第167話 お礼参り
無事だったラグンと二人で戦い、アイスランスの乱射でなんとかファングボアを追い払い、帰って来てギルドに訴えたが証拠が無い。
本人達が否定すれば、他に目撃者もいないので奴等の事はどうにもならなかった。
その後ラグンは奴等が何の処罰を受けること無く、のうのうと生活しているのを見て冒険者が嫌になり引退したそうだ。
悔し涙のナジルにそう聞かされた。
揉めた冒険者パーティーの名は〔吠える仲間達〕ってふざけた名前の7人組だと。
未だエグドラの冒険者ギルドに出入りしているそうなので、後で挨拶しておくつもり。
ナジルの傷を見たシャーラが首を振るが、チラリと俺を見る、意味は判るがこの街では無理だ。
親父さんオルドの体力回復をまってからだが、確認だけはしておく。
「ナジルもセラミちゃんもどうする、親父さんの体力が回復したら又冒険者を続けるかい」
「この足では無理だよ」
「足なら治せるぞ、ただしこの街では無理だ。ダルク草原ってのがホイシー侯爵領に有るのだが、そこは貴重な薬草が沢山採れる。最近は野獣も増えていてそれなりの腕の冒険者が必要なんだ」
「治るのか! この足が!」
「この街で治せば大騒ぎになる。だから活動の拠点をダルク草原に移すのが条件だ。今のままでも生活には困らないだろうからよく考えろ」
「考えるまでもない、ナジル、ダルク草原に行くぞ」
オルドが吠えるが、さっきまで死にそうな顔をしていた癖に元気だね。
「まぁ少し気が早いよ。取り敢えずオルドの回復が先だよ。セラミは明日ギルドに行くぞ、その〔吠える仲間達〕ってふざけた奴らを教えて貰わなくっちゃね」
翌朝、早くからシャーラとセラミを連れて冒険者ギルドに向かう。
依頼ボードの前に居ないので食堂を覗くと奥で屯する吠える仲間達の7人、ちょっとご挨拶に伺う。
「ほうやっとその気になったかセラミ・・・ん、誰だお前は」
「ナジルの兄貴分だよ。ランガを殺しセラミやナジル達に面白い事をしてくれたな」
「なんだぁ、朝から絡みに来たのか兄さん。何の証拠や証人もなく人を訴える様な屑の兄貴分って随分ちっこいね」
「いやいや、俺も証拠もないってのが気に入ってね。そういうの得意なんだ俺は」
「野郎朝から随分威勢がいいじゃねえか。女二人連れて意気がると怪我をするぞ」
「お姉ちゃん、セラミちゃんと一緒に俺たちのパーティーに入るかい」
ギャハギャハ笑う奴等に、シャーラが殺気を投げかけると途端に静まりかえる吠える仲間達。
「何だ威勢が良い割に、女に殺気をぶっつけられて静まりかえるのか。案外情けないんだな」
「心配するな、俺もお前達と同じ考えだからここじゃ手出しはしないよ。森に行ったら後ろに気をつけな、といいたいが俺は正面からやらせて貰うよ」
じっくりと奴等の顔を見回していく。
《グリン,ピンク後で此奴等を地下に埋めるの手伝ってね》
《ん、いいよ》
《まかせて!》
シャーラに頼んでギルドの訓練場に地下室を作って貰う。
待っていろ、俺は性格が悪いんだよ。
シャーラが帰ってきて頷くので作戦開始。
《グリン,ピンクシャーラが近くに地下室を作ったから、場所を聞いてね》
《ん、わかった》
《地下室ってこんな所になの》
《そっ今から皆の気を引くから、さっきの奴等をそこに放り込んでくれるかな》
《ん、任せて》
《やるわ、グリン競争ね》
「シャーラも頼むよ」
「ウマくやって見せます」
食堂にいる他の冒険者に、情報の提供を呼びかける。
「あー皆聞いてくれ、ゴールデンベアとブラウンベアの出没情報を教えてくれて討伐できたら金貨一枚を出すぞ」
「本当だな」
「昨日隣村に出たってよ。金貨一枚寄越せ」
「話を聞いてないのか。話によって討伐できたらって、言っているだろうが」
「兄ちゃんその細っこい身体でゴールデンベアって冗談が過ぎるぜ」
「何だよ冗談かよ」
「揶揄った詫びにエールを一杯飲ませろ」
あっという間に、吠える仲間達7人の姿が、食堂から消えたが誰も気がついてない。
食堂のマスターに金貨を渡して、皆に飲ませてやってくれと言ってギルドを出る。
〈おー太っ腹じゃねぇか。マスターエールだ〉
〈俺は樽で頼む〉
〈飲むぞー〉
皆飲んで酔っ払ってしまえば、吠える仲間達の7人が消えた事も忘れるだろう。
セラミちゃんを家に送ると再び冒険者ギルドに戻るが中には入らない。
シャーラの作った地下室に案内して貰う。
ライトの明かりに浮かび上がる7人だが、何が起きているのか理解出来ない様子だ。
「よう、吠える馬鹿の皆さん。居心地はどうだい」
「お前はさっきの奴だな。これをやったのはお前か」
「そうだと言いたいが証拠は有るのか、証拠も無く俺のせいにするなよ。まっ俺がやらせたんだけどな。上を見ろよ小さな明かりが見えるだろ、あれは空気穴だ。あの穴の上が冒険者ギルドの訓練場になっている、頑張れば外に出られるかもしれないが多分無理だろうな。俺の弟分やセラミちゃんを甚振ってくれた礼だ、ゆっくり死ね!」
再び地上に戻るとのんびり家に帰り、ゴールデンベアや他の野獣討伐の方法を検討する事にした。
明日から野獣の出没地点の巡回から始めるが、グリンとピンクに頼んで小さきもの達にも野獣探しを手伝って貰おうと思う。
問題は小さきもの達は、野獣と言えば全ての野獣の居場所を報告してくる事だ。
ウルフとかベアとか指定できるのか試す必要がある。
街から一番近い場所に現れたファングウルフを探して、シャーラと二人で見回りに行くともう一組のゴールドランクパーティーに出会った。
「よう、兄さん達も見回りかい」
気楽に声を掛けてくるが、彼も仲間も油断なく周囲を監視している。
俺達はグリンとピンク主体の索敵で、のんびり散歩の様な雰囲気なのでちょっと気まずい。
街の事を思えばもっと真剣にやるべきなんだろう。
《カイト、何か居るって小さきもの達が騒いでいるよ》
《どっちの方向かな?》
《ん、こっちだよ》
グリンの気配の方向に神経を集中する。
シャーラも気づいた様で、真剣な顔で遠くを見つめている。
「カイト様、ブラウンベアの様です」
「おいおい、本当かよ姉さん」
「行ってみますか。何か居るのは間違い無いですから」
俺達と〔風の牙〕の五人で問題の場所に向かう。
「かー本当にブラウンベアがいるぜ。どうする二人でやるかい、それとも手伝おうか」
「あっ、シャーラに任せますから大丈夫ですよ」
〈ヘッ〉って間抜けな声が後ろから聞こえてきたが、華麗に無視してシャーラが走り出す。
ブラウンベアの20メートル程手前で止まると、ストーンランス一発で仕留めて終わり。
さっさとマジックポーチに仕舞うと、何もなかった様に戻ってくる。
「なんとまぁ、あっさりと仕留めたな。二人だけのパーティーだから少しは心配したが、俺達では敵いそうにないな」
陽が傾くまで、ワーグと風の牙の面々と森を索敵して歩く。
《カイト、小さきもの達が何か居るって騒いでいるよ》
《んー、どの辺りかな》
《ん、こっちだよ》
グリンの気配の方を見ると相当遠くだ、シャーラが気配に気づきじっと見ている。
「シャーラも、感じるか」
「はい、何か大きな物がいますね」
「本当かよ。いや疑う訳ではないが、あんた達の気配察知は並じゃないのは判るが、びっくりだよ」
「行ってみましょうか」
「ファングウルフのはぐれだぜ。大丈夫か」
「あっ俺達はもう一頭手に入れてますからお譲りします」
「悪いね、おい無様な真似をするなよ」
そう言って腰の剣を抜くと、ゆっくりとファングウルフに近づいていく。
風の牙の面々も剣を抜き手槍を構えて包囲体制をとる。
ひとり魔法使いが詠唱をしている
〈荒ぶる炎よ、我が掌の上に集え、我の指し示す物を焼き尽くせ〉
〈ハッ〉
掛け声と共にファイアーボールがファングウルフに向かって飛ぶ。
速度は強弓の矢の速度、真っ直ぐにファングウルフに向かって飛び鼻面に命中。
砕け散るファイアーボールと、ワーグがファングウルフに向かって踏み込むのがほぼ同時。
ファングウルフの前足を傷付けると、包囲していた仲間達が左右から一斉に攻撃を仕掛ける。
前足を斬ったワーグに牙を向けた瞬間一人が後ろ足の腱を叩き斬る。
一斉攻撃は見事な連携攻撃で流石のファングウルフも為す術もなく傷だらけにされて止めを刺される。
「見事な連携攻撃、流石ですね」
「お前さんに言われると嫌みに聞こえるぜ。一度あんたの手並みも見せて貰いたいな」
「俺はシャーラと同じ土魔法使いですから、代わり映えしませんよ。実際シャーラの方が俺より強いですからね」
「よく言うよ。トレントの威圧も、ブラウンベアやファングウルフを前にしても、何とも思っていなかっただろう」
笑って誤魔化し、陽の落ちる前に街に戻ると冒険者ギルドで獲物を売り払う。
ギルマスが呼んでいると言われ、ワーグ達と共にノーマンさんの部屋に行くと、ノーマンさんが難しい顔をして街の周辺地図を睨んでいる。
「おう疲れているところを済まねえな。実は馬車がゴールデンベアに襲われてな、街道まで出てきたのは初めてだが此奴を放置する訳にはいかない。シルバーランク以上を招集し、街道周辺を探索発見しだい討伐して欲しい」
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