第179話 外伝・ドラゴンスレイヤー・1

 4月11日、王都騎士団の訓練場、別名闘技場で行われる魔法大会2日目、冒険者の部が終わり恒例のドラゴンスレイヤーの魔法披露が始まった。

 今年出場する者は8名、雷撃魔法使い1名、土魔法使い2名、氷魔法使い1名、火魔法使い1名の5名に加え、ヒャルダ・ハマワール伯爵、フィエーン・ハマワール子爵にヘラルス殿下だ。


3名ほどドラゴンスレイヤーでない者がいるが、卓越した魔法を披露する事が目的なので参加を命じられている。

 進行係の合図でいよいよ魔法大会の目玉ドラゴンスレイヤーの魔法披露が始まる。


 〈いよいよだ、始まるぞ〉

 〈デリク様だ、格好良いよなー〉

 〈デリク様って、12mクラスのテイルドラゴンを討伐したんだっけ〉

 〈凄いよなー〉

 〈俺も冒険者になって、エグドラで修行するよ〉


 闘技場の中央に設けられた的に向かい、長身の男が連続して火魔法を使い的の巨木を炎で包み燃えあがらせる。


 〈うぉー・・・凄えなぁー〉


 次に土魔法使いが現れて燃えさかる巨木を、1本2本と土槍で斜めに突き上げると歓声があがる。


 〈流石大地の槍、ニールサンだね〉

 〈あの槍でアースドラゴンを討伐したんだってね〉

 〈ああ、それも8mクラスだって〉

 〈あれっ、彼は誰だ〉


 〈彼は直接ドラゴンを倒してはいないが、彼無くしてドラゴン討伐は難しいって言われている名人だよ〉

 〈名人って、なんの〉

 〈まぁ見てな〉


 燃え上がり土槍が突き刺さり持ち上げられた巨木があっという間に地面に沈み込んで消えた。


 〈何だ、あれは?〉

 〈土魔法の落とし穴さ。彼が先ずドラゴンの動きを封じるから、ドラゴン討伐が楽になるのさ〉

 〈へぇー〉

 〈だから直接ドラゴンを倒してなくても、ドラゴンスレイヤーと呼ばれる資格が有るんだよ〉


 闘技場の様々な声の中、いよいよメインイベントが始まる。

 最初に登場したのが次期国王のヘラルス殿下だ、据えられた巨木に向かい素早く詠唱する。


 〈パリパリパリッドーン〉


 〈ウォー、凄えなぁ。王族であれかよ〉

 〈もっと凄いのが、後に続くハマワール兄弟だよ。フィエーン・ハマワール様は王家治癒魔法師なのに、火魔法も強烈だぜ〉

 〈兄弟ってもう一人は〉

 〈正確には兄妹かな、兄のヒャルダ・ハマワール伯爵様は我が国の誇りだよ〉


 興奮気味な声が聞こえるなか、フィエーン・ハマワール子爵が雷撃で裂け燻る巨木をフレイムランスで射ち抜く、巨木を突き抜けたフレイムランスが後方の頑丈な壁に衝突して消える。

 直ぐに連続攻撃に切り替え3連射して、巨木を穴だらけにする。


 〈キャー、フィエーンさまー〉

 〈素敵よねー、憧れるわー〉

 〈王家治癒魔法師を任じられて子爵様になられたお方よ。はぁー良いなぁー〉

 〈まっあんたが憧れても、生活魔法も使えないのだから、溜め息だけ吐いてなよ〉

 〈最後だ、雷神ヒャルダの登場だぞ〉


 ヒャルダは先ず氷の槍を三本地面から突き上げる。


 〈おい何で地面から氷の槍が出て来るんだ?〉

 〈かー、お前は魔法の事を何も知らないな〉

 〈だから聞いてるんだろうが〉

 〈名人は狙ったところから槍を突き出せるんだよ。良く見ろよ地面から突き出してはいない、地面を土台にして突き上げているんだよ。次を見ていろアイスランスが空中から現れて飛んで行くぞ〉


 言葉どおり、ヒャルダの前方に現れたアイスランスが的の巨木に向かって飛ぶ。

 三連続で射たれたアイスランスが的の巨木に三つの穴を開けると一瞬の間をおいて雷鳴が轟く。


 〈バリバリバリッドーン〉


 〈うおぉぉぉぉ凄えなぁ、あれが雷神ヒャルダ様か〉

 〈お前も見ただろう入り口横に飾られている、16mを超えるアースドラゴンを、あれを仕留められたのがヒャルダ様だ。あの時は多数の冒険者が犠牲になったからな〉

 〈あんなものに立ち向かう冒険者達って、凄いよな〉

 〈それ吟遊詩人が謡う、エグドラのドラゴン討伐を称える詩になっているんだ〉

 〈ああ、あれは何時聞いても、心躍る物語だな〉


 * * * * * * *


 「ハマワール伯爵、相変わらず強烈な雷撃魔法だな」


 「ヘラルス殿下の、雷撃魔法も素敵ですよ」


 「いえいえ、フィエーン殿のフレイムランスには及びませんよ。私も一度はエグドラに行き、野獣討伐に参加してみたいものだ」


 「殿下、ドラゴン討伐ともなれば戦場より酷い有様になります。目の前にいる仲間すら気にせず攻撃します、それが仲間を殺す事になっても躊躇いません。私もそうしてドラゴンを討伐しましたが、その結果私自身も死の寸前までいきました。殿下は次期国王の座に就かれる御方です。その様な望みは捨てて下さい」


 「ヘラルス殿下、私達の所にばかりお出でにならず、他の貴族の方々ともお話を」


 「フィエーン殿も、つれないねぇ。私が気楽に話せる相手は貴方方しかいなのですよ」


 「カイトも、よく貴族って大変だよねって言っていましたが、王族も大変ですねぇ」


 「その後、カイトは全然姿を見せないね」


 「はい4、5年に一度来るのですが、合図の鈴がなって部屋に行った時には、何時も珍しい果実や酒が置かれているだけです」


 「彼もつれないね。それにあの酒だ、父が天上の酒と名付けた物よりも素晴らしい物を、一人で楽しんでいたとはね」


 「私共も、天上の酒を初めて口にした時には驚きましたが、三年物と名付けられた酒には仰天しました」


 「うむ、一度エグドラへ旅して見たいものだが、陛下に願い出たが叶わなかったよ。カイトとシャーラがいれば、護衛を頼めると思うのだが残念だよ」


 「そうだわ、護衛を依頼すれば良いのだわ。殿下、カイトに護衛依頼を出しましょう。彼が引き受けてくれれば、陛下もエグドラへの旅を許してくれるやもしれませんよ」


 「フィ、どうやって連絡を入れるのだ」


 「兄さんはあの時、手足を失って昏睡状態だったものね。今は申せませんが、連絡を取る方法は有ります。ただし何時いつと日にちは決められません。例えば木の枝先に手紙を吊るして、目的の人物が通り掛かって手に取るのを待つような方法です。それで良ければ依頼を出しましょう」


 「フィエーン殿、是非頼むよ」


 「しかし、それなら今までも手紙を出せば良かったのに」


 「兄さん忘れたの、彼は貴族や取り巻きは嫌いよ。それに会いたいから来いとは書けないでしょう。カイトなら、そんな手紙は無視すると思うわ」


 「確かにな」


 連絡が付いたら必ず知らせてくれと何度も念を押して、ヘラルス殿下は控えの間に戻っていった。


 * * * * * * *


 帰りの馬車の中で、カイトと連絡を取る方法を聞いてヒャルダは納得した。

 ダルク草原の迷いの森は、彼とシャーラしか自由に奥まで行けない場所だ。

 ホイシー侯爵様が、ダルク草原を管理する為に作った拠点の一つが、連絡手段として使われているとは考えたものだと感心した。


 〔血塗れの牙〕か是非会いに行ってみようと思い、屋敷に戻ると父であるハマワール侯爵に依頼の件を話して、是非ダルク草原へ行かせてくれと頼み許しを得た。


 それからヒャルダの行動は早かった。

 3日後には20人の護衛を従えて王都ヘリセンを旅立ち、一路ホイシー侯爵領ハーベイを目指した。

 服装は冒険者に見える作務衣紛いの物で、馬車はカイトに倣って二輪馬車にした。


 自分一人で王都とエグドラを往復する時は二輪馬車にして、護衛の騎士も冒険者風の格好で軽快に走るのが好きだった。

 今回は領主の居る街では貴族専用通路を使いハマワール伯爵を名乗るも、急ぎ故ご当主には挨拶に伺えないので宜しく伝えてくれと言い残して、先を急いだ。


 流石にホイシー侯爵の領都ハーベイでは挨拶に出向いたが、カイトの事を尋ねる事はしなかった。

 ホイシー侯爵様もカイトとの連絡手段は持っていると思うが、それを問う事はお互いしないのが礼儀だ。

 ホイシー侯爵様も、自分がダルク草原に来たのはカイトに用が有るからだと察しているはずだ。


 ホイシー侯爵邸で一夜を明かして、帰りには正式に立ち寄らせてもらう事を約束して、ダルク草原の入り口であるフーニー村へと急ぐ。

 ドラゴンスレイヤーで雷神の称号を持つ、ヒャルダ・ハマワール伯爵が他家を訪れるとなれば、当家の歓待だけでなくその貴族が懇意な客を招待して、ハマワール伯爵との交友を自慢する場でもある。

 訪れる貴族の顔を潰さぬ為には、相応の付き合いが欠かせない。

 カイトが貴族って大変だねーと良く言っていたが、本当だよとつくづく思う。


 他家を訪れる際の手土産は天上の酒2本と決めている、これさえ差し出せば満面の笑みで迎え入れてくれるので、カイトに感謝している。

 三年物を手土産にしたのは今回が初めてだが、受け取ったホイシー侯爵様がにやりと笑って意味深に頷いたのを見て、カイトとの良好な関係を見たようで嬉しかった。


 フーニー村からの道は以前より広く綺麗になり、行き交う冒険者の数も多い。

 以前来た時よりも、森も広がっているようだった。

 西の拠点の柵内にはテント村まで出来ていたが、迷いの森側には何も無かった。

 通路を挟んで綺麗に別れていて、ダルク草原の中でどちらが迷いの森なのか一目瞭然だ。

 西の拠点の警備隊詰め所に挨拶に出向き〔血塗れの牙〕に会いたいので連絡を頼むと伝えて、柵内の一角にキャンプハウスを設置した。

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