第80話 たまには休みも必要だよね

『やっほー。伊藤くんよろしくねー⭐︎』


 中城から岡井さんの連絡先を教えてもらった俺は、その日の晩に早速岡井さんにラインを送った。


 現在の時刻は23時。

 送るまでに若干時間がかかったのは、理由は何度も送る内容を打ったり消したり、繰り返していたからである。


 あまり話したことのない女子にラインを送るのはなんだか緊張する。

 さらに言えば、それまた別の女子のことを聞くという状況も送り辛さに拍車をかけていた。


 しかし、なんとかラインをしたためて送ったにも関わらず、一分も掛からず返ってきた内容は簡素なものだった。


 あの時間は一体……と思わずにはいられなかった。


 そしてこの後、どう続けようかななんて思っていると電話がかかってきた。

 相手はもちろん岡井さん。

 行動力が凄まじい。


 俺は軽く咳払いをしてから、そのコールを取った。


「もしも──」

『中城から聞いてるよ〜。翠花のことが気になるんだって!? キャーーーー!!!!』


 開口一番にこちらが声を発する暇もなく、スピーカーから騒がしい声が聞こえてきた。


 うるさ……。

 しかもなんか含みのある言い方された。なんだ気になるって。中城め、変なこと吹き込んだじゃないだろうな?


「いや、あの、岡井さん? なんか勘違いしてない?」

『ふっ。みなまで言うな。私は分かってるから。この私に任せておきなさい!!』

「いや、絶対なんか読み間違えてるよね!? 不安なんだけど!!」

『だいじょーぶ、だいじょーぶ! 翠花が心配なんでしょ? 中城から聞いてるって』

「……まぁ、ちゃんと聞いてるんならいいけど」


 アイツ……ちゃんと本当のこと伝えてるんだろうな?

 いささか不安である。


『翠花の様子がおかしい件だよね?』

「そう、それ」

『確かに最近の翠花、様子がおかしいんだよね。思いつめてるって言うか……。中城も言ってた通り、大会のこと気にしてるのかなって思ったんだけど、それで元気ないのは最初だけだったし。本人もそれは吹っ切れたみたいなんだけど……』

「岡井から見てもそうなのか。何か別のことで悩んでるってこと?」

『うん、そんな感じ。それなのに部活は、いつも以上に集中してるんだよね。怖いくらいに。だからなんとなく部活関連のことだとは思うんだけど、私が聞いても教えてくれないし。ショックだなー』


 岡井さんからは心配そうな気持ちが伝わってくる。

 本当に翠花と仲がいいのだろう。


「まぁ、部活関連のことなら同じ部活同士ってことで話しにくいんじゃないか?」

『かもね。翠花ってあんまりこういうの人に話さないって言うのもあるし』


 岡井さんから聞く限り、やはり翠花は何かに悩んでいるというのは、間違い無いようだ。

 それも部活のことでか。大会のことが原因じゃないなら一体なんなのだろうか。


『でさ。私じゃあんまりそういうこと話してくれないから、よかったら伊藤くんも協力してくれない?』

「それはいいけど……協力ったってな。俺にできることなんてあるのか?」


 そもそも俺は何がしたかったのか。藤林に頼まれたというのもあるが、単純に元気がないという翠花が心配だった。それだけ。

 彼女の悩みを漠然と聞こうとは思ったが、その先は考えてなかった。

 ……こんなんだから優李にも中途半端な優しさと言われるわけだな。


「それこそ部活での問題なら部外者の俺が出しゃばるのもなんか違う気がするんだが」

『だいじょぶだいじょぶ。そこは部活関係なくさ、翠花のことリフレッシュさせてくれたらそれでいいから!』

「リフレッシュ?」

『そうそう。ここのとこ、ずっとバスケバスケで根詰めてるから。たまには気晴らしも必要ってこと』

「それっていつもじゃないか?」

『それでもってこと! たまには部活離れて、そういうのも必要だと思うんだよね。練習が休みの日だって、あの子公園でバスケしてるくらいだからね』


 恐るべき熱量だな。何が彼女をそこまで突き動かすのか。


「で、俺はどうすれば?」

『そりゃ、今度の練習の土曜にでも遊びに連れてってあげるんだよ』

「遊びに? そんなんでいいのか? というか……部活じゃないのか?」

『もちろん、土曜は午前練だからね。午後からってわけ!』

「部活終わりにハードだな……でも二人っきりは流石に……」


 一緒にバスケをした中ではあるが、二人っきりで出かけるほど親密度は高くないつもりだ。俺は別に構わんが、向こうがどう思っているかはわからない。


『まぁ、確かに二人だったら断られる可能性もあるから、そこはみんなでね! でもバスケ部のメンバーだけだったらやっぱり気が休まないと思うから、そこで伊藤くん出番ってわけ』

「なるほど……? でも翠花や岡井さんはよくても、他のバスケ部のメンバーの中に俺がいたら浮かないか?」


 そこがある意味一番不安だ。この前、翠花たちとうちの店に来たときの男子なんて、妙に俺に反感持ってた気がするしな。というか、男子と女子は練習時間違ったりするかもだからそこの心配はしなくていいのか?


『そこは、メンバー考えるから任せといて!!』


 不安しかないんだが。他に俺が気を遣わないメンバーが想像つかない。まぁ、ここで断っても仕方ない。

 そうして俺は、岡井さんの提案に乗ることにして、今度の休み翠花たちと遊びに行くことになった。


『……にしてもさすがだね』

「なにが?」

『翠花のこと好きなだけはあるよねーって』

「……なんて?」

『え、翠花のこと好きなんでしょ? だから、こうやって好きな人の友達からどうにか、情報を仕入れて、どうにかしてあげようとしてるんでしょ? 中城からそう聞いたよ。いや〜愛だね〜』

「…………」

『……あり? 伊藤くん?』


 ほれみろ、変な方向で伝わってるじゃねぇか!!

 またアイツやりやがったな!!


「いや、好きとかじゃなくてだな……純粋に友達として、心配なだけだって」

『またまた〜まぁ、そういうことにしといてあげるよ。じゃ、もう遅い時間だから、私はそろそろ寝るね〜ばいば〜い』

「ちょっ──」


 俺が止めるも虚しく、電話が切れる音がスピーカーから聞こえてくる。


 中城のヤロウ……やってくれるじゃねぇか……。


 その後、俺は念のため、岡井に翠花のことはただの友達であることを念押しで送っておいた。


 しかし、猫が何かを企んでいるようなスタンプだけが返ってきただけだった。


 くそ。これ絶対変な勘違いしてるな……。

 め、めんどくさ……。


 考えるのも面倒になった俺はスマホをベッドに放り投げ、そのままその日は不貞寝した。


 ◆


「はぁ……疲れた……」


 私、瀧本翠花はベッドに寝転がって、枕に顔を埋めた。


 ここ最近は、部活が終わっても体育館が閉まるまで自主練を続けているせいで帰りが遅い日が続いていた。

 練習して、帰ってきてからシャワー浴びて、ご飯食べて、寝る。

 そんな毎日の繰り返しだった。


 それでもうまくなるためにはそれだけじゃ足りない。もっともっと、練習しないとあの人には追いつけない。


 次の土曜日は、午前練だけだし、お昼からも体育館空いてたら練習しよーっと。空いてなかったらまたいつもの公園かな……。


「ああ、眠……」


 そしてそんなことを考えながら、ゆっくりと睡魔に襲われそうになったとき、スマホの電子音が私の目を覚醒させる。


「……なにー、もう……」


 深い息をついて、枕元のスマホを手に取る。

 ナツからのメッセージだった。


『今度の土曜日、午後から出かけよ!』


「……急だね、ナツが珍しい。午前練の後にお出かけって元気だね……でも断ろ。もっと練習しないといけないし」


 どう断ろうか、考えていると続いてメッセージが来る。


『あ、言っておくけど拒否権なし! 伊藤くんにも翠花来るって言ってるからね!』


「え、新世くん!? なんで新世くんが……しかも拒否権なしって……もうっ、ナツ……」


 何がどうなってるの……? なんでナツと新世くんが? 一体いつの間に仲良くなったのさ。


「んん〜? どうしよ……」


 断りの文言を考えているうちに再び、睡魔に襲われた私は、断りの返信をせずに目を閉じてしまったのだった。


──────


ここでも勘違いが生まれてしまいましたね。

中城くんが暗躍して、知らないところで外堀が埋められていきます。

新世くん頑張れ!!


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