第152話 丸投げが楽

 冒険者パーティー草原の風3人は、4日目の夕刻ハーベイに着いた。

 入場待ちの列の横を通り、衛兵にシャーラの身分証を見せると黙って通された。

 半信半疑で見せた身分証の威力に驚くが、役目は手紙を渡す迄だ。

 

 「カイトとシャーラに頼まれて、緊急にホイシー侯爵様にお渡しする手紙を預かっています。お取次ぎをお願いします」

 

 草原の風リーダーフンザの一言と、差し出されたシャーラの身分証を確認した衛兵は、直ぐに責任者を呼んだ。

 

 「カイト様とシャーラ様の、緊急の手紙に間違い在るまいな」

 

 再び身分証と手紙を見せると、確認した責任者の男は馬車を用意し、3人を乗せてすぐさま走り出した。

 

 「このシャーラさんの身分証って、凄いのねぇ」

 「ああ、何の疑いもなく伝えた事を信じて馬車を用意したからな」

 「俺、始めてお貴族様を見るよ」

 「はぁん、馬車で通る所くらい見たこと有るだろう」

 「ねぇ、やっぱり跪かなけりゃ駄目かな」

 「心配しなくても、精々執事様に手紙を渡してお役御免だよ」

 

 心配する草原の風を乗せた馬車は、ホイシー侯爵邸の正門前に止まると御者が声を張り上げる。

 

 「カイト様とシャーラ様から、ホイシー侯爵様に緊急の書簡が届いた門を開けろ!」

 

 「おい、マジかよ」

 「嘘だよね」

 「あー俺、何か悪い事したかな」

 

 3人の心配を他所に馬車は正面玄関に横付けされ、御者席から飛び降りた衛兵が乱暴にドアのノッカーを叩く。

 暫くして不機嫌な顔の執事が現れたが、衛兵の言葉を聞くや、馬車の側に立つ3人に身分証と手紙を見せる様に要求した。

 

 身分証と手紙の表書きを見た執事は「その方達、付いて参れ」と一言告げるとさっさと歩き出した。

 事態の成行きに、完全に腰の引けた草原の風のメンバーは逃げ出す事も叶わず、恐る恐る執事の後を付いていった。

 二階の立派なドアの前でノックする執事。

 

 「入れ」

 

 中からの声に、ドアを開け傍らに控える執事に促され、観念して足を踏み入れる。

 

 「カイト様とシャーラ様から、緊急の書簡が届きました」

 

 執事の声にビクつく3人を見たホイシー侯爵が、手招きする。

 リーダーのフンザが覚悟を決め、ホイシー侯爵の前に立ち手紙を差し出す。

 

 黙って受け取りすぐさま封を切り読み始めるが、顔が段々と険しくなっていく。

 目の前に立つフンザは冷や汗タラタラで、この仕事を受けた事を後悔していた。

 

 「ヨルカン、警備軍の隊長と騎士団長を呼べ」

 

 飛び出す様に部屋を出ていく執事、侯爵様が呼び鈴を振る。

 

 「済まないがカイト殿の所まで案内を頼む。食事の用意をさせるから今日はゆっくり休んでくれ」

 

 「あのー侯爵様、私達此処に?」

 

 「ああ明日夜明けと共にカイト殿の所に向かうので、今晩は館に泊まってくれ」

 

 やって来たメイドに3人の食事と部屋の用意を命じると、現れた騎士と真剣な話し合いを始めた。

 

 使用人達の食堂で、たっぷりと温かい食事を振る舞われ綺麗なベッドで一夜を明かした3人は、夜明け前に起こされた。

 朝食を済ませると綺麗な布に包まれた昼食を渡され、従者の案内で裏庭に出る。

 

 軽鎧で武装した部隊が既に待機している、傍らには騎士の一団とゴツい馬車2台と空馬がいる。

 草原の風の3人に空馬が与えられ、連れて行かれた先はホイシー侯爵様と護衛の一団の前だった。

 

 「やぁお早う。案内を頼むぞ」

 

 その声を合図に侯爵様の集団が動き出し、草原の風に付いて来るよう護衛の一人から声を掛けられる。

 

 侯爵様の一団の後に従いながらチラリと後ろを見ると、2列に並んだ騎馬の列が延々と続いていた。

 

 「ねぇフンザ、すごい数の兵隊だよ」

 

 「そりゃー捕まえた人数が人数だからなぁ、多くもなるさ」

 

 フーニー村からは草原の風の3人が先頭に立ち、カイト達の所に向かう。

 

 * * * * * * * *

 

 ホイシー侯爵からの早馬が到着したのは、ホイシー侯爵達がダルク草原の迷いの森に向かって3日後だった。

 普段馬車で10日の道程を、昼間だけとはいえ馬に鞭打ち乗り換えながらの急報だ。

 手紙を受けとったナガラン宰相は、一読すると国王陛下の下に急いだ。

 

 「これは真か」

 

 「ホイシー侯爵自ら確認に向かっていますが、カイトも軽々にこんな話しを持ち込まないでしょう」

 

 「だがどうする、迷いの森とその周辺はカイトとシャーラに与え、我々は手出しをしないと盟約したばかりだぞ」

 

 「もし書面の通りなら、署名する前から潜んでいた事になります。多分、自分の領域から放り出すつもりでしょう。そうすればホイシー侯爵の権限でどうにでもなります。本当にケルーザン王国のヘイカン・マルサド伯爵なら、我々は秘密裏に干渉されていた事になります。それとケルーザン王国とホイシー侯爵領の間にルクソー子爵領が在りますが」

 

 「まさかな、直ぐに調べろ」

 

 * * * * * * * *

 

 《カイト人族が沢山来るよ》

 

 《どっちから来てる》

 

 《ん、こっち》 

 

 グリンの示す方向はフーニー村の方向だ、ホイシー侯爵様なら草原の風が上手くやった様だ。

 

 シャーラがジャンプして確認している。

 

 「先頭に草原の風のメンバーがいますから、ホイシー侯爵様ですね」

 

 任務を果たし帰って来た草原の風に、約束の金を払い労うと、ホイシー侯爵がやってきて従者に合図する。

 

 「ご苦労だった、案内料だ」

 

 俺からもらったものより数倍は重そうな革袋に戸惑っている。

 

 「口止め料と思って貰っておきなよ。暫くゴタゴタして何かと聞かれると思うから面倒だよ。何か聞かれたら盗賊団が住み着いていたんだと言っといてね。それで侯爵様を迷いの森まで呼んできてと頼まれ、案内しただけだと言えばいいよ」

 

 微妙な顔で頷き、シャーラに身分証を返して引き返していく。

 

 ホイシー侯爵様は苦笑いしている。

 

 「では問題の者から引き渡してもらおうか」

 

 ホイシー侯爵様一行を、マルサド伯爵を閉じ込めた場所に案内する。

 地下に入ると、足を固定された冒険者に従者と思しき男達が、窶れた顔で俺達を見ている。

 足の固定を外して騎士に引き渡し、奥の伯爵達を閉じ込めた場所に案内する。

 

 ホイシー侯爵様、覗き穴から見て唸っている。

 

 「間違いない。奴はマルサド伯爵だ」

 

 「お知り合いで」

 

 「隣国とはいえ、隣のマナヤス地方の向こうだ、最低限の付き合いは在る。開けてくれ」

 

 拘束して無いので騎士達を出入り口左右に配置し出入り口の固定を解く。

 シャーラが一蹴りすると崩れ落ちる。

 突然開いた扉を見てマルサド伯爵の護衛達が剣を抜くが、シャーラと俺でストーンバレットを腹に打ち込み無力化する。

 

 「これはこれは、珍しい所でお会いしますなマルサド伯爵殿。此処が誰の領地かご存知な筈だが」

 

 「ホイシー殿、いやこれは・・・その男に拉致されて・・・」

 

 「ほう、そうですか大変でしたなぁ。我が館で、ゆっくりと話し合おうではありませんか」

 

 ホイシー侯爵様が顎をしゃくると、騎士たちが地下室に雪崩込み、マルサド伯爵の護衛達を拘束していくが伯爵も例外ではない。

 

 「なっ何をする」

 

 「何をされるかは、今後のお前の話次第だな」

 

 ホイシー侯爵様の冷たい声が響く。

 

 伯爵以下全員を拘束すると猿轡をし、顔が見えない様に袋を被せる。

 

 「こ奴等の顔を大ぴっらに晒すと、色々差し障りがあるからな」

 

 地下から連れ出すと、頑丈な馬車に放り込んでいく。

 次は各場所に閉じ込めた連中だ、面倒なので二手に分かれると言ったらシャーラがゴネる。

 また殴られたりしたらどうしますって、痛い所を突いてくるね。

 奴は健気に御主人様の為、一命を賭したのに無駄だったな。

 グリンとピンクが俺に付いて来ることで納得させ、閉じ込めた連中の開放に向かう。

 

 開放したところで、直ぐに拘束されハーベイの街に連行だけどね。

 閉じ込めておいた場所を開けて拘束を解くが、誰も抵抗しようとしない。

 俺の後ろに騎士や兵士たちがずらりと控えていて、抵抗は無意味と悟っている。

 ボス連中は全員袋を被せられ、馬車の中に詰め込まれる。

 残りは数珠繋ぎにされて、ハーベイまで歩かされる事になった。

 

 「カイト殿、済まないが一度ハーベイまで来て貰えないか、急いで周回路と拠点造りの相談をしたいのだが」

 

 仕方がない、早く拠点を造ってホイシー侯爵様の手勢に巡回して貰わねば、面倒事を俺が片付け無ければならないからな。

 奴等が拠点にしていた場所は、全て潰したので暫くは住み着く奴もいないと思う。

 クインも面倒な場所に種を運ばせたもんだ。

 

 * * * * * * * *

 

 ホイシー侯爵からの連絡は続けざまに来たが、ヘイカン・マルサド伯爵に間違いないとの書面に、ナガラン宰相も国王陛下も頭を抱えた。

 笑って済ませる問題では無いが、かと言って戦になれば多大な戦費と死者の山を築く事になる。

 それとホイシー侯爵の隣のルクソー子爵の内偵が始まったばかりで動きようがない。


 問題がもう一つ、カイト達がどう動くかさっぱり判らない。

カイト自身が攻撃されたのならカイトは相手を許さないが、今回は全く状況が違う。

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