第144話 ナジル対シャーラ

 「陛下お判りで無い様ですが、今でも私はダルク草原を自由に出来るのですよ。王国の軍事力をもって、迷いの森で行動を起しても、相応の被害を覚悟して貰う事になります。ダルク草原の秘密が漏れれば、他国はどんな行動に出ると思います」

 

 「それは承知している。然し個人に、一冒険者に草原を与えた。自由にさせてなんの見返りも無いと、臣下には言えない」

 

 「だから迷いの森とその周辺を、自由にする権利を買い受けたいと言ったのです。金貨4万枚を用意しています。不足なら多少の追加は可能です。金の出処を聞かれたら、アースドラゴンやウォータードラゴン討伐者の名を、公表してもよいですよ」

 

 「判った、どの程度の範囲が必要のだ」

 

 「調べてみますが現在の迷いの森から10キロ〜20キロ位じゃないかな。迷いの森の近くに、人を住せたくないのですよ」

 

 「広いダルク草原だその程度は問題ない。一つだけ条件があるが聞いて貰えるか」

 

 「出来る事ならば」

 

 「テイルドラゴンだよ。薬師によれば、後はテイルドラゴンの内臓が有れば、エリクサーも作れると息巻いていてな。空間収納持ちに全て持たせているから何時でも良いが、材料さえ揃えば相当数作れると言っている」

 

 「ダルク草原で広さの確認が出来たら、ドラゴンはなんとかしましょう。それで宜しいですね」

 

 国王直々の了解を得たので、ダルク草原への旅立ちの準備を始めた。

 

 * * * * * * * *

 

 ダルクの所に来たときに、いざとなったら逃げ込む場所を迷いの森の中に欲しいと説明した。


 《カイトとシャーラは良いけど、人族が住みつくと嫌だね》

 

 《それでどの程度離れていれば良いのか、聞きにきたんだよ》

 

 《じゃこの子を連れて行ってよ》

 

 ダルクがそう言った時に、あのピンク色の子が俺の目の前に飛んで来た。

 

 《この子は特別なんじゃないの、魔力が高いとか言ってたよな》

 

 《だからだよ、グリンの様にカイトやシャーラの魔力と交換してみてよ。グリンはクインの子、その子はダルクの子で丁度良いでしょ》

 

 何が丁度良いのか判らないが、ダルクの手足と思えば良いか。

 

 《カイト、何処まで行くの》

 

 《それより、ダルクの子じゃ沢山居るから判り辛い、君はピンクな》

 

 《ピンク?》

 

 《嫌かい》

 

 《ううん、ピンクで良い》

 

 《カイトその子を連れて離れてよ。その子の声が聞こえなくなったら、そこが境界だね》

 

 《ダルク様、私はピンクなの》

 

 《そうなの》

 

 《カイトがそう呼んだからピンクなの》

 

 《じゃー、ピンクはカイトと一緒にいてね。私の声が聞こえなくなったらカイトに教えて》

 

 そうしてピンクを連れてダルクに背を向けて歩き出したが、ダルクとピンクの通信が途切れたのは5時間を過ぎてからだった。

 こんなに遠くまで通じるのかとびっくりしていたら、グリンもクインとなら相当遠くまで離れていても通じると言われた。

 親子ならではの能力かな、グリンに聞くと俺やシャーラと離れると木々や小さきもの達の雑音が混じるらしい。

 

 精霊樹と妖精の不思議だよな。

 ピンクがダルクの声が聞こえないと言った所から30分程遠ざかった所に、高さ5メートル程の杭を立てる。

 此処で気づいた・・・ダルクの所から20キロは確実に離れているので直径40キロとして、3.14かけると一周125キロは在る。

 

 500メートル毎に一本杭を立てていっても、約250本の杭を立てる事になる。

 えらいことを始めてしまったが後悔先に・・・シャーラには黙っていよう。

 一回りするのに6日かかった、1日20キロ少々、杭を立てながらだからまぁこんなものか。

 

 王都に帰って陛下に報告してから蜥蜴を獲りに行く事にするか、ダルクに告げて王都に向かうとピンクも付いてくる。

 

 《えっ、ピンクも来るの?》

 

 《だって、グリンもカイト達と一緒だよね。私も一緒だよ》

 

 そういえばキャンプハウスの中で魔力を浴びるのもグリンと一緒で、グリンは浴びるだけだがピンクは吸収もしているよな。

 

 《なあグリン、ピンクもグリンと同じ様に俺達と同じ魔法が使えるのかな》

 

 《ん、そうなるよ。二人の魔力を浴びて吸収してるからね》

 

 ダルクの言った『じゃー、ピンクはカイトと一緒にいてね』ってこういうことか、無敵の妖精が一人増えたよ、まいったね。

 

 ダルク草原から王都ヘリセン迄の道中は平穏無事、シャーラと二人の妖精がいたら、ドラゴンにでも出くわさない限り危険はないって事か。

 どちらかといえば人間相手の方が厄介だよな。

 

 * * * * * * * *

 

 王都に到着するとそのまま王城に向かい、ナガラン宰相に面会を求めた。

 

 「どうだった」

 

 「迷いの森からだと、約20キロ程離れる必要が在ります。目印に500メートル間隔で高さ5メートル程の杭を立てています。ホイシー侯爵様にその旨お伝え願います」

 

 「判った、その様に手配しよう」

 

 「それと金貨4万枚を何処に振り込めば良いのですか」

 

 「その必要は無い、陛下とも話し合ったが、君達がこの国に在席しているだけで、十分な利益を得ている」

 

 「そうは言ってもこれは取引です、好意に甘える気は有りません。私は多分陛下や宰相閣下より、遥かに長く生きる事になるでしょう。先々の事も在りますので問題の起らぬ様に、万人が納得するきちんとした取引をお願いします」

 

 「判った、君達の納得する金額を商業ギルドから振り込んでくれれば良い。ギルドで王家にと言えばそれで済む」

 

 「では約束のテイルドラゴンを、探しに行って来ます」

 

 * * * * * * * *

 

 ナガラン宰相はカイト達が帰った後、ナガヤール国王に報告にあがった。

 

 「迷いの森のから20キロか、ダルク草原の極一部だがホイシー侯爵には万全を期して保護せよと命じておけ。然し金貨4万枚のをあっさり差し出すか、以前ホイシー侯爵にも迷惑料と言って1万枚の金貨を差し出していたな」

 

 「はい、受け取ったホイシー侯爵の方が、どうしたものかと相談に来ましたから。カイトからすれば口止め料なので、受け取っておけと伝えました。森が出来るまでの間、誰にも邪魔されたくなかったのでしょう。現に森が出来上がり、迷いの森の等と呼ばれていても放置しています」

 

 「あの男は金の使い方を知っておる。貯め込むばかりの豪商達とは大違いだな」

 

 「先々の事もあると言っていました。そのうえで、テイルドラゴンを探しに行くと言って帰りました」

 

 「あの二人に掛かるとドラゴンもオーク並か」

 

 呆れる国王陛下だった。

 

 翌日には商業ギルドのギルマス,サラームが王城を訪れ、ナガラン宰相にカイトから王国に対し、金貨4万枚の振込が有ったと報告にきた。

 

 * * * * * * * *

 

 エグドラの家でへミールに備蓄用の料理やスープを頼む。

 シャーラはグリンとピンクが居るので、安心してノーマンさん相手に模擬戦の訓練だ。

 ノーマンさん相手に、一族の特性は使わず剣のみでやり合っている。

 俺は戦力外なので、柵にもたれて見物だ。

 

 〈オー凄えなぁ〉

 〈いやー、流石はシャーラちゃんだわ〉

 〈あれで一族の手並の半分も見せていないってのがまた〉

 〈お前もやってみろよ、狼人族の本領発揮すれば〉

 〈あー駄目、これでもシルバーだぞ。シャーラちゃんとやったら自信なくすわ〉

 

 「流石はシャーラだね、カイトはやらないの」

 

 「ナジルか、お前も嫌味だなぁ俺が相手になると思うか。俺は奇襲と逃げ専門なんだよ」

 

 「それ、自慢になってないよ」

 

 「ナジルちょっとシャーラとやってみなよ」

 「そうだな、ナジルがシャーラさんと模擬戦なんて見た事が無いからな」

 「そうね、あんた以前アガベ達森の一族の村に居たんでしょ。シャーラさんとやってみせてよ」

 

 〈おっ〔血塗れの牙〕のナジルがシャーラちゃんと模擬戦だってよ〉

 〈おーし賭けるぞ、俺はシャーラちゃんだ〉

 〈俺は飲むぞー!〉

 〈既に呑んで、酔っ払ってるじゃねえか〉

 

 「おうナジル、やってみろ」 

 

 声が聞こえたのかノーマンさんが打合いを止めてやって来る。

 シャーラもナジルを見て興味深げだ、ノーマンさんが勧めるのだからそれなりに戦えるのだろう。

 

 「シャーラさんお願いします」

 

 そう言って木剣を手に素振りをしている。

 ニヤリと笑ってシャーラが受けた。

 

 〈ウォー、シャーラとナジルだどっちに賭ける〉

 〈そりゃーシャーラちゃんだぜ〉

 〈良し、大穴のナジルだ〉

 

 「カイトさんは、どっちが強いと思います」

 

 「純粋な強さならシャーラだが、木剣を使っての打ち合いは見た事が無いので判らないな。どっちにしても二人とも俺より強いのは確かだな」

 

 「またまたー、カイトさんって腕前を隠して見せませんよね。一度カイトさん達の狩りを見てみたいものですよ」

 

 「俺は魔法攻撃、それも奇襲攻撃で獲物を倒す安全策だからな、血塗れの牙とは全然違うよ」

 

 〈ウォー、行けー!〉

 〈負けるなナジル、お前に銀貨一枚賭けたぞ〉

 〈シャーラちゃん、今回だけ負けてー〉

 

 いきなりナジルの連続攻撃から始まった模擬戦は、見ているこちらがハラハラする打ち合いとなった。

 隣では、ノーマンさんが機嫌良さそうに見ている。

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