第109話 罰ゲーム
「へへっ。また勝ちぃ!!」
「得意じゃないとか嘘だろ」
「いや、ホントなんだって! ていうか、あたしがうまいというより、新世がヘタクソすぎるんでしょ」
現在、ゲームを始めて30分が経過した。
ゲームを始める前、罰ゲームありのルールに決まったが、さすがにお互い初心者のため今は慣らすために罰ゲームなしでやっているのだ。
このゲームは四人対戦までできるので、コンピュータを二人加えて四人で戦っているのだが、なぜかいつも俺が最初に負ける。
コンピュータのレベルも高い者ではなく、9レベルまであるうちのレベル5。そこまで高いわけではないのだが、どうしても勝つことができない。
「このままだったら新世が罰ゲームになりそうだよね〜。何してもらうおうかな〜」
藤林はノリノリでコントローラーを操作する。
罰ゲームあり戦いは、この後、1対1を行い5本先取した方が勝ちというルール。
しかし、このままでは結果が見えている。
「は、ハンディキャップとか付けないか? このままボロ勝ちしても味気ないだろ?」
「え、全然! むしろ圧倒的に捩じ伏せるのが好き」
っぽい。藤林の性格的に無理っぽいよ。
しかし、それならばどうするか。それを考えていると藤林から提案してきた。
「じゃあさ、こういうのはどう?」
「なんだ?」
「新世が勝ったらさ」
そう言って、藤林は近づいてきて耳打ちする。
「(ヤラセてあげてもいいよ)」
「──ッ!?」
条件反射でその場から飛び退いた。
藤林はいつも通り、ニヤニヤと笑い愉悦している。
「顔真っ赤じゃん」
「そんなこと耳元で囁かれれば、誰でもそうなるわ!!」
「ええ〜? やる気出ると思ったんだけど」
確かに藤林ほどの美人にそんなこと言われれば大抵の男はやる気を出して取り組むかもしれない。
だが、好きでもない相手とそういうことを気軽にするほど、貞操観念が緩いつもりはない。
まだ誰かを好きになるということ自体、どういうことかわかっていない俺がそんなことできるはずもない。
「そういうこと誰にでも言ってんのか?」
「さぁ? どう思う?」
相変わらずニヤニヤとした表情だ。
藤林を泊めることになるとなってからこういう風にからかわれることは予想していた。
「まっ、どっちでもいいわ」
「なにー? 気になんないの?」
藤林は俺が興味を無くしたことに不満そうに頬を膨らませる。ただいつもと違って逃げ場がないだけに長い間、藤林の戯言に付き合っていれば身が持たない。
先ほど俺自身、貞操観念が緩くないと言ったが、その考え自体を誰かに共感してもらうつもりはない。
だから藤林が実際どうであれ、気にすることでもないのだ。
ただ、以前聞いた噂では誰とでもそういうことをする、という話だがなんとなくそれは事実ではないのではないかと思っていた。
俺にはそういうことを言う割には他の人からは実際に言われたとかそういう話は聞いたことがない。
さらにいえば、噂ベースでしか耳にしたことがなかった。
ここまで藤林と接してきた感じ、どうしても誰にでもそんなことをしているとは、思えなかったのだ。
……そんなことはさておき、このままずっとからかわれるのも癪なのでどうにかやり返してやりたい。
「いいからやるならさっさと始めるぞ」
「へぇ、自信満々。さっきからボロ負けのくせに」
「うるせぇ、吠え面かかせてやるからな」
今頃、藤林の頭の中では俺にどんな罰ゲームをさせるか想像を膨らませていることだろう。
このまま藤林にいいようにされて、罰ゲームなんてごめんだ。
悪いが真剣にやらせてもらおう。
「ちなみにストック1機だけハンデくれない?」
「急にめっちゃ弱腰じゃん」
「……無理?」
「もう、しょうがないなー」
そして俺と藤林による5本先取(ハンデあり)の戦いの火蓋が切って落とされた。
最初は一方的な展開だった。やはり俺にはゲームのセンスがないのか、藤林の操作するキャラクターに一方的に殴られ、吹き飛ばされ倒されてしまう。
それを何度か繰り返し、3対0になった時だった。
***
「はい、ここで……こうしてこう!!」
「またそれじゃねぇか!」
「はい、またあたしの勝ちー! これであたしの五連勝だね〜?」
***
わずかながら未来が見えた。このままいけば惨敗してしまう未来が。そして罰ゲームが決まってニヤニヤとする藤林の姿が。
どうやら今のままやっても勝てないことは確定のようだ。
それを鑑みて、俺は今一度作戦を練り直す必要がある。
「どうしたの、急に黙って?」
「ちょっと待て。今考え中だ」
「えー、早く始めようよー。どうせ、あたしの勝ちなんだから!」
藤林の勝利宣言を無視して、俺は今までプレイを振り返る。
そして考えているうちに気がついた。
「あれ? キャラ変えるんだ」
「ああ。もうこのキャラじゃ無理そうだからな」
俺が先ほどまで選んでいたのは近接で殴り合うスタイルのキャラクターだ。藤林も似たようなキャラクターを選んでおり、殴り合いで負け続けていた。
しかし、全くダメージを与えられなかったわけじゃない。藤林の猪突猛進に突っ込んでくる脳筋プレイは読みやすかったが肝心のこちらもあまりプレイングが上手くなかったのであまりダメージ量を与えられず、負けてしまっていたのだ。
だから俺は遠くから遠隔攻撃のできるキャラクターに変更した。
ちびちびと攻撃をして、相手のダメージが積み重なってきたところに一発入れる。
その一発さえ入れば……勝機はある。
卑怯? なんとでも言うがいい。
未来での情報は優位に使わないとな。ふっふっふ。
「なんか新世悪い顔してる……」
「気のせいだ」
戦いは再開。
そしてその作戦は見事、功を奏した。
「はぁ!? それずるっ!!!」
「勝てばいいんだよ、勝てば!!」
「え、待ってよ! そればっかりじゃん! ずるいって!!」
「っし。これで3本目」
気がつけば、3対3まで持ち直していた。
藤林は俺の作戦に対応できず、負け続ける。
どうやら遠隔攻撃は苦手という読みが当たったらしい。
俺も俺でだいぶ操作に慣れてきたのか、最初よりかは上手くなった気がしていた。
そして──
「う、うそ……」
「俺の勝ちだな」
ついに藤林に対し、5本先取したのだった。
「……」
藤林は少し放心状態だった。
「さて、約束通り罰ゲームでもしてもらおうかな」
「ま、まぁ、別にいいケド。ヤりたいんだったらヤラセてあげる」
藤林は負けたにもかかわらず、俺を同じようにからかおうとする。
しかし、いい加減ずっと同じようにされっぱなしだと思うな?
「じゃあ、そうしてもらおうかな」
「…………え?」
「藤林が言い出したんだろ?」
「え、え、え?」
俺が迫ると藤林は目を白黒させて、焦りの表情を浮かべる。
「ちょ、ちょっと待って! ほ、本気!?」
「悪いけど、俺も男だからな。藤林が悪いんだぞ」
「ひぅ……」
お互いの息遣いが聞こえる距離にまで近づいていくと藤林は目を閉じる。
そんな彼女に俺は──
「あいたっ!?」
「はい、これで罰ゲーム終わり」
「……え? え?」
目を閉じる藤林の額に正面からデコピンをお見舞いしてやった。
藤林はわけがわからないといった顔でおでこを押さえている。
そんな様子に笑みが溢れる。
してやったり。
俺としてはかなり満足な結果だった。
いつもは、からかわれてばかりの相手を思いっきりからかってやったのだ。
それもこれまで幾度となく、同じようなネタでからかわれていた内容を逆手に取って。
まさか自分の誘いに乗ってくるなんて、藤林からしたら微塵も思ってなかったから焦ったはずだ。
そしてもしかして、本当にしてしまうんじゃないのだろうか、と気持ちが揺れ動いたところに一発。完璧だった。
「懲りたか? これからは気軽にからかってこないことだな」
「…………」
藤林は自分がされたことがようやくわかったのか、顔を真っ赤にしていた。
「新世」
「……ん? うぐぉ!?」
「ばーか!! ばーか!!! ばーか!!!!」
「ちょ、やめ!?」
怒った藤林は問答無用でベッドにあった枕で俺を叩いてきた。それに防戦一方でなす術なく藤林の機嫌が治るまでやられるのだった。
────────────
たまにはこういうのもいいよね。
ここでの新世は珍しくムキになっております。
新世に迫られ、藤林も焦ったことでしょう。
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