第166話 ゴールドランクの模擬戦

 マジックポーチにハイオークを仕舞い、急いでエグドラに引き返す。

 冒険者ギルドに着くとヒャルが嬉しそうに付いてくるが、王都の冒険者ギルドと違って此処ではこの程度の獲物では軽く流される。


 「おう、子爵殿自ら討伐ですか」


 「ギルマス、訓練に出たらハイオークと鉢合わせですよ。運良くカイト達も居てくれましたし」


 ヒャル、すっ惚けてるね。


 食堂の方から嫌な視線を感じる。

 朝出会ったトレントが舌打ちをして睨んでくる。

 プラチナランクのセレゾが面白そうにトレントを見て笑っている。


 「トレントあれか、あんたの言ってた貴族のお稚児さんってよ。貴族って子爵様かよ」


 パーティー仲間草原の焔の声高な話し声がギルドの食堂に響く。


 「カイトあれは何だ、お前を揶揄っている馬鹿は。冒険者と謂えども、貴族に喧嘩を売るとは良い度胸をしているな」


 「そこの男、私が子爵では不満か?」


 ヒャルの冷たい声に、食堂で談笑していた者達が黙りこむ。

 主人を満座の中で嘲弄され、護衛達も顔色が変わっている。

 まさか貴族から、正面切って問いただされると思っていなかった男が返答に詰まる。


 「済みませんね、酒に酔った馬鹿な男の戯言です。お見逃し願えませんか」


 半笑いでトレントが立ち上がる。

 頭を下げているが殺気をヒャルに投げかけている。

 シャーラがヒャルの前に出ると、トレントを馬鹿にした様に笑って腰の剣を叩く。


 「あんた、ゴールドランクにしてはお粗末過ぎだよ。相手を見て勝てそうだ思っているなら、大間違い何だよ」


 「ほう、万年ブロンズの癖に意気がるじゃねぇか」


 〈パンパンパン〉と手を叩いて男が立ち上がる、セレゾっていったプラチナランクの男だ。


 「なぁお前、喧嘩を売る相手の力量も判らないのか。死にたく無かったら謝って街から出た方が良いぞ」


 「プラチナランカーの目も大した事がねえな」


 「徹底した馬鹿だなお前は。俺が気に入らないらしいがやるかい」


 〈おーっ模擬戦だぞー〉

 〈ひゃー、ゴールドランクの模擬戦かよ〉

 〈見逃したら大損だぞ〉

 〈相手は誰だ・・・誰だあの小僧は〉


 「どうする怖けりゃ引いても良いぜ。なんならシャーラと俺と子爵様の三人対お前等6人でも良いぞ」


 「カイト思いっきり煽ってないか」


 「いやいや此奴等の物言いに合わせたら、此くらいで丁度いいくらいさ」


 「お前等面白いな、訓練所で自分の実力を思い知らせてやるよ」


 〈おい3対6の模擬戦だぜ〉

 〈しかも子爵様まで混じっているってよ〉

 〈よーし俺は草原の焔に賭けるぜ〉

 〈だから素人は馬鹿だってんだ、カイトとシャーラちゃんだぞ。ゴールド如きが勝てるかよ〉

 〈お前知ってるのか、あの二人の事〉

 〈知らなきゃエグドラ冒険者ギルドのモグリよ〉


 「おい、何の騒ぎだ!」


 「ギルマス丁度良いところに来たね。模擬戦の審判を頼むよ」


 「子爵殿、あんたまで混じってるのか」


 「いや一度冒険者ギルドの模擬戦ってのを、やってみたかったんだよ」


 「相手は・・・お前等か、シルバー相手にボロ負けするのは良い経験だ、やられてこい」


 「おいカイト、審判してやるから今晩飲ませろ」


 「えー、賄賂を要求するの」


 「賄賂じゃねぇ酒だよ。お前が帰ってこないから喉が渇いてよ」


 「仕方がないなぁ、今晩おいでよ」


 「よーし、さっさと片付けろ!」


 訓練場に行くと、食堂に居た連中全員がゾロゾロと見物に出て来る。

 草原の焔の連中が、木剣や手槍の模擬刀を真剣な顔で選んでいる。


 「ヒャル無詠唱は駄目だよ。二人づつ相手しようか」


 「では私は貴族って子爵かよって言っていた奴とその隣をやろう」

 「私は反対の右側の二人にします。ゴールドランクはカイト様をお望みの様ですからお願いします」

 「えー彼奴さっきから俺を睨んで、殺気ビシバシに送ってきて怖いんだが」

 

 〈プーッ〉て吹き出して、ヒャルが馬鹿にしてる。


 「おーし、始め!」


 〈あの馬鹿を叩きのめすと〉言葉の後にアイスバレットが、矢の三倍位の速度で飛び問題の男の腹に食い込む。

 ヒャルの短縮詠唱が酷すぎて力が抜ける。

 笑っている間に隣の男も、アイスバレットを喰らって吹き飛ばされている。

 反対側ではシャーラが駆け寄り、一撃で腕を折り隣の男の顔を蹴り上げる。

 リーダーのトレントの顔こそ見物だ、信じられない様な顔でヒャルとシャーラを見ている。


 「あんたの相手は、カイト様がしてくれるから頑張りな」


 シャーラに揶揄われて顔色が変わっている。

 何でそこで挑発するのかね、見ろっ真剣な顔になったじゃないの。

 駆け出したトレントの足下にわっかを作り、引っかけて転ばせる。

 無様に倒れたトレントを見て、野次馬達が馬鹿笑いし嘲弄する。


 〈おらーどうしたゴールドの兄ちゃんよー〉

 〈口先だけでカイトに勝てると思っているのかよ〉

 〈大穴でお前に賭けたんだぞ、真面目にやれ!〉


 嘲笑する野次馬達を睨み、立ち上がるとゆっくりと歩いて来る。

 怖いねー本気だよ、もう一人残った奴が俺の後ろに回るべく駆け出したが、バレットのショットガンで打ち倒す。


 「大丈夫かいゴールドランクさん。お前程度の男は腐るほどいるからこの街から消えてもいいぜ」


 踏み込んで来る奴の腹にソフトボール大の柔らかバレットを三連続で打ち込むとあっさり吹き飛んで大の字に伸びてしまった。


 「おーし、終わりおわり」


 ノーマンさんの声に皆食堂に戻っていくが、プラチナランクのセレゾが笑いながらやって来た。


 「いやー相手にならないね。何故シルバーのままなんだい?」


 「シルバーで十分だよ。ランクが上がり過ぎると面倒だろう」


 「確かに面倒な事が結構あるな。しかしゴールドの1級なんぞシルバーのベテランに軽く扱われるから、意気がる気持ちは判らんでもないが、相手を見る目がなさ過ぎたわ」


 「まぁ確かにね。目の前にプラチナランカーが居るのに、見えていない様だったからね」


 「改めて挨拶するよ。焔の剣のリーダー、セレゾだ。宜しく頼むよ」


 「カイトだ、隣は相棒のシャーラだ」


 「ハイオークを見てきたがあれを見ていれば少しは態度が変わったろうに馬鹿だよな。子爵殿が3頭一人で倒し、残りを訓練用に弱らせるって大したもんだよ。一つ聞いても良いかな」


 「答えられる事ならな」


 「今までの最大の獲物は何だ」


 「んー、ドラゴンかな」


 本当の事を言ったのに、爆笑して仲間達の所に戻って行ったよ。


 「なんと弱い連中だ、これでゴールドランクのパーティーかい」


 「子爵殿、ゴールドはリーダーのトレント一人ですよ。後はシルバーとブロンズです。リーダーのゴールドを自分のランクと勘違いした馬鹿の集団ですね」


 ヒャルを侯爵邸に送り、俺達は久方ぶりの我が家に帰還する。

 挨拶もそこそこに、ギルマスが来るので料理の用意を頼む。

 やってきたノーマンさんに、最近の野獣の様子を聞き一度森の奥に行く必要を感じる。


 アガベ達も何らかの異変に巻き込まれているかも知れないし、クインの所に行けば原因が判るかも知れない。

 取り合えずエグドラ周辺に出没する野獣を排除するのが先決である。

 ゴールデンベアにブラウンベアと何だっけ、ファングウルフとフォレストウルフも言ってたな。

 探し出しての討伐となると大変だ、出会い頭に倒す森の奥の様には行かないから。


 ウワバミの様なギルマスを満足させ、送り帰してから考えるが良い考えが思い浮かばない。

 地元の〔血塗れの牙〕に聞いた方が早そうだ、ひょっとしてナジルもセラミちゃんと結婚しているかも知れない。


 * * * * * * * *


 血塗れの牙の拠点に行くと、窶れた顔のセラミちゃんが出てきたが泣きそうな顔である。

 話を聞くために部屋に入るとナジルが居たが、暗い顔で無理矢理笑って迎えてくれた。

 ギルドでセラミちゃんにちょっかい出した、冒険者パーティーと揉めたそうだ。


 血塗れの牙が狩りの最中に、揉めた奴等が後ろから魔法攻撃を仕掛けてきた為に野獣の反撃を受け、親父さんとナジルが大怪我をしたと。

 それが約一年前の話だそうだ。

 ナジルの怪我は治ったがもう冒険者としての行動は無理だし、親父さんの具合が悪く長く持ちそうにないと話した。


 シャーラが黙ってセラミちゃんの頭をポンポンとすると、親父さんの所にいき傷を確かめ〈なーぉれっ〉と一言呟く。

 

 「親父さん気分どう」


 シャーラにそう言われて、ベッドに横たわったいた親父さんが不思議そうにキョロキョロしている。


 「傷を見てよ。直したから後は体力を取り戻すだけだよ」


 〈まさか・・・シャーラって治癒魔法使えるの〉セラミちゃんが呟きながらふらりと立ち上がり、父親の傷を確認にいく。


 「治ってる・・・嘘」


 後は泣き出して止まらなくなり、シャーラが隣でアワアワしている。


 「ナジルの傷はどんな具合だ」


 「傷は治ったが足が自由に動かないんだ。治癒魔法でも治らないよ」


 見せられた足は太ももを、ざっくりと斜めに斬られた痕がある。

 聞けばファングボア2頭を討伐中に、後ろから火魔法を打ち込まれオルドとランガが吹き飛ばされた。

 そこへファングボアに突っ込まれて、ランガは即死オルドは重傷を負った。


 ナジルは、はずみで倒れたセラミを庇いファングボアの牙に太ももを切り裂かれたと話した。

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