第154話 お譲りします
迷いの森に戻って豪華キャンプハウスを設置する。
勿論基礎工事は完璧、ちょっと地下に酒蔵も造ってしまったのはご愛嬌。
据付もバッチリ、些かのズレも無い、ズレたところで土魔法でチョイチョイと修正するので無問題。
シャーラと二人でハウスの表面を土魔法でコーティング、巨大岩に見せかける。
尖った岩の先端に見せかけた、煙突が有るのは薪ストーブを作ったから。
下にキャンプハウスを置いて岩に見せかけると、上部が空洞のがらん洞になるが、ストレッチルームに仕上げる。
長寿の秘訣は健康な生活から、適度な運動は老後の健康の為に・・・何歳まで生きるのかしら。
場所を指定すると、ダルクが直径100メートル程の空き地を囲むように植物を生やし、外部から見えなくしてしまった。
勿論侵入防止のために茨の木や痺れ棘の蔓等が密生していて近寄れない。
だからいきなりでかい岩が出現しても無問題、便利な世界ですこと。
ダルクに無理をするなと言ったら、ピンクと話せる半分位の距離位まで広げるが、ゆっくりやるから大丈夫だよと言われた。
何か小さな森のはずが、結構な森になってしまいそうな予感。
時々東西南北の拠点と補助拠点の4ヶ所、避難所8ヶ所を覗いて周回路の出来具合を見て回る。
大量の犯罪奴隷を投入しているとはいえ、所詮人海戦術で120〜130キロの長さの道を造るのだから時間が掛かる。
1日100メートルも出来れば上出来の部類だ。
しかも直線的に作れないので、1,2割増える予定なのだから焦りは禁物気長にみている。
時たま草原の風パーティーに出会うが、余計な奴等がいなくなり又以前の稼ぎに戻っていると喜んでいた。
俺も他の冒険者達の稼ぎを掠め取る奴を見掛けたら、それとなく警備兵に教えてやってくれと頼んでいる。
別に俺の領地だ縄張りだという気はないが、小さな事を放置すると集団化して手に負えなくなるからだ。
面倒事は小さな芽のうちに摘み取るのが楽で良い。
それとは別に、エルフの依頼を受けている奴がいれば教えてとも頼んでおく。
どうも以前会った、モエレの里の男が気にかかる。
奴の口からモエレの里長かその補佐の耳に俺達の事が伝わり、今回の騒動に繋がった気がする。
最近気付いたのは迷いの森の周辺だけでなく、周回路の外にも色々な薬草が生えているらしい。
冒険者達は、危険な迷いの森の周辺よりそちらに向かう傾向が強いようだ。
だが良いことばかりでもない、植生が豊かになると草食動物が増える、後は食物連鎖の輪が大きくなっていくだけだ。
なーんて呑気に考えていた俺が間抜けだった。
俺が拠点、森の隠れ家と呼んでいる新たなハウスで寛いでいるときに、シャーラはよくダルクの所に行っていた。
グリンやピンクとシャーラが、ダルクの所に行っていたのは播種のためだった。
ダルクが人族が薬草を求めて集まるのなら、迷いの森に近づかなくても採取出来る様に、広く種を蒔くから手伝ってと頼まれたって。
迷いの森ので採取出来る薬草や草花の種を、迷いの森の周辺から周回路の外側に至る広範囲に、バンジージャンプして高空からバラ撒いていたらしい。
グリンとピンクが楽しそうに教えてくれました。
「それでねカイト様、ゴブリンやオークにホーンボアなんか結構増えてますよ。ブラックシープにバッファロー、ホーンラビットやジャンピングマウスもです」
「そりゃーこれだけ餌になる草や木ノ実が増えれば、それを食べる動物も増える。又それを餌にする奴も増えて当然だな、冒険者なら勝手に対応するさ」
「カイト様、草原の風のファーナに聞いたんだけど、レッドホーンディアってとっても美味しいそうなんですよ」
それを聞いて思い出したが・・・食欲が湧かないなぁ。
思い出し序に、エルフ達が喰われる場面まで思い出した。
忘れていたのだから放置しておこうと思うが、嫌なことは必ずお節介な奴がいて迷惑するんだ。
シャーラには黙っておこう、シャーラが食べたいと言えばシャーラ一人に全て食べさせればよいか。
「なぁシャーラ、そのレッドホーンディアってこの近くにいるのか」
「ファーナ達が見つけて狙ったそうですが、用心深く逃げ足が途轍もなく速いので、近寄れなかったそうです」
涎の垂れそうな顔で言ってるのに、気づいてないな。
嫌なことを思い出したので、口直しにそいつを食べたいが近くの冒険者ギルドは薬草専門だしなぁ。
「シャーラって獲物の解体出来たっけ」
「嫌ですよカイト様、ホーンラビットやホウホウ鳥くらいなら出来ますが」
「出来ますが、の先は何だ」
「ずっとカイト様に従っていますから、解体など出来ません。ホーンラビットやホウホウ鳥とか鶏なら、母さまと森でお肉にしていましたから出来ます」
ご無理御尤もで御座います。
俺も解体なんて出来ないわ、ホーンラビットも自信ないな。
「よーし過気分転換に、そのレッドホーンディアを狩りに行くか。グリンとピンクは見つけても教えちゃ駄目だぞ」
《ん?・・・どうして》
《ピンクも駄目なの?》
《これはシャーラと競争だからな。何時もシャーラと遊んでいるのだから、今回は俺がシャーラと遊ぶよ》
《ん、判った》
《んー、じゃー近くで見ているね》
翌日草原に出てバンジージャンプの降下中に周囲を見張る。
シャーラの高度は俺と同じ400メートルまで、ハンデを付けなきゃ俺が負ける。
が、バンジージャンプ大好きっ子のシャーラに負けた。
初めて見たレッドホーンディアは以外に大きくて、奈良で見た鹿の1.5倍位の体高があった。
収納に仕舞って、草原の風達を探す。
お肉半分で解体を頼む予定、使える人材は使わなきゃ。
草原の風が何時も居る西の拠点に行くと懐かしい顔を見つけたが、ちょっと背中に暗雲が見える。
「どうしたのですかオルランさん」
「わぁーオルランさんだぁ、お久し振りですぅ」
「どうしたもこうしたも、お前達が肉の事を忘れているから、陛下から催促してこいと侯爵様に声が掛かったのさ」
「あーっ、忘れてました・・・お肉ってあのお肉ですよねー」
「あれ、食欲湧かないんですよ」
「忘れてたってお前、陛下はお肉を目の前にお預け食らって、やいのやいのの催促らしいぞ。そこでお前達と顔見知りの俺が、ダルク草原に派遣されたって訳だよ」
「でも約束は半分ですから、それを残しておいてくれたら良かったんです。お肉の半分以外は王家の取り分なんだから、好きにすれば良いのに」
「はいそうですかといかないのが、王侯貴族の辛いところさ。収納持ちが保管しているが、陛下が文字通り肉を目の前にした野獣状態だ、何とかしろ!」
「シャーラ食べたいか?」
「私はレッドホーンディアのお肉でいいです」
「オルランさん、せっかく来てもらって悪いけど、俺達の取り分はハマワール家とホイシー侯爵で分けて下さいって、伝えてもらえませんか」
事情を知らないオルランさんが信じられない物を見る様な顔になっている。
俺達はあれを直接見ているからな、話だけの陛下とは食欲の度合いが違うんだ。
〈勿体ない〉ってオルランさんの声が聞こえるが無視する。
「で、どうなんだ結構時間が掛かっているようだが」
「それねー、1から道を造っていますから意外に手間の掛かる事が多く、放っておくわけにもいかず成り行き任せですよ。一筆書いておきますから、それでお肉を処理して下さい。侯爵様から陛下にそう伝えて下さい」
オルランさんとは一晩、久し振りに何時ものキャンプハウスの中で語りあった。
勿論、接待には天上の酒を出し満足して頂きましたね。
王都に帰るオルランさんに、3年物を2本侯爵様にと預ける事も忘れてはいない。
陛下の催促を受け、御迷惑を掛けたお詫びだ。
オルランさんとお別れしたら、草原の風にレッドホーンディアの解体をお願いする。
お肉半分以外全て、草原の風に引き渡す事が条件だ。
「良いんですか、俺達の条件が良すぎるんですが」
「勿論さ、俺達はお肉が食べたいが解体が出来ないんだよ。それを頼むのだから、それくらいは当然だろう」
草原の風のリーダーフンザが首を振っている。
〈冒険者の癖に解体が出来ないって、ど素人かよ〉遠くでなにか言っている奴が居る。
フンザも聞こえたのか、苦笑いして肩を竦めている。
交渉成立、シャーラはファーナと取れたお肉で今晩焼肉パーティーの相談をしている。
「よう兄さん、解体なら俺達が格安でやってやるよ」
さっき遠くで人を嘲笑していた奴が、ノコノコ出てきやがった。
「俺はど素人なんでね、解体は信頼できるベテランに頼む事にしているんだ。見ればゴブリンあたりの解体が得意そうだから、又今度頼むわ」
「兄さん、素人だと思って優しく言ってるんだ。舐めた口を叩くと怪我をするぜ」
「だからゴブリンが手に入ったら解体をお願いしますって、お肉は全て差し上げますよ」
〈プッ〉って、後ろで吹き出してるよ。
「野郎俺達〔無頼の剣〕をそこまで虚仮にするのなら、それなりの覚悟は有るんだろうな」
「で、無頼の剣の皆さんに教えて欲しいのだけど、ランクはなに? まさかアイアンって事はないよね」
意気がる馬鹿は挑発に弱いって、本当だ。
人を嘲笑すればやり返されるって、身体に刻み込んでやるよ。
相手をするのはシャーラだけど。
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