第50話 仲裁者
ホイシー侯爵はハマワール子爵とカイト達が帰った後、エメード・フルカン伯爵ホーサル・エイメン子爵カイラ・テンサキ伯爵モルカート・ガルハン男爵の四人を連れて王城へ向かった。
ナガラン宰相に面会を求めて王立図書館での出来事を伝え、カイトがエメード・フルカン伯爵を殺すと明言したが、どう対処すれば良いのかと尋ねた。
ナガラン宰相は冷たい目付きで、冷や汗を垂らして立ち竦む四人を睨む。
ホイシー侯爵は、見逃す訳にもいかないので仲裁に入ったが、報告はしておかねばならない。
冒険者と謂えども、王家の紋章入りの身分証を示して、エメード・フルカン伯爵を殺すと万座の中で明言したのだ。
宰相は5人を待たせて、国王陛下に報告の為に執務室を出て行った。
「何か、王立図書館でヒャルダ・ハマワール子爵を四人掛かりで侮辱し、決闘を申し込まれて怯んだとな。エメード・フルカン伯爵に至っては、護衛にカイトを殺せと命じ護衛は返り討ちになったのか」
「如何致しましょうか。流石に王国の貴族を殺すと、万座の中で公言されては・・・」
「今この場では殺さないと言ったのなら、捨て置け! 予の紋章入りの身分証を持つ者を、王立図書館の中で殺せと命じるとはな、中々に骨の有る男か・・・はたまたただの馬鹿か」
国王の額に、青筋が浮かんでいる。
ナガラン宰相も頭を下げながら、確かに王家の紋章入り身分証を見て尚、殺せと命じたのは公然と王家を蔑ろにする行為である。
捨て置けないなと考える。
帰って来た宰相の口から漏れたのは、冷たい言葉だった。
「エメード・フルカン即刻領地に帰るが良い。下がれ!」
「宰相閣下、私は」
「お前から何も聞く必要は無い。王家の紋章入り身分証を見て尚、殺せと命じるなど国王陛下の臣下に非ず。出ていけと申したのが解らぬか!」
フルカン伯爵は、宰相の護衛に引きずられて王城から出ていく事になった。
流石にこの一言は、仲裁に入ったホイシー侯爵もそこまで考えていなかった事であった。
フルカン伯爵に対し即刻領地に帰れとは、カイトがフルカン伯爵を殺しても王国は関与しないと言っているのも同然だ。
殺されなくても、王家の威信を無視して殺せと命じた男を陛下は許さないだろう。
「ホイシー侯爵殿、よくぞ止めてくだされた。四人掛かりの決闘で負ける貴族等、王国の恥晒しにしかならない」
「それ程ハマワール子爵殿の腕は?」
「晩餐会で、アーマーバッファローの肉が出た事があったのを覚えておられるか」
「良く覚えています。アーマーバッファローが三頭討伐されたと噂になりましたので、それが何か」
「その三頭はフィエーン・ハマワール、ヒャルダ・ハマワール、カイトの三名によって倒されているのだよ。一頭はフレイムランスで腹を撃ち抜かれ、もう一頭はストーンバレットでそしてもう一頭はアイスランスで前足を片方吹き飛ばされてな」
「それ程の魔法の腕を持っているのですか」
「直接見たのは、フィエーン・ハマワール子爵が陛下の求めに応じ、魔法訓練場で見せた一発だけだ。訓練場の頑丈な的を、フレイムランスで撃ち抜いたぞ。それ程の腕を持ちながら誇りもせず隠している、いざという時のためにな。大した実力なく他人を侮辱して喜んでいる輩は、王国の貴族には無用だ! 下がるがよい」
話を聞いていた三人は、自分達が遊び半分に侮辱した相手の実力を知らされ、今更ながら震えあがった。
王城から下がったホイシー侯爵は、ヒャルダハマワール子爵に会うためハマワール侯爵邸を訪れ、エメード・フルカン伯爵が領地に帰された事を伝えた。
ヒャルダもその話を聞かされて意味を理解し、溜め息を漏らした。
* * * * * * * *
「シャーラ、俺はあのエメード・フルカンを見逃す気は無いと言ったが、お前が付き合う必要は無い。俺は暫く姿を消すが、お前はフィエーンの所に行け」
「駄目です、私はカイト様に付いて行くと決めています。それに馬車を扱え無いと行き帰りに、時間が掛かって大変でしょう」
痛い所を突いてくるねぇ、シャーラちゃん。
「侯爵様やヒャルとフィには2度と会えないぞ、いいのか」
「付いて行きます!」
「何があっても知らないぞ」
まっシャーラもたっぷり金貨を持ってるので、途中で別れても生活の心配はないのでいいか。
「んじゃちょっと、ヒャルの所に行くか」
ホテルの馬車を借り侯爵邸に行く。
「ヒャル、あのエメードって糞野郎の領地って何処なの」
ヒャルが溜め息まじりに教えてくれたのは、国王陛下から領地に帰されたって事。
ホイシー侯爵がヒャルにそう伝えて来たって、残り三人もナガラン宰相から冷たく放り出され貴族としては終わりだそうだ。
フィの所に寄り、預かっているアーマーバッファローのお肉2塊を渡し、序でに出しそびれていた薬草袋いっぱいのホグの実3袋を置いていく。
ホテルに帰ると馬二頭を買い旅の準備だ、といっても全てマジックポーチに納まっているので食料の補給だけだ。
シャーラと二人で市場を巡り色々と買い込む、調理道具も新たに買い揃えて料理も練習するつもり。
早朝ホテルの支配人に、侯爵様とフィに宛てた荷物を届ける様に頼んで出発した。
* * * * * * * *
「父上、カイトからこれが届きました」
ヒャルダが父親に示した物のは、カイトに与えていた侯爵家縁の者を示す紋章入りの衣服と侯爵家発行の身分証である。
別の包みには王家の紋章入り身分証でどちらも魔力を流して消されている。
一通の書状には数々の好意に甘えた事に対する感謝の言葉と、王家から預かった身分証を返しておいてくれるようとの事だった。
ヒャルには、暮れの護衛依頼迄には帰るが間に合わない時は済まないと一言。
「ホテルの支配人にも、荷物を預けて出ていく時に、もう部屋は必要無いと伝えてでていったとの事です」
「全ての関係を絶ち切ってまで意地を通すか。カイトらしいな」
* * * * * * * *
「シャーラ、貴族用の通路は使えないから気をつけろよ」
長い行列の最後尾につけ、二人とも旅に出る冒険者の装いだ。
最も着ているのは冒険者用の衣服ながら上等な物で、カードもシルバーの2級を示す物だ。
街道に出るとエメード・フルカンの領地、タルーム地方の領都エバンを目指すがのんびり寄り道をしながら行く。
時には街の入口で、子供の冒険者にしては身なりも良く自前の二頭立ての馬車に乗っているので、色々問われた。
そんな時は、マジックバッグからハイオークやホウホウ鳥を取り出して見せると、あっさり通してくれた。
タルーム地方の領都エバンに着いたの時には、6月も半ばになっていた。
ホテルに泊まり、領主館の所在から調べるのは結構面倒であった。
何せ自分がエバンに来た事を、此の地の人々の記憶に残したく無いので冒険者ギルドにも立ち寄ってもいない。
市場でお喋りな店主から、領都エバンの住み心地等を聞いた序でに領主の話を聞く。
「それがさ、突然王都から帰ってきたんだけどな、部屋に閉じ篭って荒れているらしいよ。娘の知り合いがお勤めしているんだけど、柄の悪い男達を護衛に雇って酒浸りだって」
「ふうーんそ、の娘さんも大変だねぇ」
「なに柄の悪い奴らが横柄で仕事も遣り難いから、近々辞めるってさ」
成るほどね、多分冒険者崩れの護衛を雇っているのか。
一日シャーラと馬車で領主の館を確認すると、夜に備えてホテルに帰り昼寝を楽しむ。
陽もとっぷりと暮れ、酔った冒険者達がうろつく街に転移を使ってホテルから外に出る。
5,6回転移でジャンプすればフルカン伯爵の館近くまで行けると踏んでいる。
高々400メートルのジャンプでも、歩くのとジャンプでは大違い。
あっさり伯爵邸の近くに来てしまった、ここでジャパニーズ・ニンジャスタイルに変身だ。
濃いグレーの作務衣紛いの服に覆面をすれば出来上がり、待ってろよフルカンの糞野郎。
先ず庭の植え込みの影にジャンプして館の中を伺う。
赤いお鼻のダラスル伯爵の時の様な、ヘマをしない様に慎重に気配を探る。
柄の悪い奴等が護衛に付いているのなら、それなりの気配は有るはずだ。
灯りの灯る部屋の隣にジャンプしては慎重に探る、1階のサロンと思われる部屋に複数の人間の気配がある。
確認は窓から出来るが館の、警備兵に見られたく無いのでじっくりと待つ。
見回りが通りすぎて暫く待ってから、窓に忍び寄り中を覗く。
フルカンの糞野郎が酔ってソファーにだらしなく座り、左右の壁に二人ずつ護衛が立っている。
ドアの左右にも二人、ゾクッとした気配にジャンプして植え込みに隠れる。
窓に男の姿が浮かぶが、雰囲気のヤバそうな奴が居る。
室内に跳び込んでも、前後左右に敵が居ては勝ち目が無い。
窓に浮かぶ男の姿に向かって最速のストーンアローを撃つが、なんてこったい・・・躱された。
室内の動きが慌ただしくなるのが分かる、
ままよ男の姿が消えた壁に向かい殺気を消して、無心でストーンランスの3連射。
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