第155話 賞金首

 「まぁいいさ好きに言え、模擬戦やろうぜ。お前も冒険者なら、揉めた時の方の付け方くらいは知ってるだろう」

 

 「えー、弱い者苛めは嫌いなんだけど。万年ブロンズ相手に模擬戦って」

 

 「おー、面白そうな話しをしているじゃねぇか」

 

 「〔雷鳴〕のリビルザか。丁度いいや、お前審判をやれや」

 

 「偉そうに言っているが、勝てるのかよ」

 

 「こんなガキと女一人に負けるか!」

 

 「ふん、6人居るからって、万年ブロンズが勝てる相手かよ。馬鹿め」

 

 「何だと、こいつ等の事を知ってるのかよ」

 

 「お前の様な奴に教えても無駄だから、模擬戦で鍛えてもらえ! 審判やらせてもらっていいですか」

 

 「すまない、殺さない程度にするから。シャーラお願いね」

 

 「はい、チンピラで歯ごたえないけど、カイト様に絡んだ事を後悔させてやります」

 

 「何だぁ、お前はやらないつもりか」

 

 「あっお構いなく、俺って弱いから」

 

 「心配するな、女一人でもお前等無頼の剣より強いぞ。おらっ始めろ!」

 

 雷鳴のリビルザに煽られて、無頼の剣の6人が腰の剣を抜いた。

 シャーラはお財布ポーチから何時もの訓練用木剣を取り出す。

 

 「舐めやがって、俺達を一人で相手するほど強いのなら一斉に行くぞ!」

 

 〈ウリャー〉

 〈死ねよ!〉

 〈こな糞がぁー〉

 

 おー凄え根性だが、相手が悪すぎるな。

 一斉に打ち込んできた剣先を一歩下って躱すと、軽く踏み込んで剣を弾き飛ばす。

 半円を描くように囲んでいたのが不味かった。

 弾かれた剣は隣の男の胸に食い込む様にして止まった。

 その時には反対側の男の手首があらぬ方向に曲がっている。

 一瞬で3人を無力化したシャーラを見て残りの3人が躊躇った瞬間、3人の剣が叩き落とされていた。

 最後に俺を嘲笑した男が腹に蹴りを受け、くの字になって呻いている。

 

 「はい終わりー、口だけの万年ブロンズには良い薬だ。これからは相手を見て絡めよ」

 

 「俺達を知っているのか」

 

 「いや、知らねぇよ。これでも万年シルバーの2級だからな、勝てそうもない相手は判るさ」

 

 「カイトだ、こいつ等は何処から流れて来たんだろう」

 

 「俺は雷神のリーダーをしているムルギだ。ここ一月程前から見掛ける様になったが、群れて態度がでかいので目立っていたな」

 

 「頭悪そうだよな。無頼の剣ってより無類の阿呆って感じだし」

 

 「お前等も迷いの森の奥へ採取に行き、無事に帰って来られる様になってから意気がるんだな。とっとと消えろ」

 

 「悪かった。たっ頼むからポーションを持ってたら分けてくれ」

 

 「とことん馬鹿なチンピラだな。模擬戦に剣を抜いたんだ、殺されなかったのを喜べ。ポーションなんか勿体なくてお前にやれるかよ。二人に謝って消えた方が身のためだぞ。意気がってちょっかい掛けていた奴等に見つかったら、どうなると思ってるんだ」

 

 おいおい泣き出したよ。

 

 「ねぇ無頼の剣の皆さん、ちょっとだけ治す事が出来るけど」

 

 「シャーラ放っておけ、少しは大人しくなる良い機会だ」

 

 「でもカイト様目障りですから、ダルク草原から消えてもらう条件でちょっとだけ治します。埋めてしまうより手早いし」

 

 チラリとフンザ達の方を見ている。

 こいつ等を埋めた後で、ファーナ達と焼肉パーティーでは味が落ちるからな。

 渋々頷くと、小さくブツブツ言いながら6人の怪我を治して出て行かせた。

 

 「へぇー姐さんは、治癒魔法使えるのか。あの腕前で治癒魔法まで使えるって、相当なもんだな」

 

 何だかんだで草原の風と雷神のメンバーに俺達で、レッドホーンディアの焼肉パーティーになってしまった。

 雷神のメンバーは男ばかりの5人、聞けばダルク草原に野獣が増えていると聞きつけ、稼ぎに来ているって。

 普段は、ハーベイの冒険者ギルドに出入りしているのだそうだ。

 

 「あんた達二人とも良い腕だな。レッドホーンディアなんて、滅多なことでは獲れないからな」

 

 「本当よね。それも頭を一発で打ち抜いているし」

 

 「ああ、それを解体しただけで肉半分以外、全て貰って悪いな」

 

 「いいよ、俺達はお肉が欲しかったから獲ってきたんだ」

 

 「カイト様焼けましたよ」

 

 シャーラとファーナがせっせとお肉を焼いている。

 

 「おー、レッドホーンディアって、結構美味いのな」

 

 「これを結構美味いですませるか、どんだけ口が肥えてるんだよ」

 

 雷神のメンバーが、呆れている。

 ホイシー侯爵様との関係を見て知っている、草原の風のメンバーは苦笑い。

 楽しい焼肉パーティーの一夜も終わり、又周辺整備の手伝いをする日々が続いた。

 

 * * * * * * *

 

 「シャーラさん達を探している人達がいますよ」

 

 そう教えてくれたのは雷神のメンバーの一人、ヤナゲだ。

 

 「シャーラを? どんな奴だった」

 

 「それがちょっと変わった奴でして、冒険者の格好をしていましたが街の者ですね。それが冒険者の護衛8人も連れて。シャーラさんの事を尋ね回っていますよ」

 

 シャーラをってのに心当たりが無いし、考えても判らないなら酒呑んで寝よか。

 て言葉通り、出会うまで考えを放棄した。

 

 * * * * * * *

 

 「おー居たいた、お前がシャーラか」

 

 いきなり5人の冒険者に囲まれた、といっても近づいてきているのは知っていた。

 北の拠点に程近い場所なので、拠点に向かう奴等だと思っていたらシャーラ目当ての様だ。

 

 「シャーラに、何か用事か」

 

 「あーん、シャーラって女には、生意気なガキが側に居るって話だったな。お前に用は無い。消えろ!」

 

 「また、凄い無礼な奴だねー」

 

 「ほー話に聞いた通り、糞生意気な奴の様だな」

 

 「因みに誰に聞いたの」

 

 「おい、ガキに用は無い。女を連れて行け!」

 

 シャーラの手首を掴もうとした瞬間、逆に手首を取られて捻じ伏せられていた。

 

 「カイト様。どうしますか」

 

 「てめぇ何しやがる!」

 

 いきなり殴りかかったが、シャーラ相手に問答無用で殴りかかって無事で済むはずがない。

 ひょいと躱されて、逆に顔を蹴られて鼻がちょっと横を向いた。

 おまけに鼻血がドバーって、ばっちいね。

 

 「構わねぇ、押さえつけて連れて行くぞ」

 

 無事な3人がシャーラに飛びかかったが、回し蹴りに肘打ち頭を掴んで地面に強制キッス。

 あっという間にのされてやんの。

 俺はその間に最初の2人の足を埋めて、拘束しておく。

 倒れた3人の両手を埋めて固定してやるが、大地は重たいぞ。

 

 「随分乱暴だなぁ。と言うか、完全な拐かしだぞ」

 

 「てめぇ土魔法使いか」

 

 「んな事はどうでもいいんだよ。何故シャーラを拐っていこうとしたんだ」

 

 「これを外せ! 舐めた真似をしていると後悔するぞ」

 

 言葉が通じない相手には、足を滑らせれば通じる事を思い出した。

 

 〈ウゴっ〉

 あーあ、鼻血が出ているよ。

 

 「聞いているのは俺なの。お前は地面に両手を埋められていて、何も出来ないってのが理解できないのか。どうやって後悔させるんだ」

 

 鼻血を流しながら睨みつけてくるので、再度足が滑って鼻にぶつかる。

 

 「もう一度聞くよってか、耳は聞こえているんだろう。質問に答えろ」

 

 シャーラが横で木剣を取り出してウォーミングアップを始めている。

 ヒュンヒュンと鳴る木剣、シャーラと俺を見比べているが段々と顔色が悪くなる。

 

 「何度も言わせるな。何故シャーラを連れていこうとしたんだ」

 

 もう一度鼻を蹴りつけると白目になったので、隣の男に聞く。

 

 「聞こえていただろう。返事は?」

 

 「頼まれたんだ。シャーラって女を連れて来たら金貨5枚貰える事になっているんだ」

 

 シャーラちゃん、賞金首になってますがな。

 

 「どんな奴に頼まれたんだ」

 

 「優男だよ、護衛の冒険者を8人も連れている」

 

 「その優男も冒険者の格好をしていたと思うが」

 

 「そうだ、冒険者の格好だが、あれは街の人間だ。剣すらまともに下げていない」

 

 「そいつの名前は、どこに連れて行くつもりだったんだ」

 

 「グルサス様って呼ばれている。シャーラって女を、西の拠点まで連れて来たら金貨を5枚やると言われたんだ」

 

 「ふーん、西の拠点ねぇ。で金貨5枚に目が眩んで拐かそうとしたんだ。拐かしは犯罪奴隷って知っているよな」

 

 「そんなつもりは無かった。ちょっときて欲しかっただけだ。犯罪奴隷なんて大袈裟だぜ」

 

 「はぁん、『女を連れて行け!とか構わねぇ押さえつけて連れて行くぞ』って言ってたよな。完全な拐かしと何処が違うんだ。警備兵に聞いてみるか」

 

 北の拠点に近いので、通りすがりの冒険者達が騒ぎを見ている。

 その一人を呼び、銀貨を握らせて警備兵を呼びに行かせた。

 

 「なぁ勘弁してくれよ。こんな事で犯罪奴隷にする気かよ」

 

 「さっき『舐めた真似をしていると後悔するぞ』って言っていたよな、お前が後悔しろ」

 

 8人の警備兵がやってきて俺に敬礼する。

 それを見た男たちの顔色が益々悪くなる。

 事情を話して5人を引き渡すと、後ろ手に縛られて泣きそうな顔で引き摺られて行く。

 しっかり後悔しろ! って思ったけど黙っている。

 

 代りに、グルサスって男が西の拠点に護衛の冒険者8人といるらしいので、なんの用か聞いておいてと頼んでおいた。

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