第4話 嫌な奴等

 「カイト、ラッシュウルフもだが、良くこんな物作ったな」

 

 「授けの儀で土魔法を授かったんですよ。で練習してたらラッシュウルフに取り囲まれてね。落とし穴を作った所に、こいつが頭から落ちたので生き埋めにしたんですよ。ほんと死ぬかと思った」

 

 「魔石も含めて全部売るんだな」

 

 「はいお願いします」

 

 「良し食堂で待ってな、傷の無い良い状態だから高く査定して遣るよ」

 

 ヤーハンに頭を下げて薬草買い取りのフユサおばちゃんの所に行く。

 

 「フユサ姉さん薬草の査定お願いします」

 

 「サラサの実が8個にヨイザメの葉が17枚,風鈴草が5本と後は雑多で一つ鉄貨1枚ばかりだね、62本有るからと、合計65,200ダーラだ頑張ったね」

 

 受け取って5万ダーラをポケットに入れる振りをして収納にポイする。

 反対側のポケットに15,200ダーラを入れる

 

 「よおカイト、中々稼いでるじゃないか」

 

 朝から赤い顔をした屑の3人組だ。こいつ等とは街の外で出会えば、集めた薬草を取り上げられたり殴られたりと散々な目に合っている。

 

 「お前がラッシュウルフなんぞ倒せるはずが無い。何処からくすねて来たんだ」

 「そんな事はどうでもいいんだよ、解ってるな半金は日頃のお礼に俺達に寄越せよ」

 「聞き分けの良い子は好きだねぇ」

 

 「あんた達子供に集る気かい。朝から酔っ払って子供を脅して恥ずかしく無いのかい」

 

 「煩ぇ婆だな、黙ってあっちに行ってろ」

 

 「そうかいなら覚悟は出来ているんだね。その子は冒険者じゃ無い市民だよ、手を出せばどうなるか知っているよね。街の外でその子から薬草を巻き上げたり、暴力を振るっているのは噂になっているから、そのうち犯罪奴隷だよ」

 

 「糞煩い婆だ証拠は有るのかよ、噂で犯罪奴隷になる訳無いだろ。行くぞ気分が悪い」

 

 俺の顔を見て嫌な笑いでギルドを出て行くヨドとギルにナイヤ、魔法を授かったので、今までの礼を含めてやり返す気になっているのを知らないな。

 

 ヤーハンさんに呼ばれて買い取りカウンターに向かう。

 

 「毛皮も綺麗だし大きいから、魔石込みで15万ダーラになるが良いかな」

 

 「はい有り難う御座います。ヤーハンさん時計って幾ら位するんですか」

 

 「中古なら5~6万ダーラから有る筈だぞ。この先の冒険者御用達の店に行けば有るはずだ」

 

 ヤーハンさんに礼を言って冒険者御用達の店に行き、時計が欲しいと告げる。

 胡乱気な目付きの店員に、手の中の銀貨を見せると愛想よくカウンターの中から取り出し見せてくれる。

 値段は7万5千ダーラだと言うので他の店も回ってから来るよと告げ、ナイフを色々見て回る。

 少し大振りのナイフを2万ダーラで買う。

 

 「兄さん6万5千ダーラなら買うかい」

 

 「嫌だよ、ヤーハンさんに聞いた相場より大分高いから他の店に行くよ。それにその時計相当傷が有るし扱いが悪かったんだろ、子供の俺が見ても高すぎるよ」

 

 「ヤーハンさんに聞いてきたのかよ。ギルドには良く行くのか」

 

 「薬草を売りにもう3年は通っているよ。じゃーね」

 

 「待った、マシなのを出すよ。ヤーハンさんに黙っててくれよ」

 

 「まぁ物を見てからだね」

 

 カウンターの奥から4個の時計を出してきた、3個は綺麗な模様が掘り込まれた物だが真鍮の様な色合いのシンプルな物を見せて貰う。

 鎖は無しで細かな傷が有るが凹みは無し、蓋を開けると中は綺麗だ。

 

 「一度巻くと何日位持つの」

 

 「まぁ2~3日だね高級な物なら4~5日持つけど、それなら銀貨6枚だ」

 

 「5枚だね」

 

 攻防の末5万5千ダーラに、薬草袋大中小各3枚をサービスして貰って買うことにした。

 

 「やれやれしっかりしてるよ。処でもう冒険者登録はしてるのか」

 

 「未だだよ、来年にならなきゃ出来ないんだ」

 

 「ギルドの前に置いて在った狼はお前か、子供が持ってきたと冒険者達が話してたが」

 

 「そうだよ運よく取れたから、薬草の序でに売りにきたのさ」

 

 「序での順番が違う気がするけど、子供に討伐は無理か」

 

 「ブーツって高いの」

 

 「お前さんの足に合う様なのは無いぞ。靴屋に行ってこい。服も大分くたびれてるが古着屋でないと此処のは寸法が合わないな」

 

 礼を言って店を出ると、ナイフと時計に残りの金を分からぬ様に収納に納めた。

 以前の残りと今回の別口を合わせて2万ダーラほど有るから、食料を買いあさる。

 具材たっぷりのパンは外せないので1件の店で10個買い、別の店でまた10個と数店を回り背負子に入れる振りして収納に納める。

 串焼きに果物や豆に芋とスープの素を買い込み、次々とばれない様に収納に納めて最後は靴屋と古着屋に行く事にした。

 

 靴屋の店先に立つと爺さんに、用かと無愛想に聞かれる。

 薬草採取で街の外に出ているのだが頑丈な靴が欲しい、幾ら位するのか聞いてみた。

 懐中時計を見せてこれを買う位の金は持っていると伝える。

 ポケットから出した様に見せかけて収納から出し、見せたがばれてない様だ。

 散々練習した成果に満足。

 

 足を見せろと言われ素足になって台の上に乗せる。

 足をこねくり回した後店の奥に行き、2足のブーツを持ってきた。

 

 「履いてみろ」

 

 靴下を履きブーツに足を通す、少しきついし指先が当たる。

 そう言うともう一足を差し出した、こちらはピッタリで足首も柔らかくて何処にも無理がない。

 お値段8万ダーラだが、足下は大事なので即金で買った。

 古着屋では冒険者が着る様な、サイドポケットの付いたズボンとフード付きのジャケットとで4万ダーラを払い、ほぼオケラになった。

 

 もう街に用は無いのでとっとと草原に向かう事にする。

 街を出るときに、糞の3人組が後を着けて来ているのは判っていたが、素知らぬ顔で門を抜けると早足でキャンプ地に向かう。

 見掛けは背負子を背負っているが、中は空だから足取りは軽い。

 奴等は一応冒険者の荷物とロングソードを下げているので、そうそう走っては追いかけてこないし人目も有る。

 

 2時間余り歩いて立ち止まり、初めて奴等に気付いた振りをして歩き出す。

 時々振り返ってはまた足早に歩く。

 街道脇に灌木が密集して見通しの悪い所に差し掛かった。

 奴等を見る振りをして周囲を見回し、人影の無いことを確認して見通しの悪い灌木に潜り込む。

 

 奴等が走り出したのを見たが慌てず茂みの中に入って行き座り込む。

 直ぐに追いついてきたが、恐れた様子も無く座り込む俺を見て不思議そうな顔になる。

 

 ポンとしてギュッ、ポンとしてギュッ、ポンとしてギュッと声に出しながら穴に落としていく。

 直径1メートル深さ2,5メートルの穴の中で呻く奴等が出られないように空気穴を残して蓋をする。

 荷物を持っていなかったから走り出した時に何処かに置いている筈だと探すと、木の根本に纏めて置いて在った。

 

 荷物を回収して奴等の所に向かう、穴の中から助けを求める声が僅かに聞こえる。

 顔の大きさに空気穴を広げ御挨拶。

 

 「ナイヤご機嫌は如何ですかな。死ぬまでそこに居るか俺の言う事に従うか考えろ」

 

 残りの二人にも同じ事を伝えると近くに今夜の寝床を造る。

 外から見たら岩に見える様に細工して、中はゆっくり寝られる広さにし監視と換気の穴を空けたら時計を取り出して確認、午後6時夏の陽は未だ高いが魔力を振り絞ってドームを固くしてパタンキューだ。


 * * * * * * * *

 

 目覚めて時計を見ると深夜1時を回った所だ、6時間少々で魔力が回復するのか、案外早く回復するものだと思う。

 時計を買って正解だな。

 

 小さなストーブを造り煙突を高く上げ、収納から薪を取り出し火を点ける。 魔法って便利だねぇ。

 ストーブは土魔法で造りテントは不要で食料も懐(収納)に保管、腐りもしないし温度も変わらない、日本でのキャンプと比べたら雲泥の差だ。

 キャンプだけ比べたらの話しだけど。

 

 ポットに生活魔法で水を入れストーブに掛け、炎の揺らめきを眺めながらカップにスープの素を入れ湯が沸くのを待つ。

 至福の時間だが日本人だった時の至福の時間は、今の俺には日常生活と化してしまったけど。

 

 具材たっぷりのパンを齧りながら、スープの素を入れたカップに入れる湯が沸くのをひたすら待つ。

 カップ麺にお湯を入れて3分待っていた日本は、遠くになりにけり・・・か。

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