第164話 思わぬ知らせ

 顔色を変えてゼイゼイ言っている、フルーゼンの首輪を弛めてやる。

 

 「少しは人の話を聞けよ。それとも死にたいのか」

 

 「だっ誰だ、お前は!」

 

 もう一度首輪を縮めて放置する事にした、殺しはしないから安心しろ!

 

 執事が警備の4人を連れてきたので拘束して先の4人と並べて転がす。

 執事にはその調子で外にいる10人も呼んでこさせ、終わったら次の命令だ。

 

 「後20分で客が来る。今から門の所に行き、客人が来たら黙って連れて来い。さっさとやらないと、子爵様の息が続かなくなるぞ」

 

 慌てて出ていく執事を見送って一息つく。

 ニールサン男爵の所の地下室は、食料とガラクタの倉庫しかなかったが、これ程の館ならさぞや立派な地下室が有るだろうな。

 何故か皆さん地下室に隠したがるんだよな、一番に疑われ捜索される場所なのになぁ。

 

 大勢の人の気配が近づいて来る。

 シャーラが扉の後に回り気配を消す。

 執事の後をヘリセン達がゾロゾロやってきたが、床に転がる男達を見て唸っている。

 

 執事を座らせて気付けの酒を飲ませる。

 ヘリセンがフルーゼン子爵を起こそうとするので止めた。

 

 「あっそいつは駄目だ、人の話を聞かないから後回しな」

 

 酒を飲んで少し落ち着いた執事に問いかける。

 

 「ニールサン男爵を取り調べて、やってきたと言えば判るよな」

 

 酒の量が足りなかったのか、顔色がみるみる悪くなっていく。

 ゼイゼイ言っているフルーゼンも、顔が引き攣り息をするのを忘れている。

 死なせちゃ不味いので首輪を弛めてやると、カハカハ言って咽ているが、大丈夫かな。

 

 「地下室に何が有る」

 

 執事のおっちゃん硬直しちゃったよ。

 ヘリセンが数名を指名し、執事を連れて地下室の確認に向かわせる。

 

 「お前にも気付けの酒が必要だな」

 

 飾棚の酒とグラスを取出し飲ませてやる。

 俺も少し味見したが中々の酒を置いている。

 片足づつ膝までブーツの様に土魔法で包み少し離して固定する。

 両手も首輪に固着して準備完了、フルーゼンに最後の忠告をしてやる。

 

 「フルーゼン聞かれた事を素直に喋るなら、痛い思いをしなくて済む。嫌なら、喋りたくなるまで痛めつけるぞ。先ずニールサン男爵とはどの程度の取引をしたんだ」

 

 「カイト殿、そんな事は我々がやりますよ」

 

 「ヘリセン、俺はさっさと終わらせたいの。直ぐに喋りだすからみてな」

 

 黙っているフルーゼン子爵の右足に、焚火をイメージして魔力を流す。

 

 〈なっ・・・熱い,アッツ,アチチチ,熱い,止めてくれー,ギャー〉

 

 やがて膝の部分から煙が出始め肉の焦げる匂いが漏れてくる。

 ヘリセンに窓を開けさせると、シャーラが密かに風魔法で空気を入れ替える。

 フルーゼンは白目を剥いてピクピクしている。

 

 生活魔法でたっぷりの水を掛けて起こし、まだ続けるか聞いてみる。

 

 「痛い、足が焼けるようだ痛い止めてくれ」

 

 「止めてやるよ喋ればな」

 

 ヘリセンと交代する、調べるのは本職に任せるのが1番だ。

 喋らなければ俺が出張って足を焼いてあげる。

 そうヘリセンに伝えると呆れていたが、俺はただの冒険者で、取り調べの本職はそっちだろうと投げておく。

 奴隷の首輪の提供元を捕らえたら、一番に首輪の解除方法を知らせろと、言っておくのを忘れない。

 

 俺にとっては、取り調べより子供達の方が重要なんだよ。

 サロンにはフールの町から連れて来られ、毎回温かい食事をたっぷり与えられ、落ち着いた少年少女達が居る。

 人族、猫人族、狼人族、エルフ族、ドワーフ族、犬人族とよくバラバラに集めたというか、需要が有ると見るべきか。

 

 ヘリセンに聞いても、首輪の解除は製作者か呪文をかけた者以外では、中々難しいらしい。

 さっさとフルーゼンから聞き出せと言ったら、火傷の影響で弱っていて取り調べに支障が出ているって、世話の焼ける奴だな。

 王家直属の奴らに見せるのは業腹だが、死なせる訳にもいかないのでシャーラを呼ぶ。

 

 「いいかフルーゼンの事で、事件以外の余計な報告はするなよ」

 

 「何をするんだ」

 

 「黙って見ていろ」

 

 火傷の痛みは、痛み止めが効かないって聞いた事があるが、すっかり窶れたフルーゼンがベッドに横たわっている。

 

 「フルーゼン痛いだろう。もうすぐ死ぬだろうが、そう簡単に死なせるつもりはない」

 

 シャーラに頷くと〈綺麗になーぉれっ〉と呟く声と共に足の火傷が綺麗に治っていく。

 

 〈まさか・・・此ほどの治癒魔法なのか〉

 ヘリセンの口から漏れる言葉は、シャーラの治癒魔法の事を知っていた台詞だ。

 

 「どの程度知っていたんだ」

 

 「冒険者達の話と、ギースの火傷を治しているので、多少の怪我や病気を治せると知っていた。しかし王家治癒魔法師のハマワール子爵に劣らぬ腕前だな」

 

 「忘れるな、余計な報告はするなよ。死にたくはないだろう。それに王家は俺達に何もしないが、知れ渡ると面倒なんだよ」

 

 「確かに、ハマワール子爵の時の騒動は凄かったからな」

 

 「シャーラを手に入れようとした奴は、皆死んでいる。知らせた奴もな」

 

 「判ってるよ。俺は引退したら気楽な余生を送るつもりだから、死にたくはない」

 

 窶れた顔で、傷ひとつ無い痛みの引いた足を見て驚く、フルーゼンに忠告しておく。


 「どうだ、綺麗に治っただろう。聞かれた事には素直に喋れよ、喋らなければ今度は反対の足を焼いてやるよ。死ぬ寸前までいったら、又治すから安心しろ」 

 

 フルーゼンが力なく頷いている。

 調べも苦しみも此れからの苦難も、死ねば終わると思っていたらしいがそうはいかない。

 

 「じゃあな、死にそうになったら何時でも言ってきてくれ」

 

 傍にいたお仲間達も、俺の言葉の意味を察して顔が強張っている。

 ヘリセンが仲間に口止めするだろうし、そもそも王家の手先を務める様な集団が、話を広めるとも思えないが釘は刺しておくべきだから。

 

 序に子供達の世話と、親元に帰すための人員を寄越す様に、ナガラン宰相の報告書に紛れ込ませて待っているが遅い。

 どうなっているのか聞いたが『子供の世話の手配を俺達が出来ると思うか』と逆に聞かれて、御尤もで御座いますと引き下がる羽目になった。

 

 奴隷の首輪を外してやりたいが、ヒャルを呼ぶ訳にいかない。

 ヒャルの雷撃魔法は俺達以外、誰も知らない秘密だから使えない。

 色々考えて科学、力学を利用して破壊すれば良いんじゃねと思いつく。

 

 シャーラに付けられた、奴隷の首輪を壊すのには雷撃を利用したが、今度は力技で勝負だ。

 勝算は我に有り、むふふふふ。

 万が一の時に備えてシャーラが待機、子供の首と首輪の隙間に土魔法でガードを作る。

 シャーラの時に試したが、逃げたり壊そうとしてないので無反応。

 

 魔力たっぷり最強の首輪ガードを作ったら、この世界初のクリッパーを作る。

 太い鉄筋もパッチンと切り刻む強力無比な優れ物、支点,力点,作用点なんちゃって。

 重いので机に置いて子供にしゃがんで貰い、刃先を奴隷の首輪に噛ませ、よいしょっとで。

 

 〈ガキン〉て音と薄く煙が上がって壊れたが、子供に怪我は無し。

 後は流れ作業でホイホイ壊していく、それをヘリセンが微妙な顔で見ている。

 

 「これも、世間に知らせる訳にいきませんね」

 

 「まぁな、奴隷解放の方法が知れ渡ったら、犯罪奴隷が皆逃げ出すから黙ってた方がよいよ」

 

 壊れた首輪を見て子供達が泣いたり笑ったりと大忙しである。

 後は親元に帰すための手配をナガラン宰相がさっさとやれば俺達はお役御免だ。

 

 そのナガラン宰相から連絡がきたが、エグドラ応援要請とあった。

 エグドラ周辺にゴールデンベアやブラウンベアにフォレストウルフ等、森の奥の野獣たちが出没する様になり、手を焼いて王家に軍の派遣を要請してきたらしい。

 

 また近隣の冒険者ギルドにも高ランク冒険者の応援要請を出しているがなかなか集まらない。

 アガベ達森の一族にも討伐依頼したいが、ホルム村まで行ける冒険者いなくて困っていと記されていた。

 

 エグドラの街を捨て置く訳にもいかないが、子供達をヘリセンに預けるのも躊躇われた。

 ヘリセンも難色を示す、王家に預けたら孤児院に送られるのは間違いないと言われた。

 確かに捕らえた賊の取り調べで、ある程度場所の特定は出来るが、親を殺されたり訴えが無ければ探しようがない。

 成人前の子の中には、親に売られたとはっきり認識している者もいる。

 親元に帰せば又売られる事になる。

 

 子供達も今ではすっかりシャーラをお姉さんと呼び懐いている。

 俺もシャーラがカイト様と呼び付き従うので、御主人様か見た目の歳の差からお兄ちゃん的立ち位置だ。

 その為に孤児院は可哀想だと、シャーラも悩んでいる。

 

 こんな時のお代官様だが、今回はエグドラには送れない。

 野獣の被害が出ているなら、いつ何時住民に被害が及ぶかもしれない。

 今回はフィに頼む事にした、フィに手紙を送り子供達をシャーラの家に、送り届けて貰う事にした。

 子供達にもそれを伝え、シャーラはヘイザとハーミラに事情説明の手紙を書き、子供達の世話を頼んでいた。

 

 ヘリセンにそれらを伝え子供の身元が判り、親元に帰せる者だけを帰す様に伝える。

 無理な者はフィの所か侯爵様の所で、当分行儀見習いでもさせ自分で将来を決めさせる事にする。

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