第78話 太陽もたまには曇ったりするらしい

 あたし、藤林紗奈はここ最近、遅刻をしないで真面目に学校に登校している。

 と、いうのも以前とは違い、あたしに友達ができたことが大きいのかも知れない。


 以前まであたしは学校でも一人ぼっちだった。こんな見た目をしているせいか、周りからの評判も良くはなく、挙げ句の果てには変な噂まである始末。


 だから学校へ行くことがどうしても億劫だったのだ。奇異な目で見られるのはあたしでも耐えがたいものがあった。


 しかし、最近学校へ行くのも悪くないと感じている。


 理由としては、”友達”ができたことが大きな理由だ。


 隣のクラスのゆうりっちにとななみん。あの林間学校以来、彼女たちと仲良くなった。特にゆうりっちとは初め、お互いに嫌なことも言い合ったが今はとても仲良くしてもらっている。


 後は……新世? 新世はなんていうか、友達っていうかなんなんだろ。悪友とも違うし……サボり仲間? からかい相手?

 自分でも良くわかんないけど、まぁ、一応友達というカテゴリに入れておいてあげようと思う。


 そんな友達ができてからいつしか、学校へ行くのも悪くないと思うようになっていた。


「最近、よく学校くるよね」

「なんでだろ……」

「怖いね」

「でもエロいよなぁ……」

「土下座したら、やらせてくれねぇかな」

「おい、聞こえるぞ」


 ただ、学校へ来てもいいことばかりじゃない。

 ゆうりっちたち以外からの私に対する評判は何も変わっていない。


 やっぱ、来るんじゃなかったかな。

 そう思い、立ち上がって教室を出ようとする。


 教室の扉を開けて、一歩踏み出す。


「……いたっ」


 すると誰かあたしにぶつかりその場に尻餅をついた。


「あ、ごめん」


 反射的に謝るあたし。

 頭を押さえる彼女にあたしは、手を差し伸ばした。


「いてて……あ、藤林さん。ありがとう」


 手を取って初めてそれが誰かわかった。相手は林間学校の時も仲良くしてくれた瀧本さんだった。


 あの日から、優李たちほど仲良くしているわけではないが、クラスでは積極的に浮いているあたしにも話しかけてくれる奇特な人物だ。


 太陽。

 そんな言葉が似合う彼女はあたしとは違って、いつもニコニコと笑顔でクラスの中心にいる。


 しかし、今日ばかりはそんな笑顔もどこか曇っているように思えた。


「どうかした?」

「え?」

「いや、なんか元気なくない?」

「え、えーっと、なんでもないよ!! あ、それよりもう直ぐチャイムなるよ? どこか行くんだったら早く戻ってきたほうがいいよ!!」

「ん、そうする。ありがと」


 あたしはそう言い残して、教室を後にした。



 そして、それからも今日一日、瀧本さんを観察していた。

 理由としては、なんとなく気になるから。


 クラスに友達がいないあたしは、よく瀧本さんに助けてもらっている。

 だからそんな彼女が困っているなら力になってあげたいなって思ったのだ。


「なんていうか、新世っぽい」


 前までは他人に気をかけるなんてことは一切しなかった。それこそ、他人なんてどうでもいいと思っていた。


 最近友達ができてから、ううん、それよりもっと前。新世と関わるようになってから少し自分が変わったような気がしていた。


 新世ならこういう時、どうするんだろうかと考えればやっぱり助けてあげるんじゃないだろうか。


 そうして、観察しているうちに何度も瀧本さんがため息をついているのがわかった。

 周りにはそれでも空元気と言うべきか、いつも通り振る舞っているので彼女の様子がおかしいと指摘する人はいなかった。


「翠花ー、次の教室行こー」

「あ、うん。ごめんね、先に行ってて! ちょっとお手洗い行ってから行くから!!」

「りょー」


 次の授業では教室を移動しなくてはならない。

 瀧本さんは友達の誘いを一旦断った後、お手洗いに行くのかと思いきやその場に留まっていた。


「はぁ……」


 どうやら悩みは深刻らしい。

 一人になって大きくため息をついていた。


「瀧本さん」

「──ッ!? え、藤林さんいたの!?」

「いたよ。ずっと座ってたけど」

「ご、ごめん。気がつかなくて!」

「それより、やっぱりなんか悩んでる?」

「え? あ、えーっと……」


 瀧本さんの目が泳ぐ。どうやら彼女に嘘はつけないようだ。


 よし、言え。言うの、紗奈。


 あたしは、胸に秘めていた想いを思い切って口に出す。


「そ、そのさ。いつも学校きたら助けてくれるから。その……と、友達じゃん?」


 ──言えた。自分から言うのは気恥ずかしかったけど、あたしと瀧本さんの関係はそう言って問題ないはず。

 あたしの独りよがりでなければ……ないよね?


「……ありがと! そうだよね、でも大丈夫! これは私の問題だから!!」

「……」


 だけどあたしの想いは届かなかった。やっぱり新世みたいにうまくいかなかった。そのことに少し落ち込む。


「あ、でも気にかけてくれただけで嬉しいよ!! ありがとね、紗奈ちゃん」

「……!!」


 突如名前で呼ばれたことにより、先ほどまでの落ち込んだ気分が吹き飛ぶ。


「えっと、友達だし、ダメかな?」

「──いい」

「え?」

「全然いい!! 瀧本さんのことも翠花って呼んでいい?」

「うん、いいよ」


 そうして、あたしは瀧本さん──翠花とより仲が深まった。


 ◆


「ってわけなんだけどどう思う、新世?」

「……ああ、良かったんじゃないか?」

「なんか適当に答えてない?」

「ないない」


 放課後。

 藤林に待ち伏せをくらった。そして話がしたいと言われたため、我が家に連れてきたのだ。

 あれ、これだとなんかいかがわしく聞こえる。

 訂正しよう。居候先のカフェ──カサブランカに連れてきた。


「それでどう思うって聞いてんの!」

「話の脈絡がわからん」

「そのさ。翠花落ち込んでるんだけど、あたしには理由話してくれないから。どうすればいいのかなーって。せっかく友達になったんだし」


 どうやら話を聞けば、学校に登校するようにはなったもののクラスで浮き気味な藤林に優しくしてくれたのは翠花らしい。

 そして正式に?友達となったため、その友達の悩みを解決してあげたいらしいのだ。


「かわいいとこあんだな」

「──はぁ!? 何言ってんの!?」


 藤林は、少し動揺して頬を紅潮させた。


 ミスった。口がうっかり滑った。


 優李とも友達になった時、嬉しそうにしていた藤林。変な噂もよく聞くし、今まであまり友達がいなかったのかもしれない。


「それで俺にどうしろと?」

「そんなん簡単じゃん。新世が悩み聞いてよ」

「他力本願かよ」

「だって、新世、翠花とも仲良いんでしょ?」

「そりゃ、まぁ……悪くはないと思うけど」

「それにこういうの新世得意じゃん?」

「別に得意とかないから」

「じゃあ、決定! この後、お礼に部屋行こうか?」

「おい、どういう意味だ。その前に待て、まだやると決めてない!」

「え、やるって何を? ヤりたいってこと?」

「声がでかい!!!」


 その後、俺は藤林のペースに乱されながらもどうにか話を戻し、結局、翠花の悩みを聞くこととなったのだった。 


 ──────


 最近、未来予知してないな。

 そう思わずにはいられません。未来予知の内容考えるのって結構、大変なんですよね。

 後、久しぶりの藤林さんでした。

 七海もしばらく出てないし、いろいろ出すの大変だな〜。


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