第112話 これってもしかしてデート?

 騒がしい奴が帰っていた後、今後のことを藤林と話すことに決めた。

 確かに草介の言うとおり、親子喧嘩をしている状態で素直に家に帰るとは思えなかった。


「で、どうすんだ藤林は」

「え? 今日も泊まる」

「泊まるってな」

「なんか問題あるの? 店長さんもいないんでしょ? それともあたしと二人きりじゃ不安? いつ狼になっちゃうのか」

「お前なぁ……」


 藤林は相変わらずと言った様子。確かに綾子さんがいないから泊められないこともないが、後でバレた時が怖い。


「だけどいつまでもこのままってわけにはいかないだろ。夏休み中ずっとここにいるつもりか?」

「新世もいるし、そうしよっかなー?」


 勘弁してくれ。あれが毎日続いてしまった俺の精神はどうにかなってしまう。

 眠れない夜が続くに決まっている。


「バカ言うな。流石にずっとは無理だぞ」

「……わかってるけど」


 不満そうに口を尖らせる藤林。冗談だとは思うが、言わなければ本当に夏休みの最後までいそうな気がしてならない。


「それでどうするんだ?」

「そんなすぐ考えらんないって。新世のせっかち! 朴念仁!」

「朴念仁……」


 また言われた。これだけ言われたら俺もショックを受けるぞ……。


「とりあえずさ、今から長浜行かない? あたし制服しかないから買い物付き合って!!」

「……へいへい」


 これ以上は話が進まないと判断した俺は、藤林の提案を呑むことにした。まぁ、不本意ではあるが、こうやって一緒にいれば説得もしやすくなるだろうと判断した次第だ。

 別に丸め込まれたわけじゃないからな? しかし、この調子では本当に夏休み中ずっといそうな気がする……。


 それから昨日乾かした制服に着替えた藤林と一緒に長浜へと向かうことになった。


 ◆


「んーーーーーー!!!!」


 電車か降りた藤林は体をグッと伸ばした。


 時刻は昼過ぎ。昼を家で食べてから太陽が一番ギラギラと輝くこの時間帯にわざわざ出て来たのだ。


 ちなみに昼ごはんは藤林のリクエストがあり、チャーハンを作った。まぁ、家にある食材も限られているのでそれくらいしか作れなかったというのが正しいが。


 電車や長浜は夏休みに入ったこともあり、若者ばかりで溢れていた。草介のように補習や部活がある生徒も多いので、その帰りなのか比較的制服やジャージ姿も見受けられる。


 このクソ暑いのに人が多い場所にわざわざ出てくるなんてご苦労なこって。


 と内心で思いつつも俺もその中の一人なんだな、とため息をついた。


「あ〜らせ! 何ため息ついてんの? ほら、行くよ?」

「引っ付くなよ。暑いんだから」

「あーあ、照れちゃって。とりあえずほら、あそこから回ろ!」


 これから前みたいに連れ回されるのかと思うとため息を抑えられずにはいられなかった。


 藤林も流石にこの気温に耐えられなかったのか、外は歩き回らず、すぐに商業施設へと入ることとなった。


「ふ〜生き返る〜〜っ!!」


 すでにうなじにはしっとりと汗が流れており、店内に入った藤林は手で顔を仰ぐ。

 なんともその姿が艶かしい。


「どうしたの、新世?」

「い、いや……」

「あっついよねぇ。とりあえず、なんか飲み物買って適当に回ろ」

「ああ」


 危ない。藤林には気づかれず済んだ。バレたらまた変に揶揄われてしまう。


 藤林に連れられながら、某コーヒーショップでドリンクをテイクアウトする。


 こういう店ってあんまり来たことがなかったから注文するのも躊躇われた俺だが、藤林は慣れているということでその辺りは彼女にお願いした。

 すると呪文の如く、長ったらしく何かを唱えながら注文を行う。


 出てきたドリンクを見ると喉が渇いたという割には、生クリームやチョコレートなどのトッピングたっぷりで甘ったるそうな、なんたらフラペチーノというものだった。


 これ逆に喉渇かない?


 しかし、藤林はそんなことを気にすることなく、ストローでそれを飲んでいく。

 俺もそれに倣って、同じようにストローを口に咥え、飲んだ。


「……うまい」

「でしょ?」


 藤林は俺の顔を見るとニィッと笑いかける。


 口にはキャラメル風味の甘さがいっぱいに広がっていく。それと同じくらいに冷たいシャーベッド上のものが喉を通過していった。

 一気に飲んだせいか少しだけ頭が痛くなった。


 なるほど。確かに暑い日にはもってこいの飲み物だな。ただ、やっぱり甘味が強すぎるせいで喉を潤したかと言えば頷けないが。


「で、藤林は何を飲んでるんだ?」


 藤林のは俺のものに比べ、色味もカラフルだ。俺のはちなみにキャラメル味のものだったらしい。


「え? あたしのは、イチゴとバナナのやつ。同じ甘いやつでもやっぱり喉乾いてたらフルーツのやつの方がよくない?」

「おい、なぜ俺のはそっちにしなかった」

「え? だってそっちのもあたし好きだから。二人で別の頼めばシェアできるんだからよくない?」

「シェア……」


 なんだその発想は。小分けできる食べ物ならまだしも飲み物だぞ。


「ほら、こっちが飲みたいんでしょ?」


 そう言って、藤林はこちらに自分の飲みものに刺さったストローをこちらに差し出してくる。


 飲め……と?

 こ、これは飲んだ方がいいのか? それってつまりあれだよな?


「新世のもちょーだい」


 そんなことを考えている間に藤林は俺の方の飲み物のストローを咥え、ちゅーっと音を立てて飲んだ。


「あー、やっぱこれも美味しいっ! ほら、こっちのも飲みなよ」


 どうやら意識をしているのは俺だけのようである。ここでそのことを考えすぎてもキモいだけか。

 俺は意を決して、藤林のをもらった。


 同じようにちゅーっと中を吸い上げると口の中にフルーツの爽やかな甘味がした。

 これも同じくらい甘くて後で喉が渇きそうだが、こっちの方が喉が潤うと言われればそんな気がした。


 飲み終わってから、何やら隣から視線を感じた。

 その視線の主──藤林はいつものようにニヤニヤとしていた。


「なんだよ……?」


 そして俺が尋ねるとそのまま耳元へとやってきて囁いた。


「(間接キスだね)」

「…………」


 吐息の当たる距離とその官能的な言葉に身がゾクっと震えた。

 それと同時に一気に耳が熱く熱を帯びるの感じる。


 こいつ……わかっててやりやがったな。


「あはは、それそれぇー! その顔が見たかった! 昨日のやつ絶対やり返してやろうと思ってたんだよね」

「それなら寝る時ので十分だったろ」

「そんなんじゃ全然足りないしっ。だからこれからももっと新世のこと、からかわないとね!」


 くそ……どうやら昨日のアレで余計な火をつけてしまったようだ。

 中城と言い、どうしてこうも変に絡まれるんだ。


「それにしてもやっぱ新世はうぶだよね〜」

「……はぁ」


 俺のリアクションを引き出せたことに満足したのか藤林は一層機嫌が良くなり、先へと歩いていく。

 これが家出問題が片付くまで続くかと思うと前途多難さを感じるのだった。



────────


藤林とのデート回。二人っきりの状況が続きますね〜。

誰かに見つからないといいですが……


ご感想お待ちしております!


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