第112話 手ほどき
「ヘラルス殿下と皆さん方は、全員陛下がお呼びです。カイトも来てくれるかな」
仕方がない、フィと共にナガラン宰相とヘラルス殿下の後を付いていく。
フィと並んで歩く隣に、ヘラルス殿下が並んできて今日の事を詫びてくる。
「ハマワール子爵が魔法の師匠を連れて来ると聞いたので、陛下と話して利用させてもらったんだ御免ね」
「利用したって事は、訳ありですか」
自分の後ろを親指で指差し、ウインクしてくる。
このゼスチャー万国共通・・・異世界共通なのか。
面倒事に巻き込まないで欲しいのだが、今更言っても始まらないってことかな。
肩を竦めて返事とする。
少し広い部屋に入ると皆に暫く待つように言い、フィと俺に付いてくる様にと隣の部屋に行く。
隣の部屋には、国王陛下と護衛の騎士達が居るだけだ。
フィが頭を下げるのを止め、俺の前にやってくる。
「済まないなカイト、お前が来るとは知らずに利用させてもらった。ヘラルスどうだ」
「フリサン,ナルハス,エドール,ナルヤ以外は」
「カイトに聞きたいが、ヘラルスの護衛の騎士達の態度や気配の、感想を聞かせてくれんか」
部屋の中央で小さな円陣を組む格好で、陛下が小声で尋ねてくる。
壁際に控える護衛達にも、聞かれたく無い様な感じだ。
「又ですか」
「以前と違ってもっと厄介なんだ、ヘラルスを王太子に定めた」
「蜜に群がる、蜂の選別ですか」
「上手いこと言うな」
「相変わらず辛辣だねぇ」
「あの場で俺に反感を持つ者が多過ぎ、無視していましたから誰とは言い難いですね。殿下に対する反感なのか俺に対するものかも判りません」
「ハマワール子爵の魔法の師匠として来たのなら、改めてヘラルスに魔法の手ほどきを頼みたい。見込が無いと見定めるなら何時辞めてもらっても構わない」
「冒険者流の荒っぽい方法で教えますので、陛下や殿下が納得しても周囲が許しませんよ」
「場所は別なところを用意しよう。必要ならハマワール子爵の所か、王都の外に連れ出しても構わない。最も王都の外に出るなら、多少の護衛は付けるが。冒険者は手の内を見せないと言っていたな、無理にとは言わない。ヘラルスが教えられた事を、他に漏らさないと約束しよう」
フィも隣で頷いている。
魔法の手ほどきを頼まれて、同じ事を要求したのだろう。
それでも俺に教わった事を教える訳にいかず、魔力切れまで徹底的に魔法を射たせる方法を使うつもりだっ様だ。
「いいですよ、どうせ大した事を教える訳では無いし。根性があれば、多少は魔法が使える様にはなるでしょう」
「ヘラルス、先ほどの4人を呼べ」
ヘラルスに呼ばれ、フリサン,ナルハス,エドール,ナルヤが部屋に入り陛下に跪く。
「これからもヘラルスの補佐を頼むぞ」
そう告げて陛下は部屋を出て行った。
俺は改めて彼等に紹介された後、ナガラン宰相に促されて部屋を出る。
部屋を出ると別の護衛騎士達が控えていて、彼等と共にヘラルス殿下の離宮のサロンに落ち着く。
「何か面倒そうな雰囲気だね」
「兄の姿が見えなくなってから擦り寄って来た連中だよ。それ以前は鼻にも引っ掛けない態度だったのに、王太子になってから酷くなる一方でね。王立学院以来の付き合いで、親子共々態度を変えなかったのはこの4人だけだよ」
「王族って大変だねー。魔法を教えるとなると、君達にも離れていてもらうがいいのかな」
「陛下がお認めになられ、王家の身分証をお持ちの方を信頼致します」
皆頷いて同意する。
「で、場所は何処にするのだ殿下」
「何か軽いねー、王都の外とかは」
「却下」
「えー、一言で済ませるの」
「当然です。大勢の護衛を引き連れて、うろうろする趣味は在りません。それに雷撃魔法と聞きましたが、どれだけの能力かも知りませんからね」
「でもハマワール子爵には教えたんでしょう」
「ハマワール侯爵邸、当時は子爵様でしたけど、そこで使用人達を遠ざけて扱きましたから」
「怖いねー」
「嫌なら止めて宜しいですよ。面倒事が無くなって丁度いい」
「やります!」
「殿下の魔法を、一度見てからですね」
「では明日魔法訓練場を空けておく様にするよ」
「それなら、明日はシャーラも連れて来ますが宜しいですね」
「彼女も持ってるいるのでしょう」
「薄紫のをね」
「では明日、ハマワール子爵と3人で来てね」
フィとシャーラの魔法も見たいと頼まれ、フィは断れなかった。
* * * * * * * *
今日も侯爵家の紋章入りの服だが、シャーラはフィ様と一緒と言って、作務衣紛いの衣装にフィエーンの赤い二重丸の中に交差した剣と雄鹿の紋章、最もシャーラのは色の無い目立たぬ刺繍だ。
ヘラルス殿下の学友の一人、ナルヤが迎えに来てくれた。
魔法訓練場には、ヘラルス殿下と護衛の騎士に学友達だけであった。
「初めて、カイトとシャーラの魔法を見せてもらえるんだね」
最初にフィが的に向かい、何事か呟くと〈ハッ〉と一声フレイムランスを的に撃ち込む。
魔法訓練用の頑丈な的が、一発で撃ち抜かれる。
「はぁーファイアーボールしか見せてもらえなかったけど、これがアーマーバッファローを倒した魔法かぁー。魔法師団の師団長が、治癒魔法師で無く魔法師団に欲しいと、愚痴を零していたって噂だよ」
次はシャーラだが、土魔法は使わない様に言ってある。
シャーラが的に向かい鼻歌混じりに何か呟くと、掌の前方に小さな風の渦巻きが出来〈行け!〉の掛け声と共に、渦巻きが的に向かって飛ぶ。
的に近づく程に渦は大きくなり、的に当たった時には周囲の小石等を巻き込み、小さな竜巻の様になっていた。
巻き上がる土埃を避けて見ていたヘラルスが、びっくりしている。
「はぁー、風魔法って結構派手なんだね。どれくらいの威力があるのかな」
「んー荷馬車一台位なら、巻き上げる事が出来ます」
シャーラは威力を小さく言ったつもりだが、それはカイトやヒャルの魔法を見馴れていたためだった。
荷馬車一台程度なら、普通の風魔法使いであれば簡単に吹き飛ばす事が出来ると勘違いしていた。
聞いたヘラルス殿下や学友達が驚いている。
カイトは黙って的を指差しバレットを撃ち込む。
〈バシーン・・・バシーン・・・バシーン〉と連続して撃ち込み、その度にバレットが的に当たって砕け散る。
「なんて威力なんだ、本当に魔力高40なの」
ヘラルス殿下に冒険者カードを差し出す。
ヘラルスはカードを受け取ったが、意味が判らない様なので説明する。
「王家の身分証と同じです。裏に魔力高40と書かれています。教会でも冒険者ギルドでも計りましたが40ですよ」
「それなら、私にも少しは希望があるって事か」
「やってみなけりゃ判りませんよ。魔法師団長に習っていて、何と言われました」
「先ず無理だって、魔法を使えても数発射てれば良い方だし、すぐに魔力切れで倒れますと言われたね」
「では、昨日のサロンに行って話しましょうか」
「魔法を教えてくれるんじゃ無いの」
「で・ん・か、魔法を習いたいなら黙って従って下さい。殿下の魔法を見せてもらうつもりでしたが見ても仕方なさそうなので」
嫌なら何時でも辞めるからと、態度で示してサロンに行く。
学友達には別室で待機してもらう。
魔法師団長や部隊の指揮官達に習った事を聞いたが、ヒャルやフィ達が習った事と大差なかった。
魔力をこね繰り回し、詠唱と共に腕から魔力を絞りだし射ち出す。
後は魔力切れまで魔法を使い続ければ、人により魔法を使う回数が増える事も有る。
と教えられていた。
まぁ魔法師団の連中もそれだけでは無い筈だが魔法をおいそれと他人には教えない。
一般に知られている事だけを、それらしい言葉の衣を付けて勿体振るだけだろう。
自分のやり方は秘密にしておかなければ、オマンマの食い上げだからな。
「殿下は自分の魔力が判りますか」
鳩尾の下を指差す。
「どんな感じですか」
「モヤモヤした塊ってところかな」
「大きさは」
「拳より少し大きい感じだね」
今後暇な時にはそれを押し潰したり丸めたりする様にしてもらう。
馴れたらそれを二つに分ける練習もする様に言い、10日後に来るからと王城を後にする。
帰りにナガラン宰相の所に寄り、エルフの長老達が申し出た謝罪と和解の話しを聞いてみた。
別にエルフ達と関わらなくても何の支障も無いので、暫く放置する事にした。
そんな事より、以前商家風な服を作った所に行き新しい服を作る方が大事だ。
* * * * * * * *
10日後に王城のヘラルス殿下の下を訪れる。
フィも付いて来るのでどうしたのか聞くと、今後魔法指南を頼まれ断れない時の参考のためだと、真剣な顔で言われた。
ヘラルス殿下は魔力操作の、魔力をこね繰り回し二つに出来る様になったと、自慢気に言ってきたので次の段階に移る。
「それが出来るなら次は2個を4個に分ける練習です。出来たら次は8個にして下さい。此処まで出来る様になれば次は魔法の実践練習です。最終的には16個にする練習もしてもらいます。では又10日後に来ますからしっかり練習して下さいね」
呆気に取られるヘラルス殿下を置いて、さっさと退散する。
言われて出来なきゃそれまでだ。
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