第153話 森の隠れ家

 以前カイトとの会話で、建物を吹き飛ばすのは簡単だと言っていた。

 『王城一つ潰せと言われたら多少準備が必要ですが、少々大きな家くらいなら簡単です』

 しれっと言っていたが誇張とは思えない、その力を見てみたいが後悔しそうな気がする。

 

 ホイシー侯爵にハーベイでの取り調べが終わり次第、ヘイカン・マルサド伯爵を王都に連行させなければならない。

 もう一つの問題は、ケルーザン王国が何処までダルク草原の秘密を知っているかだ。

 

 * * * * * * * *

 

 ハーベイのホイシー侯爵邸に連行されたマルサド伯爵は騎士団の徹底的な取り調べを受ける事になった。

 貴族としての待遇を要求したが、戦時捕虜でもないと拒否された。

 コソ泥の如く他国領に潜み、冒険者から薬草を巻き上げていた事を責められて散々に殴られた。

 

 怪我をすればポーションを無理矢理飲まされ、治れば又殴られる。

 街のチンピラ以下の扱いに直ぐに音を上げ、問われたことに素直に喋りだす迄に時間を要しなかった。

 

 迷いの森のことを何故知ったのか問われて、エルフの一族の者からエルザン地方のダルク草原に精霊の濃密な気配が有る。

 精霊の気配の濃厚な場所には、貴重な薬草が多く生えると聞かされた。

 又そのエルフ曰く、彼等の伝説によれば精霊は精霊樹より生み出される存在だと言った。

 

 彼等はダルク草原で薬草の採取をし、精霊の濃密な気配がする場所を探り、出来れば精霊樹を見つけたい。

 だが、何故か最近になりナガヤール王国エルザン地方のホイシー侯爵領とダルク草原には、エルフ族もエルフの依頼を受けた者まで立ち入りが厳しく制限されてしまった。

 

 それ以前にもエルフの間では精霊樹の噂が流れ、直後にダルク草原の一角で大勢のエルフが死んだらしい。

 同時期にはエルフの部族間抗争が起こり、其処でも大勢死んだと伝わっている。

 

 貴重な薬草の欲しい彼等は、取引のあるマルサド伯爵に話しを持ってきた様だ。

 

 マルサド伯爵はその話が真なら、精霊樹があるかもしれないと思い調べた。

 各種の書物や伝承を調べた限りでは、精霊樹の小枝一つ購うには、万の金貨が必要とあった。

 又エリクサーの材料に欠かせない精霊樹の若葉と花びらも、万金の値と書かれている。

 その精霊樹がダルク草原に生えているかもしれないのだ、誰も気づいてないなら自分が手に入れようとやって来たと。

 

 然し迷いの森は極めて危険なため奥に行けないので、信用出来る部下に冒険者達を雇わせた。

 彼等を使ってダルク草原で薬草採取している者達から、薬草を集めていたと吐いた。

 

 何故お前が此処に居座っていたのかの問かけには、誰にも知らせずに精霊樹の小枝や若葉を探しているのだ、自分が集められた物を確かめる必要があると胸を張る。

 

 部下や冒険者を雇ってそれらしい物を探せばよかろう、と聞かれたマルサド伯爵の返答がふるっていた。

 

 そんな貴重で高価なものを探せと命じたら世間に知れ渡る。

 見つけても自分の所には持って来ないと、胸を張ってほざいた。

 確かに安い依頼料を貰うよりも、オークションに出す方が大金を手に出来る。

 違約料等安いものだ。

 

 その話をしたエルフとの関係はと聞くと、ポーションを安く仕入れる代りに領内で色々優遇していると話した。

 エルフの名はモエレの里のユルム、里長代理だと喋った。

 

 その話を聞いてまたかと思った、しかもモエレの里って以前俺の後を追い回した糞エルフの所だ。

 

 俺もホイシー侯爵様もマルサド伯爵の尋問に疲れていたが、何処までこの話が広がっているのか知っておく必要があった。

 結果は欲だけで動いていたようだ、隣国のケルーザン王国の王室には病気療養中と伝えていると喋った。

 

 もう一つの心配の種、隣マナヤス地方の領主ルクソー子爵との関係は、お互いの双方の領地内では持ちつ持たれつ、なあなあの仲らしい。

 それなりに金が動いているのだろうが、俺には興味の対象外だ。

 

 ホイシー侯爵様は聞き取った内容を、一日一度は書面にして早馬で届けている。

 

 * * * * * * * *

 

 日々届くホイシー侯爵からの書面に、隣国の王室が絡んでないと判り安堵した国王と宰相だが、捕らえた人数の多さに頭を痛めていた。

 

 無罪放免とする訳にはいかない、変な噂が流れたら又面倒事が増える。

 ホイシー侯爵とも相談の結果、マルサド伯爵の部下は全員犯罪奴隷にし王都に送る。

 その後は鉱山送りで死ぬまで働いてもらう事になる。

 

 ケルーザン王国とは何も無かった事にするためだ。

 

 120人ちかい冒険者達は、カイトの助言通り犯罪奴隷として迷いの森の周回路建設に使役する事になった。

 盗賊行為の片棒を担いだのだから当然の結果だし、見知った者が居ても犯罪者に声を掛けられないので理由も漏れない。

 

 最大の問題はヘイカン・マルサド伯爵の扱いだ、病気療養中に行方知れずで死んでもらっても良いが有効利用したい。

 ホイシー侯爵との協議の結果、情報漏洩の危険は犯せないと部下共々犯罪奴隷にして鉱山送りと決まった。

 

 * * * * * * * *

 

 結果を聞いた俺はやっと開放されると安堵した。

 なにせダルクの森の秘密に関わる事なので、丸投げが出来なかった。

 結果シャーラ共々ホイシー侯爵邸に泊まっていたので、下にも置かない扱いに閉口していた。

 

 夕食の席でホイシー侯爵様から迷いの森に帰るのなら、内側の周回路だけでも直ぐに工事を始めたいので、拠点の位置だけでも決めて欲しいと頼まれた。

 今回の様な事を起こさない為に警備の兵を巡回させる事になるが、彼等の宿営地を拠点に置きたいとの事だ。

 

 原案では東西南北に拠点を造るつもりだったがその中間点にも一回り小さな拠点を造る事にした。

 序に天候不良等の時のための避難所も各拠点の中間点に造る事を提案する。

 10キロ前後に拠点か避難所が在れば巡回警備も楽だろうし、冒険者達も避難所が在ればより安全になる。

 

 本音は自分の為なのだけど。

 

 迷いの森に向かう時には警備兵30名と犯罪奴隷となった男達30名を引き連れて行く事になった。

 後続が順次送られて来るが 、彼等を各拠点の設置場所に案内するのが最後の役目だ。

 整地が済めば建設の為の労働者が送られて来るが、その頃には俺達は迷いの森に拠点を造る為に居なくなっているので後は知らない。

 

 東西南北の拠点に中間拠点、その間の避難所8ヶ所を決め終わったのが工事を始めて一月半、後はホイシー侯爵様に建設費として金貨5,000枚を渡してお任せする。

 

 * * * * * * * *

 

 「やーっと終わりましたねー」

 

 「本命が残っているけどね。快適な生活の為に考えていることがあるから、4〜5日休憩したら一度ハーベイの街に行くぞ」

 

 「ハーベイで何をするんですか」

 

 「ランク14のマジックポーチが2つも有るんだ、大型のキャンプハウスを作るのさ。それを迷いの森の中に置いておけば、誰も近寄れないだろう。さっダルクの所に行こうか」

 

 * * * * * * * *

 

 ダルクに、迷いの森の中にアジトを造る許しをもらう。

 

 《無理に森の中に入れなくてもいいよ。カイトがそのハウスってのを置いたら、森を広げて包んであげるよ。美味しい実の生る木も沢山生えるよ》

 

 《本当ですかダルク様》

 

 《任せてシャーラ、シャーラ達しか入れない様にするからね》

 

 《ダルク、森に来て薬草採取する人族が増えるかもしれないけど、住み着けない様にしたからな》

 

 《有難うカイト》

 

 休養をたっぷりと取ったのでハーベイの街にキャンプハウスの豪華版を作りに行くが、西の拠点に寄り馬を引き出し馬車に繋ぐ。

 この拠点は100メートル四方程の、柵に囲まれた敷地に厩と宿舎が建っている。

 

 宿舎の半分の1,2階には警備隊の宿舎とと執務室が有り1階の隣には冒険者ギルドの出張所が併設されている。

 ギルドの2階は冒険者達が寝泊まり出来る簡易宿泊施設が有るが、娯楽設備などは無い。

 あくまでも簡易宿泊施設だ、この建物の一角に俺達の部屋を一つ確保している。


 警備隊の厩に俺達の馬も預けているし、馬車も此処までしか乗ってこない事にした。

 馬車でウロウロすると目立つので、迷いの森からこの拠点までは歩きだ。

 

 拠点を出る時に門番と野獣監視用の塔に立つ警備兵に手を振って通過許可をもらう。

 ほぼ顔パスだけど俺達は冒険者なので威張るつもりはない。

 もっとも草原の風のリーダー、フンザやヨルサ,ファーナ達からは出会うとやたらと丁寧な挨拶をされる。

 

 フーニー村への道は快適、最初に来た頃は3日半かかったが、今では少し急げば2日も在れば着く。

 早く着くのは道を通るたび、コソコソ修復しているからだけど。

 

 * * * * * * * *

 

 「カイト様こんなに大きな物ですか」

 

 「これで半分だよ、二つ合わせるから倍の広さになるよ」

 

 「ほぇー、倍ですか」

 

 造っているのは幅5 メートル高さ3メートル長さ13メートルの木箱だ。

 もう一つは幅3.5メートル高さ3メートル長さ13メートルでこちらに浴室トイレ台所に食卓を造る。

 広い方はワンルームだ、日本では買えない豪華ワンルームに仕上げた。

 本当は別にする必要は無いが、余りに横幅が広いのでつい日本人の感覚で大きすぎると思ってしまった。

 一つでも十分大きいのだけど、こんな所で俺の貧乏性が出る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る