 これが1対1ならまだこの恥ずかしさも誤魔化せた。しかし……。


「──」


 優李がいる。目の前でカッと目を見開いている。怖いんだが。


 別に下心があったわけではないのだが、何となく気まずい。

 というか、女子からあーんされるところを他の人に見られるのは普通に恥ずかしいわ。しかもそれまた他の女子に。


「ゆ、優李?」

「……」


 俺が声をかけると優李は俯いたまま何も話さない。


「────……さい」

「え?」


 少し低めの声で何か言ったが、うまく聞き取れない。もしかして、怒ってる?








「わ、私にもあーんされなさい!!!」

「……」


 勘弁して……。


────────


修羅場「おいっす」


更新一日遅れてすみません。最近忙しくて……。

紗奈は特別意識しているわけではないですが、それに優李は刺激されてる感じですね。

修羅場って言ってもそこまで激しいものではありませんが。このくらいが平和でしょう。


ご感想お待ちしております!

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