第145話 リア充 爆ぜろ!
十数合打ち合って別れ、睨み合いの後再び打ち合い、木剣がナジルの手を離れ遠くに飛ばされた。
「参りました。流石に経験豊富なシャーラさんには敵いませんね」
「んーナジルも、アガベの所で大分鍛えたみたいね」
「二人とも凄いねー、ナジルがノーマンさんと打ち合った時も凄かったが、一段と迫力が上がってるわ」
血塗れの牙の紅一点、セラミが感心した声で告げる。
「そのアガベ達の村も見てみたいし、シャーラさん達の狩りにも一度は同行してみたいな。ねっいいでしょシャーラさん」
「俺もさっきカイトさん達の狩りを、見てみたいと思っていたところだ。ナジルを鍛えたホルム村も興味が在るしなぁ」
「ねっ、良いよねシャーラ」
「ん、別にいいよ」
あっと思った時に、シャーラがあっさり同意していやがる。
血塗れの牙の狩りに同行した時に、女同士仲良くなっていたのは知っていたが、釘を刺しておくべきだった。
渋い顔の俺を見てナジルが何とも言えない顔になっているが、シャーラとセラミはキャイキャイと盛り上がっている。
特大級の厄介事が出来た気がする。
「カイト迷惑なら言ってくれ。娘があんなに仲良く出来る相手は中々居なくてな」
「へっ・・・娘って、誰の」
「おい! 俺の娘だよ! 俺に似ていたら悲惨だろうが、生憎母親似でな」
なんか地雷を踏んだ様な・・・
こんな時はジタバタせずに、成り行きに任せた方が無難なのは経験から承知しているが・・・ハァー
シャーラのおねだりに、セラミのウルウル攻撃(親父相手には最強の武器らしい)とセラミの後で睨む、リーダーで親父のオルドの視線に負けた。
「オルド、自分の身は自分達で守れよ」
「ああ解っている、ナジルも居るしな」
それ、ちょっと違うだろうと突っ込みたいが黙っておく。
然しナジルは兎も角、血塗れの牙はおっさん3人に娘一人、正直気が重い。
シャーラには、シルバーフィッシュとレインボーシュリンプを獲った後で、テイルドラゴン捕獲の為にクインの森の近くまで行くのだから、相談なしに気安く請け合うなとお灸をすえておいた。
俺のキャンプハウスは4人用、5人組の血塗れの牙はテント泊まりになるが、彼らの力量では危険極まりない。
コの字型の2段ベッドと6人掛けのテーブルにトイレ付きの、キャンプハウスを別に造り俺のマジックポーチに入れて運ぶ事にした。
出発にあたり、グリンとピンクには野獣に出合っても何もするなと頼んでおいた。
勿論危険だと思えば助けてね、と言うのを忘れない軟弱な俺。
エグドラを出てからホルム村まで約20日、途中野獣を躱したり追い払ったりと何時もと違って手間取ることが多い。
エグドラ→ホルム→湖→クインの森近く→エグドラのコースでは最低でも4,5ヶ月は掛かる。
早いうちから獲物をマジックポーチに入れておくと、腐りだすおそれが在るので帰り道になるまでは獲物はいらない。
ホルム村までの道程に出合う野獣に血塗れの牙の面々が驚いている。
エグドラ周辺で出合う野獣とは同じ種類でも、個体の大きさが一回りは大きい。
エグドラ周辺では出会うこともない、大声で吠えるバークベアや巨大なブラウンベアを、俺達がストーンバレットで追い払うのを目を丸くして見ている。
「何と凄い手荒な追い払い方だな。持って帰れば良い金になるのに」
「俺達と来たからには、俺達のやり方に従って貰う。今獲っても帰る頃には腐りはじめているよ」
「ナジルは森の一族との狩りでは、獲っていたのだろう」
「勿論狩りの対象だが、獲ってから精々二月くらいでエグドラに持っていって売ってたからな。4ヶ月も過ぎれば品質が悪くて売れないな」
〈勿体ない〉オルド達のボヤキを聞き流しホルム村に向かう。
《カイト猿の群れが来るよ》
「カイト様、グルーサモンキーの群れの様です」
「しゃーないな、一時避難だ。オルドキャンプハウスに入れ、絶対に呼ぶまで外に出るなよ」
グルーサモンキーはファングモンキーより小型だが群れが厄介だ、手痛い目に合った冒険者は多い。
少し数を減らしておく事にし、シャーラと二人で迎え撃つ。
背中合わせになり、樹上から次々と降る様に襲いかかって来るグルーサモンキーを、ショットガンの連射で撃ち落とす。
第一陣が撃ち倒され、樹上で様子を見ているグルーサモンキー。
「シャーラ旋風で吹き飛ばしてやれ」
《グリンも手伝ってね》
グリンにそう言って風魔法をグルーサモンキーに使う。
《ん、任せて》
言葉通りシャーラの風魔法に乗せて風魔法を使う、二人分の風魔法はまさに竜巻と呼ぶに相応しい威力である。
木にしがみつくグルーサモンキーが次々と竜巻に巻き込まれて上空に吹き上げられる。
風が収まると頭上の木々の葉が無くなり、ポッカリと穴があいた様に空が見える。
危険は去ったので、キャンプハウスの中の血塗れの牙の皆に声をかける。
キャンプハウスから出てきた皆は、何とも言えない顔で俺達を見ている。
覗き穴から見ていたのだから、俺達が何をしたのか知っていて言葉も無い様だった。
周囲はショットガンで撃ち落とされたグルーサモンキーが大量に転がっていて、木の葉の無くなった上空から燦々と陽の光が降り注いでいる。
キャンプハウスを片付けて、そそくさと現場を後にしホルム村に急ぐ。
* * * * * * * *
「シャーラ様お久し振りです」
一番にやって来たのはエレニャだ、シャーラと抱き合って再会を喜んでいる。
その後は、何時もの様にシャーラの前に列が出来る。
呆気に取られて見ている、オルド達血塗れの牙、思わず笑いそうになってしまった。
ホルム村までやって来る人族は滅多にいないし、ナジルは久し振りに帰って来たと歓迎を受けその夜は宴会となる。
シャーラの前には、シルバーフィッシュとレインボーシュリンプの丸焼きがデンと鎮座していて、御満悦である。
翌日は久し振りのナジルの歓迎会、という名の模擬戦が始まった。
まぁ娯楽の少ない世界だから判らんでも無いが俺を引きずり出すのは止めろ!
久し振りに砦を造って立て籠もり、昼寝をする事となった。
ナジルが模擬戦で大汗かいて交代すると、セラミが甲斐甲斐しく世話をしているので、付き合ってられん!
リア充、爆ぜろ!
やっと湖に向けてホルム村を後にする、相変わらずアガベ達感じる者や見える者達の視線が痛い、逃れられてやれやれだ。
流石にシャーラも窮屈そうにしていた。
グリンだけでなくピンクまで増えているんだものな、オルド達が気付かないってのは有り難い。
* * * * * * * *
「こんな森の奥に湖が在るなんて凄いね」
「セラミちゃん世迷言を言ってないで注意してね。ウォータードラゴンやホワイトフォックス,ゴールデンベアなんてのがうようよ居るからね」
まず最初に久方振りに浅瀬の近くに鳥籠を造り、血塗れの牙の5人を中に閉じ込める。
「暫くそこで見物だな、危険だから手を出したりするなよ」
そう告げてから何時もの柵造りを始めるが、鳥籠も含む大きさに造る。
次は追い込み場所の少し深いプールに誘導柵とシャーラが鼻歌混じりに造っていくが、すっかり馴れた作業になってしまっている。
〈カイトー〉
〈カイトさーん、助けてー〉
〈だめっ食べないでー〉
ん、と思ったらフォレストウルフの群れとブラウンベアが、餌を目の前に睨み合っている。
柵の中に籠が有りその中に居るのに怖いらしい。
足場を高くし、上からストーンバレットの特大を撃ち込み蹴散らしていく。
バスケットボール大でスピードは新幹線並だから当たれば痛いで済まない。
当たりどころに依っては吹き飛び、ひっくり返って痙攣している。
呆れるオルド達を鳥籠から出すと
「カイト様ー、始めてもいいですかー」
手を振るとシャーラの〈キャッホー〉の掛け声と共に
〈ドッポーン〉〈バシャーン〉〈ドーン〉
と連続音が響き〈キャー♪〉〈ドポーン〉と嬌声も混じる。
あっの馬鹿! 転移魔法を使って10メートル程の高さから石代わりに自分を投げ込んでいる。
秘密の筈が絶賛公開中って、後でオルド達に口止めしておかなけりゃならん。
見ればナジル以外の者が目を見開き、水飛沫を高く上げるシャーラを見ている。
空中に現れては落ちる〈ドポーン〉
空中に現れては落ちる〈ドポーン〉
空中に現れては落ちる〈ドポーン〉
ナジルはそれを見ながら、呆れて首を振っている。
セラミちゃんは呆れながらも、ちょっと羨ましそうである。
シルバーフィッシュの箱詰めは、馬鹿猫シャーラを中心に頑張って貰う事に決定だ!
イクラも22壺作るが、何で魚の卵なんかを壺に入れるのか判らないので不思議そうにしている。
明日の朝食になればその理由が判るさ。
その夜はシルバーフィッシュでバーベキューパーティと相成った。
ナジルは久し振りに食べるシルバーフィッシュを堪能していたが、オルド達3人のオッサンとセラミちゃんは一言も言わず貪っていた。
明日はもっと驚かせてやるからな。
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