第89話 親友と恋心
「あ、優李ちゃん。おはよ」
「おはよ、七海!」
休みが明けた朝。私の親友である優李ちゃんが登校のために家まで迎えにきてくれた。
なんだか今日の優李ちゃんはご機嫌な様子。何かいいことでもあったのかな?
学校へ向かう道すがら、そんな優李ちゃんの様子を微笑ましく思い、聞いてみた。
「え? いいこと? ないわよ、そんなこと」
しかし、優李ちゃんはケロッとそう答えるだけだった。
……うーん、じゃあなんでこんなに機嫌がいいんだろう?
優李ちゃんは自分で気がついていないだけかもしれないけど、私からも見れば今日の優李ちゃんがいつもと違うのは明らかだった。
ここ最近の優李ちゃんはすごくいい顔をするようになった。
昔から優李ちゃんは私なんかと違って美人だったけど、何て言うか最近は……そう、可愛いのだ。
何て言うかすごく女の子らしい。
表情もかなり豊かになった。
私の前でしか笑わなかった優李ちゃんがいつしか、自然に笑うようになった。
みんなの前でそんな表情ができるようになった優李ちゃんの魅力は他の人も気がついている。
男の子からの告白もこの前よりもかなり増えていた。断り方は相変わらずだけどね!
優李ちゃんには、もっといろんな人と仲良くなってもらいたい。私の大好きな優李ちゃんのことをもっといろんな人に知ってもらいたい。
それは前から思っていたこと。
だから嬉しいはずなんだけど……それがどこか寂しい気もした。
「どうしたの、珍しく気難しい顔してるわね?」
「もう、誰のせいなんだかっ!」
「え!? わ、私!? 私、七海に何かした!?」
「内緒だよー!」
私がそう言うと優李ちゃんは焦った顔をする。それが面白くって私はケタケタと笑った。
「あ、そういえばね」
「へ?」
優李ちゃんと一通りじゃれあった後、思い出したかのように優李ちゃんは呟いた。
「この前新世が言ってたこと、あれさ……」
「えーっと?」
優李ちゃんの言う、この前言ってたことというのがなんのことかすぐに出てこない。
「だ、だからそのー……あの中城と話してた時の」
「中城くんと?」
「そう! 新世がほら、瀧本さんがす、好きって言ってこと」
「あっ……」
優李ちゃんに言われてその時のことを思い出す。
──伊藤ってよっぽど瀧本のこと好きなんだなって。
──……はぁ。好きだよ。
中城くんと伊藤くんの会話の内容。
あれを聞いた時、頭が真っ白になったことを覚えている。
それが……どうしたのだろう?
「あれ勘違いだったのよ!」
「……ふぇ? そうなの?」
「ふぇ……ってふふ、七海なにその素っ頓狂な顔?」
「……え?」
「七海もそんな顔するのね、あはは!」
「──っ、もう! 優李ちゃん!!」
さっきから一転、今度は私が優李ちゃんに笑われた。
笑われてから自分がどんな変な顔をしていたか気がついて恥ずかしくなり、顔に熱が籠るのがわかる。
うぅ、顔が熱いよ……。
優李ちゃんから言われた言葉に驚かされたというのもあると思うけど、それ以上にその事実が私にとって嬉しかった。
だから多分、驚きつつニヤけるみたいな変な顔をしていたに違いない。
「そ、それでどうして勘違いだってわかったの?」
小さく深呼吸してから自分の変な顔のことから話を逸らすため、軌道修正を行う。
「ああ、そのことだけどこの前偶然新世と会ってね! いろいろあってその時に聞いたの! 『友達として』好きだったっていう話だったみたい。なんかよくわからないけど、中城との話の流れでそんな話になったみたい」
「そ、そうだっただぁ……」
なんだかホッとして気が抜けてしまった。
嬉しくてまた顔が綻んでしまう。
気をつけないとまた優李ちゃんにまた笑われちゃう!
「ほんと、迷惑な話よね!」
そう言う優李ちゃんはなんだか嬉しそうだった。
──ズキリ。
「っ」
優李ちゃんのかわいい顔を見て、胸がチクリと痛んだ。
すごく可愛い。今の優李ちゃんの顔を見てそう思った。
「新世っていっつもそうなんだから! その時もね──……」
優李ちゃんが嬉しそうに伊藤くんの話をしているけど、内容があまり耳に入ってこない。
前からなんとなくそうなんじゃないかって思っていた。
だけどずっと目を逸らしてきた。それを今になって自覚してしまった。
そして確信してしまったなら、知りたくなってしまった。
「──でね、その時……」
「ゆ、優李ちゃんはさ」
「え?」
「伊藤くんのこと好き?」
気がついたら口に出していた。
「……す、好きなんだと思う」
「……ぁ」
返ってきた答えに小さく息を呑む。突然の質問にも優李ちゃんは真っ直ぐな言葉で返してくれた。
優李ちゃんの顔は真っ赤に染まっている。
「な、七海だけだからね!? こんなこと言うの……」
「……うん」
力なく返事をする。
「いつから?」
「その……わかんないけど……いつの間にかそうなってて……」
「いつの間にか」
「そ、そうよ……」
いつの間にか。そう、いつの間にか私も伊藤くんのことが好きになっていた。
「ふふ、優李ちゃん、顔真っ赤だよ? 可愛い!」
「なっ……七海!? またからかったわね!?」
「だって可愛いんだもん」
「〜〜〜っ!! もう先行くから!!」
優李ちゃんは耐えられなくなったのか、早歩きで先に行ってしまった。
「耳まで真っ赤だ」
そんな様子を微笑ましく見送った。
「……はぁ……」
優李ちゃんが行ってから自然とため息が溢れた。
「聞かなきゃよかったかな……ううん、違う」
分かっていた。優李ちゃんが伊藤くんのことを好きだと言うことは。
それならなぜわざわざ聞いたのか。
あの時、私が期待した答えは違った。
あわよくばいつも通り、優李ちゃんが慌てて誤魔化して否定するなんていうの期待してしまったのだ。
「卑怯だな、私……」
そんな自分が惨めで嫌いだ。
大好きな親友と同じ人を好きになるなんて今まで想像したことがなかった。
やっと優李ちゃんが幸せそうになったんだもん。それを私なんかの気持ちで邪魔したくない。
伊藤くんのことは私も好き。だけど、親友の恋を邪魔してまで叶えたいと思うものじゃない。
そんなことをするくらいなら私は…………。
「……大丈夫。これでいいんだよね」
私は深呼吸をしてから優李ちゃんの後を追いかけた。
────────
更新お待たせしました。
最近、なかなかフォロー数やPVも増えにくくなってきましたね。
もう少しサッサ更新できると違うのかもしれませんが。
今回は七海回でした。
あくまでメインは翠花ではありますが、他の人の恋模様も同時並行で進めていきます。
七海は、我慢しちゃうタイプなんですな。
よかったらご感想ください!
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