第113話 未来を避けても避けられないものがある

 その後も藤林に連れられ、店内を巡る。


「新世、これどう?」


 よく行くという数店舗を回って今は、新しくオープンしたという服屋を訪れていた。

 そこでいくつかの服を手に取った藤林は迷うことなく、フィッティングルームへと向かう。

 そして試着しては俺に見せてくる。


 シャッとカーテンを開けて出てきたのは、清楚感のあるワンピース姿。なんというかギャルの藤林っぽくはないチョイスではあるが決して似合っていないわけではなかった。


「あー」


 それについてなんと答えるか迷うところだ。


「ほら、早く感想言ってよ!」

「今朝はせっかちだなんだと俺に言ってなかったか?」

「それとこれとは別!」

「まぁ、そういう格好も似合うんじゃないか?」

「ふーん。新世こういうの好きなの?」

「いや、別に好きってわけじゃ」

「まぁ、いいやとりあえず買お」


 即決かよ。俺に聞いた意味あったんか?


「あら、お客様、お似合いですぅ」


 とそこへこの店の店員さんがやってくる。どうやら服を大量に持ち込んでいる藤林を見て、たくさん買ってもらおうと声をかけてきたのだろう。

 ただ藤林はそれをあまりよく思っていないようで少しだけ顔を顰めた。


 こういうのって話しかけられて嬉しいタイプと嫌なタイプいるから難しいところだよな。


「お客様が着ているワンピースもいいんですけどぉ。こういったのも今年のトレンドでぇ」

「ふーん……」


 藤林のそんな態度とは裏腹に店員は服を一生懸命勧める。涙ぐましい営業努力である。ただその甘ったるい感じの話し方はやめてほしい。勧められているのは俺じゃないんだけどな。


「きっとこれであの彼氏さんもイチコロですよぉ!」


 そして彼氏じゃないぞ。

 しかし、それを聞いた藤林は少しだけ表情が明るくなった。


「あっ。あたしと彼、付き合ってるように見えます?」

「そりゃぁ、もうお似合いですよぉ!」

「だってさ。彼氏さん!」


 そう言って藤林は楽しそうに俺に言った。

 確かに二人でこうやって服を買いに来てるわけだからそう見られなくもないわけか。


 俺が少し顔を歪めたのを見ると藤林は満足そうな顔をする。


「じゃ、その服も試着するんでください。あ、あとはこっちで見てもらうので大丈夫です」

「かしこまりましたぁ」


 そしてチャッカリと店員を追い払いつつも新しい服の試着を始めたのだった。


 それから幾度となく、服装を変えてファションショーを繰り返す藤林を見た。

 毎回感想を言うだけでも大変である。


「こんなのはどう?」


 そして今度は丈の短いスカートに肩を出した服装……オフショルダーというものだった。

 それにしてもやたらと露出が多い気な。


「肌出過ぎじゃないか?」

「あ、何? やっぱり他の男に見られると嫉妬しちゃうタイプ?」

「違うから。俺は別にお前の彼氏でもなんでもないからな」

「あはは、わかってるってぇ!」

「その……肩出しすぎだろ。それずり落ちないのか?」

「もしかしてズレるの期待してる?」

「してない。単純に心配してるだけだっての」

「……」

「藤林?」

「あはは、ありがと! でも大丈夫だって。こういうのはちゃんとずれないようにできてるんだって!」


 そんなもんか。女の服ってのはわからん。

 ん? そういえばだけどこういうのって下着はどうなってるんだ? まさか……つけてない?

 ……いや、違うからな。決してそういうんじゃなくて、単純に構造的に気になるというかなんというか、本当にそれだけだからな!


「何、新世。固まっちゃって」

「い、いや! なんでもない!」

「ふーん。あ、わかった。いやらしいこと考えてるでしょ?」

「断じて」

「もしかしてブラのこと気にしてる?」

「い、いやー……」


 なんで分かりやがる。


「あははは、新世わかりやす! 気になるんだぁ。へぇー」


 くそ、ニヤケ面しやがって。


「確かめてみる?」

「っ!」

「ぷっ、あははははー!」


 だめだ。ここは藤林の主戦場すぎる。俺のフィールドで戦わなければ負けてしまう。

 何か反撃の手はないのか?


「いいからそれ買うのか? 買わないのか?」


 結局俺がしたことは話題を逸らすこと。それだけで精一杯だった。


「もう、せっかちは嫌われるよ? まぁ、でもまだ他も着たりないからまだもうちょっと待ってて!」


 そう言って藤林は再び、カーテンを閉める。


「はぁ……」


 いつまでこれが続くんだ。女子の買い物を舐めていた。

 そういえば初めて会った日もこうやって買い物に付き合って散々荷物持ちさせられたな。あの時は、片っ端から気に入ったやつ買っていっていたけど、今日に限ってなんで試着してんだ?


 そんなことを考えていると、少しの頭痛。いつものあれだった。


 ***


「伊藤? こんなところで何してるんだ?」


 店の外からわざわざ中に入ってきて声をかけてきたのは、中城だった。

 中城は、どうやら部活帰りだったらしく背中に『MIZUHARA』とプリントされた部活のジャージを着ている。


「中城か。部活帰りか?」

「ああ、そうだけど……ここって女性ものの服屋だよね。誰かと来てるの?」

「い、いや……」


 なんと答えようか迷ったその時。


「新世! こんなのはどう?」

「へぇ……」


 勢いよく開け放たれたカーテン。その奥から出てきた藤林を見て、中城は新しいおもちゃを見つけた子どもの如く、笑った。


 ***


「っ!」


 まずい!! 中城に藤林とこんなところにいるのを見られたら、絶対面倒なことになる!!

 ただでさえ、藤林だけでも手に余るというのに、ここにきて腹黒い中城だ。未来で見たあのニヤケ具合。碌でもないことになるに決まってる!


 俺は店をこっそりと出て周りをキョロキョロと確かめる。


 すると遠くに先ほど見たようなジャージを着た集団が目に入った。中城やこの前対戦した町田たちだ。

 きっとあそこからこちらを通った時に俺の姿を見かけた中城がわざわざやってきたに違いない。


 そうしているうちに中城たちは談笑しながら、こちらへ向かってくる。


 俺は焦りながらも店内に戻り、隠れるスペースがないかを探した。


「お、お客様ぁ。どうかなさいましたかぁ?」

「お構いなく」


 途中、先ほどの店員さんから心配の声をかけられた。迷惑にならないようにだけしつつもうまいこと目の前の通路を通る中城の視線に入らないよう、時折動きながら服の影に隠れる。

 そして服の隙間から中城たちの集団が通り過ぎるのを待つ。


「ふぅ……」


 ようやくその集団が過ぎ去って、安堵のため息を吐いた。

 まるで某ゲームのようなスニーキング体験。息をするのも忘れ、襲ってきた緊張感に体が疲労を感じた。


「あれ? 新世くん?」

「……え?」


 そんな俺にまた試練が舞い降りる。

 振り返るとそこには、先日俺に告白した少女──瀧本翠花がいたのだった。


「新世、こういうの好きでしょ?」


 そして不運というべきか、災難というべきか……そういったものは連続でやってくるものである。

 翠花に話しかけられたタイミングで藤林が試着室から出てきた。

 

「え? 紗奈ちゃん?」

「……スイスイ?」

「翠花ー? ああ、いたいた……って新世くんに……藤林さん?」

 

 そこに岡井さんも合流。

 なんだかあまりいい予感はしなかった。


────────


久しぶりにこういう感じの未来予知。

見つかってしまった。前章のヒロインに……!!

待っているのは修羅……?


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