第3話 質と量

 3日目はストーンアローを作って飛ばす練習をする。

 ラノベでは地面から矢が飛び出すのが定番だが俺は違うぜ、突き出した掌の前に矢が浮かび的に向かって飛ぶ!

 

 10メートル先の的に〈コン〉と軽い音がして矢が当たり落ちる。

 コンじゃ獣に突き立たないよな、スピードのイメージは弾丸だね。

 機関銃の曳光弾が飛んでいくイメージで、矢を作りすかさず〈エイッ〉と撃ち出す。

 〈カキーン〉と的に当たった音がして矢が何処かに消えた、良しよしヨーシこの調子です。

 

 10,15,20メートルと的を遠くに変え、ストーンアローの練習に励むがお馴染みの魔力切れが近いので中止する。

 あれっ俺ってストーンアロー何発撃ったんだろう、数えてなかったよ阿呆だねぇ。

 次は的をもっと遠くにして、撃った数を数えておけば魔力消費も計れるだろう。

 

 この調子でホイホイ魔力切れを起こし、魔力が増大してしまったら俺の計画が狂って仕舞う。

 まっその時は魔力切れ寸前にして、貴族さまの屋敷に出向いて誤魔化すかね。

 ん・・・それなら別に魔力切れ寸前で止めなくても、バンバン魔力切れして魔力量上がるか試しても良いよな。

 お貴族様を誤魔化せなければ、この街から逃げ出せば良いだけだし。

 

 適当に貴族から逃れる事を考えていてふと疑問が湧いた、俺は魔力量魔力量とひたすら魔力量の事を考えていたが神父様は魔力高と言ったよな。

 あの貴族の代理見届け人とほざいたオッサンも、魔力高40でも見込があればって・・・

 ラノベの知識の魔力とこの世界の魔力の意味が違うのかも、魔力量が魔法を使い続ける事なら魔力高は魔力の質?

 

 魔力高と魔力量って魔力高100が全魔力を使って1回100メートルジャンプ出来るのと、魔力高40の者が40メートルしかジャンプ出来ない事の違いかも知れないな。

 仮定として魔力量を増やせば1回40メートルしかジャンプ出来なくても、2回3回とジャンプ出来るかもしれないので試す価値は有る。

 

 俄然希望が湧いてるきた、ガンガン魔力切れを起こしてみよう。

 食料はたっぷり有るので暫くドームに篭って魔力を使いまくり、魔力量が増えるかどうか楽しみだ。

 

 魔力の回復を待って先ず引き篭るなら、熱いスープや白湯を飲みたい。

 念入りな安全確認の後、周辺を周り薪を集め草を苅ってドームに溜め込む。

 ハムスターの巣作りみたいだが気にしない。

 最後に的を30,40,50メートルと作り変え、準備は万端整った。

 

 ドームが少し手狭になったので地面を掘り下げ、ベッド以外の薪や草の残りは地面の下に移した。

 ドームは魔法の練習と寝る事だけに使う事にする。

 地上に大きなドームは目立つから、後でドームの外観に少し手を入れて自然な感じにすれば完璧だろう。

 残りの魔力を使ってドームと地下を強化してお休み~♪

 

 目覚た時に、気を失ってから回復までの時間を知る必要があると痛感し、次に街へ行った時に時計のお値段を確かめておくか。

 食事を済ませ的の方角に向けて少し縦長の隙間を作り、ストーンアローの練習を始める。

 

 最初は43発でKO負け、2回目も43発でKO、3回目は45発と誤差の範囲だが増えた。

 誤差の範囲とは、最初に的の側に転がっている矢の回収と、足りない分の土の補充をドーム内から魔法でやっているから。

 

 30回もすると平均50発は撃てる様になり、明らかに魔力量か魔力高が増えていると実感した。

 此処から的の距離を40メートルの物に変更したが、3回試して50発撃てる事を確認できた。

 結局50メートルの距離までなら50発撃てるが、威力が相当落ちるか威力を保つと、弾数が半分以下になった。

 魔力が増えるのは確認したが何処まで増えるのか、今後も魔力切れを続けていかなければ分からない。

 

 残る問題は転移魔法だが勝算は我に有り。

 土魔法でドームを造ったり、ストーンアローの練習で魔力の使い方が何となく解った気がする。

 魔法はイメージに魔力を乗せて発現するのだから、明確なイメージこそが魔法を成功させる秘訣だ。

 

 周辺の安全を確認してドームの外に出ると暑い日差しに目眩がする。

 長くドームに篭っていたので、モグラがお日様にあたった様なものだと苦笑いが出る。

 再度周辺を確認してから目を閉じドーム内を思い、行きたいと思いながら魔力を纏う。

 瞼に受ける明るさが消え肌に感じる暑さが無くなった。

 静かに目を開けるとドームの中に立っていた、俺って天才かも。

 

 何度もドームから出て転移魔法のジャンプの練習をする。

 ドームの外からドーム内への転移なのだが、20回転移して疲れてきたなと感じた。

 目を開けたままでドームに跳べと魔力を纏う、即座に転移出来る迄になったのは50回以上練習してからだった。

 後は1回でどれだけの距離を跳べるのかが問題だが、常に魔力が回復している時にやらないと出来ないときに野獣に襲われたら死ぬので慎重になる。

 

 現在1回の転移距離130メートルなら3回跳べる、50メートルなら8回跳べるのを確認した。

 空間収納は1,8メートルの球体が収納出来た。

 明らかに魔力量か魔力高の増大の影響だ、だが食料切れが近いので一度街に戻って食料補給する必要がでたので薬草採取を始める。

 

 3日目にはそこそこ採取出来たので街に向かっていると何時もの嫌な感じがする。

 多分ウルフだろうと思ったが戦う術が無いので自分の周りを土の壁で囲う、練習の成果はバッチリだ。

 直径1メートル高さ約2メートルで上部を絞り込み空気穴を残し下は地面にしっかりと埋まっている。

 ファングボアやウルフ程度の体当たりには耐えられる、と思う。

 

 通称砦と呼んでいるが実戦は初めてだ、覗き穴からウルフを見ると話に聞くラッシュウルフらしい、。

 草原に溶け込む様な斑模様の狼だ、何時もの黒ぽい奴とは違い大きい。

 体高が俺の身長より少し低いから1,5メートルくらい、体長は3メートルちょいくらいかな。

 尻尾は太くて大きく鼻先から尻尾の先迄なら7~8メートル有るんじゃないかな。

 

 偉い奴と出くわしたなぁ、食料も無いのにどうしようと思ったがポンとしてギュッを試す事にした。

 

 覗き穴からは見て、1番大きなボスらしきラッシュウルフを標的に決めた。

 群れのボスを倒せば残りは逃げるだろうとの思惑からだ。

 大きいので直径1,5メートル深さ2,5メートルを想定し大きく深呼吸してから、ポンとして・・・頭から落ちてるぞ、想定外だぁー。

 ジタバタしているがギュッとして完了です、ふーぅぅぅ。

 

 少し落ち着いて外を覗くと穴に落ちた狼は足がピクピクしていて、周囲を他の狼が取り囲んでいる。

 此処に居座られたら俺が餓死すると心配になり、追い払う事にした。

 未だ魔力はそこそこ残っているのでストーンアローをうろつく狼の胴体に撃ち込む。

 〈ギャン、グワッ〉とか悲鳴を上げると一斉に逃げ出した、やれやれである。

 

 ピクピクも収まった様なので外に出て、足の肉球をポチポチするが反応無し、南無南無です。

 捨て置く訳にもいかないので街まで持って行く為に台車を作る事にした。

 細くて長い木を2本切り横桟を付け蔓で括る、車輪は土魔法で作る事にした。

 

 今日運ぶのは無理なので狼に土を被せ、隣にドームを作りすきっ腹を抱えて一晩過ごす。

 非常食を確保していなかったなと反省だ。

 夜明けと共に被せた土を取り除き、土魔法で狼の死骸を持ち上げ下に台車を差し込む。

 蔓で縛ったら街に向かってレッツらゴンである。

 

 思わぬ臨時収入になりそうで顔がニマニマしてくるが、重いのと夏の日差しに直ぐ汗がダラダラ流れ出す。

 街の門に辿り着いた時にはヘロヘロだが冒険者ギルド迄行かなければならない。

 半泣きでギルドに到着したが、稼ぎに出る冒険者達が半泣きの俺と台車に乗せた狼を交互に見てビックリしている。

 入口横に台車を置き中に入って買い取りのオッチャンに狼を持ってきたと報告する。

 

 「カイト、今日は薬草は」

 

 薬草買い取りのフユサおばちゃんに聞かれたが、息も絶え絶え汗ダラダラの俺を見てお目々真ん丸だよん。

 

 「フユサ姉さん、薬草も、有るけど、狼を、持ってきたの。買い取りのヤーハンさん呼んで」

 

 朝一は獲物を持ち込む者が少ないので買い取りのヤーハンさんは奥でのんびりしていた。

 

 「カイト、狼だって」

 

 「ヤーハンさん、ラッシュウルフを捕まえたよ、表に置いて在るよ」

 

 ヤーハンさんと表に出ると冒険者達が取り囲んであれこれ言っている。

 

 「坊主がこれを持ってきたのか」

 

 冒険者に聞かれて頷く。

 

 「どうやって手に入れたんだ、お前じゃラッシュウルフは手に負えないぞ」

 

 「穴に落として窒息させたんです」

 

 「窒息?」

 

 「穴に頭から落として土で埋め、息が出来なくしたんです」

 

 「オラッ退け仕事の邪魔だ、お前らはさっさと稼ぎに行け!」

 

 ヤーハンさんが追い払ってくれたので、狼を奥の解体場所まで運ぶ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る