第9話 未来予知したら銀髪ギャルをナンパしてしまった
転校してから数日が経った。相変わらず隣の席の朝霧との仲はよくはないが、とりあえずは無条件で敵意を向けられることはなくなった。
それだけでもマシになったということだろう。
そんな俺は寝坊で遅刻が確定してゆっくりと学校へと向かっていた。
アラームに起きれなかった俺の落ち度ではあるが、慌てて自分の部屋を飛び出すとリビングには優雅に朝食を取る綾子さんの姿があった。
どうして、起こしてくれなかったのかと聞けば、寝てる男見ると襲いたくなるんだよね、という斜め上の回答が返ってきた。
今度、ホームセンターで鍵を買ってきて部屋につけようと思う。
「ふぁぁ〜、ねむ」
起きた瞬間は焦っていたが、もうどうにもならないと分かると人間、逆に冷静になるものだ。
こうなったら開き直って、ゆっくり学校へと向かうことにした。
「ッ!?」
だがしかし、そこへやってくる唐突な頭の痛み。
***
「ねぇねぇ、君? どこ行くの?」
「学校なんてサボって遊ぼうよ」
「なぁ、いいだろ?」
「……はぁ」
道端で女の子がガラの悪そうな男子高校生二人に絡まれていた。
所謂ナンパというもの。
俺はそんな様子を道端から遠目に見ていた。
俺と同じ学校の制服を着た銀髪の女の子はそんな男たちを一瞥し、心底面倒そうにため息を吐いた。
「邪魔。あんたらと遊ぶなんてありえないから。とっとと失せてくれる?」
「へぇ? 度胸あるね」
「調子乗らない方が身のためだと思うけど」
拒絶した女の子にすごむ男たちの姿。
「あ、お前何見てんだ?」
そしてそれを見ていて絡まれる俺。
***
「…………」
映像はそこで途切れた。
先ほどの道には見覚えがある。それはこれから俺が学校へ行くために使う道だからだ。
「また面倒なもんが見えちまった」
思わず呟く。
ああいう輩は無視するに限る。
できれば、視界にも収めたくないね。エンカウントしないように素通りさせてもらおう。
俺は、できるだけ早足で学校までの道を進む。
絡まれていた女の子には悪いが放っておいたところで俺の人生に何一つ影響はない。女の子がチャラそうな男にナンパされるだけ。そしてそれを拒否して険悪になる。ただ、それだけなのだ。
別に道はいくらでもある。その道を使わなくても学校へは行ける。次の曲がり角を曲がらずまっすぐ行けばいいのだ。
先日のように命に関わるなら俺だって黙って見過ごすことはなかっただろう。でもナンパくらい。
──正直、関わるのがめんどくさい。
それが本音だった。
「あっ」
しかし、そんなことを考えていた矢先。
本来曲がるべき角で俺の目の前を通過したのは先ほどの映像に出てきた銀髪の女の子だった。
そのまままっすぐ行けば、先にいる男たちと予知した内容通りのことが起きるだろう。
そうなれば彼女は……。
「……なぁ」
「……は?」
「そっちやめといた方がいいと思うけど」
「意味わかんないんだけど」
だよな。意味わかんないよな。俺もわかんない。なんで声かけちゃったかな、俺。
声をかけたことを後悔した。
女の子は訝しげにこちらを睨みつける。
銀髪で着崩した制服に鋭い目つき。化粧もやや濃い目だがまつ毛も長くかなりの美人。そして威圧感。
その見た目は俺が最も苦手とするタイプ……ギャルだ。
よりにもよってそんな存在に声をかけてしまった。
困った。どうしよう……?
まだまだしてたら、ガラの悪い男たちがきてしまうかもしれない。
「……っ!」
***
「なぁ、こんなやつ放っておいて、俺たちと遊ぼうよ」
「いや、俺は別に……」
「お前には聞いてねぇんだよっ!!」
「がっ!?」
***
そしてどうしようか考えていると再び、一瞬ではあったが、未来が視えた。
もたついている間、俺ごと絡まれて、問答無用で殴られてる未来。
「…………」
悪化してんじゃねぇか!!
というか、え、ガラ悪過ぎない!? なんなの、こいつら!?
ああ、畜生。早くここから離脱しなければ!!
焦りながらも着実に近づいてくる男たちの声。そして冷めた目でこちらを相変わらず睨みつけるギャル。
こういう時、自分のコミニュケーション能力の乏しさが悲しくなる。
「何、黙っちゃって? 何も用がないなら──」
「あー俺と遊ばない?」
「…………は?」
「間違えた」
いや、本当に間違えた。
ナンパ野郎たちなら、なんて声をかけるだろうなんて考えていたらこの有様だ。
焦りすぎてついとんでもないことを口走ってしまった。
俺は一体何を言ってるんだろうか。ナンパから助けるためにナンパって馬鹿なのか……?
後悔したって遅い。
こんなの絶対に答えは決まってる。ヘタしたらこちらに来て二度目のビンタを覚悟しなければならない。
「別にいいけど」
「……え?」
あれ? なんて言った?
返ってきた言葉が予想していなかったものであることに数秒遅れて気が付く。
それ故に固まってしまった。
「……とりあえず、あっち」
「あ、おい」
銀髪ギャルは声が近づいてきた方を一瞥するとそのまま俺の手を引いてその場を離れた。
◆
銀髪ギャルに連れられてやってきたところは、橋の下だった。
途中で寄ったコンビニでパンを買ったギャルは袋を開けてそれを口へ頬張る。
ギャルはコンクリートの地面を気にすることなく、その場に座っている。
おかげで短いスカートからギャルのソレが見えそうになっていることに気がつき、俺は慌てて目を逸らした。
……というか、何この状況。
誘ったのは俺だが……なぜに橋の下? ここで一体何を?
スマホを見るも時刻は一限目の終わりの時刻を記していた。家を出た時点で遅刻は確定していたので今更気にすることじゃないが、完全にサボってしまった。
ギャルを見るとパンを食べ終わったのか、紙パックのミルクティーをストローで飲んでいる。
しばらくするとズコーと、そこから紙パックの中身が空になった音が聞こえてきた。
「ぷはぁ〜、朝食べてなかったから生き返るわ〜。で、あたしに何か用?」
「いや、用って言うか……」
「遊びに誘ったのはそっちでしょ?」
「そうなんだが……」
あの男たちに絡まれるのを回避するのについ飛び出してしまった言葉とは言いづらい。
「なに? 私と一発ヤリたいの?」
「は、はぁ!? いきなり何言ってんだ!?」
マジで何言ってんだ!
見た目で人を判断するわけじゃないけど、やっぱりそういうタイプなのか?
いかにも……だ。
「うわ、童貞っぽい反応」
「いきなりそんなこと言われたら誰でもこんな反応になるわ!」
「うそ。さっきも私のパンツチラチラ見てたくせに」
「ち、違うからな!!」
あれは見えそうになってただけだから!!
ちゃんと中は見てません!!
「へぇ〜、あたしのパンツには見る価値もないって?」
立ち上がったギャルは悪戯に笑いながら、自らのスカートをひらりひらりとなびかせる。
「ゴクリ……」
しかし、いくら言い訳しても男というのは悲しい生き物。
その事実からは逃れられない。俺はその動作に一瞬、釘付けになってしまったのだ。
「やっぱり見たいんじゃん。スケベ」
「あっ、いや、これは……」
「スケベ」
「…………」
これは完全に俺の負け。このギャルとの駆け引きに負けたのだ。
……次はスケベか。
朝霧に続き、このギャルからも。転校してきてから俺は変態街道まっしぐらだ。どうしてこうなったのか。
「あはは、うそうそ。じょーだんだって。ちょっとからかっただけ」
俺の焦った表情を見たギャルは腹を抱えて笑いだした。
弄ばれてる。これは完璧におもちゃにされている。
これだからギャルは苦手なんだ。
「危ないって教えてくれたんでしょ?」
「え?」
「さっきの道、真っ直ぐ行ってたら東高の男いたもんね。あのままだったら間違いなく絡まれてた」
どうやら俺がしたことは無駄ではなかったらしい。東高の男がいかなるものか知らないが、どうやら見た目通り柄がよくない高校のようだ。
「だから一応、お礼言っといたげる。ありがと」
「あ、ああ」
素直にお礼を言われたことに驚きつつも返事をする。
見た目で判断するってのはやっぱりよくないな。もしかして思ってたより、いい子なのか?
「じゃあ、お礼に一発ヤる?」
「…………」
「あはは、じょーだんだって。いくらあたしでも今日会ったばっかの男とはしないって。顔真っ赤にしちゃってー」
前言撤回。また、からかわれた。このクソビッチがッ!
「ま、せっかくサボったんだし? ちょっと付き合ってよ」
「え? あ、ちょ!?」
俺はまたギャルに手を引かれ、その場を後にした。
有無を言わせない言動……やっぱりギャルは苦手であることを再認識した。
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