第151話 伯爵確保

 「シャーラボケッとするな。奴等の出てくる場所を攻撃しろ!」

 

 俺のストーンランスでは届かない。

 出入り口の有ると思われる場所から、盾を持った男達が出て来て布陣する。

 

 氷の塊が飛んできた。

 飛距離はシャーラより飛んでいるので、魔力高100は越えるのだろう。

 火魔法も何とか届いているが、吹けば消えそうな威力で火傷が精々だな。

 水魔法で撃ち合いって舐めてるのか、途中で霧になって虹が出ている。

 速度は遅いので砦を造り観察する。

 シャーラのストーンランスも何とか届いて居るが、90メートルの限界を超えているのは間違いない。

 

 《カイト、やっちゃっていい》

 

 《あー、ピンク殺さないでね。ていうより、もう俺達と同じ魔法が使えるの》

 

 《少しね・・・半分くらいかな》

 

 《じゃーピンクはグリンと見物ね。俺とシャーラで片付けるよ》

 

 「シャーラ当たらなくても良いから威力を落して時々打っていろ。俺はやつらの後ろに跳んで捕まえるから」

 

 頷くシャーラを残し、盾の後から攻撃してくる魔法使いの後方にジャンプする。

 

 《ねっ、ねっ、どうするのカイト》

 

 《ピンク、ちょっと黙っててよ》

 

 何か力が抜けるなぁ。

 攻撃しているのは4人か、土魔法使いは防御の盾を造って守りを固めているだけの様だ。

 土魔法使いの能力をちょっと試すために、防御の盾を崩してみる。

 

 シャーラのバレットが飛んで来るが、手前に落ちてバウンドして盾に当る。

 おっ穴が空いたよ、大したことが出来る訳ではなさそうだ。

 地下トンネルの生活空間造りの為の建設要員の様だ。

 

 「馬鹿! もっと魔力を込めて頑丈にしろ!」

 

 お前もシャーラより飛距離が有るのに、当たらないとは情けないと思わんのか。

 声には出さないけど、突っ込みを入れてしまったぜ。

 そいつはトンネルの出入り口から10メートルも離れてない場所に、俺が居るのに気づいて声が出ない。

 騒がれる前に、柔らかバレットをそれぞれに打ち込み倒す。

 魔法使い6人全員お休み中。

 

 シャーラを呼び寄せ作戦を授ける。

 

 「燻し玉を出せ」

 

 ???な顔のシャーラに火を付けさせ、転移魔法でトンネルの中に放り込む。

 5つ程放り込んだら次だ。

 

 「シャーラトンネルの中の空気を掻き回せ、隅々まで燻し玉の煙を届かせ、燻製にしてやろう」

 

 「毒草入りのは使っちゃ駄目ですか」

 

 「却下、捕まえるのが目的何だから殺しちゃ不味いでしょ」

 

 不満気だが確かめる事があるのと、これからの事を考えると殺せないんだよ。

 

 〈ウェープッ〉〈ゲホッゲー〉〈ウゲーッ〉何か色々聞こえてくるね。


 地面の所々から煙が出ているので塞いで歩く、他に出口は無さそうだ。

 煙が出ていた穴の一つを煙突にして煙を排出する。

 

 「オーイ聞こえるか、武器を置いて一人づつゆっくり出てこい。逆らうなら今度は毒草入の燻し玉を使って、地獄の苦しみの中で死なせてやるぞ」

 

 「出ていく、待ってくれ」

 

 「なら丸腰で、両手を頭の上に乗せて出て来い」

 

 丸腰の冒険者が頭に手を乗せて一人、又一人と出てくる。

 出てきた全員に出口で首枷を付け、頭に置いた両手をそのまま首枷に固定する。

 騎士らしき男達が居ない、出てきた冒険者達に聞いても知らないって。

 

 ニヤニヤ笑う男の腹に、土槍を突き立てる。

 

 「楽しそうに笑っているが、可笑しいか」

 

 6人いる冒険者達の顔を見回すと、2人は服装だけが冒険者の物だが、物腰が柔らか過ぎる

 従者が2人って言ってたから彼等が従者だろう。

 4人に再び問いかける。

 

 「中に何人残っているのか聞いているんだが答える気は」

 

 「誰も居ねえよ。中に入って調べろよ」

 

 おかしい従者が居て本命の伯爵や護衛の騎士が居ない筈が無い。

 抜け穴かパニックルームでも造って隠れているのかな。

 

 《グリン,ピンクこの周りに、人族の集団がいないか見回ってくれないか》

 

 《ん、任せて》

 《私も見つける!》

 

 「シャーラ上空から確認してくれ、逃げ出したのならそう遠くには行ってない筈だ」

 

 「はい、必ず見つけます」

 

 そう言って姿が消えた。

 

 〈おい・・・今のって転移魔法じゃ〉

 

 「人の事より自分の心配をしろよ」

 

 そう言って『誰も居ねえよ。中に入って調べろよ』と言った奴の腹に土槍を突き入れる。

 

 「おい止めろ! 何故殺されなきゃならんのだ。俺達は何もして無いぞ」

 

 「そうか? 気にするな。聞かれた事にまともに話す気の無い奴を、生かしておいても邪魔なだけだからな」

 

 3人目の冒険者の腹に土槍を突き刺した所で泣きが入った。

 

 「止めてくれ、あんたの知りたいことは何でも喋る」

 

 「誰の護衛をしていたんだ」

 

 「マルサド伯爵だ、ヘイカン・マルサド伯爵、ケルーザン王国ドルーマの領主だ」

 

 「何処に行った」

 

 「あんた達に勝ち目がないと、地下通路に逃げ込んだ。この場所を土魔法使いに作らせた時、同時に逃げ道も造ったんだ」

 

 「出口は」

 

 「知らない教えられて無い、土魔法使いに聞いてくれ。なぁこれを抜いてくれよ、未だ死にたくない」

 

 無視して土魔法使いを問い詰めたら、やっぱりパニックルームを造っていやがる。

 出口を開けて逃げた様に見せかけ、安全になってから逃げ出すためだ。

 煙が大量に出ていなかったので外には出ていないのは間違いない。

 

 《グリン,ピンクもういいよ。シャーラにも帰って来いと言ってよ》

 

 《ん? いいの》

 

 《あぁ、隠れているらしいんだ》

 

 《ん、判ったシャーラに言う》

 

 いきなり俺の隣にシャーラが現れたので皆ビクッとしている。

 

 「カイト様、見つけたのですか」

 

 「秘密の部屋を造って隠れているらしいんだ」

 

 「ほぇー、自分だけ隠れるなんて卑怯ですね」

 

 「まぁな、悪いけどこいつ等ちょっとだけ治してやってくれるか」

 

 3人の腹から土槍を抜いてやると、シャーラが〈ちょっとだけなーぉれっ〉って、腹を貫かれた冒険者達が微妙な顔で自分の腹を見ている。

 

 土魔法使いに案内させて、秘密の部屋を確認し封鎖する。

 裏口も封鎖してから、伯爵様にご挨拶だ。

 細い剣先も通らない覗き穴から中を見渡すと、身なりの良い華奢な抜け目のない感じの男が一人、騎士達に囲まれて座っている。

 声が聞こえる様に、強化した土壁に多数の小さな穴を開ける。

 

 「ヘイカン・マルサド、よくもこの地で好き勝手してくれたな」

 

 「誰だお前は」

 

 「んー・・・この地の支配者かな」

 

 〈ドーン〉

 〈ドカッ、ドンドン〉

 〈どけっ! ドッカーン〉

 

 「あー無理ムリ、お前達に壊せるような土魔法じゃないから諦めろ。隣国の貴族が何をしている、戦でもやる気なのか」

 

 「誰が貴族だ、適当な事を言ってないで開けろ! 今なら無礼を許してやる」

 

 「お前が隣国、ケルーザン王国ドルーマの領主ヘイカン・マルサド伯爵ってのは解っているんだよ。違うなら違うで別にいいよ。この地の領主に知らせているから、徹底的に取り調べてくれるぞ」

 

 一応、聞いた話しの人物と取り巻き達は確認出来たので暫く放置だ。

 冒険者や魔法使い達を中に入れ、足を固定して放置する。

 2日掛かって残り6ヶ所を制圧したが、結構疲れた。

 何せ数が多いし迷いの森を一周しながら制圧なんて普通なら鏖で終わらせるのに面倒この上ない。

 

 隣国の貴族が関わってなければ全て埋めて無かった事にするのになぁ。

 6ヶ所を制圧している途中で、以前助けた女を含む三人組の冒険者〔草原の風〕に出会い、捕らえた奴等の話が聞けた。

 

 5ヶ月程前から、少しずつ変な奴等が増え始め、それがそれぞれのグループに纏まり、拠点を造り他を脅す様になった。

 そして縄張りを主張して上前をはねる様になったのは、三月程前からだそうだ。

 迷いの森周辺に同じ様な時期に集まり始め、同じ様に拠点を造り上前をはねる。

 

 同時進行の出来事に、大きな組織が裏で糸をひいていると噂になった。

 然し街から遠いので、領主に訴えても無駄と諦めたいたらしい。

 確かに領主に訴え取締に来てもらっても、時間が掛かるし草原のど真ん中で逃げられる公算が大きい。

 金と時間の無駄で、3割取られても稼げるので辛抱していたと話した。

 

 ホイシー侯爵様に、手紙で簡単な説明と最終的に180人前後の男達を捕らる事になるので、その引き取りをお願いする。

 その中には隣国ケルーザン王国ドルーマの領主、ヘイカン・マルサド伯爵らしき男と部下も居ると記す。

 

 手紙は草原の風に金貨3枚を渡し、ホイシー侯爵様に直接手渡す様に頼む。

 無事役目を果たして帰って来たら、追加に金貨3枚を約束する。

 その際シャーラの持つホイシー侯爵様発行の身分証を預けた。

 ハーベイの入口で衛兵に身分証を見せ、カイトとシャーラに頼まれたと言えばホイシー侯爵様に必ず連絡が行き、手紙を確実に渡せると教える。

 

 草原の風達も、半数以上を既に捕らえていると言われ疑ったが、拠点の一つを制圧するのを見て信じた。

 それにハーベイとの往復8日程で、1人金貨2枚の稼ぎは大きい。

 必ず届けると約束してハーベイに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る