数分後の未来が分かるようになったけど、女心は分からない。
mty
第1章
第1話 美少女にビンタされる未来だった
未来のことが分かるとしたら何ができるだろうか?
例えば、次のテストの出題内容が分かれば、いい点数が取れたり。
例えば、次の宝くじの当選番号が分かれば、一躍大金持ちになれたり。
後は……ダメだ。俺の矮小な脳みそでは、この程度の俗な願いしか考えられない。
そういう風に未来が分かったのだとしたらどれだけいいことか。しかしながら、そう人生うまくはできないようになっている。
俺、
すごいだろ? 人生何があるか分からないものさ。
事故で死にかけたらこんな不思議な力が身につくなんてさ。
しかし、そういいものじゃない。さっきも言った通り、そんな簡単に人生うまくはいかないもんだ。
その証拠に……
「申し開きはある?」
「…………これはあれだ、あれ……俺は事故から助けようと……」
「事故? へぇ、詳しく教えてくれる?」
「あー、えっと……もうすぐ黄色い車がすごいスピードで突っ込んでくる」
「ふーん……っ……の痴漢っ!!」
「がっ!?」
パシンと渇いた音とともに俺の頬に衝撃が走った。
「意味わかんない!」
目の前の少女は、怒りなのか気恥ずかしさなのか、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
「……あんまりだろ……」
己の不運さに思わず、嘆いてしまう。我慢してたけど、うっすらと目に涙が浮かんだ。
詳しくって言われたから正直に話したのに。
「あの女……本気でやりやがって」
どうにか痛みが収まってきた頃、忌々しく女が去って行った方を睨みつけた。
黒く綺麗な髪をした美少女。最悪な出会いだった。
さて。ここで俺がなぜ彼女にぶたれたのか、今一度説明させてもらおう。
何も彼女のご機嫌を損ねるようなことをわざとしたわけじゃないんだ。言い訳に聞こえるかも知れないが、あれは事故だった。
……端的に言えば、彼女が事故に遭いそうなところを助けるために腕を引っ張ったら思い切り抱きつく形になってしまったんだ。
本当に偶々だったんだ。そんなつもりは毛頭なかった。
ほ、ほんとだ。ただ、めちゃくちゃいい香りがした。
でも考えてもみてくれよ。
あの時、俺がそうしなければ彼女はどうなっていた?
そんなの決まってる。後もうちょっとしたら彼女はそこの交差点で血だらけになって倒れることになっていただろうよ。
だから彼女の命一つ助けたと思えば、ビンタの一つくらい……。
「痛かった……」
ヒリヒリと痛む頬を抑え、思い出したらまた涙が出てきた。
「偶にする人助けがこれかよ。やってらんねー」
別に感謝が欲しかったわけじゃない。それでも本当に俺が彼女を助けたという事実が彼女にとってないことになるというのは、やはりどこか虚しさを感じる。
それにしてもこの不定期に現れる未来予知……あまりに俺に試練を課してくる。
どうせなら自由自在に
でも俺に分かるのは、ほんの数分後の未来。
彼女が車に轢かれる未来。それを予知した結果がこれ。
「……まぁ、ともかく事故に遭わなくてよかった」
俺がそう呟いた時、交差点をものすごいスピードで黄色いスポーツカーが信号無視をして通り過ぎた。
「…………派手な色だな」
離れていく車を目で見送った後、俺は家路へとついた。
◆
「死にたい」
「若いモンがナマ言ってんじゃないわよ」
見ず知らずの女性を助けてぶたれた日の午後。
俺は、居候先へと帰ってきていた。
俺の呟きに反応した女性は、
正確には身寄りがないわけではないけど、とある事情によりこの四月……昨日から期間限定でお世話になることになっている。
そういうわけで俺は綾子さんと二人っきりのドッキドキ同棲生活を送ることになるのだ!!
と、普通の男子高校生ならそうテンションを上げて言っていたところだろう。だがその実、そこまでドキドキ感はない。
まず第一、俺に恋愛をする余裕がない。特殊な家庭事情があるゆえ、彼女など作ろうとは思えないのだ。後めんどくさい。これが大きい。
……別にモテない言い訳とかじゃない。断じて。
そしてもう一つ。それは綾子さん自身にある。
確かに綾子さんは美人なんだが……年齢も一回り以上年上なのだ。なので俺からすれば、歳の離れた姉のように思える。
それに綾子さんの性格がまぁ、なんというか……あれだ。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてないです」
「……あっそ。それなら死ぬたいとかふざけたこと言ってないで私に男の一人でも用意してからくたばりな」
この通り、非常に飢えてらっしゃる。
彼女、婚活が失敗続きらしい。
昨日、迎えにきてもらった車の中で延々に自虐しながらキレていた。初対面の俺相手に。
夜も酒を飲んで酔っ払いながら泣いていた。こんな大人にはなるまいと一夜にして誓った。
「男子高校生から出会いを広げようとしないでくださいよ」
「バカね。今のうちにいい男には唾を付けておくのよ」
「……」
冗談に聞こえるが目が本気なので笑えない。
「それに俺、昨日こっちにきたばかりなんですから、そんな相手いませんって」
いても紹介なんてするはずがないが。
「それもそうか……はぁ……どこかにいい男いないかなぁ……」
ネガティブオーラ全開。本気で落ち込まないで欲しい。冗談かどうか判断しづらい。
「それよりさ。それ食べたらまたお願いしたいことあるんだけど」
「あまりいい予感がしないんですけどなんですか?」
俺はレンゲを持つ手を止めて、綾子さんに聞き返す。
ちなみにお昼は俺が作ったチャーハン。綾子さんは壊滅的に料理ができない。
そんなことはさておき、実は朝も綾子さんのお願いで外へ出かけていた。ただ一枚のハガキを出しに行くためだけに一時間以上彷徨った挙句、最終的に待っていたのは女性からのビンタ。
今日はもう外に出たくはないというのが本音。
「まぁまぁ、部屋きれいにしといてあげたんだから文句言わないの!」
「部屋を用意していただいたのはありがたいですけど、酔って部屋に入ってきて汚したの綾子さんですよね?」
「……まぁ、お願いって言っても君のことだからね」
話を逸らされた。
「君の新しい学校の制服届いたみたいだからそれを取りに行くだけ! 自分のことなんだからいいでしょ!」
「そうですけど……朝の時に言ってくれてもよかったのでは?」
「それは……ほら。あれだよ、あれ……君にもこの街を慣れてもらうおうと思って」
絶対忘れてたな。
「後、ついでに買い物してきて欲しいんだよね」
どうやらそっちが本命のようだ。
「あ、言っておくけど、君の歓迎会のためだからね!?」
「……分かりました。じゃあ、また昼飯食べたら出かけてきます」
「そうこなくっちゃ! いや〜本当は昨日しようと思ってたんだけど、お酒飲んじゃったからさ。仕方ない」
「…………」
これからこの人と一緒に過ごさなくてはいけないのが不安しかない。
俺は食べ終わった食器を流しに持って行き、皿洗いを終えると玄関へと向かう。
「あ、ついでにお酒とか買ってきてくれると嬉しい!!」
「高校生に頼まないでください」
「えー、けちぃー!」
ケチとかそういう問題か。
ソファで寝転ぶ綾子さんの注文を一蹴してから俺は外へと一歩踏み出した。
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