第165話 エグドラに帰る
フィの返事を待たず、ヘリセンに後を託して俺達はエグドラに向かった。
5日目に到着したが冒険者の姿が目につく。
取り敢えず冒険者ギルドに行ってみる事にするが、買い取りにヤーハンさんでなく知らない男が座っている。
混み合う受付で順番待ちをしてイーリサさんにご挨拶、ギルマスに取り次いで貰う。
「カイト、ギルマスが上がって会議室に来てくれって」
「有り難う、イリーサさん」
「おうカイト、良いところへ帰って来てくれたよ」
疲れた顔のノーマンさんと、見慣れぬ顔の男達。
「紹介しておくよ、プラチナランクのセレゾ〔焔の剣〕のリーダーだ。向かいに座るのがゴールドランクのトレント〔草原の炎〕リーダー、隣がワーグ,ゴールドランク〔風の牙〕リーダーだ」
筋骨隆々の男達を紹介してくれたが、ご不満そうな顔で俺を見ている。
「ギルマス初めて見る顔だが、紹介する程の男なのか。後ろの女は森の一族の一員の様だが、使えるんだろうな」
ノーマンさんが苦笑いしている。
ゴールドランクになっても人に舐められない様に意気がるって、自信が無いのを隠す為かな。
「まぁあんた達より実績は有るからな。仲良くやってくれ。カイトは侯爵様の所に行ったのか」
「さっきこの街に着いたばかりですよ。どんな具合か様子を知りたくて来たんです」
「何だぁ~、貴族のお稚児さんかよ」
シャーラの殺気が、俺を愚弄するゴールドランクのトレントに向けられる。
瞬時に立ち上がり剣の束に手をかけるが、額から汗が流れている。
〈てめぇ〉
「止めておけ、お前が馬鹿にするからだ。中々の使い手の様だが兄さんはどうなんだ」
「俺はただの魔法使いですよ」
「カイト、最近森の奥に居るはずのゴールデンベアやフォレストウルフが、街の近くまで姿を現す様になっている。犠牲者もそれなりの数になっているんだ」
「アガベ達は何か言ってきてますか」
「最近姿を見ていない。前回からもう三月近くになるから、そろそろ来ても良い頃なんだが」
「他に目撃情報は」
「ブラウンベアとハイオークの群れとか、ファングウルフってのも有るな」
「森に異変でも?」
「俺達では無理でなアガベやお前に調べて欲しいが、その前に周辺にいる奴を始末して欲しい」
「ギルマス、俺達はその為に呼ばれたんじゃないのか」
「当たり前だ、一人で討伐できる数ではないのは分かっているだろう。その腕を見せて貰おう」
* * * * * * * *
「侯爵様お久し振りです」
「確かに久し振りだな、ダルク草原に居を構えるのかと思っていたよ。来てくれて良かった、ヒャルダが討伐隊を編成して森に向かう準備をしているのだ」
「そんなに被害が出ているんですか」
「街道の通行にも支障がでていてな。周辺の町や村にも被害が出ている」
「裏の騎士達の訓練所にいるから手伝って貰えると有り難い」
訓練場に行くと準備の為に多くの騎士達が屯している中にヒャルがいた。
「カイト、来てくれたんだ」
「ナガラン宰相から応援に行ってくれと依頼がきてね、知らなかったよ。エグドラには帰ってきていたんだが、途中で引っかかっていたんだよ」
「ヒャル様、フィ様の事を教えてくれないなんて酷いですよ」
「ホイシー侯爵殿に尋ねたら忙しいらしいって言われてね。帰ってきたら驚かそうと思ってな。シャーラも美人さんになったな」
「ヒャル」
「ああ、カイトもすっかり大きく・・・少しだな」
「いいよいいよ、で何をするんだい」
「街道にハイオークの群れが時々出て来るんだが、見回りでは埒があかないので塒を探そうってなってな。冒険者を雇って森に入る準備をしていたのさ。音の出る物は不味いんだろう」
「目星はついているの」
「よく出没する範囲は絞っているけど、俺達は対人戦が専門だからね。ゴブリン集落討伐の時でも、冒険者が居なくちゃどうにもならなかったから、索敵察知できる冒険者を探していたんだ」
「プラチナランカーやゴールドランカーが居るじゃない」
「彼等ね、パーティーでの戦闘は出来るけど、大人数を率いての戦いには向いてないのが判ったから断ったよ。頼めないか」
「俺達で良いの」
「敵の居場所と方向の指示、索敵能力に攻撃力防御力ともに申し分なしだよ。師匠」
「未だ師匠なんだ。今じゃシャーラの方が、魔法も剣も体力も断然上なんだけどな。練習は続けてる」
「ああ勿論さ、但し雷撃魔法の練習場所が無くて困っているんだよ」
「ちょっと見せてよ。ジャベリンを撃てる様になった?」
「任せて、ジャベリンなら50発位撃てるよ。見せ掛けの短縮詠唱の練習も欠かして無いから、他人の前でも連射も出来るよ」
的から50メートル下がりアイスランス5連射、アイスジャベリン5連射を二度続ける。
「どれくらい魔力を使ったと思う」
「10分の1も使ってないよ」
「今夜の酒の氷をお願いね」
「あれか」
「家宝は飲み干したの」
「誰かが酒は飲むものだって言うからね。最近は森の恵みすら中々手に入らないから、よい所に現れてくれたよ」
訓練場から引き上げサロンに入ると、知らない女性がソファーで寛いでいる。
ヒャルを見てにっこり笑い、俺達に会釈する。
「ミューラ紹介するよ。カイトとシャーラだ。カイト妻のミューラだ宜しく頼む」
「ヒャルも結婚してたんだ」
「わぁーおめでとうございます。ヒャル様」
「フィにも驚かされたよ。二人そろって結婚しているとはね」
「そりゃー6年近く帰ってこない奴が悪いんだ。まるっきりの音沙汰なしだろう。心配で時々ホイシー侯爵殿に尋ねていたが、侯爵様もダルク草原には余り関与しない方針だそうで、元気らしいってしか判らないからな」
「カイトです。ハマワール侯爵様,子爵様にはお世話になっています」
「シャーラです。ミューラ様はお加減が悪いのですか」
「最近ミューラの体調が優れなくてね。子供がいるから心配なんだ」
「私が魔法を使っても良いですか」
〈シャーラの元気になーぁれっ〉の一声でなんとなく顔色の悪かったミューラ婦人の顔色が良くなる。
「そうだった、シャーラも治癒魔法が使えたんだったな」
「ありがとうシャーラさん」
* * * * * * * *
50騎程の騎士が野獣対策用の軽鎧いに身を包み進む中程に俺達の二輪馬車が位置する。
俺とシャーラに何故かヒャルが隣でご機嫌な顔で座っている。
ご機嫌になるのは判る、体調不良の妻は元気になるし三年物を堪能したんだから。
侯爵様とヒャルには無沙汰の詫びに森の恵み30本、天上の酒20本に三年物を5本づつ渡した。
おまけに結婚祝いに、シャーラと連名で金貨2,000枚と、別途三年物を10本渡したからな。
街中を抜けるとき、俺を貴族のお稚児さんと揶揄したトレントが睨んでいる。
見たところゴールドの1級ってところかな、舐められない様に気張っているのは微笑ましいが、他人に当たると反動がきついぞ。
お前の望む貴族や豪商相手の依頼って、滅多に無いから肩肘張ってると疲れるし、対人関係で失敗するぞとは教えてやらない。
街を出るとハイオークの群れが出るといわれる村に向かう。
半日ほど進んだところでグリンが森の中に何か居るよって教えてくれた。
シャーラも右手の森が気になるのかじっと見ている。
ヒャルもシャーラの異変に気づいた様だ。
「どうしたシャーラ何か居るのか」
《グリン,ピンク何もしないでね》
《ん、わかった》
《えー、だめなの》
《駄目だよ、人族が相手をするからね。居るのだけ教えてよ》
《ん、》
《いいよー》
「ヒャルちょっと突いてみるよ」
緩いストーンバレットを灌木の中に打ち込んでみた。
出たよ、噂のハイオーク6頭がぞろぞろ出てきたよ。
こんな人里近くに出て来るって初めて見る、草原なんかにも居るけどちょっと雰囲気が違う。
草原や街道脇に出て来るのは、同じハイオークでも精々3~4頭で体も小さいが、こいつは一回り以上大きい。
「円陣を組め!」
ヒャルの一声に一斉に下馬し馬を囲んだ円陣を組む、数人が馬が逃げない様に前足を括っている。
へぇー森の中での戦いしか知らないが興味深いね。
ヒャルが御者台に立ち、ハイオークは悠然と歩いて来る。
濃い茶色にゴリラの様な太い腕と剛毛が判る距離まで近づいて来たが騎士の誰一人動こうとしない。
皆槍を構えてハイオークを睨み付けている。
ヒャルのアイスランスが連続して飛ぶ、3頭の胸の中央に吸い込まれるアイスランス。
倒れるハイオークの陰から残りの3頭の姿が現れると、又続けて3発のアイスランスが飛ぶが、今度はそれぞれの肩や足に突き刺さる。
「1班右、2班中央、3班左、行けっ」
〈ウオー〉〈やれー〉〈油断するな〉雄叫びをあげて突撃する騎士達。
「シャーラ右を頼む、騎士が危なくなるまで見ていてくれ。カイトは中央を頼む」
そう告げてヒャルは左手の集団の援護に付くべく走り出した。
一つの班が15人で1頭のハイオークと対峙している、一人が槍で突けば左右の者が援護し反撃に備える。
後ろから左右から槍を捩じ込むように突き立てると流石のハイオークといえども次々と倒れていく。
「なかなか見事な訓練の成果だね」
「師匠には見抜かれてますな。野獣討伐とはいえ騎士や兵士に出来るのはハイオーク程度で、これ以上の相手では勝ち目が無いよ」
「対人戦が専門だから仕方がないよ。野獣は多少の怪我など意に介さず、向かって来るからね」
「カイトやシャーラの様な、気配察知の優れた者がいると討伐が楽だよ。討伐より見付けるのが大変だからなぁ」
「森の中では、先に相手を見付けないと奇襲をくらって死ぬからね。気配には敏感になるさ。日が暮れる前に街に帰ろうか」
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