第2話 ポンとしてギュッ

 身体の節々が痛くて目が覚めた時には、外は薄明るくなっていて夜明けが近い事を教えてくれる。

 ドームの壁をドアの型に切り込みを入れ、片方にピンを差し込み開く様に細工をするが難しい。

 土の棒で閂を作り、外からの攻撃に耐えられる様に魔力を込めておく。

 

 残りものの固くなったパンを齧りながら、覗き穴から周囲を観察して安全を確かめる。

 いくらラノベの知識が有っても、俺の命の保障はしてくれないので慎重になる。

 肉の固くなったパンを噛みながら、次から食料は全て空間収納にしまっておくことにしようと心に誓う。

 冷えたお肉が固くて顎が怠い。

 

 ラノベの知識では空間収納は時間停止機能があり、貯めておけば食料には困らないとなってたので活用しなくっちゃ。

 しかし確認は必要なので、今日の転移魔法の実験が終われば空間収納の能力検査だな。

 

 ちうごくの偉い人が、敵を知り己を知れば百選・・・百戦危うからず。

 なーんちゃって、とか言っていたと覚えている。

 それと改善なくして進歩無し・・・だっけ?

 イヤイヤ改善なくして品質向上の整理整頓が・・・

 止めた。何か変な方向に向かっている気がする嫌な言葉だ。

 

 それにしても、少し魔法を使うとすぐに疲れて眠くなる。

 気をつけないと、魔力切れでパッタリ倒れてしまえば、あの世行き確実なので慎重にしなきゃ。

 怠くなったら即身仏・・・???

 駄目だ、死にたくないので暫く休憩して頭を冷やそう。

 

 陽が高くなってきたので、草刈りをして柔かな寝床作りから始める。

 碌に草も生えない場所なので、冒険者達も薬草採取に来ない所なのだがお宝発見。

 風鈴草だ、高さ25cm程で真っすぐ伸びた茎に4~5個の釣鐘に似た薄紫の花が付いている。

 しかも群生地ときた!

 普通2~3本咲いていれば当たりと言われているのに、疎らな草の影に隠れる様に咲いている。

 根本から切り取るが地下茎には触れてはならず、翌年も採取したければ綺麗に切り取れと言われている。

 一本で銅貨5枚は堅い〈フヒヒヒッヒ〉可笑しな笑いが漏れて自分でも恥ずかしくなる。

 

 取り合えずベッドは出来た、ドームの中に縦180cm横100cmの土魔法で枠を作り苅った草がこんもりと積み上がっている。

 今夜からは柔かな草の褥で天国の気分だ。

 ドームの扉を封印して街に向かい、途中で適当に薬草を探しながら街に向かい夕暮れ前に帰り着いた。

 そのままギルドに行き、薬草買い取りのおばちゃんに集めた薬草を差し出す。

 

 「おや風鈴草が3本も有るよ、カイト今日はついてたね。他と合わせて16,200ダーラだね」

 

 「有り難うフユサさん。銅貨で貰えるかな」

 

 「あいよ銅貨16枚と鉄貨2枚ね。頑張りなよ」

 

 「有り難う。またね」

 

 明日は別の場所に行くことにしなきゃ、風鈴草の群生地がばれるからなぁ。

 50本以上採取して空間収納に保存したので、当分は稼ぎの心配は無いが少しずつ出さないとな。

 冒険者は自分の稼ぎの場所は他人には教えないので、俺も自分の狩り場を他人には教えない。

 

 陽が落ちる前に市場へ行き、塩をコップ2杯分買って4,000ダーラ銅貨4枚。

 高いねー、遠い海から馬車で運ばれて来るので仕方が無い。

 固形スープの素10個が3,000ダーラ、味噌を固めた様な代物でカップ一杯のお湯か水で溶いて飲む。

 味は塩味で、薄いスープの味がするが具は無しだ。

 パン5個を買って1,000ダーラ、様々な具材を挟んだパンを6個3,000ダーラ払って11,000ダーラ使った。

 薬草袋に入れた物を背負子に乗せて家に向かう。

 

 親父が居なきゃ、食器や鍋とフライパンに布団と服を空間収納に納めておくつもりだ。

 親父は居たが酔い潰れてるので奥の部屋に行き、薬草袋からパン1個取り出し残りは袋のまま空間収納に入れておく。

 明日の朝に持ち出す物は寝具と服だが、服は着ている物以外全て収納しておく。

 後は鍋やフライパンだが、親父は料理をしないので不用だから使える物は持ちだすつもり。

 

 食事を済ませると、明日に備えてさっさと寝る。

 夜中に親父がゴソゴソベッドに入り鼾をかきはじめたのでそっと起き、鍋にフライパン、包丁や食器と静かに収納に入れたら朝まで横になる。

 市場の手伝いに行く時間に起きると布団や毛布を空間収納に入れて、寝ぼけている親父に暫く帰らないと告げて家を出る。

 何時もの2ヶ所の手伝いを済ませると、稼いだ1,000ダーラと昨日の残り5,200ダーラを使い、串焼き肉や蒸かし立ての芋に塩茹での豆を買う。

 それらを薬草袋に入れて背負子に括り付けて街を出る。

 

 食料は暫く持つだろうし無理に家に戻る必要も無いので、昨日よりもっと遠くに行く事にした。

 丈の低い草と疎らに木が生えている見通しの良い場所を見つけたので、此処をキャンプ地と定める(キリッ)なんちゃって。

 初めての場所だが見晴らしが良いので、獣が近付いてきたら直ぐ解るのでいい場所だと呑気に考えていた。

 しかし、呑気な俺が馬鹿でした。

 相手にも俺が良く見えていたとは、街の近くを離れると危険度がアップするのを忘れていた。

 

 小高い場所に移動すると、自分一人が座れる程度のドームを造り籠城戦に備える。

 前後左右に見張り用の穴を開けると、残りの魔力でドームを強化する。

 気を失わない程度に魔力を使い、覗き穴から近づく獣を観察する。

 ウルフ7頭の群れだ、俺の姿が消えたので地面の臭いを嗅いでドームの周りをウロウロしている。

 

 怖ぇーよー、これが野獣の気配なのか背筋がゾクゾクして思わず膝が震える。

 戦う手立てが無いので、残りの魔力を注ぎ込んでドームを強化して後は運任せと居直りお休みなさい。


 * * * * * * *

  

 狭いので身体が痛くて目が覚めた。

 生きてるって事はドームが耐えられたか、興味が無くて無視されたかだな。

 ぼんやりとそう考えていたが、背中がゾクゾクする感覚が濃厚に有る。

 覗き穴から周囲を観察すると、ドームの傍らで寛ぐウルフちゃん達。

 カイト絶対絶命じゃんと思ったが、此処はドームの中で安全地帯なので取り合えず命の危険は無い。

 

 狭くて身体が痛いのでドームを押し広げて、地面を掘り返されても大丈夫な様にする為に、ゆっくりとドームを長くして横になれる様にする。

 地面も固めて布団と毛布を敷くと残りの魔力全てを使い、壁と床を固めて2度目のパタンキュータイムに突入した。

 

 2度目の目覚めは真っ暗で、指先が見える程度のライトを灯してゆっくりと起きあがる。

 気配は変わらず、ドームの周囲にウルフが居る事が解るが、暗闇で覗き穴からは何も見えない。

 いきなり死ぬ恐れが無いのなら、取り合えず腹ごしらえだ。

 薬草袋に入れた、具を挟んだパンを収納から取りだしモグモグタイム。

 

 此からどうするのかを考えるも、魔法を使うと簡単に倒れてしまうのでは命が幾つ有っても足りない。

 命のスペアの持ち合わせは無い。

 又転生して何処かで生まれる保障も無いし、痛い思いをして獣に食い殺されるなんて真っ平だ!

 

 考えて考えて、ラノベで土魔法使いが獣と戦うのに、落とし穴に落として戦うのを思い出した。

 どうするのが良いか、先ず掌を地面に着けずに土魔法が使えるか試してみる。

 ドームの縁により反対側の地面を見つめ、ポンと穴が空く事を想像して魔力を流す。

 又意識が飛ぶのを感じながら???

 

 目覚めてから開いた穴を見て解ったが、ウルフの足を落とし穴に落とす事を考えて穴を開けたので穴は空いた。

 直径30cm深さ・・・俺の魔力全部使ってるので深い。

 阿呆だねぇ、直径を考えたら深さも考えろよ。

 深い穴に蓋をして、隣に直径30cm深さ1mの穴をイメージして、ポンと開けゴマ!・・・できるじゃん。

 良しよしポンと穴を開けて足が落ちたらギュッと閉じる、ポンとしてギュッだな。

 

 3度も気を失ったので外はすっかり明るくなっていた。

 ん・・・気配が無い、外を覗くと周囲にウルフの姿は見当たらない。

 ポンとしてギュッはどうなるんだよ!

 しかし、ポンとしてギュッなら魔力も大して使わないと思うので、良しとして攻撃魔法を考える。

 

 土魔法使いと言えばストーンバレットだが、石ころでは獣は倒せ無いので格好良くストーンジャベリンにしたいが、一発撃って魔力切れてのも不味い。

 ストーンランスも魔力を食いそうなのでもっと下げて、矢くらいのストーンアローだな。

 長さ40cmで太さ3cmでどうだ! といっても練習のために外に出るのは怖いので決めるだけにする。

 外に出たら先ずストーンアローの練習をする事が今日の課題だ。

 

 少し穴を広げて周辺を観察して、安全を確かめてからドームにドアを作りそっと出てみる。

 安全良し! 10m、15m、20mと少しずつずらして的を立てると、さっさとドームに引き返して中から閂を掛ける。

 感覚的に魔力は半分も使って無い、少しはストーンアローの練習が出来るだろう。

 

 早速ストーンアローを造ってみる、長さ40cm太さ3cmで両端を尖らせる。

 さっと造ってさっと撃たなければならない。

 先ず矢作りの練習をひたすら続けるが、魔力切れ寸前になれば回復を待っては矢作りの繰り返しで一日が終わった。

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