第2章

第46話 プロローグ 親友同士は修羅場にならない?

 友達のいない人生っていうのは空虚なものだ。誰かがそんなことを言っていた気がする。


 だけど、現代の日本でリアルに友達がいなくてもそこまで困った事はない。

 今時、スマートフォンやパソコンを開けば、SNSなどで顔も見たことのない人たちと繋がることなんて容易にできる。


 だから、別にリアルが充実していなくっても私は、やっていける。

 このインターネットの海を彷徨いながら、その中で作られた自分を表現することでいろんな人たちが私に夢中になって、耳障りの良い言葉を投げかけてくれる。


 そして私は、今日もパソコンに付けられたカメラに向かって微笑みかけた。


『こんあっかり〜!』


 私はみんなの人気者。そうして、また一日が始まっていく。


 ◆


 朝霧の事件があってから数日のこと。

 俺は今、切実に逃げたい気持ちでいっぱいだった。


「え、優李ちゃん?」

「な、七海!?」


 明くる日の朝のことだ。

 ここのところ、朝霧は俺の右手が怪我していることを理由に朝から登校するまで世話することを買って出ていた。


 初めは拒否していたが、献身的に身の回りのことをやろうとする姿を見て、途中から何も言えなくなった。

 なぜか綾子さんもノリノリで家の中へと入れる始末。

 半ば諦め状態で数日を過ごしていたが、ここにきて急する事態へと移り変わった。


 朝霧に加わり、倉瀬まで朝に家に押しかけてきたのだ。


 ……そういえば、倉瀬からも同じようなことを言われていた。

 その場で適当に濁していたのが仇となった。


 まさか、本当に朝から家にまでくるとは誰が予想できただろうか。

 綾子さんが俺が朝霧だけで手一杯だということを考慮しないなんて、誰が予想……これはできそうだった。


 ともかく、俺は見られてはいけないものをクラスメイトの女子に見られてしまったのだ。


 その親友に“あーん”なんかをされているところを!!!


「な、なんで優李ちゃんがここに……? え、何してるの……?」

「ち、違うの七海! これには、その……深いワケが……ッ!!!」


 まるで浮気現場を見られたかのように朝霧は狼狽する。

 修羅場だな。どちらかといえば、朝霧が。


 しかし、俺も“あーん”を見られてしまったのは普通に恥ずかしい。正確にはそんな甘酸っぱいものではなく、半強制的にねじ込まれたのが正しい。

 そんなことは置いておいて、この隙にどうにか二人の間をすり抜けて、学校へ行く事はできないだろうか。


「酷いよ、優李ちゃん! 私に何も言ってくれなかったなんて!!」

「ご、ごめん。七海……そんなつもりじゃ……」


 うーん、無理だな。なんだかそんな空気じゃなくなってきた。倉瀬が何をそこまで怒っているのかわからないが、目の前で仲違いされても困る。


「私だって、伊藤くんが作った朝ごはん食べたかった!!!」

「……へ?」

「……ん?」

「だって、これ伊藤くんが作ったんでしょ? すっごく美味しそうだもん!!」

「まぁ……そうだけど……」

「でも手を怪我してるのにどうやって作ったの? 大丈夫?」

「まぁ、これくらいなら」


 すごく美味しそうとか言っても、ただのエッグベネディクト。作り方さえ知っていれば、そこまで難しいものでもない。

 右手が使えないと不便でもあるが、朝霧に手伝ってもらいながらだったらどうにか作る事はできる。

 ちなみに全部を任せる事は不安しかなかったのでさせなかった。本人は口を尖らせていたが。


「そ、それより七海怒ってないの?」

「怒る? どうして?」

「だって、ここのところ一緒に学校行くことを断ってたのに……新世のところへいたから……」

「ええ!? そんなことで怒らないよ! だって優李ちゃんは、伊藤くんの手が心配で来てたんでしょ?」

「べ、別に心配なんか──……そうね」


 何の間だ、何の。


「ふふ、じゃあ私とおんなじだね!! 私も片手だと伊藤くん、生活に不便かなーって思って、来たの! でも凄いね、片手なのにこんな美味しそうな朝ご飯まで作れちゃうんだもん。これじゃあ、来た意味なかったかなぁ……」

「まぁ、小器用よね。確かに自分の存在意義を見失いかけてしまうわ」

「ね! あ、それよりも優李ちゃん。いつの間に、伊藤くんのこと下の名前で呼ぶようになったの!?」

「へっ!? え、いや、それは……その……っ。と、特に理由はないわ。なんとなく呼びやすいって思ったし……」

「……そ、そうなんだ」

「……?」


 二人はマシンガンのように会話を続けていく。まぁ、険悪な空気にならなくて済んでよかった。

 ただし、ちょっと変な空気感ではある。なぜに?


「じゃあ、明日から私ももうちょっと早い時間に来てもいいかな?」

「え?」

「だって、優李ちゃんも早い時間に来てるんでしょ?」

「まぁ、そうだけど……」


 正直、朝は一人がいいなんて言えない。


「ダメ……かな?」

「うっ……いてっ!」


 威力が凄まじい倉瀬の上目遣いに再び、どう返事をしていいかわからなくなっているとなぜか朝霧から脇腹を小突かれた。


「何すんだよ!?」

「鼻の下、伸ばしてるからよ」

「別に伸ばしてないからな」

「どーだかっ。私が行っていいか聞いたときは即拒否してたくせに!」

「いや、だってお前来てもあんまり変わらなさそうじゃん」

「そ、それは! そうだけど……」


 朝霧は言葉尻に声が小さくなっていく。


 朝霧は不器用らしく料理もほぼ俺が指示しながら大体は俺が作っているので余計に手間が増えているまである。

 まぁ、いろいろやってくれていて、助かっている部分もあるといえばあるのだが、それを言うと調子に乗りそうなので言わないでいた。この前まで口喧嘩が絶えなかったからそういうのもあるけど。


 それに引き換え、倉瀬はシンプルにいい子である。別に何かをやってもらうつもりはないが、朝霧と比べると頼まれても印象はだいぶ違う。


「わ、私だって……新世の役に立とうとしてるんだから……」


 え、あれ……? ちょっと待って? なんで少し泣きそうになってるの!?

 ほんの冗談だよ!? いつもの感じで軽口を叩いただけじゃん!! どうした!?


 俺は朝霧の予想外の反応を見て、あたふたとした。ふと、綾子さんと目が合うとやれやれといった様子で首を振っていた。


「もう、伊藤くん!! ダメだよ!! 優李ちゃんを泣かせたら!!」

「あ、いや……すんません……」


 倉瀬に言われて、俺は謝ることしかできなかった。倉瀬は涙目になる朝霧を抱きしめてよしよしをしていた。

 学校の男子が見たら卒倒しそうな光景ではある。


「あ、そろそろ出ないと。学校行こ?」

「ええ。七海、ありがとう」

「うん! 優李ちゃんを泣かせる奴はこの私が許さないからね!!


 ……なんか敵認定されたぞ?


「伊藤くんも、女の子にそんな言葉投げかけちゃだめだよ?」

「は、はい」

「よろしい。じゃ、伊藤くんも行こ?」


 そうして、俺たちはニヤけづらの綾子さんに見送られ、三人で学校へと登校することになった。


 登校したとき、やたらと周囲から視線を感じたのは気のせいだと信じたい。




──────


皆様からたくさんのご感想いただき、ちょっと続けてみようかなと思い、投稿しております。

できるだけ更新していこうと思いますが、頭空っぽなんでなんとなくで進めていくことをご了承ください。

コメントの方はゆっくり返信させていただきます。


まだ好感度多いだけのキャラが多いから修羅場を作っていくのが難しいですね。各ヒロインたちの見せ場もちょくちょく用意せねば。


後、感想だけじゃなくてレビュー書いてくれてもいいんですよ……?

冗談です。いや、書いて欲しいですけど。


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